03-22 クズハ VS 利哉
「さて、まずはオレが相手になる」
利哉は柄を両手で握りしめ、胸元に構える。
「威勢が良いわね」
クズハは口角を上げ、余裕そうに笑う。
利哉は剣身に熱気を伴う赤い炎で包む。
彼はクズハを目指して駆け、姿勢を低くしてクズハの脛を狙って剣を横に振る。
クズハはその場を跳んだが、僅かにタイミングが遅れ、足首に利哉の精の攻撃が当たってしまった。
血の気のない青白い足首の裂け目から、赤黒い血が足の甲へ伝う。
「ぐっ……よくもあたしの綺麗な足を傷つけたわね!!」
クズハは歯ぎしりをし、頭上から薄黄色に光る剣を叩きつける。
(完全に頭蓋骨を割るつもりだな)
クズハの切先の位置を見逃さなかった利哉は左側に重心を置き、体をくるりと回転させ、彼女の攻撃を避けた。
グサッとクズハの剣は地面を突き刺した。
(ヤツの右側に回れば、左腕に捕らわれたヒカルに当たらなくなるはず)
利哉はそう直感し、左手をクズハの右腰にかざす。
「陽・火!」
利哉は怒りの念を込めた火の玉を出現させる。クズハがヒカルをさらったことに対する憎しみの感情が籠もっているため、禍々しい赤色に輝いている。
利哉の陽が手のひらから離れると、カーブしながらクズハの右脇腹を狙って進む。
(何だか嫌な熱さを感じる)
クズハが力尽くで剣を抜き、構え直そうとした頃には遅かった。剣を抜いた時に見せた脇腹へ憎悪に満ちた陽・火が直撃した。
「うがぁっ!」
クズハはヒカルを抱えた状態で横に倒れた。
はぁ、と利哉はひと息つき、両足を少し広げて膝を伸ばす。
彼は魔女に歩み寄り、切先をクズハの顔の近くに下ろす。
「この子を抱いたままだったら、本領を発揮できないんじゃねぇのか?」
クズハの前で剣を向ける利哉の目の奥は鋭利な刃を宿している。
「……仕方ないわね」
雅稀と利哉に遭遇してから初めて、クズハの腕からヒカルが離れた。
(よし、ヒカルがフォーリン=クズハの手から離れたぞ……!)
森とだだっ広い地面が広がる境界に立っている雅稀は小さくガッツポーズした。2人が1対1で戦っている間を狙って、ヒカルを助け出そうと考えていた。
しかし、彼は利哉が発言した内容に気が留まった。あの言動は相手を挑発させる言葉だ。
これからが本当の勝負の幕開けと共に、利哉がどこまでクズハと互角に戦えるかの問題が発生する。
(利哉の肩からまだ血が流れてる。何とかして相手の戦い方を見出さねば……!)
雅稀は目の色を変え、戦闘中の2人の行動を見つめる。
利哉は雅稀へ振り返り、目に物を言わせた。オレが魔女と戦ってる間にヒカルを助けてやってくれ、と言っているのが雅稀には感じた。
雅稀は力強い眼差しで深く頷いた。
利哉はどこか安心したような顔を見せ、再びクズハへ向き直す。
「もうあたしは両手が使えるの。さっきのようにはいかないわよ」
クズハは左手を空に向けた。
快晴だった深夜の空に灰色の雲が懸かり、ゴロゴロと鈍い音が鳴り始める。
ビシャーン! と鼓膜が破けそうな大音量の雷鳴が轟く。
同時に、稲妻が次々に地面へ落ち、利哉の逃げ場を無くす。
(またこれか……)
利哉はしかめっ面をし、全身に抗陽のベールを張る。
クズハは宙に浮いているが、笑っていない。真剣な顔をしている。
(あいつを突き落としたら何とかなるかな?)
利哉は疑問に思ったが、とりあえず実行することにした。
切先をクズハに向けると、そこからルビー色に輝く光線が伸びた。
「ほーっほっほっほっほ!」
クズハは高笑いし、天から雷を落とし続ける。
利哉の光線がクズハに接近すると、魔女はスッとその技をかわした。
(光線はダメか。ならば……!)
利哉は球に技を切り替えた。切先を上下左右に動かしていれば、クズハに直撃する時が来ると予測したのだ。
1個1個の球・火は小さいが、0.2秒間隔で紅色の球を連射し続けた。
クズハは避けたはずの光線が球に変わったのを目にした途端、焦ったように目を瞠り剣を真横に構える。
「抗球・光」
クズハの左手が切先に添えられると、レモン色のシールドが現れ、球・火を破砕する。
ところが、利哉の球の数が多く、あらゆる角度から襲う球全てをかばいきれず、抗球で防御しきれていないクズハの背中や下半身へ次々と攻撃が当たる。
仕舞いにクズハの鳩尾に球・火が命中し、「ゴホッ」と咳き込み、地上へ落下する。
(雷鳴が止んでる……今だ!)
