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あんな奴の声、聞きたくもない!!

 

 俺達は、アメノハバキリの手に乗ったまま地上へと無事生還を果たす。

 そっと屈んだ掌から俺は飛び降り、空を見上げる。

「た……助かった」

 そう言うと足の力が抜けるのを感じ、俺は地面の芝生に腰を落とす。

 すると、ルラルが目の前に立つ気配を感じ、俺は顔を上げる。

 そこには刺さった破片に顔を歪ませながらも俺とは違い、しっかりと地面に立っているルラルの姿が目に映った。

「それ——大丈夫か?随分痛そうだけど」

 俺がルラルの身体に刺さった破片を指差す。

 

 破片は体の左側に集中しているようで、恐らく避ける時に身体を反らした影響だろう

 ざっと見ただけでも大小十個の破片は刺さっているようだ

 だが、そんな何気ない質問がどうやらルラルの逆鱗に触れてしまったようだった。

 彼女は、痛ましい左腕でグッと俺の胸ぐらを掴み、身体を凄い力で持ち上げる。

「ぐぇ——ぐるじい」

 俺が苦しむのを意にも介さず

 ルラルは今にも泣き出しそうな厳しい目つきで俺をジッと見る。

 そして、右手を大きく振り上げた所で、俺は察する。

 —— これは、アレや……「私の為に無茶しないで!」つって、引っ叩かれるやつ

 等と考え、俺は頬にくるであろう衝撃に備える。

 —— 全く、可愛いやつめ……

 そう考えた瞬間だった。

カッ!

 顎にとんでもない衝撃がかかる。


 脳が揺れる。

 これは、ただの比喩ではない。

 顎を打たれた衝撃は、脳というゼラチン状の臓器を頭蓋骨の中で跳ねさせる。

 右に一度、左に二度、わずか0.08秒の間に水に浮かぶ豆腐の様に、三度もシェイクされた。

 神経伝達は寸断され、視界はホワイトノイズに塗りつぶされる。

 これを、人は「脳を揺らされた」と呼ぶッッ!


 俺は、一瞬バキの解説のようなものを思い出した。

 だが、理由を考えるより前に膝から崩れ落ちる。

「ふう——すっきりしたわ」

 そしてそんな俺に対し、正面のルラルは背伸びをし随分気分がよさそうだ

「お――おま——おまえっ」

 俺は遠のく意識を必死に抑え、なんとか立ち上がろうとするが、脚には力が入らない

 だが、ぴくぴくと震える脚を手のひらで強く掴みなんとか体勢を中腰にまでは持っていくことに成功する。

「顎——殴る女が——どこにいんだよ!!——揺らすな!——脳を!!!!」

 途切れ途切れに俺がルラルに対し、文句を言っているとスッと手が差し伸べられる。

 俺はその手を癪ながらも取り、上体を引き起こされる。

「でも、助かったわ——その、ありがとう」

「……どういたしまして——次からはムカついたら、殴る前に一声掛けてくれ」

 そう言って俺は、再び惑星代表庁舎の最上階付近を見上げ、息を整える。

 まだ少し、眩暈はするが落ち着いてきた頭で少し頭を働かせた。

 —— さっきの……アイちゃんの様子が、どこかおかしかった

 アイちゃんを“AIネットワーク”へ接続したのは出会ってから初めての行いであり、きっかけがそこにあるのは間違いように思える。

 それにもう一点気がかりな事もある。

 本来ネットワークへの接続を忌避していた理由は、マキナにアイちゃんの特異性を知られることを避けるのが理由であった。

 だが、緊急事態であったとはいえ、それを当人の目の前で行ってしまったのだ

 この後のマキナの動向にも注意を払わねばいけなくなってしまった。

 気苦労は絶えないが、まずは目の前の問題を解決することにする。


「それでルラル——ピータンは、どうする?戻ってひっ捕らえに行くか?」

「いいえ、わざわざ私達から危険に飛び込む必要はないわ——マキナの目の前で防衛軍を撃ち殺したのよ——あの男は、いずれ捕まるわ」 

 それには俺も同意し、このままアメノハバキリで撤退する準備を整える。

 だが、その時重要な事を思い出した。

「やっべ——ガブが上に居るままだ……」

「あ……」

 俺達二人は、顔を見合わせてガブの存在を思い出す。

 そしてわたわたと狼狽えているとアイちゃんから報告を受ける。

『ご安心ください、マスター——個体名ガブリエラルのシグナルは現在、惑星代表庁舎一階へと移動を完了したところです——じき施設外へ脱出を完了すると思われます』

 その言葉を聞き、ひとまず俺は胸を撫でおろす。

 恐らく、俺とルラルが窓外へ飛び出したどさくさにまぎれて、脱出することが出来たのだろう

 

