03-12 暗闇の迷宮
午前中の対戦実習を終え、昼休憩を過ぎた13時。学生はマレソムディア島の西部と東部の境目に並び、跳躍や屈伸などの準備運動をしている。
雅稀の横に一翔と利哉が並んでいる。彼らも腕や足の筋肉をほぐしながら、マルス学科長の合図を待っている。
「皆の者、準備は良いか? 東の山地地帯に順路を矢印の看板で示してある。ちなみに、この地は17時になる頃には日没を過ぎる。それまでに戻って来るように励め」
マルス学科長は右手を挙げ、用意! と声を張る。
ピーッとホイッスルの合図と共に、600人の学生はマレソムディア島東部の森林へ潜入した。
「おっしゃーっ! やってやらぁ!」
午前中の対戦実習からハイテンション状態にある利哉は、雑草を踏みつけながら暗い山道を走る。
「気合い充分だな。にしても、雑草は生えまくっているし、ミズナラの葉が空を覆い隠しているから、昼間とは思えんなぁ」
雅稀は一瞬利哉の満面の笑みを見た後、木の葉や地面に視線を送る。
彼が想像していたよりも視界が暗く、明暗を識別する桿体細胞が鍛えられるように感じる程だった。
彼らの虹彩は薄緑色の光を放っているが、森林の中を照らしてくれることもなく、懐中電灯のような肝心な役割を果たしてくれていない。
しかし、目の細胞に含まれているGFPの存在を気にかける余裕がなく、雅稀らは四方八方から飛んでくる物体を避けることに心血を注ぐ。
「しかも、ここには様々なトラップが仕掛けられてるらしいから、気をつけないと」
雅稀が顔を正面に戻した矢先、斜め右側から小粒の石が8個、こちらへ向かって飛んできた。
「危ないっ!」
一翔もそれに気づき、3人は姿勢を低くすると、小石は彼らの頭上を通過した。
「何、今の……?」
あれだけ情熱を燃やしていた利哉は、突如顔面蒼白になる。
「俺の友達が言ってた通りだ」
雅稀は立ち上がり、森の奥へ走ろうとすると、今度は地面に穴が掘られている。
「ジャンプだ!」
雅稀のかけ声と同時に、彼らは直径1メートルにくり抜かれたホールを跳び越える。
時々現れる赤矢印の看板を頼りに進むが、真正面からジュラルミン矢が腹部を狙いに来たり、背後から疾風を感じて振り返ればミズナラの葉が風を切って襲って来たりと、あらゆるところから容赦なく障害物が仕掛けられている。
「この先もこんなトラップが続くってなったら、やっていけない……」
利哉は走りながら時刻を確認する。スタートしてからまだ15分しか経っていないことを知ると、がくりと頭の位置を落とす。
「さっきの威勢はどこに行ったの?」
一翔は尋ねたが、彼は無言を貫いている。
「とにかく、4時間以内に宿舎へ戻れるように頑張ろうぜ」雅稀は地面に埋め込まれた小岩を踏み台にし、「じゃないと、暗闇のステージに取り残されてしまう」と着地して気を張り巡らせながら進む。
「今週に入ってから怖い話ばっかりだよー」
利哉は雅稀と一翔の背中を追うように走る。時折よそから飛び出す砂利や泥、枯れ草の玉をぎりぎりで避ける。
「利哉って意外に臆病なところがあるな。パラマリン採掘場へ行った時、絡繰り人形に叩かれまくってたお前は、俺に弱音を吐いていたことがあったしな」
雅稀は上半身を翻し、必死で追いかける利哉を見る。冷や汗が流れそうな利哉の背部から鶴が2羽飛んでいる。
「恥ずかしいことをさらけ出さないでー」
利哉は震える声を暗い森に響かせる。
その声を感じ取ったのか、2羽の鶴が彼らを襲う。
一翔は偶然後ろへ振り返ると「鶴だ!」と声を大にして地面を這うように伏せる。
雅稀と利哉も地面に伏せると、鶴は鳴きながら通り去った。
「間一髪だった……」
雅稀は体を起こし、辺りを見渡す。一緒に走り始めたはずの同級生が、いつの間にか3人だけになっていた。
マレソムディア島の東部は順路が数多く存在し、スタート地点から雅稀らのように左回りで進んでいる人もいれば、右回りに進んでいる人もいる。視界が遮られていることを想定した上で、多くの順路が用意されている。反対側から来る学生とぶつかり合わないような工夫もされていると思うと、非常に良くできた暗闇の迷宮だ。
「暗すぎるし、色んな物体が飛んでくるし、先が見えない」
利哉は体を起こし、制服についた砂を払う。
「でも、今日の実習を乗り越えると、ダーツ大会が開かれるんだって!」
一翔はトスカから聞いた情報を2人に伝える。
顔つきが冴えなかった利哉は即座に輝きを戻し
「マジ!?」
とその話に食いつく。
「僕は情報通の友達がいて、彼がそう言ってた」
「ダーツか。やったことないけど絶対楽しいやつだ!」
利哉が目を輝かせている横で、雅稀は
「俺もダーツは初めてだけど、実習ならではの遊び部分だな!」
と学生同士で騒ぎ合っているシーンを思い浮かべる。早く今日の実習メニューを終わらせたい気持ちが強くなった。
「僕も夜が楽しみさ! 僕たち3人で手助けしながら暗闇のアスレチック場を駆け抜けよう!」
「おーっ!」
彼らは拳を挙げ、順路に沿って障害物を乗り越えたりかわしたりしながら、順調に攻略していった。




