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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第3章 無人島に棲むリリス

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03-23 小屋の捜索

 時は少し遡り、一翔は窓から差す碧煌(セレリア)の明かりを頼りに、小屋にある本を読み進めていた。


(もう2時か――)

 一翔は左手で口を覆い、ふあーっとあくびをする。


(で、どこまで読んだっけ)

 彼は再び開いている本へ視線を落とす。

 あ、そうそう、3人目の学生が失踪する手前まで読んだんだった。と指で字を追いながら読み進める。


 一翔が読んでいる本は『マレソムディア島の逸話』の第2版を読んでいる。第1版は読み終えて次の本を開いているのだ。


 第1版を読んでわかったことは、300年前に失踪した女子が姿を消す前夜に「何かに導かれている気がする」と友人に告げて森の中に入ったことだ。

 第2版はその内容に加え、200年前に失踪した時の様子が書き足されているのだ。


「ん……?」

 一翔は訝しげな顔をし、

「えっ、また?」

 と思わず言葉が出てしまった。


 200年前に失踪した女子学生と男子学生が会話をしているシーンに辿り着いた時だった。



 フェリウル歴8680年1月14日の夜だった。碧煌(セレリア)は若草色の光に満ち、雲がうっすら懸かっている夜空の下に、2人の学生がいた。


 1人は加藤(かとう)頼柾(よりまさ)。グリフォンパーツ学院大学魔法戦士学科1年生。

 もう1人は加藤の同級生のA・Hという女子だ。加藤の恋人とも思われる人物だ。

 2人は宿舎前で手を繋いだ状態で夜空を見上げていた。


「麗しい夜空と輝かしい碧煌(セレリア)。絶妙だな」

「ええ。わたくしも同感だわ」

 Hは加藤の語り掛けにそう答えた。

 この時、Hはふとミズナラの森林へ視線を送った。


 ただ真っ黒に染まった森なのだが、彼女は誰かから声を掛けられている気がしたそうだ。


『こっちにおいで。ここであなたを待ってるわ』

 そんな言葉は誰も発していなかったのだが、Hにはミズナラの山地帯からそう呼び掛けられているように感じたらしい。


「ねえ、(より)

 Hに呼ばれ、加藤は彼女の真剣な顔を見つめる。


「どうした?」

「あの森林から呼ばれている気がするの。『ここであなたを待ってる』って」

「何を言ってるんだ?」

 加藤が怪訝そうな表情を浮かべると、Hは彼の手を離した。


「あなたにはわからないと思うけど、わたくしにはわかる。わたくしは何かに導かれている気がするの」

 Hは両手を後ろへ組み、上目遣いで穏やかな表情を見せた。

「行ってくる」


 それが、加藤が最後に聞いたHの言葉だった。


 その後、Hは機嫌良くスキップしながら森林へと消え、彼女の姿は再び愛人の前に現れることは無かった。


 一夜が明けても、実習期間を終えてGFP学院へ戻った後でも、加藤はHの姿を見ることはなかった。


「A……まさか……」と人目を盗んで涙をこぼしたかもしれないし、彼女の面影すら忘れて残りの人生を過ごしたかは定かではない。


 確実に言えるのは、マレソムディア島での実習を終えてからは、A・Hの名前を口にすることは無かった。



「300年前に失踪したR・Sっていう女性も『何かに導かれてる』って言ってたらしいから、A・Hという人も同じ感じで森の中に入ったのか……」

 一翔は本から目を離し、右目を擦る。


 何かに導かれている。呼ばれている気がする。これらは魔女のささやきだったのか?

 一翔は考えるが、いつ魔女が登場したのかが不明である以上、断定できない。


 もう1つ、彼には気になっていたことがあった。それは、A・Hが失踪した時代から表現方法が変わっていることだ。

 300年前と400年前に失踪した話は書いた人の目線で表現されていたが、200年前に突入した途端、第三者目線に変わり、推定を意味する用語の使われる頻度が上がった。


(300年前と200年前の出来事で、何でこんなに書きっぷりが違うんだろう?)

 新たな謎が発生してしまったが、それに拘って考えている時間は無い。


 一翔は本を閉じ、4冊目の本を取り出した。


 その時……


 小屋全体が一瞬白い光が差し、その5秒後にドドーン!! ドドーン!! と雷鳴が轟いた。


 一翔は目を白黒させ、扉の外へ向かう。東西を結ぶ星の河がはっきり見えるが、南東の方角は暗雲が淀んでいる。


(今頃、雅稀と利哉はシャドウ=リリスと戦っているのだろうか?)

 一翔は窓際の椅子に座り直し、グリア=リーツで2人に連絡を取ったが、返答があったのは雅稀だけだった。


『雅稀だ』

 グリア=リーツから友人の声が一翔の元に届く。


「どう? あれからヒカルとシャドウ=リリスは見つかった?」

『見つかった。ヒカルは意識を失ってるけど息はしてる』

「良かった!」

 ひとまずヒカルが見つかり、生存している知らせを聞いた一翔はほっと胸をなで下ろす。


「で、利哉は?」

『あいつはフォーリン=クズハと戦ってる』

「フォーリン=クズハ……?」

 一翔は聞き覚えのない名前を耳にして眉根を寄せる。


『魔女の本名だよ』

「シャドウ=リリスが魔女の名前じゃなかったってこと!?」

『そうだ。あいつは黄階級(フラムクラス)で、利哉が必死で戦ってくれてる』

「雅稀はどうしてるの?」

『利哉に魔女の戦い方を分析してくれって頼まれてさ。それでヒカルの様子を見ながらクズハの戦い方を観察してる』

 利哉は魔女と戦っている一方、雅稀はその様子を観察している。道理で利哉が応答しない訳だ。


『で、一翔は小屋の中で何か収穫があったか?』

「それが、調べていくにつれ色々と謎が増えていく一方で……」

 一翔はため息交じりで話し、目を落とす。


『そっか……』

 うん、と一翔は言おうとした直前、雅稀が

『あっ! 利哉がそろそろ限界だ! 一翔は調べ物が残ってるなら、引き続き調べて欲しい。ごめんだけど、また後で!』

 と張り気味の声で言い残した。


 一翔が何かを言いかける前に、通話が切れてしまった。


(僕がここで調べ物をしていた間、雅稀と利哉は戦っていたんだ――)

 さっきの光と雷鳴が魔女の技であったことが、この時になってわかった。

 僕が書籍をあさっていた間、2人はヒカルを見つけ出し、クズハと戦ってくれていた――


 6時までに、何とか調べ切らなければ。

 一翔はその思いを胸に、4冊目の本を広げた。

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