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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第2章 深海に潜む宝玉

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02-20 蒼き宝玉の言い伝え

 雅稀らはヴァレッティーに連れられ、ムークリアを象徴する海底都市本部の長い階段を上った先の玄関に入る。


 海底都市本部の階段や通路は、黒に近い青色の石畳が規則正しく敷かれている。壁も同じ色のブロックが丁寧に積み上げられている。

 夜のため、照明が消された通路は薄暗いが、伝統行事で広場に設置されているパライバトルマリンのお陰で、窓からマリンブルーの光が差し込んでいる。

 壁の役割を果たしているブロックや、足元に敷かれている石畳は青白い光を反射している。


「ここが海底都市本部。ムークリアの行事を企画したり、政治を行ったりする一方で、海底都市に住む民の情報などの管理を行っている」

 ヴァレッティーは正面玄関で足を止めて後ろを振り返り、3人の青年の顔を見渡す。


「今から、最上階にある(わらわ)の部屋へ向かう」

 ヴァレッティーは再び彼らを背にし、奥の通路にあるらせん階段を目指して歩み始めた。


 雅稀らも無言で都市長に着いて行きながら時々視線を動かし、掲示されているポスターや絵画、石の扉の向こうに設置されているオフィスを眺める。

 パライバトルマリンの光は外壁で遮られ、ムークリアを包むベールは光を消して眠っている故、窓が無い奥の通路や階段は暗くてひんやりしている。

 彼らはヴァレッティーの背中を頼るしかなく、不安を抱きながらも、物音を立てずに都市長の部屋を目指す。



「ここが都市長室。入りたまえ」

 ヴァレッティーに案内された部屋は、5階建てである海底都市本部の一室だった。都市長は壁に取りつけられたスイッチを押し、部屋の明かりを点ける。


「お邪魔します」

 雅稀たちは都市長室に足を踏み入れると、群青色のカーペットの上に立っていた。カーペットは4人が1列に並べる程度の幅があり、両端は金色のラインが2本引かれている。


 顔を上げると、奥の窓際に赤茶色の机と黒色の椅子が置かれている。机の中央は片づいているが、両端は書類が3冊積み上がっている。


 ヴァレッティーはその黒い椅子に腰掛けた。

「おっと、いけない。書類がそのままになっていた」

 ヴァレッティーは立ち上がり、両側に置き去りにしていた資料を壁側の本棚にしまう。


「すまないね。客の前で恥ずかしいところを見せてしまって」

 彼女は青年らに視線を送る。


「いえ、気になさらず……」

 雅稀は会釈する。どうやら怒られる感じではなさそうで、胸の内で安堵する。


「さ、ここに腰を下ろして」

 ヴァレッティーは両手を広げると、来客用としている椅子が3脚現れた。椅子の形は都市長の椅子と全く同じだ。


 雅稀らが椅子に座ると、早速ヴァレッティーは口を開いた。

「そなたたちはどういった目的でムークリアへ来たのかね?」


 パライバトルマリンを手に入れるため、というのが雅稀らの答えだが、都市長の前で簡単に答えられず、3人とも黙って俯く。


 ヴァレッティーは何かを察したのか、顔色を変えて

「深い訳がありそうね」

 と吐息を漏らす。


「はい……こんなことを言うのはあれですけど……」

 雅稀は俯いたまま、言葉を続ける。


「俺たち、命を狙われているんです。深海に眠る宝玉があれば、万が一の時に守ってくださると聞いて、地上から参りました」

 ヴァレッティーは中央に座っている雅稀の顔を覗き込む。緊張で、彼の顔は強ばっている。


「そうだったのね。そんな感じがした」

「えっ!?」

 雅稀らは目を丸くし、顔を上げる。驚いている彼らとは違い、ヴァレッティーは真剣な表情を保っている。


「地上からムークリアへ来た人の目的は、大半がパライバトルマリンを我が物にするためだ。(わらわ)はその目的で訪れた者たちをここへ呼び、我々シェリル族が重宝されているパライバトルマリンについて話をしているのさ」

 ヴァレッティーは本棚から3冊の小冊子を取り出し、3人の若者に1冊ずつ手渡す。


 彼らは両手で小冊子を受け取る。表紙に目をやると、黒を背景に巷でよく見るダイアモンドがネオンブルーに着色された宝石の写真が掲載されている。


「これにはパライバトルマリンについて書かれている。太古の昔、我々シェリル族はデュナミス大陸の西側に生息していたが、海底火山の噴火により陥没してしまい、全員海底に沈んだとされている。シェリル族は水中でも生活できる民族だが、海洋に生きる生物に食われてもおかしくなかった」

 ヴァレッティーは真面目な顔持ちで、雅稀らを凝視する。


「海洋生物に食べられずに済んだのは、パライバトルマリンのお陰ということですか?」

 一翔は表紙に載っている蒼い宝石をちらりと見る。


「結論はそう。海底火山が噴火した後、シェリル族が誰一人、死人が出なかったのは、海底火山から生まれたパライバトルマリンが守護してくださったからだと言われている。その宝玉はそなたたちも見たと思うが、ゴブレットの上に浮いている蒼い石がそうだ。ムークリアを包んでいる水色のベールも、その石の力によるものだ。だから、8000年の時を経て、我々が今もこうして生活できている」

 ヴァレッティーは机の上に手を組む。真面目な表情をしていた都市長だったが、今は柔らかい表情を浮かべている。パライバトルマリンに感謝の意を込めているのがわかる。


「それで、ムークリア海底都市では、パライバトルマリンが重宝されているんですね」

 利哉は改めて冊子の表紙を眺める。今にも掲載されている宝石が自身を守ってくれそうな気持ちになる。


「その通り。パライバトルマリンはムークリアの西側に採掘場がある。そこへ行けば、手に入れられるさ」

 ヴァレッティーは後ろの窓を両手で押し開け、小さく見えるシノブガイの建物を指す。


「かなり離れているんだ……」

 一翔は眼下に映る建物の数や大きさから距離を感じた。


(わらわ)からの話は以上だ。この地でパライバトルマリンが重宝されている歴史的背景について、地上に生きる者たちに知ってもらいたくて、ここに来てもらった。パンフレットにはもう少し詳しく書かれている。是非目を通して欲しい」

「ありがとうございました!」

 雅稀らは一斉に椅子から立ち上がり、頭を下げた。


 その後、ヴァレッティーは雅稀らを海底都市本部の玄関まで送り届け、姿が見えなくなるまで見届けた。


 雅稀らは冊子を片手に持ち、中央広場に置かれているゴブレットとパライバトルマリンを見納め、西側へ歩を進めた。

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