雅稀は隙を見て地面に伏しているヒカルへ駆けつけ、横抱きして森との境界の近くへ避難した。
「大丈夫か?」
雅稀はヒカルをそっと下ろし、横向けに寝かせるが、返事はない。冷え切った彼女の細い手首を握ると、脈拍が確認できた。
(息はしてる。良かった)
雅稀は安堵し、ヒカルのそばで利哉とクズハの戦いを見守る。
地面に思い切り体をぶつけたクズハは手足を震わせながら立ち上がった。
「よくも……やってくれたわね!」
クズハの剣身からバリバリと乾いた音を鳴らし、紫がかった白い稲妻をまとう。
空から轟く雷鳴に合わせ、五月雨のように稲妻が落下する。
クズハは落ちる稲妻を上手く避けながら、利哉を斬りつけようと剣を振り回す。
地面へ落ち続ける雷はフォーリン=クズハが出している波動系の魔術だ。それに当たってしまえばクズハの攻撃をまともに食らうことになる。
利哉は勘を働かせ、ギリギリのところで雷を避けてはクズハの剣戟を受ける。
クズハの攻撃力は雅稀や一翔に比べて劣っているが、油断できない状況だった。
利哉が精・火で相手を攻撃した時、クズハは稲光をまとった剣で一瞬防御するが、即座に凄まじい力で前方へ押し返す。
彼がバランスを崩しかけた隙に、クズハの精・光がある時には左下、ある時は真横から襲ってくる。
おまけに、曇り空から稲妻が容赦なく降り注いでいる。魔女の攻撃をかわしたり防御したりする時はもちろん、利哉が攻撃する時も気を配らなければならない。
(オレの精・火を弾く時の馬鹿力は何なんだ)
利哉は歯を食いしばってクズハの精を受けるが、体を反らしたタイミングで雷に打たれてしまった。
「ああーーーーーっ!!」
利哉は悲鳴を上げ、仰向けに倒れた。
彼が倒れると、雷は鳴り止んだ。
クズハは剣を下ろし、大の字に倒れている赤髪の青年へ忍び寄る。
「あたしの逆鱗に触れるとこうなるの。あんたって本当お馬鹿さんだねぇ」
クズハは口元を歪ませて嗤う。
「……ああ。オレは馬鹿なヤツだ」
利哉は目を開け、ゆっくりと上半身を起こす。
「この無人島へ来る前も、魔術界へ来るずっと前から馬鹿だ」
「ふぅん。案外素直に認めるんだね」
「そりゃあ、今まで好き放題過ごして、勉強なんてものを疎かにしていたからな。世の中はオレより賢い人が大勢転がってるのさ」
利哉は剣を拾って立ち上がる。
「でも、魔法戦士はただ単に頭が良いだけでは通用しないかもしれないんだぜ」
利哉はニヤリと歯を見せる。
5ヶ月も前、パライバトルマリンを手に入れるために戦った時、雅稀との会話で自信を持った出来事を思い出していた。
オレは自分の頭脳に自信がなかった。今も自信があるかと言われたら無いって答える。
けれども、賢くない代わりに冴えていたのが直感力だ。だから、今まで勘に頼ってきたし、今もそれに頼っている。
あの日、マサと一緒に絡繰り人形と戦ってた時、マサはこう言ってくれた。
「利哉は直観力を大事にして欲しい。お前の鋭い直観力で、俺と一翔を助けて欲しい」と。
あいつが言ってた「直観力」はまだついてないけど、少しでも早くに身につけたいと思っている。
物知りで頭脳派のカズは頭の回転を活かして戦い、マサは理系ならではの分析力を活かして戦う。
オレは2人のように頭を使って戦うことは苦手で不可能に近い。
でも、何かしら考えながら戦っていると、体の動きが遅くなる。
一方で、勘で戦えば、瞬時に防御できるし、即座に攻撃を仕掛けることだってできる。
まだまだだけど、研ぎ澄まされた勘を持つ日が来た暁には……オレは誰よりも速く確実に攻防できる魔法戦士になれる!
クズハは利哉を見下すように目を細め、
「あんたが怪我した肩は瘡蓋すらできてないのに、体が持つとは思えないわ」
と利哉の患部を凝視する。出血量は少なくなったが、まだ血が止まっている様子ではなかった。
「オレは戦い抜く! たとえ怪我を負っても……」
利哉は剣を右肩へ振り上げると、剣身は橙赤色に煌めく。
「はあああああああっ!」
利哉は声を上げ、小走りしてクズハに接近する。
「往生際が悪いヤツ」
クズハはぼそっと独り言を漏らし、黄色の光が剣身を包む。
2人の剣身が交差する。
クズハは前方へ押し出すように抗奥拉で弾き、剣身が離れた矢先にクズハが奥拉で攻め、で彼らの刃が接触する。
今度は利哉が光をまとった剣身でしっかり受け止め、これ以上怪我しないように気を配る。
クズハはギリリと歯噛みし、剣をあらゆる方向から振り回す。
利哉は魔女の斬撃を防御しながら、隙が出るタイミングを窺う。
(オレが攻撃に入る時、精に攻撃を切り替える)
利哉は頭の中で作戦を立てた。
ひたすらブンブンとでたらめな剣舞を披露するクズハは、呼吸を忘れる程に集中し、利哉を攻め続ける。
(ダメだ、隙が無い。ならば……)
利哉は体をのけ反り、後方へバク転する。
クズハの奥拉・光が空を切る。
魔女と距離ができたところで、利哉は即座に剣身に灼熱の炎を燃やす。
「精・火」
利哉は剣を薙ぐ。彼の攻撃がクズハの右頬を斬る。傷の見た目は小さいが、利哉には手応えを感じていた。
「うっ……」
クズハは剣を左手に持ち替え、右手を頬に当てる。
手を離すと、手のひらに血液がついていた。
「……もう許さないわ!」
クズハは手についた血を振り払い、両手で剣を構える。
曇り空からクズハの周りに幾その雷が落ち始める。
「またあのシチュエーションか」
利哉は気を引き締めて呼吸を整えた。




