02-30 手に入れた深海の宝石
雅稀は目を開けた。霞んでよく見えないが、赤髪と黒髪で先端が紫に染まっている2人の姿があった。
もう一度瞬きすると、利哉と一翔が雅稀の顔を覗き込んでいた。
雅稀は無言で寝台から起き上がると、黒い漆を塗ったトレイの上に湯呑みを3つ載せて運んでいたガルティが寝台の部屋に現れた。
「おお、お主。やっと起きたか」
「やっと、って……」
雅稀は若干霞む目で辺りを軽く見渡す。どうやら相当眠っていたらしい。
「もう昼飯の時間過ぎてるぜ」
顔の痣は完全に治っていない利哉だが、笑顔からするとあからさまに元気になっている。
「湯呑みを持ってきたからの、飲むと良い」
ガルティは3人に湯呑みを手渡した。
「ありがとうございます」
彼らは湯呑みを受け取ると、昆布色のお茶を一口飲んだ。ゼラチンにコーティングされたお茶は口の中でオブラートのように溶け、昆布やわかめなど、海藻類の濃厚な味が染みる。
「お主たち、元気になったかね?」
はい! と雅稀たちは元気に返事をする。
「あの時、お主たちの戦い方を見ると、初心者っぽかったんじゃ。じゃが、わしの秘密兵器によく勝てたの」
ガルティは一翔に目を向け、
「そこのお主、わしの試練の手掛かりを掴んだから勝てたんじゃぞ」
と彼の顔を目に焼きつける。
「雅稀がパライバトルマリンがヒントだと言ってくれてなかったら、未だに答えに辿り着いてなかったと思います」
一翔は恥ずかしそうに頭を掻く。
「でも、そっから先は何もわからなかった」
雅稀は軽く首を振る。一翔の頭脳があったからこそ絡繰り人形に勝てたのだ。
「そうかそうか。ずっと昔、お主たちのように地上からパラマリン採掘場へ来た者がいた。戦い方は派手で、わしに当たったら命が無いと思ったくらいじゃった。じゃが、カラクリ共に勝てず、地上へ帰った行ったんじゃ」
「そんなことが過去に……」
一翔は湯呑みを両手で持ちながら俯く。
「派手な戦い方ってことは、オレたちより階級が上の人だったんだな」
利哉は顎に手を当て、天井に目をやる。
「つまり、いくら経験を積んでも、パライバトルマリンの石言葉に合った戦い方でないと、勝てないってことか」
一翔は視線をガルティに戻すと、老人は深く頷いていた。
「パライバトルマリンの石言葉――友愛、真実、勝利――これら3つが、あやつらには備わってなかったんじゃ」
意味深長そうに雅稀らはガルティの話を聴く。
「お主たちは友愛が欠けていたから苦戦したんじゃ。それが補われて勝ったんじゃ。フォール=グリフィンとやらと戦う時も、どんな時もお主たちの絆があってこそ乗り越えられる。忘れるんでないぞ」
「はい」
雅稀らは言葉を重く受け止めるように返事した。
「約束通り、パライバトルマリンをお主たちにくれてやろう。上の階へ着いてこい」
ガルティはさっさと上の階へらせん状のスロープを上っていった。
雅稀たちは濃厚な海藻の味がするお茶を飲み干し、上の階へ足早に移動した。
寝台の部屋の上の階は見覚えのある狭い部屋だった。
中央に手のひらサイズ5個のパライバトルマリンが、天井から差す微かな光を浴び、神々しいネオンブルー色に輝いている。
そのうちの1つ、特に煌めいている物をガルティはそっと手に取った。
深海に眠る宝玉は宙に浮き、サファイアブルーの光を放ちながら3つのペンダントに姿を変えた。
ペンダントは1つずつ雅稀たちの手元へゆっくり移動し、彼らの両手に載る。
光が収まると、水色に反射する銀のチェーンに、正八面体のパライバトルマリンの石が繋がっていた。
「銀のチェーンにパライバトルマリンの成分が含まれているんじゃ」
それで銀が反射すると薄青に光るのか、と彼らは老人の話を聞いて納得する。
「それと、特殊なレーザーでお主たちのフルネームを刻印しておる。持ち主の証じゃ」
雅稀たちはパライバトルマリンを天井から漏れる光にかざす。
「すげぇ、『Masaki Shinjo』ってローマ字の筆記体で書かれてる!」
雅稀は白色に浮かび上がる字に心を揺さぶる。
「本当だ!」
近くにいる利哉も一翔も自身の氏名を見て大興奮する。
「ローマ字ってわしには読めんけどの。万が一の時、誰かの手によって盗まれそうになった時、必ずお主たちの元で守ってくれる」
ガルティはそう言い放った直後、神妙な顔つきに変わり、
「じゃが、こやつは持ち主の真実を見ておる。守ってくれるから大丈夫だろうと安直なことを考えていると、いざという時に守ってくれないかもしれん。お主たちの友愛、真実、そして勝利の気持ちが本物であれば、お主たちを守り導いてくださる。大事にするんじゃぞ」
と述べた。
「無論、大事にします!!」
一翔は名入りのペンダントを握りしめる。パライバトルマリンは丁度彼の手に収まる程の大きさで、指の隙間からネオンブルーの微かな光が漏れる。
「必ず、俺たちの使命を果たします!」
雅稀は早速首につけたペンダントに手を当てる。不思議と心が清められると共に、守護してくれるという安心感をもたらしてくれる。
「友達を、仲間を、そして絆を大切にします!」
人情味のある利哉らしく、両隣に立つ雅稀と一翔の肩を組む。ペンダントトップの宝石は優しい光で彼の胸元を照らす。
「お主たちの健勝と活躍を深海から祈っておる。達者での」
力強い眼差しを向けたガルティの言葉を最後に、雅稀らはパラマリン採掘場を後にした。




