02-23 ガルティの試練
高さ30メートルの巨大なシノブガイの穴は扉がなく、そのまま出入りが可能だ。
火山を下る途中、ガルティから採掘場に秘密兵器がいるため、扉は不要だと聞いていた。
シノブガイの中の通路は、白地にパライバトルマリンを思わせるネオンブルーの大きな水玉模様が規則正しく並んでいる。
らせんの通路を無言で歩き続け、通路に響くのは4人の鈍い足音のみ。
シノブガイの頂点へ近づくにつれ、傾斜が急になるのは足の筋肉の負荷から感じ取れる。
ガルティが案内した部屋は最上階の狭い部屋だった。
部屋の直径はたった6メートル弱で、見上げれば灰白色の三角錐に近い形をしている。
中央に置かれている5個の蒼い宝玉は、頂点の小さな穴から差す天色の光を吸収しているのか、ネオンブルーの光に包まれている。
「わしが採掘した宝石はここへ運ぶのじゃ」
ガルティは宝玉を1つ、大事そうに手のひらに載せる。
「とてつもなく大きい……」
老人の手と同じ大きさの宝玉は、1000億円を超える金額で取引されそうだ、と利哉はまじまじと宝玉を見つめる。
「入り口からわざわざここへ運んできて、何するんですか?」
雅稀の質問に、ガルティは円錐の天井を見上げて語り始めた。
「パライバトルマリンの石言葉は友愛と真実、勝利と知られておる。じゃが、パラマリン採掘場で採れた宝石は、この小さな穴から光を吸収することで、万一の時に持ち主の命を守ってくれるのじゃ」
老人の話が終えると、雅稀は呆然とくり抜かれた天井を見上げる。そこから海底都市を包むベールが放つ淡い水色の眩い光が、狭い空間を照らす。
「その話、前に聞いた記憶が――」
一翔は深く息を吐き、ネアの言葉を思い出す。
『深海に友愛、真実、勝利を石言葉にもつパライバトルマリンが眠っているという都市伝説があるのさ』
『それを身につければ、殺されそうになった時、救ってくださるんだとか』
波動系の戦闘魔術を教えてもらった在りし日の別れ際に、ネアがそう言っていた。
あの頃、白階級だった一翔たちが反逆者と会う時は、魂だけの状態だった。
直接会って聞いた訳ではないが、魂に刻まれた記憶は肉体に戻り、半月以上経った今でも覚えている。
一翔のひと言で、ガルティはほう、と目を細める。
「どこでその話を聞いたんだね?」
一翔は顔を上げ、
「デュナミス大陸では都市伝説として有名な話なんです」
と上手い具合に誤魔化す。反逆者の話をし始めると厄介な展開になりそうだ、と判断した結果だ。
「それで、その都市伝説が本当なのかを確かめたくて――」
ガルティの怪訝な顔を察した利哉は途中で言葉が詰まる。
「お主たち、まさか《《都市伝説》》とやらを証明するために、この宝玉を狙っているのではなかろうな?」
利哉と一翔は体中に電撃が走る。温和そうな老人から突如鋭いことを言われ、返す言葉が思いつかない。
彼らの横で冷静に話を聞いていた雅稀は、正直に話した方が賢明だと感じていた。
目の前のパライバトルマリンを購入して持ち帰るならまだしも、都市伝説を検証するためだけに無料でもらうのは虫が良すぎる。
パライバトルマリンを買うためのお金は億万長者でなければ買えそうもない。
しかしながら、その宝石が無ければ、フォール=グリフィンに殺されてしまったら、誰がGFP学院を守り、誰が緑に光る目を解決してくれるのだろうか。
利哉と一翔が『真実』を伝えていないのは、ガルティもパライバトルマリンも見抜いているだろう。
(こうなったら、『真実』を語るしかない――)
雅稀は意を決して口を開いた。
「いえ、違います!」
えっ! と2人の友人は目を白黒させるが、雅稀は人差し指を立てた右手を口に当てる。
2人がおずおずと頷いたのを確認したところで、雅稀はガルティに顔を向け直し、
「俺たちは、1000人以上の人から命を狙われているんです! 俺たちが殺されてしまったら、何万人もの尊い命を守る人がいないんです!」
と声を張った。
「話は長くなりますが、聴いていただけますか……?」
ガルティは雅稀の目を注視する。
(こやつは真剣に物語っておるな……)
ガルティはひとまずお尋ね者の話を聞くことにした。
雅稀は自身を含め、非魔術界出身の者が魔術師になるために、唯一学べる教育機関がGFP学院大学であることを最初に話した。
GFP学院に在籍する学生を悪く思う『フォール=グリフィン』という組織により、GFP学院生の命を狙っていること。その標的の証として、GFP学院生とそこの卒業生は夜や暗所で目が緑に光る。
フォール=グリフィンからGFP学院の学生や教員の命を守るため。
GFP学院の在学生と卒業生が悩まされている、虹彩に存在するGFPが暗闇で緑に発光する謎を解決するため。
これらの使命があるのだと。使命が備わっている自分らが殺されてしまったら、誰が多くの命を守り、誰が夜に光る目を解決してくれるのか。
雅稀は真剣な眼差しでガルティにこれらの事実を語った。
ガルティは雅稀の顔をじっと見つめた。嘘偽りのない、誠が極まっている雅稀の表情と心境は老人の眼底に映っていた。
「……そうじゃったか。使命を果たしたいお主たちの気持ち、よく伝わった」
ガルティは真偽を見極めるような低い声を出す。
「本当ですか……!?」
雅稀は力んだ顔つきを解く。
「ああ。そんなお主たちにパライバトルマリンを1個くれてやろう」
雅稀らは老人が手にしているネオンブルーのほのかな光に包まれた宝玉に驚異の目を張った。
大陸では深海に潜む宝玉、海底都市では重宝される宝玉と言われているパライバトルマリンを、丸々1個もらえることに感動し、何とお礼を言うべきか。
お尋ね者の様子を目に焼きつける前に、ガルティは目の色を変えた。
「その前に」
老人の言葉は感激している彼らの気持ちをかき消した。
「お主たちに、パライバトルマリンを持つに相応しいか、試させてもらおう」
「……!?」
ガルティは愕然とする3人の若人を2階へ連れ出した。
――***――
2階の空間は最上階の25倍の広さで、足元は水色の床に灰白色の水玉が点在した床がある。
「出でよ、カラクリ人形共!」
ガルティは右手を挙げ、指を鳴らす。
すると、透明人間が突如姿を現したように、黒いローブを羽織った3体の黒色の絡繰り人形が登場する。
(じいさんが言っていた、採掘場の秘密兵器ってこいつらのことか……)
雅稀は歯を食いしばって、剣身が薄いミントブルー色を帯びた剣が、彼の右手に現れる。
距離を置いて立っている利哉と一翔も、それぞれ薄紅、薄葡萄色の剣身の剣を握っている。階級が1段階上がった故、剣身が色づくようになった。
麺棒のような、薄青の太い棒を持った3体の絡繰り人形は散り、1人ずつ襲いかかった。




