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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第3章 無人島に棲むリリス

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03-02 デュナミス鉄道でタゼッタへ

 12月25日の15時。雅稀らは海底都市へ行った時に購入した衣装を着て、GFP学院大学の敷地から外へ出た。

 紺色のクレリックシャツに白地のフルレングスパンツ。これらの上にアイオライト色の生地の上に、虹色に反射するストライプの模様を施したローブを羽織っている。

 GFP学院がある場所は冬も温暖であるため、コートやジャケットがなくても快適に過ごすことができる。


「この服を着るのも久々だなぁ」

 雅稀はストライプの模様を指で優しくなぞる。その模様はクラゲの繊毛でできており、滑らかな触り心地が癖になる。


「深海へ行って以来、外出せずに反逆者と修業したり、アミューズメントエリアで遊んだりして過ごしてたもんな」

 利哉は後頭部に手を組み、雅稀に目をやる。


「そうだったなぁ。セルラさんたちに修業をつけてもらったお陰で、他の属性の人との戦い方が身についたからな」

 雅稀は何となく両手を軽く広げる。両手と共に見える袖口は赤階級(ロドゥクラス)を示す猩々緋(しょうじょうひ)色をしているが、実力は黄階級(フラムクラス)に匹敵するとネアに言われたことを思い出した。


「でもよ、フォール=グリフィンと戦えってなったら、まだ自信が持てない」

 利哉はため息を漏らす。ほとんど外出しなかったこともあり、あの組織の人々と遭遇することはなかったが、いざ目の前に現れた場合、手も足も出なくなりそうだと不安な気持ちがよぎる。


「いつもの利哉だったら、己の力を過信するのに、弱気になってるって珍しい」

 一翔は覗き込むように利哉の顔を見る。確かに彼は眉を曇らせている。


「でも、利哉の気持ちはわかるぜ。とりあえず、遭遇しないことを願うばかりだ」

 雅稀は開いていた両手を合わせる。


「今日の感謝祭は夜も明るいから、きっと大丈夫さ!」

 一翔はキリッとした目つきを雅稀と利哉に送る。


「感謝祭って、どんなんかはわからんけど、楽しみだ!」

 雅稀は正面に顔を向ける。視界は森林地帯から野原に変わり、100メートル先に黒のボディと赤い車輪の蒸気機関車が映る。

 雅稀と利哉は蒸気機関車の存在に目を見開いた。


「機関車が走っているんだ……!」

 利哉は蒸気機関車を凝視する。機関車はポーと汽笛を鳴らしながら、煙突から白い蒸気が噴き出る。


「秘境の地を抜けた東側はキラリオ地方と言うんだ。これはデュナミス鉄道で、名前の通り、デュナミス大陸を走る電車だ」

 一翔は親戚から聞いた記憶を頼りに、2人の友人に解説する。


「じゃあ、このデュナミス鉄道に乗って、セントラダリア地方まで行くってこと?」

 雅稀の質問に一翔は

「そう。ある程度の経験を積んだ魔法戦士であれば、鉄道に乗らなくても空を飛んで移動できるけど、経験の浅い僕らはまだ飛べないから、これでキラリオ地方の南に位置するセントラダリア地方へ向かう」

 と答える。


「いつか空を飛んで天蒼星(アマネル・ネオ)中を旅してみたいけど、電車に乗って移り変わる景色を堪能するのも良いな!」

 利哉は両手を腰に当て、にっと笑う。


「乗り場の近くにある券売機で乗車券を買って、目的地のタゼッタ駅へ行こう!」

 一翔は乗車口を指し、そこを目指して走り出した。



「今いる西ネモフィー駅がデュナミス鉄道の終点で、そっから15駅先にタゼッタ駅があんのか」

 雅稀は頭上に掲示されている運賃案内表を見つめる。タゼッタ駅までの運賃は学生価格で5ビッツと、道のりの割にかなりお得だ。

 彼は目前の券売機に硬貨を入れ、取り出し口に現れた切符を抜き取る。


「何か、特急券並の大きさだなぁ」

 雅稀は切符を眺める。表面は魔術語で西ネモフィーからタゼッタまでの乗車区間について記されている。裏面を向けると、広大な花壇を埋め尽くすスイセンの写真が載っていた。


 彼は思わず「わっ! スイセンだ!」と声を張ってしまった。


「ちょー、びっくりさせんなってー」

 利哉は雅稀に軽く肘を当てる。


「裏面見て、びっくりしちゃったから、つい……」

 苦笑する雅稀の隣で、利哉は切符の裏面を見る。そこには、雅稀が手にしている切符の裏面と同じ写真が載っていた。


「ホントだ!」と利哉は目を丸くし、「だろ!」と雅稀は利哉の顔に目をやる。


「切符って、裏面が黒いイメージがあったけど、これが魔術界(ヴァール)の鉄道切符なんかな?」

 利哉は一翔なら知っているかもと思わんばかりに、一翔へ視線を変える。


 切符を買い終えた一翔は、まるで最初から2人の会話を聞いていたかのように

「そうだよ。デュナミス大陸だけでなく、他の大陸にある鉄道の切符は、行く先の有名な場所や名物の写真が裏面に出てくるんだ」

 と利哉が知りたかった答えを返す。


「今日オレたちが行くタゼッタはスイセンが有名なんだ」

 なるほど、と利哉は納得した面持ちで裏面の写真を目に焼きつけた。


「話は後にしよう、もうじき電車が発車する」

 一翔は鉄道の客席車両を指し、彼らは駆け足で客車3号車に乗った。



 上品な茶色をした客車に乗ると、ベージュの壁に、草原をイメージした黄緑色のボックスシートが通路を挟んで両側に5組ずつ設置されている。

 一翔は窓側の席に着くと、隣に利哉、向かいに雅稀が座る。


 窓から見える景色は、一面に広がる野原がさんさんと輝く恒陽(ロギシュム)を浴び、西の方角は秘境の地を象徴する森林で覆われている。


 乗客を乗せた鉄道は汽笛の合図と共に扉が閉まり、出発した。


「秘境の地に隣接するキラリオ地方も自然に囲まれているんだ」

 雅稀は車窓から移り変わる景色を眺める。


「デュナミス大陸は自然に囲まれているところだからね」

 一翔はちらりと景色を見ると、すぐに雅稀の顔へ焦点を合わせる。


「おっ! 見てみろよ、青紫の花が咲いてる!」

 利哉は窓側へ体を寄せ、花壇に咲いている花を指す。


「これはネモフィラ。秘境の地に近いキラリオ地方の西側はネモフィラが有名。ネモフィーという地名はネモフィラから由来しているんだ」

「へぇー、満開で綺麗だな」

 一翔の説明に、雅稀は息を呑む。


「オレらが行こうとしているタゼッタはスイセンが咲いてるから、それもまた見頃なんだろうな」

 利哉は切符の裏面の写真と窓越しの花を交互に見る。


「切符の写真と見比べたところで、別もんだけどな」

 雅稀は利哉の行為にツッコミを入れる。


「花って咲けば魅了されるなって思っただけ」

 利哉は切符を握ったまま太ももの上に置き、相好を崩した。


 デュナミス鉄道はキラリオ地方の東部へ進み、窓越しに咲く花はネモフィラから薄青の花弁を持つシネラリアに変わった。


 やがて、電車は南へ進行を変え、セントラダリア地方へ突入した。

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