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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第2章 深海に潜む宝玉

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02-22 パラマリン採掘場

 深海で一夜を過ごし、朝が訪れた。

 淡い水色の光が群青色の闇に覆われたムークリア海底都市全域を照らす。

 ムークリアを包んでいるベールは海上から差し込むほんの僅かな陽の光を浴び、時間帯に合わせて光を放っているのだ。


 身支度を終えた雅稀らは、昨日購入したクレリックシャツとフルレングスパンツの上に、虹色のストライプがデザインされたローブをまとい、パラマリン採掘場へ向かって出発した。

 中心部から離れていっているのは、貝殻やイソギンチャクの建物の数や、出歩いているシェリル族の数から判断できる。



 出発してから30分後の7時。

 白い海底の砂が広がる何もない道を歩いていると、銭湯の湯温並に熱された海水が向かいから流れ、彼らの全身を温める。


「急に海水が熱くなったな」

 利哉は急な潮の流れを感じ、咄嗟に腕で受け身をとる。


(海底火山が近づいているのか……)

 雅稀はゆっくり目を大きく開ける。


 高さが30メートルの左巻きのシノブガイの建物のそばに、高さが100メートルの海底火山が頂上からもくもくと白い煙を噴いている。

 高さから、地上のデュナミス大陸の一部を陥没させる程の威力があるとは到底思えないが、約8000年前に噴火した海底火山であることには間違いなさそうだ。


「ここが……パラマリン採掘場……」

 住宅も宿泊施設も何もないところに存在する採掘場を目の当たりにした一翔は息を呑む。


 ゴトゴトゴトと白化した珊瑚でできた台車を引く音が、パラマリン採掘場周辺に響き渡った。

 音がする方へ目を向けると、海底火山の麓から老人が現れ、シノブガイの建物の入り口へ向かって行く。


 雅稀らは無言で頷き合い、老人のいるところへ歩く。


「お主たち、見ない顔じゃが、どこから来たんだね?」

 声をかける前に、シェリル族の老人が近づく3人に話しかける。


「地上から参りました」

 雅稀は足を止め、老人の質問に答える。


「そうかそうか、新年から遥々ご苦労じゃったな。わしの名はガルティ。ここ、パラマリン採掘場でパライバトルマリンを採掘しとるのじゃ」

 雅稀らはすっかり忘れていたが、ムークリア海底都市では今日が正月に当たる1月1日だ。


 ガルティと名乗った小柄で薄緑色の肌をした老人は、生えていない髪を隠すように白い頭巾を着けている。伸びている白髭は真っ直ぐ伸び、きちんと手入れされている。


「せっかくここまで来てくれたからの、宝石を見てみるかね?」

「え? 良いんですか!?」

 ガルティの誘いに利哉は目を丸くする。


「構わんけん。パライバトルマリンはムージェス海底火山っていう火山があっての、その火口で取れるんじゃ。着いてこい」

 ガルティは目前の海底火山の頂上を指し、すたすたと緩やかな火山を登り始めた。


 老人の姿が小さくなると

「あのじいさん、随分タフだな」

 と雅稀は小言を呟き、後を追った。



 ムージェス海底火山の山道は緩やかだが、頂上へ近づくと、冷えて固まったマグマがあるお陰で足場が悪い。踏み外すと転んでしまいそうだ。

 注意を払いながら火山の頂上へ足を踏み入れると、小さな火口から赤色のマグマ溜りが見え、熱気を伴った噴煙が穏やかに噴き出している。


 ガルティは火口付近で立ち止まってかがむ。

 雅稀らも中腰の姿勢をとって、火口を覗き込む。黒い地面からところどころ青く光っているのがわかる。


 ガルティは素手で地面を軽く掘り、指の腹の大きさの石をそっと手に取る。

「こやつらはの、長い年月をかけてマグマが深海の海水に冷やされ、こうしてパライバトルマリンができるのじゃ」

 手のひらに乗っている宝石は神々しいネオンブルー色を帯びている。


「これが……深海に眠る宝石……」

 本物の宝石、美しすぎる色、反射する清らかな光に雅稀は惹かれ、神秘的なパライバトルマリンを表現する言葉が見つからない。


 彼の両隣にいる一翔も利哉も、マグマの熱気で体が焼けそうになることを忘れてしまうくらい、蒼い宝石に魅了する。


「ムージェス海底火山のマグマは銅やマンガンを多く含むんじゃけ。そんでパライバトルマリンが取れるんじゃ」

 ガルティは火口を覗くように視線を変え、

「太古の昔に、海底火山が大噴火しての、わしらの祖先が住んでいた陸地が陥没して海底に沈んでしまった。シェリル族は水中でも呼吸ができる民族じゃけぇ、今もこうして生活ができておるんじゃ」

 と過去の言い伝えを語り始めた。昨晩にヴァレッティーが話したことと一致している。その史実は正しいと言って間違いないのだろう。


「海底火山が無ければ、ムークリアで重宝されているパライバトルマリンが存在しなかったとも言われておる」

 ガルティはさらに地面を深く掘り、蒼い宝石を埋め直す。


「戻してしまうんですか?」

 一翔は無念そうに埋められた場所に視線を変える。


「もう少し大きくなるまでの辛抱じゃけ。ある程度石が成長したら、シノブガイの建物に台車で移動させるのじゃ」

 麓へ降りるぞ、とガルティは両手の握り拳を肩甲骨へ当て、てくてくと海底火山を下った。

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