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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第2章 深海に潜む宝玉

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02-19 ムークリアの伝統行事

 19時の知らせと同時に、指揮棒を握ったシェリル族が腕を上げた。

 指揮のテンポに合わせ、弦楽器や管楽器を構えたシェリル族は、譜面と指揮者を交互に見ながら演奏する。


 弦楽器は小さい方からヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、そしてコントラバスの4種類がメロディーあるいは伴奏を奏でており、楽器本体は淡いネオンブルー色に煌めいている。

 管楽器は横笛、いわゆるフルートとオーボエ、ファゴットのパートが吹いている。他にトランペットやトロンボーンもあるが、今は楽器を下ろしている。

 管楽器も弦楽器と同じ、本体は淡いネオンブルーの光沢がピカピカ反射している。


 一方で、ネオンブルー色の剣を携えた64人のシェリル族は、聞こえてくる曲に合わせ、先端を空に向けて円を描いている。

 彼らの動きは完全に一致しており、若干速かったり遅かったりしている人が誰一人いない。年末の伝統行事のためにどれだけの時間を費やし、どれだけ大切にしているのかがひしひしと伝わる。


 序盤のゆったりとしたフレーズは、指揮者が強調した動きと共に止まった。

 それに合わせて、剣をゴブレットに浮いている宝玉へ向けていたシェリル族は、一斉に、完璧な動きで剣を下ろした。


 指揮者は彼らの動きが止まった様子を目視で確認すると、再び交響楽団員へ視線を戻し、指揮棒を構えた。

 さっきは弦楽器とフルートとオーボエ、ファゴットの組み合わせだったが、今回は弦楽器に加え、トランペットとトロンボーン奏者が楽器を構えた。


 指揮者は力強く指揮棒を振り始めると、序盤とは違い、アップテンポかつトランペットのメロディーが響き渡る。

 雅稀と利哉は聴いているだけで満足しているのに対し、一翔はトランペットの1音1音がしっかり出ているな、と演奏経験者ならではの視点で鑑賞している。


 ネオンブルーに輝く剣を持つシェリル族は斜めに振り下ろしたり、体を回転させながら剣を振ったりと、迫力のある舞を見せている。

 巨大なゴブレットと、傷一つ無く圧倒される程の美しさを誇る宝玉を目の前に、シェリル族は音楽に合わせた迫力のある剣舞を捧げている。


 これが、年に1度の伝統行事の1つだ。


 剣舞が始まってから30分が経過しても、5分しか経っていないように思えてしまう。

 それだけ完璧な剣舞を捧げるシェリル族には見応えがあり、1音を大切に奏でる楽団の演奏は素晴らしく感じた。



 曲の終盤になったのか、フルートとオーボエ、ファゴットの音が聞こえてきた。

 オーケストラと言うより、ブラスバンドに近い感じの曲調に変わった。


 剣を持っている64人のシェリル族は、左側の4列と右側の4列にいる人が向かい合うように体の向きを変え、音楽に合わせて剣を振る。


 途中でリズムが速くなると、剣を振る速度も体を回転する速度も上がった。

 既に息が上がってもおかしくないのに、一切疲れを見せないどころか、全員の動きが一致している。


 曲の締めで、全パートが譜面に書かれている1音をしっかり伸ばすと、剣舞を担当しているシェリル族はゆっくり剣を頭上に振り上げた。

 指揮の合図で演奏が終わると、剣舞を担当したシェリル族は剣を下ろし、歩調を合わせて北の海底都市本部へ向かって退場した。


 40分に及ぶ剣舞は終始非の打ちどころがなく、近くで見ていた雅稀らはすごいとしか言葉が思いつかなかった。



 19時45分になると、今度は新体操の選手が着るような衣装をまとった30人のシェリル族が中央広場に整列した。剣舞は全員男性だったが、今回登場したのは全員女性だ。

 彼女らが着用している衣装はラメが入った紺色と青色、そして水色の3色がらせんを巻くようにデザインされている。

 楽器の色や先程の剣の色と言い、衣装も全て青系統だ。この海底都市で採れたパライバトルマリンを利用しているのだろう。


 指揮棒を振るシェリル族に合わせ、演奏が始まった。剣舞の時とは異なり、軽やかなメロディーで、心が躍るような曲だ。


 始めに動き出した6人のシェリル族はセルリアンブルーのボールをタイミング良く投げては、息を合わせてボールを受け、再び別の人へボールを投げる操作を繰り返した。


 続いて、新体操に使われるクラブを片手に1本ずつ持った6人が前方へ行進しながらクラブを回転させ、演技を始める。

 フープを持った6人は交差するようにフープをペアの人に向かって投げると、同じタイミングで投げたクラブやボールがフープの輪の中を通過した。


 キラキラと青や水色の光を反射させながら演技が行われ、雅稀たちは音楽を聴くことを忘れてしまう程、演技に夢中になってしまっている。


 広場の南側にアクアブルーのリボンとロープを持った計12人は最初のポジションに着き、華麗な動きを見せる。

