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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第3章 無人島に棲むリリス

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03-05 マレソムディア島へ

 そして、来たる1月11日の6時。無人島実習に参加する魔法戦士学科1年生は芝生エリアの広場に集まった。

 実習棟のある西側の空はまだ薄暗く、星明かりが点々と見える一方で、東側は朝を告げる薄群青の空が見え始めている。


「よし、全員揃ったな」

 北側の訓練棟を背に立っているマルス学科長は声を出す。

 近所の学生同士でこそこそ話していた人は会話を中断し、前方を向く。


「これから、西海岸の船乗り場へ移動する。そこへ着いたら、先頭から船に乗ること。マレソムディア島までおよそ半日かかる。それまでの間はキャビンやデッキで休憩するなど、好きに過ごしてもよい」

 学科長は指を鳴らすと、広場にいた者はGFP学院の敷地から姿を消した。


 行き着いた先は、秘境の地を象徴する深緑の森をバックに、眼前に広がる青い海と、海岸の近くに停まっている豪華客船を思わせる巨大な白い船の乗り場だった。

 雅稀を含む学生らは学科長の言われた通り、先頭から黙って船の梯子を登って乗船した。


 利哉と一翔に続き、雅稀も船に乗ると、デッキが目前に広がった。


「あそこ、西側に小さく山が見える!」

 利哉は向かいの柵へ駆けつけ、緑の葉に覆われた山を指す。


「あれはオファニム大陸。6つの大陸に囲まれている大陸だ」

 一翔は徐々に明るくなる西空の下に浮かぶ大陸を眺める。


「じゃあ、ちょうど北側に見える大陸がケルブ大陸か」

「うん」

「GFP学院の建っている秘境の地から、こんな良い景色が見られるのか!」

 利哉は目を大きく見張り、顔を左右に振りながら視界に入る光景を堪能する。


 船が動き始めた。無人島へ行く人らの乗船が完了したようだ。

 船から眺める景色は少しずつ動き始め、北から風の影響を受け、髪の毛がなびいている。


「今日からの無人島実習、始まったんだな」

 雅稀は東から昇った恒陽(ロギシュム)の光を遮るように、目の近くに右手を挙げる。


「どんな5日間が始まるんだろうな」

 利哉はデッキの柵に背を預け、東側の空を見上げる。地平線から顔を出した恒陽(ロギシュム)が夜明けを告げる。


「対戦実習もするだろうけど、基礎体力作りがメインになるかも」

 一翔は右手を顎に添える。表情は物事を考える一翔の顔だ。


「基礎体力作りがメインって、どういうこと?」

 雅稀は彼の顔を覗き込む。


「年末の説明会で、学科長が障害物攻略や基礎体力をつけるのに適した場所だって話があったから……」

「そんなこと言ってたなー」

 横から利哉が口を挟む。


「来週の期末試験で単純な試合をするだけだったら、基礎体力作りは不要に思うんだ」

 一翔の目つきが鋭くなる。600人もいる魔法戦士学科1年生全員が5日間の交戦デビュー大会に参加するとなれば、制限時間が設けられているはずだと推測していた。


「いや、体力作りは大事だぜ」

 説得させるように語ったのは利哉だった。


「オレは中高と部活でバスケをやってた時に痛感したんだ、技量だけで勝負できないって。試合に臨むために必要なのは技術だけでない、集中力と体力も重要だった。たった1日だけも体を動かさずにいると、体力の消耗が早くなることも実感した。だから、魔法戦士には関係ないって思ってるかもしれんけど、体力作りは侮れないぜ」

 一翔は利哉の話を聞いて納得したのか、何回か頷いている。


「今は不要に思うかもしれないけど、短時間で体力が大幅に上がるもんじゃない。一翔もわかってるだろ、俺らはフォール=グリフィンと戦わなければならないこと。もし遭遇したら、制限時間ってのは無いだろ?」

