1万年越しのWTF
体の感覚が感じ始め
波に揺られているような心地良さを感じ、日常とは違った感覚を覚えた。
耳には微かに波の音も聞こえ始める
——ああ、俺は夢を見てるんだな
俺は鈍く回る頭で自分が眠っていることを自覚しはじめる
ただ余りにこの心地よさによって離れがたい思いを抱き、もう少し眠っていたいと思い始めた。
その時、波の音に混じって俺を呼ぶ声が聞こえだす。
「……さん、みね…こ……うじさん」
透き通った女性の声だ
そこに気が付くと途端に声の主が気になり始めてしまった。
我ながら何とも情けない話だ
しかし、はっきり理由を語ってしまえば可愛い声の主のご尊顔を拝みたいというのは当然の衝動だ
ASMRを聞いているのと一緒だ、ついつい想像してしまう
これはもうノーマルの男であれば仕方のない
—―やれやれ、仕方ない……やれやれ
俺は自分を納得させつつ重い瞼を開く
まったくやれやれだ
—― ごか~いちょぉ~!……?
!?
というか瞼がガチで重い
ズバリ目がなかなか開かない、マガジンマークを出すくらいには違和感を覚える
—― 俺どんなけ寝たんだ?
などと考えながらも
早く優しい声で俺の名前を呼ぶ、声の主のご尊顔を賜りたいという下心を力に変えて目を見開く
すると目の前に最初に飛び込んできたのは青空だった。
視界が戻ったことで今度ははっきりと波の音が聞こえる。
—― ちょー眩しいじゃん・・・
そう口にしようとしたが、今度は上手く声が出ない
—― ……これは本格的に寝すぎたな、だが今はそんな事よりもあの声の主だ!
重い頭を必死に動かし、右から左へと視線を移し周りを確認する。
霞んだ目は次第に視力を取り戻しつつあり、仰向けに寝ていた俺の左側にたつ女性の姿を捉える。
そこには天使が立っていた。
というよりも『天使の様に美しい人』という意味だが、本当に綺麗だ。
女性の肩まで伸びた髪は金髪で透き通っている
また同様に透き通った瞳は、蒼くこちらを見て微笑んでいる。
「……あれ、天使?」
言葉が無意識に口から発せられてしまい、ギョッとする。
先ほどまで上手く声も出なかったというのに、意外な回復力だ
照れ隠しの意も込めて、声が出だしたならと別の話題を振りながら起き上がろうとする
しかし、体に力が入らない
「いってぇ……ここは、どほてすか?」
—― いや、はっず……
やはり口の方はまだ全快とも言えなかったようで、上手く舌が回らずカミカミになってしまった。
それに加えあまりに美人を目の前にしたせいで、緊張してしまったという事もあるのだろう
俺も30歳ともなれば流石に何人かの女性と付き合ったりしたこともあるが
この女性を前にしていると緊張してしまうようだ。
「ふふっ……ここはKP1074系にあるG442ですよ」
—― ん?電車?家電?
ピンと来ないが頭を必死に回転させる
—― どこの国だ?てか今何年だっけ?
そう考えている内に俺は自分の状況を少しずつ思い出してきた。
—― そうだ俺は確か……
俺が核心にたどり着こうとした矢先、女性の方から声が掛かり
現状を告げてくる
「……あれ?えっ……と、峰賢治さん随分永いことお眠りになっていたんですね~、ん?……これほんとに?」
—― なんだその「あれ?」と「えっと」は
—― あ~もう言わなくていい、てか言わないで!嫌な予感がする。
俺は自分で言うのもなんだが、運だけには自信があり
今ここで眠っていられたのもその幸運のおかげによるところが大きいかった。
しかし運には振り戻しがあると、常々言われており—―
「えっほ……今わ2128年位でふか?」
「……え……2128ねっ――ん?……あぁ~あ」
—― やめろ!「あぁ~あ」とか言うなや!!
天使の顔が引きつってる。
—― 綺麗だと引きつった顔もエエナ~いやゆっとる場合かっ!!
そうである、などとか考えてる場合ではない
周りを見渡すと見慣れない、機械かもわからない機器
海辺だと思っていた場所に似つかない俺の服は随分と厚着である
天使の様な女性もカルテを見るでもなく
何か、宙に視線を泳がせて何かを確認している素振りだ。
恐る恐る、彼女に尋ねることにする
「何年すか?……その、率直に」
この頃になると舌も大分回るようにはなってきていた。
なので俺は少し首を浮かせ女性の目を見る
すると女性にサッと目を逸らされた。
余り良くないことが起こっているんだろうと大体察しが付く
というよりも、ぶっちゃけ確信しているが
第三者の口から答えを聞きたいので、沈黙に耐え答えを待つ
「峰さんの健康状態には何の問題もありません……それに解凍後の脳波も正常です―――」
俺には察しが付く
この言い回しの後には、大体「ただ—―」が続くものだと
「ただ—―」
悪いことを報告する時のテンプレを踏み女性は気まずそうな表情を浮かべ言葉に詰まっている
—― 何年経ってもこういうところは人間変わんないんだな
と少し安心する。
—― まあ今が何年か知らねぇけどな
「冷凍睡眠に入った時……その際に入力に間違いがあったと思われまして」
「……おぉう」
外国人配信者の様なリアクションをかまし、なんとも言えない声を漏らす
俺が当初契約した内容は冷凍睡眠100年の筈だったのだが、入力ミスの大きさを彼女の反応から察することができる
しかし、次第に2百年位であればなんとかなるのではないかと考え始める
このポジティブさも、ここぞという時の運の良さから来る自身にも似た性格であった。
—― まあゆうても、どうにかなるだろう
という考えから来ているのだ
俺が置かれた状況に覚悟を決め、どんな状況でも悲観せずいられる気持ちになった時
天使様が眉を歪め、俺に事実を伝えるか悩んでいるのを感じることができる
—― やっぱこの子可愛いな
そう思えるほどに俺の心には余裕が出て来ていた。
—―もう大丈夫だ、さあ来い!バッチコ~イ!!
俺のこんな余裕も
天使様から割とガチめの、厳しい現実を突きつけられる迄の短い間だけであった。
「今は……12028年です。」
「無理なやつやね^^」
俺がすかさず答えた後、少し間を置き俺は叫ぶ
「ふぁっつざふぁぁぁぁぁぁくっ!!」
海外のストリーマーかな?って位の絶叫をし、
まさかの展開で俺の2度目の人生が始まる
俺は冷凍睡眠で眠りについた2028年から1万年が経った時代で目を覚まし
今の先行きの不安は具合は、2020年頃の年金問題位深刻だった。