 5種の新体操の種目を一度で見るのは雅稀らにとって初めてで、直接見ることでさらなる感動を覚えた。


「みんな演技が上手いなぁ……」

「うん。ボールを操ると言っても、ここまで器用なことはできないぜ」

 雅稀は1人で感動している横で、利哉も彼に共感する。


「伝統行事を見に来て正解だった」

 まだ行事が終わっていないのはわかっていながらも、一翔は耳から流れる音楽と目に映る演技に感銘を受けた。


 新体操の演技が音楽と共に終わりを告げると、演技をしていた30人はポーズを決めた。

 観客から盛大な拍手が送られると、左右に分かれて退場した。



 剣舞と新体操の演技が終わると、海底都市本部の玄関から、黒と碧瑠璃(へきるり)色の2色で仕上げたドレスを纏った女性が階段を降りて中央広場へ歩み寄る。

 その女性の後ろに群青のタキシードを羽織った男性が2人並んでいる。


 誰だ? と北側を見つめている間に、広場を囲んで座っているシェリル族はひざまずいて頭を下げている。

 雅稀らは慌てて周りのシェリル族と同じ姿勢をとった。


「ヴァレッティー都市長のおなーりー」

 同じくタキシードに身を包んだ男性は交響楽団員が座っていた位置から声を上げる。


 上品なドレスを着こなした女性がゴブレットの横を通過し、中央広場へ一歩踏み入れたところで立ち止まった。広場の周りにひざまずき、挨拶を待っているシェリル族の姿が女性の視界に入る。


「ムークリアの民よ、顔を上げよ」

 女性の威厳ある声で一斉に顔を上げ、女性の方へ首を動かす。


 多くのシェリル族で遮られる視界の奥にヴァレッティー都市長の姿があった。プリンセスラインのドレスは黒がベースだが、袖とプリーツは碧瑠璃色で仕上げられている。手入れの行き届いた肌は薄緑色をしており、責任感の強さが顔に表れている。


「ゴブレットの杯に浮く巨大な宝石、パライバトルマリンが本年もムークリア海底都市を守ってくださったことに感謝の意を示す」

 ヴァレッティーは両腕を高く挙げ、

「そなたたちの剣舞と大道芸は実に素晴らしい演技であった。パライバトルマリンも喜ばれておることであろう」

 と微かに輝く宝玉を見上げる。


「パライバトルマリンよ、今年も我々にご加護を賜り、誠にありがとうございました」

 ヴァレッティーは目を閉じ、両手を組んで祈り始める。


 都市長の言葉に、シェリル族は再び頭を下げ、雅稀らも彼らの行為に合わせた。


「本日の伝統行事のために、剣舞と演技、そして楽団による演奏を神に捧げるために、我々は誠心誠意を尽くして取り組んで参りました。彼らを始め、ムークリア海底都市に住む民の至誠を、どうかお受け取りください」

 ゴブレットに浮かぶパライバトルマリンは、チカチカと蒼白の光を点滅させる。


 何が起きているのかが気になった雅稀は少し首をひねり、巨大なパライバトルマリンを視野に入れる。

 その宝玉の上に、海底都市全体を包む程の白色の光の球が上空に位置し、球の外側に近づくにつれてマリンブルー色の濃さが増しているのが見える。


 蒼白に煌めく神々しい球は弾け、淡いネオンブルーに染まったオーロラのカーテンがムークリア全域に行き渡る。


(何て美しい……)

 雅稀は絵にかいたような光景に思わず心を打たれる。

 オーロラの光が完全に行き届き終えると、青白い光は止み、元の明るさに戻った。


 組んだ手を解き、顔を上げたヴァレッティーはくるりと踵を返し、体ごと広場へ向ける。彼女の表情はどこか安心しているようだった。


「ここにいる民も、今年1年間の感謝と始まろうとしている1年も守護してくださるよう、祈りを捧げましょう」

 ヴァレッティーは両手を腰へそっと下ろすと、ゴブレットの右脇へ移動した。


 広場でひざまずいていたシェリル族は立ち上がり、続々とゴブレットへ足を運べば、手を合わせて祈りを捧げる。お祈りが終われば順次解散となり、伝統行事が終える。


 雅稀は一翔と利哉と3人揃って、ゴブレットと浮遊するパライバトルマリンの目前に立つと、ゴブレットに彫られた模様と、絢爛な宝玉の大きさに目を奪われた。

 地上から来た彼らは何を祈れば良いかがわからず、取り敢えずの気持ちで両手を合わせ、軽く頭を下げる。


 数秒間その姿勢を保った後、彼らは宿を探そうとゴブレットと宝玉から離れようとした、その時だった。


「そなたたち、どこから来たのかね?」

 突然声をかけられ、雅稀たちは胸を突かれた。後ろを振り向くと、ヴァレッティー都市長の姿があった。


 まずい、と雅稀は焦りの気持ちを殺して「地上から参りました」と落ち着いて答えた。


「話しておきたいことがある。(わらわ)について来たまえ」

 無表情のヴァレッティーは都市本部へ視線を変え、歩き始めた。


「……何だろう? 怒られるのかな?」

 一翔は小声で不安な心境を吐露する。


「いや、わからない」左右に顔を振った雅稀の隣で、利哉は「何か情報をくれるかもしれないぜ」とささやく。


「そんな都合の良いことがあるとは思えんけど……」

 一翔は首を傾け、彼らはヴァレッティーの後ろを追った。

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