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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第3章 無人島に棲むリリス

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03-21 フォーリン=クズハ

「ヒカルを離せーっ!」

 雅稀は恐怖心を無理やり抑え込むように声を出す。


「良いわよ――あんたたちがあたしの指一本に触れることができたらね――」

 クズハは口元だけ笑みを見せると、上空へ飛んだ。


 気を失っているヒカルを空高く放り投げ、クズハは両腕を軽く広げると、快晴の夜空から稲妻が落ち始める。


「あーっはっはっはっはっは!!」

 魔女は甲高い声で笑っている。


 雅稀と利哉は両腕を真横に伸ばし、両手を広げて(アンチ)陽のベールを体全体に張る。


「ちっくしょー。こんなんじゃあ魔女の指一本に触れるどころか、ヒカルを助けられねぇじゃねぇか」

 利哉は悔しそうに顔をしかめる。


「空から多くの雷が轟いている。奴は光属性だ」

 雅稀はクズハの攻撃を防御(ガード)しながら、相手の属性を特定する。


「オレたちはまだ赤階級(ロドゥクラス)だけど、巷の赤階級(ロドゥクラス)の魔法戦士とひと味違うことを見せてやろうぜ」

 利哉は雅稀の横顔を覗く。


「そうだな! 魔術師登録委員会に認められていないだけで、反逆者から黄階級(フラムクラス)並の実力だって言ってくれたもんな!」

 雅稀は利哉の目を合わせる一方、先月の年末休みに入る少し前の出来事を思い出す。



 フェリウル歴8879年12月19日のこと。反逆者3人に夜まで修業をつけてもらっていた時のことだった。


『そうよ! 自分の他の属性の人と相手する時は、相手の属性の意味合いを思い浮かべながら攻撃魔術で攻めたり、防御魔術で守ったりするのよ』

 反逆者と称する者の1人、メイリア・ルーツは剣身(ボディ)に静電気を帯びた稲妻を走らせ、雅稀に向かって薙いだ。


『相手が光属性の技を出した時は、どう思い浮かべたら良かったの?』

 紅の目を光らせたメイリアに、雅稀は

『希望をもたらす光属性!』

 と即答した。


『ちゃんと答えられるようになったわね。じゃあ、あたしの技を受けてみなさい!』

『はい!』

 雅稀は剣身(ボディ)に変化に富む水と希望をもたらす光の念を込め、透明感のある青色の水をそこにまとった。

 狙いを定められた(スプリット)の攻撃を(ブレイド)でしっかり受け止めた。


 銀階級(アルゲンクラス)のメイリアの斬撃は重く、筋繊維が切れそうになったが、雅稀はそれに負けじと魔力を剣に注ぎ、何とか彼女の(スプリット)・光を防御することに成功した。


『他属性の攻撃魔術を防御できるようになってるね。トシくんもカズくんもだけど、マサくんも黄階級(フラムクラス)並の実力が備わったわね』

 メイリアは教え甲斐を感じ、口角を上げた。


『ありがとうございます!』

 認められたことが嬉しく、雅稀は破顔した。



 クズハは空から容赦なく雷を打ち落とす。


(実力は黄階級(フラムクラス)ってあの時言われたけど、他属性の人とは互角に戦えるステータスには至ってない。それは目前のフォーリン=クズハも同じ。やるしかない!)

 雅稀は右手をクズハにかざし、冷たく青い球を出現させる。


「陽!」


 雅稀は手と同じ大きさの陽を放った。陽は(アンチ)陽のベールを貫通し、クズハを狙って一直線に突き進む。


「甘いわね」

 クズハは薄笑いし、軽やかに宙返りする。陽は魔女に当たることなく、夜空の向こうへ姿を消した。


 しかし、雅稀は諦めていなかった。

「甘いだと? それはこっちのセリフだ!」

 彼は右手に自身が投じた陽・水にカーブするよう念力を込めた。


 クズハを通過した陽・水は進路を変え、クズハの背後を狙うように風を切って進み始めた。そのスピードは雅稀が放った時の2倍だ。


(背中から冷気が……)

