02-33 反逆者への報告
10時45分、ロザン先生の第2の研究室から寮に戻ると、雅稀ら3人はメイリアたちにも報告しようと話をした途端、目の前が見慣れた森林に囲まれた景色に変わった。
反逆者と会う時のお約束の場所にいた。
しかし、今までと異なるのは、肉体を脱いでいないこと。両手で胸や顔に当てると、肌や服の感触がある。
「俺らが赤階級に昇格したから、肉体ごと瞬間移動したんだな」
雅稀は両手を胸からスッと流れるように下ろし、視線を胸部から正面へ移すと、長身女3人組が横並びに立っていた。
初対面のはずだが、どこかで会った覚えのある不思議な感じだ。
「初めまして――が正しいのでしょうが、今までにお会いした記憶が――」
一翔は緊張し、畏まった言い方をする。
「そうさ。わたしも君たちに直接会うのは初めてだ。でも、そんな感覚が無いのは魂が覚えているからだ」
ネアは力強い眼差しを一翔に向ける。青紫色のロングストレートの髪に、青紫色のクールな目つきは、魂だけの状態で会っていたネアそのものだ。
「お陰様で、僕たちは無事赤階級になりました」
ありがとうございます、と一翔は頭を下げ、雅稀と利哉もお礼の挨拶をする。
「おめでとう、良かったわね」
薄紅色の長髪を結い上げたメイリアは握り拳を腰に当て、仁王立ちをする。
「あなたたちなら大丈夫、と最初から心配してなかったよ」
黄緑色の巻髪を腰まで伸ばしているセルラは、黄緑色の目をぱっちりと開ける。
「で、わたしたちに何か用?」
ネアは目つきを変えず、3人の年下男子に用件を尋ねる。
「オレたち、深海に行ってきたんです! パライバトルマリンが正真正銘深海に眠っていたんです!」
利哉は目を輝かせ、ワイシャツに隠していたペンダントトップを見せびらかす。先端のパライバトルマリンは神々しく、淡いネオンブルーの光を放っている。
反逆者3人は本物の深海に眠る宝玉を直で見て、美しさのあまり息を呑む。
「あの伝説は、本当だったのか」
ネアは瞠目しながら、まじまじとペンダントトップを凝視する。
「でも、手に入れるのに少し苦戦したんです」
雅稀は力なく笑う。黒い絡繰り人形との戦いを思い出すだけで、どっと疲れが出てしまう。
「深海で何かあったの?」
セルラは軽く首を横に倒す。
「色々と……」
雅稀は苦笑いし、採掘場で働く人物に試練を課され、絡繰り人形と戦ったこと、切っても切っても復活を遂げたことを話した。
「そんな厄介な出来事があったのか」
ネアは眉毛をへの字に曲げる。深海に潜む宝玉が実在することを知った反面、手に入れるには試練を乗り越えなければならないのが意外だったようだ。
「体力がかなり奪われました。怪我は特に問題なかったのですが、利哉は痣だらけで哀れな気持ちになりましたよ」
雅稀は利哉に目をやる。今はすっかり元気になった友人だが、突如目を剥いて
「ちょっ……何余計なこと言ってくれんだよ!」
と雅稀に肘打ちする。
メイリアは「あらっ」と即座に反応を示した。
「トシくんには、これからもーっとしごかないといけないね」
利哉はメイリアの眼光を浴びて、ぞわりと体が震えた。
「うっ……」
「何ビビってんのよ! そんなにあたしに教えられるのが嫌なの!?」
「いやっ、そういう意味では……」
利哉の顔色はますます青くなる。メイリアが怖いんだと思うと、彼には申し訳ない一方、やり取りが面白おかしく感じ、雅稀と一翔はくすくす笑う。
「そこの2人も、これからは他の属性の人と互角に戦えるように鍛えるから、そのつもりで」
ネアの低い声が雅稀らに刺さり、メイリアとちょっとした言い合いをしていた利哉も、笑っていた雅稀も一翔も、彼女のひと言で黙らせた。
「赤階級になったこれからが始まり。銀階級の私たちがローテーションで手加減して相手になるから、魔法戦士として精進していってよ」
セルラは右手の人差し指をピンと立てる。
「頑張ります!」
雅稀らは反逆者たちの今後の訓練に立ち向かう覚悟を示した。
「ま、今回は素敵なものを見せてくれてありがとうね」
メイリアは紅色の虹彩をキラリと光らせた。
いえいえ、と雅稀らは会釈したが、深海の伝統行事など、見たものや触れたものすべては話さなかった。
反逆者と称する3人は、元はフォール=グリフィンの一員だ。脱退したとは言え、何をし出すかは全く読めない。修業に付き合ってくれていることは有難く受け止めているが、彼女らを完全に信じている訳ではないのだ。
今回は深海に眠っているパライバトルマリンがあるとの都市伝説を教えてもらい、それが実在して手に入れたことへの謝意を示すだけにとどめた。




