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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第2章 深海に潜む宝玉

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02-31 ブルーホールの夜

 雅稀らはムークリア海底都市を出発し、深海から浅瀬へ、浅瀬とブルーホールを繋ぐ洞窟へ、そしてブルーホールの水面へとひたすら泳ぎ、ようやく水面から上がった。


 ブルーホールの周りを囲む草原へ足を踏み入れると、静寂なブルーホールから清らかな風がそわそわと吹く。

 ブルーホールの水面は満点の星空と、陽の光を放つ恒陽(ロギシュム)に照らされて淡い紺碧色に輝く天蒼星(アマネル・ネオ)の衛星――碧煌(セレリア)が浮かぶ。


 時間帯は異なるものの、昨日も同じ景色を見たのに、深海で1ヶ月過ごしたように感じた。それだけ、深海で過ごした2日間が濃かった。

 ブルーホールの畔から幻想的な風景を眺めていると、時間を忘れる程麗しかった。


「ローブやシャツも、ズボンも全然濡れてない」

 夜景を堪能した雅稀はそっとムークリア海底都市で買ったローブを撫でる。


「きっと、ブルーホールに秘められた力が関係あるかもしれないね」

 一翔は黒瑠璃色のブルーホールを見つめる。ブルーホールから何らかの力が彼の体にじーんと伝わった。


「秘められた力って何だろう?」

「わからない。でも、魔力が凝縮されているのは感じる」

 一翔は利哉の問いに感じたことを述べた。


 雅稀は呆然と空を見上げると、碧煌(セレリア)と無数の白い星明かりが夜空に装飾されている。


「もうこんな時間になっていたのか。不思議と疲れを感じないし、利哉のひどかった痣も完治してるな」

 良かったな、と雅稀はかつて痣があった利哉の額を人差し指で触る。


「ほんとだ、痛くない!」

 利哉は痛みを感じないことに目を丸くする。


「てか、オレそんなに痣だらけだったのか?」

「ああ。ひどい有様でとても見てられなかった」

 雅稀は絡繰り人形との戦闘を思い出す。肩を貸さないと立ち上がれなかった利哉が、今やピンピンしている。


「ひどい有様って、何てこと言ってくれるんだよ!」

 利哉は笑いながら雅稀の背中を漫才師のように強く叩く。

 雅稀は叩かれた勢いで足元のバランスを崩しかけたが、こけずに済んだ。


「僕から見ても、雅稀と同じ意見」

「ちょっとカズまで……!」

 利哉の叫び声は静寂なブルーホールの領域中に響いた。


「落ち着いて、悪かったよ」

 雅稀は利哉の肩に手を置き、「でも、傷跡なく元気でよかった」と彼の生き生きとした肌を見つめる。


 思わず恥ずかしくなった利哉は赤面し、3人で笑い合った。



「そう言えば」

 雅稀はクレリックシャツに隠していたペンダントトップを手にする。鮮やかなネオンブルー色のパライバトルマリンは微かな蒼い光を放っている。


「夜でも光るのか、美しい……」

 雅稀はパラマリン採掘場で手に入れた宝石を目の高さまで持ち上げ、息を呑む。


 宝石越しに見える夜空は群青色に染まり、輝く星はネオンブルー色に染められている。しかしながら、刻印されたはずの氏名は浮かび上がっていない。恒陽(ロギシュム)の光を当てないと文字が現れないらしい。


「お前の目が青緑に光って見えるぜ」

 利哉の立ち位置から、雅稀が手にしているパライバトルマリンは彼の右目を覆い隠しているように映っていた。


 利哉も一翔も両目から僅かに緑の光を放っているが、鮮やかなネオンブルーのフィルターを被せると、青緑色に見える。


「やめてくれよ。パライバトルマリンが蒼く光るのは良いけど、緑に光る目はGFPのせいなんだからよ」

 雅稀は眉をひそめ、利哉に顔を近づける。


「わかってるさ。オレのアングルから見ると、そういう風に見えたってだけ」

「全く、フォール=グリフィンにいつ狙われるかわからないのに」

 雅稀は歯を見せて笑っている利哉を軽く睨みつけた。



「ところで、帰りはここから東の方角だったよね」

 一翔は左腕にはめたグリア=リーツを操作する。


「そうだったと思う」

 あっ、と雅稀はあることを唐突に思い出した。

 GFP学院がデュナミス大陸の北西領域、すなわち秘境の地の端に建っているかどうかの真偽を確かめたかったのだ。


「一翔、GFP学院は秘境の地の境界ギリギリに建っているのか?」

 雅稀は一翔に尋ねると「境界ギリギリって程ではない」と彼のグリア=リーツから縮小図が浮かび上がる。


「ロザン先生が言ってたことは半分本当だったのか」

 雅稀は腕を組み、エリアの縮小図を凝視する。左側に現在地の赤い点、その少し右に目的地の青い点がある。そこから東へ2キロメートル辺りに南北を縦断する黒い波打った線が引かれている。黒い線が秘境の地と呼ばれる境界線を示している。


「何か言ってたっけ?」

「GFP学院は秘境の地の境界ギリギリのところに建っているから、帰り道は見失わないって」

「あれか」

 一翔は雅稀の話でロザン先生が話していたことを思い出した。大陸全体で見れば秘境の境界線に近いが、帰り道を失わないのはグリア=リーツの正確な位置情報のお陰であることを先生は知らない。


「マサ、そんなのグリア=リーツがあるからに決まってんだろ」

 一翔と雅稀の会話に利哉が口を挟む。


「そうだな! こいつの情報は間違いないもんな!」

 雅稀は手首に巻いているネイビーブルーの腕時計を指す。


「ロザン先生が、まさかこんなハイテクグッズがあるとは思ってないだろうな」

 利哉は自慢気に歯を見せる。


 一翔は東の方角を指して「フォール=グリフィンに見つからないうちに、GFP学院へ戻ろう」と寮へ向かって歩き出した。


「一夜明けたら、ロザン先生に都市伝説のことを報告しに行くか」

 利哉は機嫌良さそうにスキップし、雅稀は頷いて一翔の後ろをついた。

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