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私が完成させた

 

 ピータンに拘束された私は、惑星代表庁舎の中を最上位AIマキナ統制のアンドロイドである“アイドロイド”に囲まれ移動していた。


 “アイドロイド”は性質上、人に似せたアンドロイドのような見た目をしているが、その頭部には人工知能が搭載されておらず

 一般に浸透するアンドロイドの一般的な型、アーミー型やパートナー型の様に独立して自ら考えて行動することは無い

 その特性は、最上位AIが一括して操作する端末としてのものが大きく、個としての統制を見せる。

 つまり、一度命令が下れば、私はすぐさま四方から一斉に撃たれ、蜂の巣になるということだ


 そして、そんな物騒な状況に置かれた私が向かう場所は、当然父ドルラのいる臨時執務室である。

「あなた、一体何が目的なの」

 そんな中、私はピータンへ質問を投げかけていた。

 実のところ、周囲を囲む“アイドロイド”が、コチラへ向ける銃口に焦燥感を感じていた私は、少しでも会話をして気を紛らわせたかったのだ

 すると、先頭を歩くピータンはコチラを振り返るでもなく、移動中の暇つぶしとでも言わんばかりにゆっくりと話し始めた。


 その内容はいかに自らが尽くしてきたか

 そして父の対応が自らの功労に報いるものでは無かった。という内容の話で、ピータンは最後にこう締めくくる。

「ドルラは、いわば独裁的な指揮者です——周囲の者を自らの指示通りに従わせる、そして脚光を一点に集め、奪っていく」

「あなたも目立ちたいってこと?——とんだおこちゃまね」

 ピータンの指揮下にある“アイドロイド”に銃口を向けられている状況では、この様な神経を逆なでする発言は控えるべきなのだろうが、思わず口にしていた。

 —— この怒りはいったい何処から来るの

 私は疑問に思っていた。

 父の振る舞いは、私自身あまり好ましいものとは思っていない

 実際、私も出来ることなら父とは関わりたくはなかった。

 しかし、いざ父を陥れその地位を奪おうと企むピータンを見て私は怒りを感じている。

 そんな、不思議な感覚に悩まされていたのだ

 そんな中、ピータンは悪いジョークの様にこう言ってくる

「不満を打ち明けると楽になりました——こういうのを定期的にやりましょう」

「悪いけどお断りよ、誰かの愚痴を聞いたり解決したりは得意じゃないの——」

 私はキッパリとピータンに断りを入れ、強がって笑みを浮かべてみる

 そして、続けてこうも付け加える。

「そうね……私の仲間に峰っていう人がいるから彼にでも言えば?聞き上手でよく面倒事に足を突っ込んでいるわよ」

「ああ——例の“最上位権限保持者”ですね」

 そう言ったピータンは、ピタリと立ち止まりコチラを振り返る。

「彼には謝罪を伝えておいてください、ルースンの独断とはいえ“量子契約改竄”の罪を被せてしまった」

 “量子契約改竄”——それは連邦では重罪に認定されているものの、技術的には不可能であることは現代人類であれば皆が知るところである。

 相変わらず峰はトラブルに巻き込まれやすい、と私は薄っすら笑みを浮かべたが

 実のところ、あまり心配はしていなかった。

 —— 峰なら何とかするだろうな

 そういった思いが私の中にはあったからだ


 そんな中、ピータンはこう告げる。

「では——始めましょうか」

 「いったい、何を」と私が言う前に、コチラを向き、笑みを浮かべる男は更に続けてこう語る。

「言ったでしょう、“量子契約改竄”の黒幕を拘束するのです」

 その時だった。 

「惑星代表っ——これは何事ですか」

 廊下の向こう側から武装した男達が駆けてくる。

 

 その装備は私に銃口を向ける“アイドロイド”とは少し異なっており、人体を守るための防具が少し多めに身に付けられている。

 彼等は“惑星防衛軍”に属する人類の軍人だ

 “地球連邦軍”とは違い、惑星内での有事の対処を行う事を担当しており

 建前上は惑星住民にその指揮権が与えられているが、実質のところ惑星代表に全権が委任されている。

 

 ピータンは私の方へ笑みを残しつつ振り返り、両手を広げ、「おお、よく来てくれました」と仰々しくこう言い放つ

「先に報告をあげた通り、ドルラ上院議員には“量子契約改竄”の疑いがあるのです——氏の拘束をお願いします」

 すると、そう言われた“惑星防衛軍”の面々に動揺が広がり、各々が互いの顔を見合わせたりしている。

 —— そりゃそうよね、いくらなんでも“量子契約改竄”だなんて

 と、私が考えていると“惑星防衛軍”の隊長らしき男が、私を取り囲む“アイドロイド”の存在に気が付き、直ぐに事の重大さを認識した様に振る舞い始める。

「代表、後ろに居るのは“アイドロイド”ですね ——つまりこれは“最上位AI”マキナに事実確認済みであると」

 ピータンはこれに頷き、それを確認した隊長は部下に命令を下す

「聞いた通りだ、お前達——これより最重要容疑者の確保に取り掛かるっ」

 惑星防衛軍は直ぐ様父のいる執務室のドアの両サイドに別れて配置を済ませ、突入の準備を行う

 その装備の中には、“空間圧縮機”もあるのが見え、隊員らはそれを扉に取り付け、装置中央のスイッチを押す。

 そして、ピータンの前で様子を見守っていた隊長の男が準備を完了したのを確認すると、ピータンの方へ振り返り、目で合図を送る。

「お願いします」

 ピータンの言葉を聞き、隊員は扉に仕掛けた装置を起動


キューン!

