別れ
暫くした後
ルラル達が続々とリビングに集まり始める
前日の位置と同じ場所にそれぞれが腰掛け、
皆がクリストから話されるであろうこの後の段取りについての説明を待つ
「お前達は密輸コンテナの中でじっと待ってるだけでいい」
満を持してクリストの行った説明によると俺達に出来ることは無いようで、少し拍子抜けしてしまう
クリスト達が行っている畜産物の密輸は洗練されているようで、手順が確立されており
軌道エレベーター上にある宇宙ステーションに駐留している受取人へ何度も届けているようだった。
「安心しろ俺達が無事宇宙へ届けてやる」
まるでガンダムでしか聞いたことの無い様なセリフを受け取ったものの、やはりすることが無いというのはどうにも締まらない
なので感じは悪いが問題点を上げてみる
「密輸と言うからには取り締まりもあるんだろ?」
しかしそれを言ったのはテレサであった
現状やはり俺達にとっての問題は取り締まりにひっかかることだ
ぶっちゃけ
悪さという悪さをしていないにもかかわらず
密輸という罪を犯すのはリスキーである事は確かだ
それ以外の方法があるならそっちを選びたい
「例えば誤解を解くなんてのは無理なのかな」
俺の発言にクリストはため息を吐き、ハッキリと否定する
「お前殺されるぞ」
なるほど、思った以上にヘビーな状況だったという事の様だ
以下はクリストの説明を要約した内容だがこの言葉にもきちんと理由というか実例があった様だ
まず、実際に数人処刑されている
それも死刑で正式な手続きに基づいてでは無くその場で処刑されているらしい
そしてそのもの達も俺の様に菜食を強要された際に反抗して肉を食べ続けたらしい
それを見た動物達と一部の人間が突然過激な事を言い出しあれよあれよと首を噛みちぎって処刑してしまったらしい
展開的には俺の場合に似ており背筋が凍る
「肉食動物の本能隠しきれてないじゃん」
ビビリ散らかす俺をよそにクリストが追い討ちをかけてくる
「誤解すんな小僧、食いちぎったのは人間の方だ」
この事実には流石のルラル達も動揺を隠せない様子でどよめく
「人が人を食い殺したと言うことですか!?」
この場に居た俺達部外者全員の言葉を代弁してルラルが声をあげる
あまりの衝撃に俺なんかは言葉に詰まっていたわけだが
やはりルラルはリーダーなだけあって頼りがいがあると感じている
「食い殺したは正確じゃねぇな……殺してしまいだったからな」
クリストの説明によると
どうもこの惑星の人間と動物は一瞬で殺意に目覚めて、一瞬で興味を失ってしまったようだった。
「尋常じゃねぇな」
テレサが素直な感想を口に出す
その言葉の通り、やはりぶっちゃけ言うとイカれているとしか思えない
そう考えながらもやはり俺は色々考察を重ねてしまう
昨日テレサも言っていたが俺達には関係のない事情であり、地球へ向かうという目的のためには関わらないのが一番なのだろう
——動物の知性を底上げしたってだけじゃあないな……
——人間が獣の様な行動をする代わりに動物は本能に逆らってまで社会性手に入れている
などを考え込んでしまう
しかし、クリストの言葉でその考えは断ち切られてしまった。
「ハッキリ言って、よそ者のお前等には関係がない話だ、この件は俺達で解決すべき問題なんだよ」
改めて釘を刺されたことによって首を突っ込むべきではないと思い知らされる
実際、この現象の答えが出たとしても解決出来ないのでは意味はない
そうこうしていると
コンコンッ
「クリスト居るかい」
玄関の扉から年老いた男が顔を覗かせている
「ウィンか……準備出来たのか?」
ウィンと呼ばれた男は俺の記憶上の芸能人で言うと勝新太郎の様なこれまた渋めの爺さんだった。
「準備が出来た、客人を送り届けるぞ」
ウィンがクリストに言うと皆が立ち上がり支度を始める
——この惑星の異常についてはここまでってことか……
俺は後ろ髪を引かれる思いではあったものの
自らの目的を後回しに出来るほど心は広く無いため諦める事にする
何より宇宙を旅するには俺の寿命が短すぎる
ここで一つ些細な思いつきが浮かぶ
——俺も遺伝子操作でクリストみたいに寿命を延ばすか
しかし俺の持つ特権『最上位権限保持者』を手放す可能性がある事は捨てきれず
この先を見据え、天秤にかけるとやはりリスクを犯す気にはなれなかった。
「……行くか」
俺は自分に言い聞かせるように静かに呟き
皆に続いてクリストの家を出る
そして村の広場をみると宇宙船“アキ”の格納庫で見たのと同じタイプのコンテナが繋がったコンテナ車が2台止まっていた。
——しかしこんな目立つコンテナに隠れて本当にばれないのだろうか
なにせこのコンテナ
この時代では一般的に使われているもののようだがデカい
デカすぎて目立ちまくりである
いくらこの惑星の住人が脳みそおめでたの目覚めた者達とはいえ流石に中身は調べられるのではないか
そうい考えると途端に不安になってくる
「そう不安がるな小僧」
不安を察してかクリストが声をかけてくれる
「軌道エレベータの輸送係に俺たちの仲間がいる、検査はスルーだ」
俺が欲しかった安心を得るための言葉をしっかりとかけてくれる
なんだかんだクリストは俺のことを気遣ってくれているように感じる
「べ、別にビビっちゃいねぇやい」
一応自らの尊厳を守るために強がってはみる
しかし、恐らく見抜かれているのだろう
「馬鹿言ってないでさっさと乗れ」
俺はクリストに急かされコンテナ内に入り込む
中には既にルラル、テレサ、リグが入っており、辺りにはテレサの持っていたキャリーケースのような収納機が天井近くまで積まれている
——この中には密輸品が収納されているのか
そう考えているとルラルが俺に声を掛けられる
「座ったら?峰」
言われるがまま俺は2段積みされた収納機に腰掛ける
そうすると同時位に入口に立ったクリストが中をのぞき込み
「幸運を祈るぞ小僧……『マキナ』にあったら宜しく言っといてくれ」
クリストの『マキナ』という言葉にルラルが少し反応した様に感じたが
今はこの口が悪いが意外と良い爺に別れを告げるのを優先する
「ジジイも長生きしろよ……絶対また会いに来るからな!それまでにこの惑星のゴタゴタを片づけとけよ」
するとクリストは口角を少し上げ、鼻で少し笑った後コンテナの扉を閉める
閉まっていく扉の隙間からクリストの背中が見えたが
すぐに見えなくなってしまう
まるで最後の別れのように感じてしまい
別れの挨拶をやり直したい気持ちにかられたが
直ぐにコンテナが動き出したのを感じて、先ほど座っていた収納機に再び腰掛ける
「……葉巻もらっておきゃあ良かったな」
溜息のように息を吐き
動くコンテナの中で少し後悔していた。