 クズハは後ろを振り向くと、軽々とかわしたはずの陽が眼前にあった。


「ひゃっ!!」

 バシャーン! と魔女の叫び声と共に陽・水が破水した。

 宙に浮いていたクズハは地面へ倒れ、その上に放り投げていたヒカルが彼女の背中の上に仰向けでのしかかった。


 轟いていた雷鳴は止み、雅稀と利哉は(アンチ)陽を解いた。


「さあ、ヒカルを返してもらおうか」

 雅稀は右手に剣を握り、地面に伏しているクズハへ歩み寄る。

 クズハは即座に立ち上がり、ヒカルを左腕の中に捕らえる。


「あんたの一撃であたしを気絶させたと思ったの?」

 クズハはじろりと雅稀を睨みつけると、空いている右手からシトラスイエローに煌めく剣が出現した。


「おい、さっきの攻撃は食らっただろ!? ヒカルを離せ!!」

 利哉は怒りの面を露わにし、手にした剣を相手に振りかざす。


 クズハは不気味な微笑みを浮かべ、ヒカルを抱えたまま利哉を目掛けて駆ける。

 クズハの剣身(ボディ)は薄黄色に光り、利哉を斬りつけようと太ももの位置から剣を振り上げる。


 利哉は一瞬目を大きく開く。自分より階級が上の人からの攻撃を受けなければならないことに恐怖を覚える。


 ところが、グズグズしていると斬られて怪我を負うことになる。ここでやられてしまってはヒカルを助けられないどころか、二次被害者として先生方に迷惑をかけてしまう。


 利哉は鮮赤色の光を剣身(ボディ)に包み、右肩から斜めに振り下ろしてクズハの奥拉(オーラ)・光を防御する。


「あんた、火属性なのにあたしの攻撃を受けるなんてやるわね」

 クズハはギザギザの歯を噛みしめる。


「オレたちはそこら辺の赤階級(ロドゥクラス)とは違うんだ! 貴様の技なんか受け止められるぜ!」

 利哉はクズハの剣を振り払い、左斜め下に向かって剣を振る。


 クズハはニヤリと不気味な笑みを浮かべ、魔女の左腕で意識を失っているヒカルを盾代わりに差し出した。


「うっ……」

 利哉は目を大きく見開き、ヒカルの腰の寸前で辛うじて攻撃を止めた。


「ふふっ」

 クズハは歯を剥き、右手に構えている剣にグレープフルーツ色の光を宿し、利哉の左肩に素早く刃を入れた。


「うわっ――」

 利哉は切り傷を負った肩を押さえる。そこから血がにじみ出て、押さえている手が赤く塗られる。


「利哉ーっ!」

 雅稀は青ざめた顔で利哉に駆けつける。


(何か良い方法は……)

 雅稀は周りを見渡すが、止血できそうな道具は何も無かった。


「甘いわね。あんたたちがあたしに勝つなんて不可能さぁ」

 クズハはヒカルを腕に抱えたまま少し宙に浮き、2人の魔法戦士を見下す。


「ぐっ……」

 雅稀は悔しさで歯を食いしばる。

 何としてでも勝ちたい。何としてでもヒカルを助けたい。そのためにはフォーリン=クズハを仕留めなければならない。どうすれば良いのか。

 そう考えながら、(ヒルト)を強く握りしめる。


「マサ……」

 利哉に呼ばれ、雅稀は顔を向ける。


「お前は分析力があるんだろ。まずオレから戦わせてくれ。オレが戦ってる間、ヤツの戦い方を分析してくれないか……」

「でも、怪我してるんだぞ。無茶したら治らなくなるぞ」

 雅稀は利哉の両肩に手を置く。


 利哉は穏やかな顔を雅稀に見せ、

「オレのことは心配しないでくれ。回復魔術でこの傷は治せるさ」

 と言い残してクズハに近づいた。


「回復魔術なんて、あんたたちには使えないのによく言えるわね」

 クズハは冷酷な目つきで利哉を凝視する。


「でも、そう言うお前も使えないんだろ?」

 利哉は不意に笑った。


「何だと……」

 クズハは表相を変えた。

 確実に焦っている顔を見て、利哉は少し自信が湧いた。


「どうやら図星だったみたいだな。お互い怪我したら瞬時に回復する術はないってことだ」

 利哉は剣を胸の前で構えた。剣身(ボディ)に朱色の炎の渦を巻き、炎の熱気が彼の体を温め、取り巻く冷気を暖気に変える。


「行くぞっ!」

 利哉は助走をつけて魔女との距離を縮める。


「ちょっ……」

 雅稀は左手を差し伸べ、利哉を止めようとしたが、クズハの戦い方を分析してくれと頼まれた言葉が頭の中をよぎり、その場でとどまってしまった。


 魔法戦士同士の戦いは、決着が着くまで回復魔術を使用するとルール違反になる。

 仮にルール違反をしてしまうとどうなるかは知らないが、利哉の流血量から考えると、かなり深いところまで傷を負っている。


 利哉の体はそう長くは持たない。何とかクズハの弱点を見つけ、利哉の援護に入らないといけない。彼の体がいつまで持つかは時間の問題だ。


 雅稀は一瞬の隙も許せないとばかりに目を凝らし、2人の戦いを黙って観察した。

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