 だが、アイちゃんの言動の変化への違和感は無くならなかった。

「なぁ——アイちゃん……さっきの事だけど——」

 俺がそのことを確認するべく声を掛けた瞬間だった。

『亜空振動針に反応あり——“シェイプシフターシリーズ”だと思われます』

「——はぁっ!?」

 その報告を受け、俺は惑星LANP315での惑星代表との戦いを思い出す。

 ダンっ——と、地面を足で踏みつけ怒りを表現する。

「くそっ!——シェイプシフターシリーズって——まぁた、この展開かよ!!」

「どうするのっ!そんな最新鋭機——逃げなくちゃ!!」

 そして、走り出そうとルラルが駆けた瞬間、彼女の襟裏を俺は掴んで制止する。

「お゛ぉっ——」

「まてまてまて——走って逃げれるわけないだろ、取り合えずアメノハバキリに乗れ——てかなんだその声」

 不意に襟裏を掴んだことでルラルから信じられない程、下品な声が出る。

 自分でも自覚したのかルラルは、顔を真っ赤にして「仕方ないじゃない」と言うが、俺はそんなルラルの背中を気にせず押して行き、アメノハバキリの前まで誘導する。

 そして、二人揃って、膝を着いた状態で待機する機体の前まで来た時、俺は機体に向かって一つだけ確認を行う事にした。


「問題ないよな?——今まで通り、変わらずか?」

『——はい、問題ありません……マスター』

 返ってきた返事を一旦受け入れて、俺とルラルは腹部にある入口からコックピットへ乗り込む

 俺は操縦席に付き、ルラルは操縦席後ろから背のたれを持ち、彼女の顔が俺の隣にスッと現れる。

 —— いつかこんな事もあったな

 そう思った時、機体の扉が閉じ、操縦席内の全方位モニターが起動すると同時に、ウィンドウが表示された。

 そこに見覚えのある機体の映像が表示される。

 その機体のシルエットを見て、俺は以前暇な時、アイちゃんに聞いたことのある本シリーズの情報を思い出していた。


 S.H.A.P.E. S.H.I.F.T.E.R.シリーズ

 正式名称、 Synthetic Hivemind Adaptive Polymer Exosystem – Self-Heuristic Integrated Form-Transmutation Tactical Entity Reactor

 日本語では、合成群知能適応型高分子外装システム ― 自己学習統合形態変換戦術実体炉と、言うようだ

 動力炉には、Zero-Point Core Module=ゼロポイントモジュールという炉心を備えており

 その源は、亜空間から無限に近いエネルギーを抽出することが出来るという

 そして、何より特徴的なのは、操縦者の意思で自在に姿を変更できるという点だ

 当然、この時代に置いてもこの機体性能は破格のもので、連邦及び最上位AIの最新鋭機として運用されている。


 —— 今となれば、俺の眠っていた施設にコイツがいたのも、今となればなにか理由があるように思えてならないな……

 以前、俺自身が仮想惑星オルタリアで『マトリックス』から引用した“因果関係——原因と結果”という言葉が頭によぎる。

 この世界の出来事には全て因果関係がある。

 

 この機体があの施設に置かれていた事

 何度も生と死を繰り返す“ディパーテッド”の存在

 人の人格プログラムと混ざりあった“レッド・スクリプト”

 入間の存在

 アイちゃんの、突然の雰囲気の変化

 そして、俺が一万年も眠っていた理由


 これら全てには、一つの大きな意思の様なものが介在しており

 その者の意思で操られている様な

 俺はそんな筆舌しがたい、不安の様なものを感じていた。

 

 だが、そんな深い思考を行う余裕も、今はなく

「来たわよっ——峰、形状が変わるわ!!」

 ルラルのこの言葉で、俺はこれからの戦いに集中せざるを得なくなってしまう。

「まぁ——今やれることをやるだけだよな」

 俺がそう言って視線をモニターに落とすと、そこに映った白銀色した箱型の機体が、放出される稲妻と共に姿を変えていく

 

 その機体は、王冠を被った様な頭部に、無数の剣を自らの体に埋め込んだ様なとげとげした形状の、人型機へと変化していく

「こりゃまた随分……攻撃的な奴だな——“鉄の玉座”にでも見立ててんのか?」

 俺はその機体の攻撃性、自己顕示欲の強さ、他者を自らの糧としか思っていないであろう形状から

 その機体に今搭乗している男の姿が思い浮かぶ

「はぁ……ぴぃぃぃぃたぁぁぁぁん」

「ピータン!?——惑星代表がなんでわざわざ、それより権限は——」

 ルラルの疑問も、もっともだが俺にはLANDP315での経験から、あり得ない事では無いと分かっていた。

 なので俺は、スラスターを起動し、アメノハバキリを敵機と同じ舞台へと飛び立たせる。

 右手には全てを切る剣である“クロノス”を形成し、装着

 左手には標的に当たるまで威力の衰えない銃器“アポロ”を装備する。

 

 そして、その敵機と向き合った時、目の前の機体を操縦する者から、丁度通信を受ける。

「やはり生きていましたね——ルラルお嬢様ぁ——」

ブチっ!!

 ルラルは余りの不愉快さに機体の通信を自ら切ってしまう

「なにしてんだよっ!!——ロボットで戦う前の定番だろうが!!」

ピッ!と俺は、通信を改めて繋ぐ、するとピータンの声が再び聞こえ

「私の計画をよくもっ——」

ブチっ!!と、対抗したルラルに直ぐに切られる。

「いや——意味ないでしょ!あんな奴の声、聞きたくもない!!」

「我慢しろよっ——定番なんだって!」

ピッ!

ブチッ!

ピッ!!

ブチッ!!

 数回、ルラルと俺はこのやり取りを続けた後、ようやく主導権を取った俺がピータンとの通信を回復させると、こんな言葉が聞こえてくる。

「——私のこの機体“スローンズ”でねぇぇ!!」

 そう言ってピータンの機体はこちらに向かって飛行してくる。

 どうやら既にセリフの最後だったようだ


「あぁ~あ、なにがなんだか分かんなくなっちゃったよ」 

 

 俺はそう言って、スローンズへ向け“アポロ”を構えた。


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