理想の引きとは
ルラルに急な名指しを受けた俺は戸惑う
正直なところ
ばれるとは思っていなかった事によるのだが
まさか……見破られるとは
しかしここで少し問題が残る
ここで普通に出て行ったのでは、
あまりと言っていいほど印象に薄い
ここでの本来の俺の役目は
めっちゃええタイミングで出ていき
フィクサーの如き立振る舞いをすることだった。
なので俺は軌道修正も兼ねて
フィクサームーブを演じることにする
パチッ
パチッ
パチッ
とりま手を叩く
そして
ふふ
はっはっは
あーはっはっはー!!
意味はないがまぁ笑ってみる
「面白い推理だルラル君……名探偵になれるよ、君」
俺は前に歩きながら話し始めた。
船員達は無言で左右に分かれ
目の前に道が出来上がっていく
しかし
「……」
皆は黙ったままいる
壇上のルラルもカークもだ
というか絶句している。
あれ……?この時代じゃ通じないのか?
推理ものの定番といえば
この展開だが
この時代での反応は薄いものであった。
すると
沈黙を最初に破ったのはカークであった。
「おい!リグ!貴様には『最上位権限保持者』の監視を命じていたはずだ!!今更何をしに来た!?」
おお!良い反応だ
ここぞとばかりに俺はこの展開に合わせる事にする。
「いつから俺を……リグだと錯覚していた?」
カークの反応を確認するため
チラっと顔を見る
「なん……だと?」
カークは冷や汗を流し
目を見開いてリグを、即ち俺を見る。
完璧や!カーク完璧やであんた!!
そこで満を持して、
右手で顔の左頬に手を当てる
その手を右に動かすと同時に
顔に張り付かせていた
『アイちゃんスライム端末』の擬態を解除させる。
「なに!?貴様は!!」
そうです
その通り
私が
「俺は、峰浩二だ」
庫内が動揺に包まれる
峰?あの最上位権限保持者か?
機体は無くなっているぞ
というかリグは何処行ったの?
リグなんてどうでもいい!
などと口々に困惑の声をあげる
それもそのはずアイちゃんの本体が無く
俺がまだ船に留まっていることを知っているのは、
俺とトロ、そして先ほど気付いたばかりのルラルしかいないのだ
「馬鹿なっ!だが貴様の機体は……」
カークはさらに動揺をする
このまま動揺が加速し
暴走して船員に危害が及ぶ事になった時のために
アイちゃんの本体の事を話すわけにはいかない
又もここは本来の計画に軌道修正し
船長候補にカークを問い詰める役を任せることにする。
「俺は!ルラルの指示を受けカークの悪事を暴く手助けをした!」
船員方を向き
カークに後ろ向きで指を差し
「ルラルは全て予測していた!ルラルはすごい!」
ルラルさんはすごい……
そうよ……やっぱりルラルお姉さまよ
……ルラル様素晴らしい
ルラルは凄いという、俺の言葉が
こだまのように広がっていく
俺は握りこぶしを天に突き上げ叫ぶ
「ル!ラ!ル!あっそれルラル!もいっちょルラル!」
うおぉぉぉ!ルラル!ルラル!
全員が一体になってルラルの名前を叫びだす
俺は会場の一体感に気持ちよくなった後、
ルラルに向き直り、どや顔で頷く
しかしルラルは
ジト目でこの展開を見ている
まるで何かに失望したように
「……なに?これ」
と言ったような気もするが
気にしないようにした
「ではルラル俺の集めた資料で決着を!!」
俺の言葉で気を取り直したルラルは
コホンッ
咳払いの後、
俺が寝ていた施設で銃のようなものを、手に構築した要領で
ハンドカメラの様なものを構築する
「ではカーク、今から貴方の反逆行為の証拠をここに出すわ」
そう言い
ハンディカメラのようなものから巨大な立体映像を宙に映し出す。
一瞬
ほんの一瞬、サブリミナル効果の様に
恰幅の良い男が胸元の開けた、
ヘソの部分が丸見えの
さらにはなんだか妖しげなポーズを取ったものが映る
「あ!間違えたこっち」
ルラルがすぐに操作し
カークの『レプリケーター』との通話履歴、
取引の契約コードが映りだす
それを見た船員たちは絶句する
流石の俺も
「えぇ……ないわぁ」
やはり何度見ても慣れないものだ
その圧倒的な視覚情報の多さには
ルラルは何事もなかったかのように
壇上でカークの証拠を分析し始める
「この日時の記録を見てもらうと分かるけど……」
ルラルに説明が頭に入ってこない
と言うか多分ここに居る全員そうだ
うっ!俺トイレ行ってくる
ぐすっ!ぐすっもうやだぁ
こいつはひでぇや……
まさに阿鼻叫喚
ファイト・クラブって映画で
ブラピが子供向け映画のワンシーンに男性の局部のカットを挟み、それを見た子供が泣き出すシーンがある
今起こっているのはまさにそれだ
みな純粋なのであろう
この衝撃を受け入れられていない
俺はふと
カークの方を見る
「……」
カークは何も言わず俯いている
「……もういい!」
そこで俺はハッとし
アイちゃんに確認を取る
「アイちゃんいつでもいけるか!?」
ーー はい問題ありません ーー
俺は注意しカークの次の言動を待つ
「全員を拘束しろ!抵抗する者は殺しても構わん!!」
やっぱそう来か
そう思う俺と同時くらいに
「止めなさい!これ以上罪を重ねないで!!」
ルラルが言うが
ここでルラルが言うのは煽りでしかない
「よくもぬけぬけと!」
そりゃそうだ
カークにしてみれば
一番隠しておきたい秘密を大勢の前で晒されたわけだ
そうしていると
流石に殺す事にまでは抵抗のある戦闘員に
カークが気付き
「指揮官権限で命ずる直ちに実行せよ」
そう言うと
戦闘員達が船員に向け銃を向けだす
さっきまでは戸惑っていたのに
なにの躊躇も無く銃を向けたことに違和感を覚える。
するとルラルが
「貴方!感情抑制機能をいじったわね!」
何処かで聞いた覚えがある
この時代の人類は生まれた時から
脳に『生体端末』が内蔵されており
様々な恩恵の中に感情値を制御するものがあるという話だった。
恐らくカークは指揮官として兵士に
その手段を使ったのであろう
もうここしかない!
俺は事前にアイちゃんと決めた合図を取って
戦闘員及びカークを拘束することにする
4人の戦闘員が船員達に向かって歩き始める
俺は人差し指を立てた拳を上へ突き上げる
「全員逃がさんぞぉ!」
カークが叫ぶ
俺は人差し指に中指を絡め顔の前まで手を下ろす
「駄目っ!カーク止めなさいっ!」
ルラルの絶叫にも似た叫び声が響く
満を持し俺は合図を送る
「領……域……展……開」
週刊少年ジャンプならここが引きになる事だろう




