クリスト・ウエストウッド
突如現れたクリント・イースト……にそっくりさんの
クリスト・ウエストウッドの近くに退避した俺達に彼が淡々とした口調で話しかけてくる
「アシはあんのかボウズ共」
クリストは両手で構えたライフルでこの惑星の住人に狙いを定めたまま目を逸らさない
さしずめハンターの様だ
「テレサ車出して貰えるか?」
クリストの言葉に答えるように
俺は、テレサに頼む
するとテレサが
先程の要領でアタッシュケースを弄り
もう一度車を構築し始め
暫く後に、準備が完了したことを皆に告げる
「全員早く乗りこめ!あなたもだ、じいさん!」
しかし、テレサ言葉にクリストは首をを横に振り
「俺にはコイツがいる……」
そう言うと馬の腹を軽く踵で叩く
それに返事をするかの様に
馬が鳴き声を上げる
——この馬は喋らないのか……
俺が考えながら車に乗り込んでいる間に
すでに3人は車に乗り込んでおり
着席と同時にテレサはオープンカーを発進させる
俺はクリストを後部座席から見守っていたが
「いくぞ!グラントリノ」
そう言い馬を車に追従させる形で発進させる
去り行く俺たちに対し
惑星の住人たちの罵声が聞こえる
「彼等は動物権を脅かすレイシストのくそ野郎共の仲間だったんだ!!」
そして、全員が団結し
「ころせぇ!!」
物騒な声を上げている
恐らくだが
くそ野郎共という言葉はクリストに向けて言った言葉なのであろうが
あまりに酷い言い分に流石の俺も背筋が凍る
——話通じないタイプじゃん……こわぁ
今になっては、話をすればわかると思い
対話を試みた自分の判断の甘さに後悔する
それにしてもなんと皮肉な事か
この惑星の住人は動物を食べる俺たちを
食べもしないのに殺すらしい
少し落ち着いて、冷静に考えても未だに意味が分からない
——肉食動物ならせめて食うために殺しに来いよ……
動物達が喋るこの惑星で、彼らは……彼女ら?
ジェンダー関係に疎いから分からない
自我を持った動物たちはなんと呼べば良いのだろうか
それはさておき
動物達を守る為に人間を殺すっていうぶっ飛んだ結論に俺はひいていたのだ
「おい、嬢ちゃん」
その時、ふいに
クラントリノという馬の速度に合わせて走っていたテレサに
クリストが並走しながら喋りかける。
「生体端末に俺の住処の座標を送る、そこで合流だ」
そう言った後
テレサが受信したであろう合図として手を軽く上げ、
それを見たクリストは道を逸れ、 路地裏に入っていく
それを見たテレサもスピードを上げる
顔に当たる風が一層強くなり
周囲の建物の間隔が次第に空き始める
もともと高い建物は少なかったこともあり
先に広がる小麦色の広大な光景が徐々に見えてきた。
「すっげぇ……」
町を抜けた先に広がっていた光景は
一面広がる小麦畑であり見渡す限り広がっていた
——これぞ絶景だ
小麦畑の間を走る黒灰色の道路は、ずっと先まで続いている
畑の上には無数の球体が浮いており
畑の管理をしている機械のようにも見える
そして、奥の方にポツポツと一軒家があり
どこかロードムービーの中のワンシーンの様に俺たちは車を走らせている
「それにしても妙じゃないかしら……」
テレサの隣に座ったルラルがポツリと呟く
「動物が人と会話をする知性を持つなんておかしな話じゃない」
このルラルの言葉にテレサが答える
「遺伝子操作じゃないか?」
しかし俺はテレサの答えに少し違和感を覚える
この時代の遺伝子操作の凄さは聞きしに勝るものであるのは、
ルラルやトロ達と関わっている内になんとなくわかってきた
だがそれは遺伝子を弄られようとも
人としての営みを続けているからこそ
1万年前の俺とも関係を築いていられるわけであって
基本機能に変化があるのはおかしい話ということでもある。
その疑問をルラルが言葉にしてくれる
「遺伝子をあそこまで弄ってしまったらもはや別の生物としての体をなしてないとおかしいという事よ」
例えば
「例えばそう、虎がいたわよね私も資料でしか知らないけれど……あれは資料のままの姿だったわ」
ルラルの感じる違和感は外見に対するものであった
つまり、
知性と声帯、新たな食性を得て尚
俺の知る虎の姿そのままというのはおかしな話だと言いたいのだろう
しかし俺の感じていた違和感を解決するには至らなかった。
「問題は社会性だよなぁ……」
ボソリと呟く
誰かに伝えたかったわけじゃなく
自分の頭を整理する為の言葉だった
「峰何か言った?」
ルラルが俺に聞くが
直ぐにテレサが
「もうすぐ着くから詳しい事情をあの爺さんに聞いてからでも良いんじゃない」
畑に挟まれた大通りを抜け
脇道へ入り、暫く進んだ先の見たことのない植物の生い茂る林道の果てに
木造づくりの集落が見えてくる
集落には1800代後半のアメリカを思わせるような服装の人達がちらほらおり
皆こちらを見ている
その中の1軒にクリストが立っており
自慢の愛馬『グラントリノ』を撫でている
どうやらクリストは近道を通ったようで
先についたのだろう
それよりもだ
——クリント・イーストウッド似の人物がグラン・トリノに乗ってるとは出来すぎだろ
もちろん車ではなく馬の名前だが
そんな映画があったなと連想してしまう
——つか似すぎじゃん
改めて見ると
やはり似ていることに気づく
そう考えているとクリストが
「随分ちんたら走ってきたんだな、ジジイの腰振りみてぇな遅さだぜ」
口の悪さも解釈一致
随分なりきっているようだ
「さっさと入んな!なんもねぇが話は聞かせてやれる」
そう言いながら家の中にクリストが消えていく
車を降りた俺達も続いて中へ入ることにした。




