俺は絶対運が良い
2028年
「うぅ〜ATM、ATM」
今ATMを探して全力疾走する俺は会社に通うごく一般的な社会人、しいて違うところを挙げるとするなら、運が良いところかな
名前は峰賢治
そんなわけで俺は、帰り道にあるとあるパチンコ店に立ち寄ろうとしていたのだった。
「ウホっ良い台〜」
という具合に、これが俺の日常だった、
その日も仕事終わりにタコ負けし、家に帰りそしてまた仕事に行く
その繰り返しである。
運が良いと言いながら負けてんじゃねえかと思うことだろうが、これはここぞという時ではない
良いのはここぞという時の運だ、その例を挙げたほうが良いだろう。
例1小学生の頃、
田舎に住んでいた俺は友達と道を自転車で駆けていた4台並びで、一車線しかない道路を独占し、
楽しく冗談を言いながらも俺達は前も見ず走っていた。
そのせいあってかその瞬間まで対向車が来ていることにも気づかなかった。
一人の友達が声を上げた時には既に乗用車が3人をまとめて吹き飛ばした後だった、
俺はというと友達が声をあげる前にコケていたのだ、
それもたまたま自転車がパンクして
そうして俺は自転車の修理費だけですみ3人は骨折やら打撲やらで高くついてしまった。運が良い
例2高校時代
通学に使っていたバスに乗り込む時のことだ
ちょっとした違和感を感じ調べてみると何処かに財布を落としてしまっていたようで乗車を諦めた俺はバスを見送った。
「せっかくだし遊びに行くか、いや財布ねぇんだった」等のやり取りを一人で行い、虚しさを覚えたので帰宅し、自宅待機をしているところに親からの電話でバスが横転した事を知った。
幸い死者は出なかったが14人位が怪我をしたらしい
その数日後思い出したかのように親にサボりがばれ、詰められたが
俺は財布の1万2千円を失うだけで痛い思いをせずに済んだ。絶対運が良い。
例3免許を取りたてでボロボロの中古車を運転していた時
急にブレーキが効かなくなりガードレールを突き抜け崖下に車ごと放り出されそうになったが、シートベルトをたまたま付け忘れていたおかげで車外に投げ出され、
たまたま木に引っ掛かり急死に一生を得た。
これは間違いなく運がいいだろう
以上の幸運な出来事から、幸運に感謝し普通の日常を普通に過ごしていた。
しかし俺には一つだけ、運では解決できない夢があった。
「未来ってどうなってるんだろう」
中学生時代からSF作品を嗜み始め
壮大な宇宙の物語からサイバーパンク、AI、ロボット、宇宙人との交流、等
その幅広いジャンルに惹かれていった。
SF世界では人間の存在意味であったり、上位存在、また進化した自らの創造物であるAIとの対話や対立、
作者の力もあるのだろうが、そういったテーマの数々も俺が憧れ想像するには十分な理由だった。
しかし、俺がどんなに運良く長生きしてもあと70年、それに見ることは出来てもピチピチな体で無くては見るだけで終わってしまう
そう思い始め、もどかしさを感じていた30の夏
冷凍睡眠が一般に開始されるというニュースを出勤前に見ていた。
『ついに先日、冷凍睡眠の一般利用が開始されましたっ—―』
「……どうせお高いんでしょ?」とタバコを吸いながらコーヒーを啜る
心の何処かの閃きがこの手があったか、と叫んでいたがその値段を見てすぐに諦めた。
「流石に年収の8倍は無理だわ」
そのプランは恒久的なサポートと管理、そして安全対策が取られるためかなりの高額となっていた。
さすがに夢のためとは言え、これでは貯めてる間に人生が終わってしまう
「宝くじでも買うかぁ~」
『続きましては、国家主導で開発されたAI“ツクヨミ”の特集ですっ—―』
俺は独り言を零し、ニュースがAI特集にきりかわったところで
その日は仕事に向かうことにした。
そしてその遠くない日
パチンコで大勝ちした俺は、ここぞとばかりに勝ち金全てを宝くじにかえた。
そんなことがあったのも忘れかけたある日、ネットで配信を観ていた俺は配信者の言葉で
「そういえばそんな物も買ったな」と思い出し当選番号を確認してみた。
「……」
「……前後賞、当たってんじゃん」
はっきりいって超ひいた。
運がいいと言っていたが超ひいた。
その後、当たっちまったもんは貰わねばと色々手続きし
冷凍睡眠の利用書に同意しするなど、色々駆け回った後
残った金は両親に残し、俺は眠りにつくことにした。
当初の予定では100年
また、両親が危篤亡くなったりした場合には一時的に起こしてもらう契約で同意した。
なのでその辺もあまり心配していなかった。
だったというのに……
現在
「あの、今何年ですって?」
天使の様な女性に確認する。
しかし、ぶっちゃけ今ではもう悪魔にしか見えない
ワンちゃん聞き間違いという可能性に賭け、もう一度聞くことにした。
「……12028年です。」
今度の回答は躊躇わず、即答だった。
逆に俺の方が準備出来ていないくらいだった。
「そうですか……」と気の抜けた返事で返し、よく晴れた空を見上げる。
—― ていうかこれもどうせ偽物だろ……
ツッコミを入れ終わった俺は、ないはずの空を見上げ
あの世にいるであろう父と母、そして妹とポメなんちゃらという犬に祈りを捧げる。
「……親不孝な息子ですんません」
「あなたたちの息子は、馬鹿みたいに寝坊しました」
祈りの謝罪をしてはみたものの
—― まあ流石にあの世とはいえ、一万年経ってたら塵も残っていないだろうが
などと不謹慎にも両親がこの世に居ないことを茶化してしまう
「そうだ、墓参り位はしよう」
そう思い立ったが「墓すら残っていないのではないか?」などと言い
どうにも悪い方に考え始めてしまう
なので、思い切って聞いてみる。
「日本……地球ってどうやったら行けますか?」
「ん……」
「…………」
何だろうかこの間は
またもや悪い答えが返って来る予感を感じながら
沈黙に耐えてみる。
すると、先ほどより重い口調でこの彼女はこう言った。
「地球は今、人が立入れない状態にあるんです。」
「立ち入れ……ない」
「——詰んでますやん……」
そう言い俺は、まだ重みを感じる体を重力に任せてベットへ沈ませ
静かに目を閉じる
「世界がもう一周したら起こして」
俺は最後にそう言い残した。
永劫回帰的なものに期待しよう