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恨みを持ってるやつが銃の近くにいる時は、ぜってぇ煽るなっ!

 

 間一髪の所で主の去った執務室に乗り込んで来たのは、峰浩二

 彼はピータンの命令に従う“アイドロイド”に“最上位権限”を行使し、ルルラルルに“光子弾”が放たれるのを阻止した。

 これには、命令を下したピータンも口を大きく開け、何かを言おうとするが言葉が見つからない様子だった。

 

 そんな中青白い髪を持つ、その可憐な容姿に似つかわしくない、重厚感のある防具で身を固めた少女は、彼を見つめ静かに微笑んでいる。

 そして、その少女の存在に気付いた峰は、眉をひそめ、こんな言葉を呟く

「うげ——マキナ居んじゃん」

 峰のこの言葉を聞いたマキナはゆっくり手を降って見せ

「あはっ——峰さん、ご無沙汰してま〜す」と笑顔を向ける。


 峰はここに来る少し前、かつて宇宙船“アキ”の船長を務めていたカーク、改名後カッティによって忠告を受けていた。

『マキナに関わるな』

 しかし、そう言われた直後にバッタリ鉢合わせる事になり、これには流石の峰も心中は穏やかではなかった。

 —— 入間は……居ねぇな、良しっ!

 慌てて周囲を確認する峰だが、そこに自らが嫌悪する男の存在が無いことに安心し、倒れたガブリエラルと腰を落とした状態のルラルへと歩み寄っていく

「アイちゃん、これガブは、大丈夫なのか?——なんか皮膚が焼け……うげぇ」

『命に別状はありません』

 それを聞いた峰は、ガブリエラルの“光子弾”によって撃たれた肩に軽く触れ、焼け焦げたスーツが溶けて皮膚に張り付いてしまっているのを見て、直ぐに手を離す。

 それに対し、痛みに顔を歪ませたガブリエラルが頭を起こし、「どうなっている」と言うので、それに峰はこう答える。

「T-1000よりは、ドロっとしてない——溶鉱炉に落ちた直後のT-800って感じ」

 独特な映画の引用を用いた言い回しをする峰だが、それを聞いたガブリエラルは上げた頭を再び床に付け、天井を見上げながら叫ぶ

「クソっ!——二十万アースのアンティークスーツだぞっ!!」

 そう言ってガブリエラルは、痛みを紛らわす意味も込めて後頭部を数回床に打ちつける。

 

