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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第3章 無人島に棲むリリス

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03-13 過酷な川上りと山下り

 山地に潜入してから1時間半。赤矢印の看板は初めて左を指す地点へ到達した。


「今まで真っ直ぐだったのに、ここは……」

 雅稀は左手首にはめているグリア=リーツで位置を確認する。マレソムディア島の南東部に現在地を示す青い点が現れる。


「てっきり、海岸に沿って走るんかと思ってたけど、違うんだ」

 一翔は雅稀のグリア=リーツを覗き見し、手を顎に添える。


 利哉は矢印が示す方向へ目をやる。そこから10メートル先に急速に流れる川を見つける。


「あれ見ろよ!」

 利哉は川を指すと、2人は彼が指す方へ目を向ける。幅が5メートルの川が流れている。山頂から湧き出た水は麓へ流れ、その周辺に小さな湖が水を蓄えている。


「今からあの川を上って山頂へ向かうのか」

 雅稀は呆然と川の上を見つめる。澄んだ水が流れる川は足場となる石が埋め込まれており、終点まで辿り着けば山頂に着くんだと漠然と考える。


「何で冷静でいられるんだ?」利哉の問いに、彼は「終点に着いたら、マレソムディア島周辺を見渡せるかもしれないと思って」と答える。

「ここは無人島だから周りは海原一面が広がっているだけだと思うけど、せっかくここに来たからには見たいなぁ」

 一翔は口元を綻ばせ、湖に歩み寄る。


「この水も綺麗だ。飲めるかも」

 一翔の両手は湖に浸かり、無色透明の水をすくう。その水を口の中に含むと、若干塩味がするものの、早朝から汗水を流した彼の喉を潤す。


「ちょっぴり塩辛いけど、美味しい。天然スポーツドリンクを飲んでるみたい!」

 一翔はもう一度、湖の水を飲む。


「ちょうど喉渇いたと思ってたところだし、飲んでいこうかな」

 雅稀は小さく浅い湖に手をつける。程よく冷えた水は雅稀の手の中を満たし、口から喉へ通った時には、体の疲れは癒やされていた。


 ジャバジャバ! と水音を立てて顔を洗った利哉は

「はぁー! 気持ちいいーっ!」

 と両手から爽やかな顔を出した。


「今から山頂を目指して行くぞ!」

 疲れが少し癒えたところで、彼らは横に並び、川に埋め込まれている石の強度を確認しながら上り始める。


「学内のアスレチック場にある水流フロアみたいだ」

 雅稀は左手を伸ばし、近くにある石を掴む。その瞬間、石は壁から剥がれ、5メートル下の湖へ落下する。


「強度を確認しないと、滑り落ちて振り出しに戻るってことか」

 一翔は落石した石の行方を見守った後、再び強度のある石を探る。


「出っ張ってる足場を頼りにするしかないし、上から冷たい水が流れてくるから、早くしないと体力が尽きてしまう」

 利哉は水に打たれながら慎重に上る。


「この山って標高何メートルだっけ?」

 雅稀は先が閉ざされた上流へ見上げると、一翔は

「700メートルぐらいだったかな」

 とスタート地点から眺めた山の風景を思い出しながら推測する。


「高さが仮に700メートルだったとしたら、山の傾斜に沿って川が流れてるから……」

 雅稀は脳裏で川上りの道のりを計算する。傾斜の角度は体感で60度あるとすれば、川の長さは約808メートルとなる。


「810メートル弱か」

 雅稀の発言に利哉は愕然とする。


「先は長いけど、腕力が鍛えられるし、万が一の時に川上りが役に立つと信じよう」

 利哉は山の頂へ辿り着くべく、すがるような思いで上へ上へと上る。


 雅稀たちは集中力を切らさずに、山頂を目指して上り続けていると、頭上から微かな光が差し込んできた。


「もうすぐかな」

 一翔は手を伸ばして岩に手をかけると、足はふかふかした土に着いていた。


「もしや、ここから湧き水が出ているとこでもあるのか」

 雅稀は岩に挟まれた穴を凝視する。木漏れ日の明かりを頼ろうと思ったが、地面まで光が届かずグリア=リーツのライト機能を使う。