 雅稀は利哉の隣へ移動し、一翔と向かい合う。


「そっか。2人の言う通りだよ。気づかせてくれてありがとう」

 一翔はぱっちりした目を2人に向ける。陽に当たった一翔の顔は光に満ちているように感じさせる。


「お礼を言われる程のことは言ってないさ」

 利哉は仁王立ちし、大きな口を開けて満面の笑みを浮かべる。


「訓練棟やアスレチック場で体を動かしてはきたけど、体力がついたかって言われたら自信持って答えられないしな」

 雅稀は自嘲するように笑う。


「今回の実習は期末試験対策だけじゃなく、今後のためでもあると思って、取り組むよ」

 一翔はにっと歯を剥いた。



 彼らはしばらく外の景色を堪能した後、船内の客室に入り、ベッドで横になった。


 それから5時間後の11時半になると、彼らは目を覚まし、レストランのある広場へ向かった。

 船のレストランは白いクロスが掛かった円いテーブルに、白い客席、天井を仰げばシャンデリアが至るところで取りつけられている。窓の向こう側はうろこ雲が広がり、その下に濃青色の大海原が地平線まで伸びている。


「ちょっと早いけど、人が混む前に飯だ!」

 利哉は空いている席に着き、真っ先にナイフとフォークを両手に持つ。


「お前は食事に目がないな」

 雅稀は利哉の笑顔を見て薄笑いする。


「腹が減っては戦はできぬって言うだろ」

「言うけど、戦してないじゃん」

 雅稀は呆れたように目を細める。


「まあまあ、そんなこと言わずにマフィンを食べようよ」

 一翔は2人をなだめ、「いただきまーす」と合掌する。


 若干言い争っていた雅稀と利哉も手を合わせ、皿に載っているマフィンのサンドイッチをナイフとフォークを使って、丁寧に切る。

 雅稀は小さくカットしたマフィンが刺さったフォークを持ち上げると、マフィンの生地の間にレタスとハム、卵、平べったくしたソーセージが挟まっている。


 具を確認せずに口にマフィンを含んだ利哉は

美味(うま)ーっ!」

 とフォークを加えた状態で目を輝かせる。


「中身を見ずに何でも口にする利哉は面白いわ」

 雅稀は利哉の輝く目を焼きつけたところで、マフィンを口に運ぶ。ハムとソーセージが卵のとろみと絶妙に絡み合い、旨味を注ぐ。少しこってりしたと思いきや、レタスのみずみずしさで、あっさりした味に変わる。


「確かに」

 一翔も雅稀に同感し、マフィンを味わう。レタスのシャリシャリした咀嚼音が2人の耳に入る。


「カズまでマサに賛同すんのかよー」

 利哉は苦笑しながら、新たにマフィンを小さく切る。


「でも、面白いって良いことだと思うぜ。利哉のようなムードメーカーがいるから、今も楽しく過ごせているんだからよ」

 雅稀は利哉の肩をポンポンと叩く。


「おお、そうか! それなら許す!」

 利哉は機嫌を取り戻した少年のように高揚する。


「すぐ機嫌が良くなるのは利哉の長所だね」一翔の意見に利哉は「そうか?」と恥ずかしそうに頭を掻く。


「そういう恥ずかしがり屋な一面があるのも、利哉らしいな」

 雅稀は顔を赤くしている利哉を見て、思わず笑ってしまった。


「そこまでオレを分析しないでくれよ、全部見透かされた気になるじゃん」

「全部は見透かしてないよ」

 雅稀はマフィンを食べ終え、ティーカップに入っているコーヒーをひと口飲む。


 話がひと段落したところで、近所のテーブルから話し声が聞こえた。

「なあなあ、知ってるか。あの無人島に魔女がいるってこと」

「どうやら一部の間で有名らしいな」

「深夜に活動するシャドウ=リリスって言われる魔女がいるんだってな。気をつけようぜ」

 雅稀らが座っているテーブルの斜め向かいに、顔も名前も知らない男子学生3人がお互いに顔を近づけ、ひそひそと話している。


「聞いたか、今の話」

 雅稀は小声で利哉と一翔に訊くと、2人とも首を縦に振った。


「一翔が昨晩話してくれた逸話は、実話のように感じるな」

 盗み聞きは良くないとわかっていながらも、雅稀はマレソムディア島に魔女が棲んでいる話に関心を引く。


「実習で無人島に行くのに、ミステリーの臭いが漂ってるぜ」

 利哉は近所の学生らに気づかれないように凝視する。


「僕らも用心しよう」

 一翔は真剣な眼差しに、雅稀と利哉は頷いた。

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