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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第3章 無人島に棲むリリス

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03-03 タゼッタの感謝祭

 そして、雅稀らの目的地であるタゼッタ駅へ到着した。

 既に陽は西の地平線に顔を隠し、茜色の空が広がっていた。東側へいく程、夜を告げる紺色の夜空へ変わっていく。


 雅稀らは客車から降り、セントラダリア地方の東部、タゼッタに足を着ける。

 眼下は黄色の小さな花弁が外側の白い花弁に覆われたスイセンが視界を覆い尽くしている。花壇の上に電飾が敷かれており、赤や青、黄色などの多色の光を用いて黄昏のタゼッタを表現している。


「綺麗だなー。見応えがある」

 雅稀はスイセンとイルミネーションの美しさに息を呑む。


「スイセンって、花びらが前と後ろについてるんだ」

 利哉は雪のように白い花弁に右手を差し出そうとしたところ、一翔は即座に利哉の体をしっかり掴み、

「触っちゃダメ!」

 と後方へ引っ張る。


「え? 何で?」

 花のつくりが気になっただけなのに、と利哉は抱きついている一翔に訊く。


「スイセンは毒持ちだ!」

 一翔は触らせまいと必死に利哉を自身の体に引き寄せる。


「まじ!?」

 利哉は驚愕し、体の動きをピタリと止める。


「スイセンはリコリンなどの毒が含まれている。今は麗しい花を咲かせているけど、花を落とすとニラとそっくりで、それと間違えて食中毒に罹るケースがあるんだよ」

 一翔は両手を腰に当て、呆れた表情を利哉に向ける。


「そう……なのか。目を奪われる程の花を咲かされたら、間近で見たくなるだろ」

 利哉は苦笑いした面をスイセンに向ける。


「綺麗な薔薇には棘がある、ではないけど、花にもいろいろあるんだ」

 雅稀は夜風に揺れるスイセンを見つめる。


「でも、眺めているだけで幸せな気持ちになるね」

 一翔はあどけない表情を浮かべる。


「だな。ところで、感謝祭はどこで行われるんだ?」

 利哉は腕組みし、一翔へ視線を送る。


「まだ時間が来ていないだけで、あらゆる場所で行われるよ」

「場所を選ばずってとこか」

「うん。そしたら、感謝祭で使うろうそくを買いに行こうか」

 一翔は左手首に巻いているグリア・リーツの情報を頼りに、彼らは350メートル先の小屋を目指して歩き始めた。



 丸太で組まれた小屋に立ち入ると、直径と高さが6センチメートルのキャンドルが商品棚を占めている。


「結構あるんだな」

 雅稀は水色のキャンドルを手に取る。どっしりと重く、中心に糸がひょっこりと顔を出している。


「色の種類は様々とは言え、単色なんだ」

 利哉は橙色のキャンドルを手のひらに載せ、目の高さに持ち上げる。


「僕はこれにしようかな」

 一翔はラベンダー色のキャンドルを持って、キャッシャーへ持って行った。



 店を出ると、19時になっていた。藍色の夜空に星が輝いている。花壇に張られたイルミネーションの輝きが増し、スイセンの花弁は電飾の色に合わせて別の顔を演じている。


「ほら、あそこ見てみて」

 一翔は南の方角を指す。300個以上の炎を灯したキャンドルが、地上から夜空へゆっくりと上昇している。


「これはこれで風情を感じるなぁ」

 雅稀は呆然と上昇するキャンドルと眺める。


 利哉は視線を変えながら四方八方を見渡すと、次々とキャンドルが打ち上げられていくのが見えた。


「これが、感謝祭なのか?」利哉は尋ねると「うん。これがセントラダリア地方に伝わる感謝祭だよ」と一翔は夜空に浮かぶキャンドルを見上げる。


「他の場所に行ったら、違った形の感謝祭があるってこと?」

「そういうこと」

「そうなんだ。感謝祭巡りをするのも面白いかもしれんな」

 利哉は2ビッツで購入したキャンドルに目をやる。


「じゃあ、僕らもゼリアザードに感謝の意を捧げながら、願い事をこの紙に書こう」

 一翔は購入時についていた縦長の紙を右手に持つ。


「願い事か。無事に無人島実習を終え、橙階級(ランジュクラス)に昇格できますように」

 雅稀は1ヶ月後に迫っている無人島実習と交戦デビュー大会に備えて、願いを呟いた。

 縦長の紙は魔術語で表記した彼の願い事が現れた。


「すげぇ! オレも!」

 それを見た利哉は興奮し、「切磋琢磨しながら、強い魔法戦士になれますように」と紙に告げた。


「小学生みたいな願い事だな」

 雅稀は目を細めて笑う。


「これから多くの試練が訪れるかも」

 一翔も微笑みながら

「僕は……魔法戦士でありながら、医者として活躍できる日が来ますように」

 と医者を目指している夢を託す気持ちを紙に吹き込んだ。


「願い事を記した紙をキャンドルの糸に接触させると……」

 一翔の言葉の通り、雅稀も利哉も紙を糸に触れさせると、ぽっと火がついた。オレンジ色の炎は風に揺られながらも、消えることなく願い事が書かれた紙を穏やかに燃やす。


「手を放して」

 一翔に続いて、2人の友人も手を放す。

 キャンドルはゆっくりと上昇し、夜のタゼッタにキャンドルの明かりを灯す。


「魔術を学ばせていただき、ありがとうございます。精進努力します」

 雅稀は打ち上げたキャンドルに焦点を合わせ、ゼリアザードに感謝の言葉と共に送る。


「マサも来年はたんまりと試練が舞い込んで来るだろうな」

 利哉は雅稀を指すと

「そう言うお前も、切磋琢磨しながらって言ったんだから、多くの壁が待ち受けることになると思うぜ」

 と雅稀はにやりと歯を見せる。


「やってしもたー!」

 頭を抱える利哉を見て、雅稀と一翔はお互い笑い合った。


「今年は出会わなかったけど、来年はフォール=グリフィンと遭遇するかもしれないから、頑張らなきゃ」

 一翔は夜空に浮かぶキャンドルを眺めながら、翌年の意気込みを入れた。


「カズの言う通りだ。オレも頑張ろう! 足元を見ればイルミネーション、見上げれば無数の火を灯したキャンドル。見れて良かった」

 利哉は黒褐色の目を上下に動かしながら感謝祭をたしなむ。


「利哉の目を見て思ったけど、俺たちの目、光ってないな」

 雅稀は夜空を見上げたまま、小言を言う。


「イルミネーションとキャンドルの炎が明るいからだね」

 一翔は打ち上げたキャンドルが見えなくなるのを見届ける。


「そんなこと、すっからかんに忘れてた」

 利哉も自身のキャンドルが視界から消えるまで見届ける。


「たとえ奴らに出くわしたとしても、自信を持って戦えるようになりたいな」

 雅稀は願い事を灯したキャンドルが見えなくなったところで、視線を真っ直ぐに戻した。


「感謝と願い事を捧げたことだし、タゼッタ周辺を散策してから帰ろうか」

 一翔の意見に、雅稀と利哉は賛同し、3人はタゼッタ駅を目指しながら、スイセンの花壇とイルミネーションを堪能しようと足を進めた。

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