 岩の間に光を照らすと、火を吹く程の勢いはないものの、大量の湧き水が静かな音を立てて麓へ向かって流れている様子が見られた。


「山頂と言っても、相変わらず木まみれで、木に登らない限り見えないのか」

 利哉は川上りのゴール地点に着き、真上を見上げる。葉の間から薄黒い紫の空が山頂を睨みつけているような恐ろしさを演出している。


「もう少し身体能力が高かったら、或いはミズナラに囲まれていなかったら、海原が見えていたんだろうね」

 一翔は無念そうに声を落とす。


「でも、他の山頂だったら、景色を見渡せる場所があるかもしれないぜ」

 雅稀は一翔の目を見ると、その向かいで利哉が「オレもそう思う」と首を縦に振る。


「そうだね。明日は違うルートで行ってみようか」

 一翔は元気を取り戻し、顔を上げる。


「今日は山頂からの眺めはお預けとして、こっから左矢印の順路に沿って下りるぞー!」

 雅稀は川が流れている方角と真逆の方角を指す。


「山下りは西北西の方角。下ってから少し進んだらゴールだ」

 利哉はグリア=リーツの地図と方位、位置関係を確認する。


「もう15時18分だ。今日の日没は16時42分で、それよりも前に戻っていたいよね」

 一翔は時刻を目視し、下り坂の手前まで歩く。


「あと1時間半もないのか!?」

 利哉は目を白黒させる。


「ここでグズグズしていると、迷宮に閉じ込められてしまうな」

 雅稀は湧き水を背にし、足元に気を配りながら下り始める。


「あーっ! ダーツ大会がーっ!」

 利哉も雅稀に続いて下り道に右足を着けた。


 彼らは足を滑らせないように気をつけながら、徐々にスピードを上げて山を下る。

 川を上っていた時は腕力が重要だったか、今度は斜面を踏ん張り、時々見かける突出した岩や根を跳び越える力があるかがポイントだ。


 暗闇の迷宮は刻々と明るさが消えていっている。足元やミズナラの幹が辛うじて見えていたが、半径1メートル圏内が見えるかどうかも怪しくなっている。


「やばい、何も見えない」

 雅稀は目を懲らし、大股で走り続ける。


「光を照らしたいところだけど、良いんかな?」

 利哉はグリア=リーツの画面の明かりを点ける。


「それだと、日が沈むまで戻って来いとは言われんと思う」一翔の意見に利哉は「確かに」と液晶画面から視線を正面に戻す。


 すると、下ってきた道からゴロゴロゴロと鈍い音が響き始めた。


「何だ?」

 雅稀は振り返ると、直径2メートル程度の丸岩が横並びに3つ、同時に転がりながら彼らを襲う。


「岩だ! 跳べーっ!!」

 雅稀の声がけに、利哉と一翔も垂直に跳ぶ。


 岩を避けようと思っていたが、偶然にもそれに乗ってしまった。


「あわわわわわわわ!」

 利哉は岩に落とされないように、足を動かしながら必死でバランスを保つ。


「ピエロになったみたい」

 一翔も彼と同じ仕草で岩と一緒に山を猛スピードで下る。


 斜面を下ってから距離が長くなるにつれ加速し、落とされないように岩の上で走るのが限界を迎えた。


「もう無理だ!」

 雅稀は諦めてジャンプし、体を丸めて着地する。

 あとの2人も丸岩から飛び降り、3つの丸岩は木々の間の砂利道を突き進み、やがて姿が見えなくなった。


「どうなるかと思ったぜ」

 利哉は袖で額の汗を拭う。


「でも、あの岩は平坦な道を進んだよな。と言うことは……」

 雅稀は浅く呼吸をしながら鬱蒼としている草や枝をかき分けると、地平線から半分顔が出たままの恒陽(ロギシュム)をバックに宿舎が2つ見えた。


「もしかして、帰ってきたのか?」

 一翔の質問に雅稀は振り返って頷く。


「やっとかー。こんなところで実習とか、命がいくつあっても足りないや」

 利哉の顔は疲れ切っているが、内心は2日目の実習が無事に終えたことに安堵している。


「宿舎に戻って休憩して、晩飯食ったらダーツ大会だな!」

 雅稀は東部の山地地帯から抜け出し、背伸びをする。手のひらを向けた椋実(むくのみ)色の空は、隠れていた青や橙の星が光を取り戻し始めていた。

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