汚部屋
今俺は見知らぬ廊下を
アイちゃんのナビに従って走っている。
先程、俺が捕らえられていた牢で
リグの身ぐるみを剥がし、
その服に着替えた俺は
牢の見えない壁を開けるため縁に張り巡らされていた、アイちゃんの成分を回収して
早々に警報のあるエリアから脱出したのだった
「これ何処に向かってんの?」
アイちゃんの指示とは言え
場所も知らずでは心構えが出来ない
ーー 先程話した当機を調査していた端末の所です ーー
この様に耳から聞こえてくる
これは文字通り耳の中にアイちゃんこと
『アイちゃんスライム端末』とでも呼ぼうか
これが少しばかり耳の中に入っていて
ルラル達、この時代の人類の様に直接通信出来ない俺を助けてくれている
又、生体スキャンのある所では
リグの生体データをコピーしたこの耳の『スライム端末』が偽装してくれるらしい
残りのアイちゃんは、
俺の両側の手の甲に張り付き
皮膚と変わらないよう偽装しており
曰く
ーー 襲われた際、手を相手に向けていただければ処理します ーー
と言う事だ
怖い……出来れば使わないで良いよう立ち回ろう
俺は心からそう思った。
本音を言うと
ここらでルラルと合流し協力を仰ぎたいところではあるが
あまり迷惑をかけるわけにはいかない
「ルラルは優しいからきっと世話焼いてくれるんだろうな」
ルラルが怒るとこも想像が出来ず
ついつい甘えてしまいそうになる
「はぁルラルに会いてぇな」
物思いにふけっていると
ーー その先の通路を左に曲がり、上昇機に乗り込んでください ーー
アイちゃんに次の指示を与えられる
この上昇機を使うのは既に3度目であり
入口の生体認証をパスすると半透明な扉が開き
中は重力がかなり弱くなっていて
取っ手の付いたベルトを掴むと、
上まで連れて行ってくれるという代物だ
扉の前に立ち3度目とはいえ緊張の
生体スキャンを受ける
ーー 問題ありません ーー
アイちゃんが言うと同時に位に扉が開き、
前2回と同じ手順で上のフロアに移動する。
ーー 上昇機を出て5つ目の扉が目標地点になります ーー
そういわれ
淡々と歩いて目的の扉に向かう
「そういえばなんでこの船の構造が把握できてるんだ?」
移動の片手間にアイちゃんに尋ねる
今更ではあるが、なにか違法なことをやらかしているなら
持ち主として結局、責任を取らなければいかない可能性もあるので
把握しておきたい
ーー 先ほど申し上げた『IPP端末』が当機を解析していた時、データの一部に追尾プログラムを掴ませ、それをたどっていくと船のシステムである『SAS』から発信されているのを発見し『IPP端末』の機能の一部を活用して船の基本情報をっ ーーー
「わーったもういい!」
俺の質問に水を得た魚のように解説を垂れだしたアイちゃんを制止する。
そうこうしてる間に
目的の部屋の前にたどり着く
扉は質素な作りでそれほど丈夫そうではない
というか、この部屋……
ーー ロックを強制解除します ーー
手の甲の『スライム端末』がアンテナ状に姿を変えようとして
「まてまて!」
すかさず制止する。
「見ろ!空いてるって」
そう普通にスライド式の扉が半開きになっている
俺は隙間で手を挟み少し力を入れ
スライドさせる。
アイちゃんは基本脳筋なのか
なんでも無理矢理開けようとする
飼い主も大変だ……
開いた扉から部屋の中が見えてきた
「真っ暗だ」
恐る恐る、部屋の中へ足を進める
なんだか床に物の様なものが転がっている感触がある
床にあるものを押し開きながら奥に足を進めていく
すると扉が自動で閉まる、
が床に転がった何かに引っかかって
やはり、扉に隙間が出来た
「服だ……」
引っかかって居たのは服で
ルラルが着ていたのと同じ制服が
隙間から差し込んだ少しの光から見て取れた
「まさかこの床のやつ全部服か?」
なんてずぼらな奴だ!
一人暮らしの長かった俺は
この部屋を片付けたい欲求に襲われるが
ギリギリのところで我慢する。
もう少し部屋を奥に歩いた所で何かにつまずく
「あっぶね!」
咄嗟に両手を前に出し
訪れるであろう衝撃に備える
右手が床に
左手がなにかやわらかいものを強く押した瞬間
「ぐえっ!」
なんだか小動物の断末魔のような声が聞こえる
俺は鈍感系男子ではない
この感触には覚えがある
最後に触れたのは
そう「大人のお店」だ
60分12,000円ぽっきりだって聞いたのに15000円も取られてしまった。
未だに意味が分からん!
「いったぁ!」
俺の手を押しのけ
その持ち主が起き上がる感触があった
そして起き上がると同時に部屋の電気が
パッ!と付く
「帰って来るの早かったわねぇ……ルラル……え?」
まさかルラルの名前が出るとは思わなかったが
この状況はまずい!
そう思ってこの部屋の主の顔を見る
髪はウェーブが掛かっており茶髪で
その長い茶髪が、上半身だけ起こされた頭から背中をつたって床に広がっている
体は小柄だが出るところは出ていて
何より上半身にシャツのようなものを一枚だけ着た姿だった。
この子はルラルと違い可愛い系というやつだ
しかし、どこかで見たことがあるな
そう思っていると
「あれぇ?峰浩二じゃん」
そこで初めて思い出す。
格納庫で俺が気を失う前にあの男、
カークとか言う奴の後ろの方にいた小柄な子だと
「あ!格納庫の後ろのほうにいた子だ!」
俺が思い出したことを伝えると
自己紹介してくれる
「私はぁトロラルルヴァントロンラルン」
「みんなはトロって呼ぶよ!よろしくねぇ」
ゆるっとした可愛い笑顔を向けられ
礼儀として俺も一応挨拶を返す
「あども……峰浩二です」
自分が思ったよりときめいておらず
胸まで揉ませてもらったのに
びっくりするくらい淡泊な挨拶になってしまう
それもそうだ
なぜなら俺は
「あの……トロさんどうでもいいですけど……」
「部屋汚すぎです。」
この部屋のイカレた汚さに、
ドン引きかましていたからだ




