03-04 人さらい魔女の逸話
年が明けたフェリウル歴8880年1月10日第1曜日。雅稀らは369号室のリビングで無人島へ行く支度をしている。
「タオルと水、歯ブラシセット……こんなもんか」
雅稀は革製のリュックサックに入れた荷物を確認する。
「あんま持って行くの無さそうだな」
利哉は鞄のチャックを閉め、ふと窓をちらりと見る。漆黒の空に無数の星が白く輝いている。
「もうこんな時間だったのか」
彼は床の上であぐらをかく。
「そろそろ寝ないと、明日6時集合だから間に合わなくなっちゃう」
雅稀は立ち上がり、部屋中を見渡す。利哉は1メートル先に座っているが、一翔が部屋にいないことに気づく。
あれ、一翔は? と思ったところで、出入り口の扉が開き、髪の毛の先端が紫色に染まった青年が姿を現した。
「どこ行ってたんだ?」
「図書館でマレソムディア島についての本を借りに行ってた!」
一翔は雅稀に視線を合わせ、薄い本を振ってアピールした。
「色んな本が図書館に転がってるんだ」
どれどれ、と利哉はその場を立ち、本の表紙を覗く。年末の説明会でもらった資料に掲載されている島の写真が載っている。
一翔はソファーに腰掛け、テーブルに本を広げる。
「特に、ここのページに書いてあることが興味深く感じて」
彼が開いたページは、過去に人をさらった魔女が無人島に棲んでいるという逸話が書かれていた。
その内容は、雅稀も利哉も目を向かせた。
グリフォンパーツ学院大学の魔法戦士学科1年生は毎年1月になると、学院が所有しているマレソムディア島へ5日間滞在することを、魔女は知っていたのかもしれない。
約400年前のこと。マレソムディア島に来ていた女子学生の1人が深夜に出歩き、東側の暗いミズナラに囲まれたところへ散策していた。
夜が明け、早朝の点呼に姿を見せなかった。教員や学生が総出で無人島をくまなく捜し回ったが、見つからなかった。
結局、その学生を無人島に残して、残りの人々はGFP学院へ帰って行ったとされている。
それ以来、教員は厳戒態勢を取ってきたのが功を奏したのか、学生が突如消えることは無かった。
ところが、その事件から100年おきに学生が実習期間中に1人いなくなっている。
奇妙なことに、いなくなった学生は全員女子という共通点がある。
一説によれば、マレソムディア島に魔女が棲んでいると言うのだ。
すなわち、実習でマレソムディア島へ足を運び、失踪した女子学生は、全員無人島に棲む魔女に連れ去られてしまった訳だ。
年数と共に事件に対する教員の危機感が薄れ、完全に忘れた頃を狙って、魔女は女子学生をさらっていく。
魔女に連れ去られてしまったら、生きて帰ることはない。
これからGFP学院大学が有する無人島、マレソムディア島へ行く者は充分に気をつけて欲しい。
女子学生に限定して連れ去る魔女として恐れられている者、その名は――
――シャドウ=リリス。
「無人島に魔女が棲んでるって話が本当だとしたら、何故俺たちをあそこへ連れて行くんだろうな」
雅稀は腕組みし、ソファーにもたれる。
「さあ。わかんねぇけど、気をつけた方が良さそうだな」
利哉は眠いのか真剣なのかがわからないような目つきをする。
「この本に書かれている内容は、飽くまで逸話だから、先生方が魔女の存在を知らない可能性は高いと思う」
一翔は神妙な面持ちを浮かべる。
「ただの作り話であることを願うしかないな」利哉は大きなあくびをし、「明日に備えて寝よーぜ」と洗面台へ向かった。
「頭の片隅に入れておくけど、無人島へ行くのは初めてだし、楽しみたいなー」
雅稀はソファーから離れ、背伸びをしながら寝室へ向かおうとしたところ、くるりと後ろを向き、
「一翔、興味を引く情報ありがとう!」
とお礼を伝えた。
「うん」
一翔は本を閉じ、凜とした表情を雅稀に向けた。




