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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第3章 無人島に棲むリリス

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03-19 本来のマレソムディア島東部と怪しい小屋

 深夜の山地帯の中は木と木の間が1メートル前後の間隔がある。枝葉は広々と伸びており、北から吹く冷えた風に乗ってさわさわと揺れている。その隙間から碧煌(セレリア)の光が差し込み、地面を照らす。

 昼間の山地帯と比べて草本の数もミズナラの本数も半分程度少ない。それ故、夜間のミズナラの迷路は日中より明るく、歩きやすい。


「昼間より夜の方が明るいって違和感しかない」

 雅稀は視線を動かしながら森の中を歩く。


「障害物も飛んで来ない。やっぱり昼だけ姿を変えていたんだな」

 利哉は顔を歪め、腕組みする。


「これが本来のマレソムディア島の東部ってわけね」

 一翔は左右を見渡し、怪しいものが無いかを探る。


「さて、この地にシャドウ=リリスが身を潜めているのか、そしてヒカルがどこで彷徨っているのか。何とかして見つけ出さないとな」

 雅稀は目を凝らして前方を睨む。彼の居場所辺りは比較的明るいが、奥へ行くにつれ闇に包まれている。


「無人島実習はあと2日間しかない。リサとサラっていう子のためにも、他の学生のためにも、先生方のためにも、今日中に見つけたい」

 利哉は拳を握りしめる。


「歩いていたら時間だけが過ぎてしまう。走ろう」

 利哉は正面を向き、3人は同時に森の奥へ走り始めた。



 15分が経った頃。彼らの眼前に年季の入った小屋がミズナラの木々の間から現れた。

 丸太で組まれた小屋はつる植物に絡まれていたり、苔が生えていたりと怪しい雰囲気を醸し出している。


「こんなの……あったっけ……」

 雅稀は高さ13メートルの小屋を見上げる。


「無かった。でも、いや、待てよ……」

 利哉は小屋の周りの景色をじっくり見渡す。近くに山道があることから、小屋を除けばこの景色に見覚えがある。実習中に訪れた時、直径20メートルの範囲にミズナラが1本も立っていなかった、あの場所だ!


「オレが怪しいと思って、着いて来てもらったとこだ!」

 利哉は素早くグリア=リーツで現在地を確認する。画面上で緑のピンを立てた場所と現在地が完全に一致している。


「やっぱり……」

 彼は腕を下ろし、真剣な眼差しで小屋を凝視する。


「昼間は姿を消し、夜になって出現する。この小屋は魔女の館かもしれない」

 一翔は視線を落として考え込む。


「魔女の館!?」

 雅稀は目を白黒させる。


「ここにシャドウ=リリスがいるかはわからないけど、手掛かりがあるかもしれない」

 一翔は雅稀と利哉に体を向けた。

「僕は情報通の友達がいるんだ。何かわかったら情報を共有するって約束しているんだ。もちろん、彼にはヒカルの捜索に手伝ってもらう。だから、僕はこの小屋を調べる。その間、君たちはヒカルを捜してくれないか?」


 2人の友人はしばらく黙っていたが、雅稀は口を開けて「わかった」と首肯した。


「ありがとう」

 一翔はお礼を言ったが無表情だ。行方不明になったヒカル。実在するかもしれない魔女。これらのことを考えると、笑顔でいられるはずがない。


「カズがそう言うんだったら、オレはマサと一緒に行動する。何かあったら連絡する」

 利哉は左手の拳を胸元に構え、グリア=リーツを一翔に見せる。


「うん」

 一翔は頷くと、利哉は雅稀と共に東の方角へと姿を消した。


「さ、小屋の中を調べるか」

 一翔は小屋の扉に近づき、ガラス張りの出窓から誰もいないことを確認する。


 扉を開けると、向かいに木製の机と奥に4段の本棚が置かれている。右側を向くと、薄汚れたボロボロのシーツが敷かれたベッドが設置されている。

 天井へ顔を上げると、丸太の木目だけで、電球すらも取りつけられていない。


(随分不気味な小屋だな。シンクは無いし、どうやって生活しているんだろう?)

 一翔は小屋に入り、気になる本棚に恐る恐る近づく。棚に置かれている本を数えると8冊だった。


 まず、最も左端に置かれている薄めの本を取り出す。

 机の上に置き、表紙をめくると天蒼星(アマネル・ネオ)の地図が見開きで描かれていた。右上のケルブ大陸と中央のオファニム大陸の間に、擦れた赤色でばつ印が刻まれている。マレソムディア島の位置を示しているのだと即座にわかった。


 1枚めくると、マレソムディア島の全体図が見開きで大きく載っていた。西側は更地で東側は森であることを、モノクロのイラストで示されている。

 一翔は次々に紙をめくっていくが、様々な島の地形が描かれているだけで、一文字も書かれていなかった。


 本を閉じて表紙を改めて見ると、魔術語で『世界の無人島』と書かれていた。


「何だ、無人島の本だったのか」

 やれやれと言わんばかりに、一翔はため息をついた。


 元の位置にその本を戻し、2冊目の本を手に取る。

『マレソムディア島で失踪した友』というタイトルが深緑のハードカバーに金色の魔術語で書かれていた。


 本文は気になるが、その前に出版年数を調べる。第1版がフェリウル歴8480年1月30日だった。それ以外の出版歴は記載されていなかった。


 これを見た一翔はトスカから聞いた情報を思い出した。今年――フェリウル歴8880年は魔女がある女子学生をさらってから、ちょうど100年を迎える年だった。

 400年前から100年おきに学生がいなくなっていることが事実だとすれば、最初に女子学生がマレソムディア島で姿を消してからすぐに上梓した本だということになる。


 一翔は速攻で本を開き、読み進める。年季の入った本は黄ばんでおり、雑に扱うと破けてしまいそうだ。


 この本の著者は、まだ魔法戦士学科1年だったレイラ・スレスタという女性だ。

 読み進めていくうちに、この女性は400年前にこの無人島で消息を絶った女子学生の友人であることがわかった。仲が良かったらしく、突如友人を失った悲しみを本に残すことで、二度と悲劇が起きて欲しくないと願っていた。