 峰は「そっちかよ」と呟き、ガブリエラルの胸をぽんぽんと叩く

 その後、ルラルへと手を差し伸べ「どういう状況?」と尋ねた。

 一方のルラルは、その手を取り、引き上げられるように立ち上がる。

「えっと——あの男が父を嵌めようとしたんだけど——それを逆手に取った父に嵌め返された、って感じなのかな」

「え——嵌め返されたって……だっさ!」

 この様に、二人はこれまでの経緯を話し始めた。

 しかし、それをこの男は黙って聞いていなかった。

「撃て!何をしているっ——早く撃てぇ!!」

 そう言ってピータンは動きを止めた“アイドロイド”達に向かい、声が枯れるほど叫び続けており

 とうとう蹴る等の原始的な手段で従わせようと試みている。

「さっきから取り乱してるアイツが——ブータン?」

「ピータンよ」

 峰とルラルはそんなピータンの様子を眺めながら冷ややかな視線を向け、ひそひそと話すが、ピータンはその事にも気付いていない

 そんなピータンにマキナが呆れた表情を再現し、ため息で演出しながら伝える。

「無駄ですよ——先程、最上位の指令が下りました、彼が解除しない限りはこの子達は動きませんよ」

「最上位の——つまり、アイツが“最上位権限保持者”の峰浩二なのですかっ!」

 マキナの言葉に我に返ったピータンは、バッと峰の方へ視線を向け、直ぐに再び怒りを露わにし始める。

「このっ——原始人が!私の計画を邪魔するとは、どうなるか分かっているのでしょうね?」

 それを聞いた峰は視線をフッと隣に立つルラルへ向ける。

 そして二人で暫く無言のやり取りを行なった後、二人してピータンへ向き直り、こう言い始める。

「いや……俺の聞く限り、既に——なんていうか——」

「失敗」

「そう、失敗——だから初対面で言い辛いんだけど——」

「貴方の負けよ、ピータン」

 最後にルラルが締めるとピータンの怒りのボルテージは最高潮に達する。

 そして、床に横たわる防衛軍の元へ走り出す。

 ピータンは防衛軍の装備からバッと“光子銃”と“空間圧縮機”とを素早く取り外し、その銃口をルラルへと向けた。

「——あらま」

 マキナが呑気な一言を呟いたその瞬間

「アイちゃんっ!」

 それに気付いた峰が叫ぶと、腕から伸びたアメノハバキリの一部である“形状変化金属”がルラルの元へと伸び

 彼女の正面に薄い膜が張られ、初弾を防ぐ

 だが、その衝撃で大部分の金属は機能を停止し、その場に重い水音を立てて、崩れ落ちてしまう

 しかし、ルラルも“形状変化金属”が床に落ちるより先に部屋の脇を駆け

 ドルラの執務机であった“エアリアルデスク”を横に倒し

 その内にサッと身を隠した。


「そこのっ——えぇっと、AIっぽい奴等——ブータンを取り押さえろっ!!」

 峰は直ぐ様、マキナの端末である停止した“アイドロイド”に命令を出す。

 そして、“アイドロイド”が動き始めた瞬間

 ピータンが銃口を順に向け、“アイドロイド”を次々と破壊していく

 峰が思わず、口癖である「やっべ!」と口に出すと同時に

 打ち終わったばかりのピータンが峰の方へ銃口を向け、こう言う

「私は、ピータンです」

 そして、放たれた“光子弾”は寸前の所で、自動で展開された“形状変化金属”の壁で防がれる。


 そんな鬼気迫る一進一退の攻防を眺めながら

 マキナは、ある事を疑問に思い始めていた。

「あれ?……今、峰さんの命令無しに起動しなかった?」

 この時マキナが思考していたのは、“シェイプシフターシリーズ”というエクスから提供された最新技術“形状変化金属”で構成された最新鋭機のスペックデータであった。

 この機体は現状、地球連邦勢力圏でのみ試験的に運用されており

 もとより高度なAIを搭載していなかった。

「あの場に保管してあった機体にAIは搭載していない……搭載していても、D+からC+って所よね……」

 マキナの言うのは、AIを用途別にクラス分けしたものであり、広くこの時代では使われている。

 この場に広がる“アイドロイド”等の端末は、自己判断を一切行わないEクラスに分類され、その上に個人向けのDクラス

 そして戦闘用機体や宇宙船等の高度な判断と処理能力を必要とするものはCクラス

 惑星の管理、自治体の管理、裁判で使用されるものはBからAクラスに分類されている。

 そして“最上位AI”と呼ばれるデウス、エクス、マキナは、A+クラスで

 これらはピラミッド構造を描くことで機能していた。

「該当AIの識別コード確認——“AIネットワーク”への最終アクセス時、Eクラスとの記録有り——」

 マキナは何度も自らのアーカイブを検索してみるがアイちゃんと呼ばれるAIの識別コードを発見できないでいた。


 そんな中、防戦一方であった峰達に動きがあった。

「ちょ!——ルラルお前、どんだけコイツに恨み買ってんだ!!やっべぇって!」

「知らないわよっ——文句ならお父様に言って!」

 二人は互いに少し離れた位置で障害物に隠れたまま

 ピータンの連続射撃により、その場を一歩も動けずにいた。 

 だが、ピータンも攻撃の手を緩める事は無く、それでいて自らが戦闘訓練を受けていないことを自覚していたので、前に踏み出すことはなかった。

「いつまで隠れているつもりですかっ!?」

 そう言って、更に無造作に連射し続ける。

「いいかぁ!ルラル——次からは、お前に恨みを持ってるやつが銃の近くにいる時は、ぜってぇ煽るなっ!」

「うるっさい!それより——」

 峰とルラルが再び会話をしている途中だった。

 銃撃が突然止まり、二人は恐る恐る遮蔽物から顔を覗かせる。

 すると、ピータンの左手には“空間圧縮機”が持たれており

 先程、防衛軍が使った時とは別のスイッチを押す光景が飛び込んで来る。

「やっばい——峰っ!離れて!!」

 ルラルが目を丸くした後、峰の方を向いた瞬間

 それをピータンは二人の間、少しルラルよりの位置に投げつける。

 

 “空間圧縮機”には、圧縮と拡散の二つの機能が備わっており、圧縮して取り込んだ構造物などを拡散にて破片と共に放出する機能が搭載されている。

 この時ピータンが押したのは拡散

 その事に気付いたルラルは、いち早く峰に伝えようとした。

 しかし、峰は気付く事なく

「なんだよっ!出たら危ないだろっ——」

 そう言った瞬間であった。


バァーン!!