 甲高い音とともに装置は作動し、扉は瞬きをする間もなく一瞬で消え去る。

 更にはもとあった扉より遥かに大きな穴を壁に開ける事になった。

 そこから隊員は続々と執務室内になだれ込んで行き、それに続いて隊長が最後に部屋の中に姿を消していく

「では、私たちも行きましょうか、ルラルお嬢様——」

 ピータンの指示に従い、私は重い足取りで部屋に向かって歩き始める。

 この時になって初めて先程の奇妙な怒りの正体を私は理解した。

 —— そうか、私は自身の不注意で、嫌っていた父に迷惑をかけるのを恥じていたんだ

 先程の怒りは、自分に向けたもの

 ピータンの様な小物に人質として良いように扱われ、あまつさえ父に対する交渉材料として使われそうになっている。

 その自らの軽率さを私は恥じていた。


 そこを理解した時、私の視界へ、ついに父の姿が映り込む

 父は部屋の中央にある“エアリアルチェア”に座り、コチラを向いており、その前には“エアリアルデスク”が置かれている。

 そして、先に突入した“惑星防衛軍”の隊員ら8名は、父を取り囲む様に銃器を構えて立っていた。

 それと、意外なことに奥の“光子スクリーン”製の窓際に、来客中であったのだろうか、高級そうなスーツを身に着けた男がコチラに背を向け立っていた。

「これは、軍事演習か何かかな——ピータン君」

 私がその言葉で視線を父へ戻すと、父は椅子に浅く腰掛け体重を大きく背もたれに預けていた。

 非常にリラックスしている様子である。

「ドルラ上院議員——あなたには“量子契約改竄”の疑いがかけられている、大人しく拘束されて頂けますか」

「ほう、“量子契約改竄”……どのような手口かな?」

「貴方は自身の権限を用い“AIネットワーク”へ侵入し、娘を守る為に“ヴァンスカム”と“トロイ”の間で交わされた“量子契約”を改竄したのです」


 私は父とピータンのやり取りを黙って見ていた。

 それは“惑星防衛軍”と“アイドロイド”も同じで、二人の動向を伺っている。


「ハァッハッハッハァ!」


 しかし、そんな緊張感に包まれた室内に突然、笑い声が響き始める。

 私は目を丸くし、その出所を探るため周囲を見回す。

 そして、それは驚くべき事に、父ドルラのものであった。

 —— お父様が……笑っている?

 これまで、私は長い間父と行動を共にしていたのだが、笑っているのは今まで見たことがなかった。

 そんな父が、今腹を抱えて笑う姿に私は驚きを隠せなかった。

 私は、目の前に背を向けて立つピータンという男に視線を向ける。

 その表情までもは伺うことができなかったが、視線を落とすと、拳をギュっと握りしめているのがわかる。

「何が……何が可笑しいのですか——ドルラっ!!」

「なに——随分とお粗末な裏切りのシナリオだと思ってなぁ——君をかって惑星代表に据えたのは失敗だったかな?」

 この言葉に、ピータンは肩を震わせ、その怒りの度合いをあらわにする。

「お粗末?周りをご覧なさい、今のこのシナリオは、私が生み出したものですよ——ご理解されていないようですね……」 

 すると父は、ここに来てようやく席を立ち上がり、真剣な表情でこう語る。

「あぁ——だから、このシナリオを私が完成させた」 

 その言葉で、ついにピータンの怒りは爆発してしまう

「もういいっ!何をやっているのですかっ——防衛軍の皆さん早く拘束しなさいっ!!」

 ピータンの命令に従い、防衛軍はジリジリと父に詰め寄って行く、だが父の表情は穏やかそのものであった。


 そして、防衛軍が三歩程進んだ時だった。

 父ドルラの口がゆっくり開かれる。

「せっかく来たんだ——仕事くらいしていったらどうだ?」

 その言葉に、室内は一瞬時が止まる。

 そしてその言葉が誰に向けられたものなのかを各々が考え始める中、窓際に立っていた男がゆっくりと振り返り、「はぁ——」とため息を零した後、こう発した。

「——令状を拝見しよう」

 防衛軍は、直ぐにその場で立ち止まり、隊長の男はピータンの方へ向き、彼の返答を待つ

「罪を犯したのは事実!——私には、証拠もあるし“最上位AI”もそれは認めています!!」

 すると、高級なスーツを身に纏う男は父の方を呆れた顔をしながら向き

 嫌味を込めて「あんたの目は節穴だったみたいだなぁ」と言った後、再びピータンの方へ向かいこう告げる。

「そういう問題じゃないんだよ——疑いをかけるだけなら問題ないが、連邦法違反に対する行使には連邦裁判所の令状が必要だ、第五十六条二項に明記されている」

 その言葉を聞き、ピータンは硬直する。

 だが男の攻勢は止まらず、立て続けに話し始める。

「また、氏の人権を鑑みた場合、武装集団による現在の実質的拘束は、第三条基本的人権の妨害、または不当拘束にあたる——直ちに武装を解くんだな」

 すると父を取り囲んだ防衛軍の隊員らは、次々とその銃器を降ろし始め、互いに顔を見合わせて困惑した状態に陥ってしまう

「あ、貴方は一体誰なんですか!?」

 ピータンは声を張り、そう口にするが

 最早それは成すすべのなくなった男の悪あがきにしか見えない

 そんなピータンを嘲笑うかの様に高級なスーツを身に纏う男は皮肉を込めてこう言った。


「失礼——俺はガブリエルデボンズ弁護士事務所、代表のガブリエルマクトラル——不本意ながら、あんたをブチのめす男さ」


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