 しかし、帰って来なかった女子学生の本名は書かれておらず、イニシャルで「K・C」や「Kちゃん」と表記されていた。


(さらわれた人の実名がどこのページを見ても見当たらない。失った友の名前まで世間に知らされたくなかったのかな……)

 そう思うと、切ない気持ちで胸が詰まった。


 著者のスレスタが無人島実習の夜に、K・Cという友人と最後に会話した内容と、その後の話が赤裸々に綴られた内容に辿り着いたところで、流し読みをしていた一翔は手を止めた。

 そのシーンはこんなことが書かれていた。



 マレソムディア島へ来て2日目の夜だった。私とKちゃんは宿舎から少し離れたところでお喋りしていた。


「GFP学院がマレソムディア島を所有してから300年以上の間、夜分に東側の森に入った人って誰もいなんだよね?」

 Kちゃんは後ろに手を組んで足を少し開き、右足のつま先を立てて私に質問した。


「いないみたいだけど、真っ暗だし危ないよ」

 私は黒に染まった森へ視線を移した。カァーッ! カァーッ! と数多の(からす)は鳴き声を上げながらバタバタと翼を動かして、その付近を飛び回っていた。


「危ないって、誰かから注意されたの?」

「いや、言っても言われてもないけど……」

「じゃあさ、人目を盗んで一緒に冒険しようよ!」

 Kちゃんの提案に、私は絶句してしまった。


「人目を盗んでまで行くつもり!? 冗談じゃないよ!」

 私は両手の拳を腰に当て、前かがみ気味で思わず声を張った。


「えぇーっ、つまんなぁーい」

 Kちゃんは両手を広げて呆れた顔をし、仕舞いに

「レイラが来てくれないんだったら、あたし1人で行ってくる」

 とそっぽを向き、指がかじかむ程に凍える夜の中、彼女はたった1人で東の森へ歩いて行ってしまった。


 一夜が明け、3日目の実習が始まろうとした時、Kちゃんは現れなかった。

 誰か知らないか? と先生方はその場にいた私たち学生に問いかけたが、誰も返事しなかったのを覚えている。


 私は心当たりがあったけど、日付が変わる前に寝床につき、彼女と近くで寝ていた訳ではなかった。だから、戻ってきたのかどうかも知る由はなかった。


 私たちが実習に励む一方で、先生方はKちゃんの捜索に全力を注いだが、最終日の5日目になっても姿を現すことはなかった。


 先生方を含め、私たちはGFP学院のあるグリフォンパーツ島へ帰った。


 無人島実習が終わった後も、先生方は交代制でマレソムディア島へ赴き、Kちゃんを捜し回ったけど、10日間経っても見つからなかったことから、打ち切りになったと聞いた。


 Kちゃんは、死んでしまった……もう二度と会えない……


 私はKちゃんと一緒に過ごした日々を思い出すと、泣かずにはいられなかった。

 あの会話が、最後に交わしたKちゃんとのやり取りになるとは信じたくなかった。


 Kちゃんは意思が固く、1度決めたことは決して曲げない子だった。でもあの時、何故Kちゃんを無理にでも引き留めなかったのか、後悔してもしきれない。


 マレソムディア島の夜は危険だ。これから行く後輩たちにはあの子と同じようなことをしないで欲しい。私と同じ悲しい思いを背負って欲しくない。



 ここまで読み終えた一翔は不意に涙が溢れそうになった。


 力武ヒカルが戻って来なかったらリサとサラという子が悲しむ。

 それは、スレスタが願っていた「悲しい思いを背負って欲しくない」という思いを踏みにじってしまうことになり得る。


 ところが、400年前の失踪事件と今回の失踪事件で明らかに違うのは、前者は自分の意思でミズナラの森に入って行ったが、後者は自らその森に入った訳ではない。


 ヒカルがいなくなった原因は何なのか。この本からはわからなかったものの、1番最初の失踪事件の背景を知ったことで、その後の失踪事件との関係性について調べれば、自ずとわかるかもしれない。


(明け方になる前に調べ切って、雅稀と利哉とトスカに報告しよう)

 一翔は深緑色の本をゆっくり閉じ、3冊目の本を手に取った。青色のソフトカバーに銀色の魔術語で『マレソムディア島の逸話』と書かれていた。


 一翔ははっと目を張り、

「これって、僕が実習の前日に図書館で借りに行った本と同じだ!」

 とタイトルを脳裏に焼きつける。


『マレソムディア島で失踪した友』を手に取った時と同様に、出版年数を確認する。初版はフェリウル歴8580年2月5日だった。


(僕が借りた本は第19版だから、年月と共に色々書き換わっているんだろう)

 一翔は最初に出版された『マレソムディア島の逸話』を開いた。それと同時に、学生寮に置いて行った同じタイトルの第19版を持って来たら良かったと少し後悔した。


 しかし、今持っている本は、K・Cという人物が失踪してからちょうど100年後に書かれたものだ。時代を追って読み進めると、実習中の夜に交わした会話や当時の状況との違いや関連性が見える可能性がある。


 一翔はそう信じて机のそばにある椅子に腰掛け、一字一句丁寧に読み始めた。

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