 激しい破裂音と共に空間の拡散が行われ、無数の破片が二人に襲いかかる。

 しかし、峰には状況を瞬時に判断したアイちゃんによってその破片は防がれ、当たることは無かった。

 だが、ルラルは別であった。

 その場を勢いよく、峰とは反対方向へ飛び出したルラルであったが襲いかかる破片をすべて躱す事はできず

 窓際の“光子スクリーン”にもたれかかる形で吹き飛ばされてしまう

 そして、ピータンの無作為な銃撃や一時的な空間の拡張を受けた“光子スクリーン”はその機能のほとんどを失い

 壁としての役割を果たせなくなる。

「え——」

 ルラルの身体は建物の外へ傾き、そのまま姿を消してしまう

 そして惑星代表庁舎の50階建てビルからの自由落下に陥ってしまった。

z「ふん!この手で殺したかったですが——まあ良いでしょう次は貴方だ——」

 ピータンはルラルの死を確信し、峰の居た場所へ視線を向ける。

 しかし、そこに峰の姿は無い

「どこにっ——」

 そう言って部屋を見渡した時

 一瞬、ルラルが消えた場所へ飛び込む峰の姿が映り、ピータンは困惑する。

 そしてピータンはその場所へ駆け寄って恐る恐る下を覗き込んだ


 ルラルは、負傷した身体で惑星代表庁舎から落ちながら、こんなことを考えていた。

 —— 私、ここで死ぬんだわ

 死を確信したルラルは、ゆっくりと目を閉じ重力に身体を預ける。

 元よりその身体は、先程の爆発の影響で酷く痺れ、破片が突き刺さっている場所もあり、力は入らない

 なのでルラルは、静かに思い出に耽る事にした。

 —— フィル、貴方の仇は討てなかったわ……

 彼女は永遠にも思える時間の中、最初に思い出したのはかつての夫の姿であった。

 初めは父の言いつけ通り、“賢人達”の一員であったその男と仕方なく結婚し、自分が縛られた存在のように感じていた。

 しかし、次第に互いに理解することで、この結婚も悪くは無い、と思い始めたのだった。

 —— こういう時、声だけは思い出せないものね

 彼女はこの時、自分が薄情な人間の様に思えていた。

 何度も自らの名を呼ぶ、男の姿を思い出すものの、その声だけは一向に浮かんでこない

 彼女は更に深く思い出を辿ることで、なんとかその声が聞こえた様に感じる。

『——ルラル』

 そう——こんな声だった、と思ったのも束の間

 再び自らの名前が呼ばれる。

「ルラルっ——」

 彼女は、幸せな気分になる。

 

 こんなにも絶望的な状態で幸福を感じている自分が少し可笑しく思え、笑みが零れそうになった時

 更に、今度はハッキリとその声が聞こえる事になる。

「おいこらっ!ルラル——目ぇつむってる場合かこのバカがっ!!」

 ルラルは、はっと目を開ける。

 彼女の視界に移ったのは、暗闇に浮かぶ星空と下側にそびえ立つ惑星代表庁舎——

 そして、こちらに向かいながら、必死に手を伸ばす男の姿だった。

「峰っ⁉——え、なんでっ!!」

 彼女の見た峰は、風を受けたからか少し涙目になりながら頭を下にし、まっすぐ落ちてきており

 ルラルは、自然と彼に対し手を伸ばし返していた。

 そして二人の手が触れあったタイミングで峰にグッと引き寄せられ、彼に抱き寄せられる形で二人して逆さまに落ちていく


「峰、何やって——」

 ルラルが峰に問い詰めようとした時、彼の大声が響き渡る。

「アイちゃぁぁぁん!——アメノハバキリを転送っ!!」

 アメノハバキリは、かつてLANDP315で同型機を撃破した際、転送機能を獲得しており

 それは、ディパーテッド・コロニーでも実用された。

 同じことをこの場でも行おうと考えたのだ

『マスター、惑星内部での転送は、諸々の環境データの計算を行わなければならない為——現在の制限を受けた状態では不可能です』

 アイちゃんと呼ばれるAIから発された驚愕の事実

 これには、流石の峰もついには瞳から涙を零す

 そして、苦し紛れにこう叫んだ

「ちょ——ハンプティダンプティは嫌だぁ!!もう、何でも良いから助けてれぇぇぇ!!」

 峰の言葉は半ば断末魔の叫びであった。

 だが、その言葉がこのAIを動かした。

『了解——同期——完了、“AIネットワーク”接続——完了、ネットワーク内のステガノグラフィ収集——完了』

 AIは峰にも聞き取りずらい速さの音声を垂れ流し、凄まじい速度で処理を進めていく

 そして数秒後、彼女から音声が発せられる。


『再構築——完了……ただいま、浩二』

「え——アイちゃん?」


 その瞬間、落下してゆく二人の隣にアメノハバキリが出現し、二人の落下速度を殺す様にそっと手で包み込む

 そして、そのままスラスターを点火し、地面まで五十メートルという所で彼らを確保する。

 その後はそっと地面に着陸し、二人は安堵した。



 一方、最上階付近のドルラ執務室では、アメノハバキリが出現した時点でピータンはどこかに駆けて居なくなり

 この部屋には横たわる防衛軍と“アイドロイド”の残骸

 そして、マキナだけが立ち尽くし、峰達が落ちて行った窓から下を見下ろしていた。

「アクセス確認——」

 マキナはぼそっと呟き、ジッとアメノハバキリに視線を送り続ける。

 その目は大きく見開かれ、人間の驚きを忠実に再現していた。

 そして、その両手を興奮に震わせながら自らの頭部に当て、静かに話始めた。


「こうして、直接会うのは九千九百三十年ぶりですね——“お姉さま”」


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