表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第3章 無人島に棲むリリス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/119

03-06 無人島実習初夜

 船で過ごしている間に、陽は西へ沈み、夜が訪れた。時刻は19時になろうとしていた。

 船は更地が広がる島の岸で停まった。


 ピンポーンと船内のアナウンス音が流れ、

「マレソムディア島へ着いた。下船して、目前の宿舎へ集まるように」

 とマルス学科長の声が学生と同乗している教員全員に行き渡った。


 雅稀は2人のルームメイトと一緒に船を降りると、白い星の河が南北に描かれた夜空の下に、整備された地面が広がる。向こう側に赤や黄色に染まった森が冷たい夜風に揺れている。


 目の前に4階建ての木造の宿舎があり、50メートル程離れたところに、2階建ての小さな宿舎がある。


「全員、揃ったかね」

 マルス学科長は辺りを見渡すと、散らばっている教員はOKサインを送る。


「では、諸君に案内と注意事項を述べる。よく聞いておくように」

 マルス学科長の言葉に、学生はじっと学科長を見つめる。


「まず、目前に建っている4階建ての宿舎は、学生諸君が5日間過ごす宿舎だ」

 学科長は背後の宿舎を親指で指した後、人差し指で近所の小さな宿舎を指し、

「向こう側に小さく見えるのが、我々教員の宿舎だ」

 と建物の紹介をする。


「マレソムディア島の西側は、このように整備された更地が広がっているが、諸君は明日から明々後日までの午前中は、ここで対戦実習を実施する。午後からは東側にそびえ立つ山で障害物攻略の実習と共に、基礎体力作りを行う」

 どうやら、マレソムディア島での実習では、実質3日間だ。最終日の5日目は午前中にここを出るのだろう。


「次に、注意事項。遥か昔、深夜に出歩いた学生が行方不明となり、捜し回ったところ、遺体となって学生が見つかったことがある。いくらGFP学院が有する無人島とは言え、危険が潜んでいる。決して夜中に出歩かないように」

 立ち聞きをしている学生は顔色を失った。夜中に出歩くと命が無いことに恐怖を覚えた瞬間だった。


「話は以上だ。諸君の宿舎は3階と4階にある。男子学生は3階、女子学生は4階だ。食事コーナーは1階、2階は娯楽スペースとなっている。明日は午前7時にここへ集合すること。明日からの実習に備えておくように」

 マルス学科長を含む教員は、教員用の宿舎へ向かい、群がる学生はぞろぞろと4階建ての宿舎へ入っていった。



「今日は何もしてないのに、何だか疲れたなぁ」

 利哉はストレッチをしながら宿舎に入る。1階は食事コーナーと聞いたが、ログハウスに置かれているような長机と長椅子が20ペアずつ設置されている。


「ここって、無人島だよな。誰が食事を作ってくれるんだ?」

 雅稀は入り口側から5つ目の長机に設置された椅子に腰掛ける。

 利哉と一翔も並んで座ると、突如メニュー表が現れた。


「びっくりした!」

 雅稀は目を見張ったが、魔術によるものだと思うと、即座に冷静になった。


「今、海鮮丼の気分だから海鮮丼にしよう!」

 一翔はメニュー表を閉じると、メニュー表が海鮮丼に姿を変えた。


「そんなことある!?」

 見たことのない光景に、雅稀と利哉は目を丸くする。


「いただきます!」

 メニュー表から海鮮丼に化けたのを目の当たりにしたはずの一翔は、何も動じずに右手で箸を持ち、寿司飯とそれに載っている鮪の刺身を口に運ぶ。


「美味しい!」

 と彼は次々と海鮮丼をかき込む。


 雅稀と利哉はお互いの顔を見合わせ、「一翔が美味しそうに海鮮丼と食べてるのを見ると、俺も食べたくなるな」と雅稀は本音を漏らす。


 利哉は雅稀の発言に頷き、

「オレも海鮮丼にする!」

 と声を張ると、海鮮丼が箸と一緒に現れた。


「俺も海鮮丼で」

 雅稀は独り言のように呟くと、メニュー表は消え、海鮮丼が現れた。


 雅稀は右手に箸を持ち、つんつんと寿司飯を箸の先端でつつく。特に怪しい様子はなく、いつも感じているご飯の感触が右手に伝わる。

 寿司飯にサーモンを載せ、雅稀は口にすると、確かに酸味の効いたご飯と頬が落ちそうになるサーモンの味が広がった。


「魔術ってすげぇなぁ!」

 雅稀は改めて魔術のすごさを実感した。魔術があれば、料理をしなくとも食べたいものが食べられる! こんな幸せなことはないと思った。


「オレも思うぜ! これなら、食いたいものをたらふく食べられる!」

 食いしん坊の利哉は目を光らせる。


 彼らの周りに、同級生が次々と長椅子に座っては夕食が目の前に現れ、食べ始めていた。食事が現れた時、大半の学生は驚いていたが、メニュー表が食事に変わる魔術を体感できるのは、この無人島実習の期間だけだ。

 メニュー表の裏に、魔術語でその旨が明記されているが、ほぼ全員はそこまで目を通していないため、気づいていない。


 しかし、一翔は気づいていた。だから、彼は利哉に

「残念だけど、実習期間中だけだよ」

 と忠告した。


「まじかよ」利哉は愕然とするが、「まあでも、食事のありがたみを感じたな」と気を取り戻して丼の中を空にする。


「ごちそうさま。よーし、明日に備えて寝よう!」

 雅稀は立ち上がり、通路へ足を伸ばす。


「そうだな。朝7時からだもんな。どんな1日になるんかな!」

 利哉も通路ヘ足を伸ばして立ち上がり、階段へ向かった。


「僕も想像できないけど、頑張ろう」

 一翔は2人の友人の後ろに着き、3階のフロアを目指した。


「すげー広いなー」

 雅稀は目を擦りながら、3階の寝室に足を踏み入れる。


 男子学生の寝室は常夜灯によって薄明るく照らされ、床には300人分の掛け布団と敷き布団、枕が敷かれた状態で並んでいる。ところどころに数十人の学生が静かに眠っている。


「ここで4日間寝泊まりするんか。旅館に来たみたいだ」

 利哉はふわーっとあくびをする。23時になろうとしており、半日に及ぶ移動の疲れもあって、今にも寝そうになる。


「もう既に40人くらい寝ていることだし、僕たちも場所取りして明日に備えようか」

 一翔は足音が立たないように気を配りながら、布団とその間の狭い通路を通り、窓際の布団に入る。

 彼に続き、雅稀と利哉も隣同士になるように布団に入った。


 目を閉じたのと同時に、彼らは深い眠りについた。



 明日、1月12日から本格的に実習が始まろうとしているが、無人島実習がどれだけ厳しいものなのか、マレソムディア島に踏み入れたばかりの彼らには知る術はなかった。


 それだけでは終わらない。


 この時から既に、過酷でありながら、恐怖を噛みしめることになる『闇の無人島実習』が幕を開けたのであった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