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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第2章 深海に潜む宝玉

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02-21 海底都市で過ごす深夜

「ムークリアの伝統行事、見た甲斐があったなぁー!」

 利哉は背伸びをする。


「剣舞は迫力あったし、新体操は完璧な演技をこなしてたし、言うことなし!」

 雅稀は伝統行事に満足する。


「行って良かったね」

 一翔は右側に並んでいる利哉と雅稀に目を合わせる。


「もちろんさ!」

 利哉は満面の笑みを浮かべ、雅稀は

「都市長から直接話を聞けたってのもあるしな」

 とパンフレットを広げる。


 雅稀は歩きながら開いているパンフレットの文字を読む。横書きに綴られた魔術語に目を通すと、ヴァレッティーから聞いた内容が書かれていた。


「そういや、服屋の店員もヴァレッティーさんも、パライバトルマリンが採れる場所をオレらに話してくれたな」

 利哉は顎に手を添えて考え事をする。


「僕ら、シェリル族でも何でもないのに」

 一翔は腕を組み、首をかしげる。


「こんな簡単に教えてくれたからな……」

 雅稀は後頭部に手を組む。服屋にいた時も都市長室にいた時も、見知らぬ人どころか、陸地からの旅人に貴重な宝石の在処を正直に教えてもらったことに違和感を覚える。


「ムークリアでは有名な話かもしれない」

 一翔は西側を呆然と見つめる。目印となる白い貝殻の建物の姿は見えていない。


「もしや……」

 利哉は突如険しい表情に変わる。

「何か秘密がありそうだ」

「え?」

 神妙な目つきをする利哉に雅稀は少し驚く。


「じゃなかったら、シェリル族でも何でもないオレらに教える理由って何だ?」

「観光地じゃねぇの?」

「いや、観光地だったら、海底都市があるっていう都市伝説は存在しないと思うんだ」

「言われてみれば……」

 普段の利哉なら考えそうもないことを口にすることは珍しいな、と雅稀は考え込む。


「じゃあ、秘密って何だろう?」

 一翔は首を軽く傾ける。


 彼の言葉を最後に沈黙が続く中、彼らは地図通りに西側を歩き続けた。

 建物が多かった場所が次第に住宅街へと変わり、やがて夜道を歩くシェリル族は見かけなくなった。


  ――***――


 建物の気配が薄れてきたところで、雅稀はグリア=リーツで時刻を確認する。


「あぁ、22時か……」

 雅稀は旅の疲れで、思わずため息をつく。


「もう少し歩いたらありそうな気もするけど……」

 一翔は立ち止まって辺りを見渡すが、疲労が顔に表れている。


「でも、白い貝殻の建物ってここから見えんよな?」

 利哉は西側を真っ直ぐ見る。深夜に差しかかり、周囲は明かりを失った群青色の闇に染まっている。


「何も見えない。今日はここまでにしても良いかもな」

 雅稀は目を凝らして西の方角を見つめる。建物の数は都市部と比べて圧倒的に少なく、これ以上先を行くと、旅館やホテルが見つからない可能性を危惧した。


 一翔は南西の方角にぽつんと建っている青紫色のイソギンチャクの建物を指し、

「近くに小さな旅館があるから、そこで1泊しよう」

 と雅稀と利哉に提案する。


「そうだな」

 雅稀は肩の力を落とし、3人はゆっくりと小さな旅館へ向かった。



「うわっ、すげーな!」

 ベージュ色の浴衣に着替えた雅稀は、卓袱台の上に置かれたカニ鍋と対面する。

 案内された和風の部屋とカニ鍋が合っている。


「カニに椎茸、豆腐、ほうれん草……日本に帰ってきたみたい……!」

 一翔は右手に取っ手が長いスプーンを持ち、目を輝かせる。


「いただきまーす!」

 鍋を目にした利哉はスプーンで具材をすくう。スプーンの上はゼラチンでコーティングされたカニの一部が載っている。


 利哉はゼラチンに浮くカニを見つめ、言葉を失う。


「これ、昼飯の時と同じ感じだな」

 雅稀も弾力のある出汁にスプーンを入れ、えのき茸を取る。


 そのまま口に入れると、カニとポン酢の味が染みたゼリーが溶け、噛み応えのあるえのき茸を味わう。


 鍋と言えば、具材をポン酢に漬けて食べるのが一般的だ。

 そういう文化で育った雅稀らからすれば、いくら懐かしの味がするカニ鍋と言えど、寒天やゼリーなどで食材を覆うシェリル族の食文化には慣れない。


「斬新な鍋だね」

 スプーンに載ったほうれん草を見つめる一翔は「変な感じはするけど、民族の文化を学ぶ機会にはなった」と言い残して頬張った。


「確かにな。深海に行ってなかったら、知らずに一生を過ごしてた」

「そもそも、非魔術界(ル=ヴァール)にある地球から魔術界(ヴァール)へ来ただけで非凡なのに、深海で他の民族と食文化に触れるって非凡に非凡を重ねている感じだな」

 スプーンをお椀の上に置き、呆然と天井を眺める利哉と、土鍋の中でひたすらスプーンを動かす雅稀は、一翔の言葉を聞いて率直に感じていることを言葉に表す。


「今まで食べてきた鍋の方が断然好きだけど、これはこれで悪くない」

 一翔はにっこりと目を細めた、あどけない顔を浮かべる。


「良いとは言ってないんだな」

 横で笑っている雅稀に突っ込まれた一翔は「ま、まあ……」と苦笑いする。


「でもよ、これも都市伝説の1つだと思うぜ。海底都市もシェリル族が存在していること自体、都市伝説として言い伝えられているんだからさ」

 利哉は再びスプーンを手にし、残っている具材と出汁の味が効いたゼリーを食べ切った。


 そっか、と雅稀は姿勢を正し、

「俺らが目的としている深海のパライバトルマリンも都市伝説。取りに行くのと同時に、それが事実なのかを検証しに行っているような感じだな」

 と土鍋の中を空にし、温かくてまろやかな昆布茶を飲む。


「早く明日に備えなきゃ」

 一翔も夕食を終えて「ごちそうさま」と合掌した。

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