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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第2章 深海に潜む宝玉

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02-17 ムークリア海底都市

 ある時……


「おい、何か少しずつ明るくなってないか?」

 海底の方を指したのは利哉だった。


 暗闇にいるはずが、広い領域で淡い水色の光が海底を照らしている。


 もう少し進むと、細かい砂が広がり、浅瀬で見なかった広葉樹と同じ大きさの珊瑚や貝殻が至るところで立っている。


「ここだ、きっと……」

 一翔の緑に光る目は感動している。


「都市伝説とされている海底都市なのか?」

 雅稀は海底に着地し、水色の光を包むベールのような壁から中に入る。


 利哉と一翔もその光の中に入ると、明るさに満ちた巨大な珊瑚や貝殻、イソギンチャク、海藻類が通路の脇にそびえ立っている光景に出会った。

 中でも、北の方角にある立派で落ち着いたネオンブルーの宮殿は、貝殻などの建物よりも遥かに大きく、1番目立っている。


 雅稀は海底に刻まれた文字が視界に入る。


「ムークリア海底都市……だって」

 雅稀は後ろを振り返ると利哉と一翔は黙って頷いていた。


 雅稀は視線を戻し、3人はムークリア海底都市の中心部へ向かって歩んだ。



 建物は珊瑚や規格外の貝殻に空洞を造り、扉や窓が設置されている。

 周りにそういった建物が多く建っていることから、都心部であることが窺える。


「すごいなぁ……」

 雅稀は視線を泳がせながら変わった建物を眺める。


「この海底都市にパライバトルマリンがあるかどうかだけど、腹減ったなぁ」

 利哉は恥ずかしそうに笑いながらお腹に両手を置く。


「それなら、あそこにレストランがあるみたいだから、行ってみようよ」

 一翔は屋根から吊り下げられた魚とフォークが描かれた看板を指す。



「お待ちどおさまー」

 白い三角巾で頭部を包み、鍋つかみのような厚手の手袋をはめたウェイトレスは、トレイに載せている食材をテーブルの上に置く。


「へぇー、見たことのない食べ物だな」

 雅稀は目を丸くする。


 円いテーブルに雅稀と利哉、一翔が囲み、その上に直方体の寒天が6匹のバレンクラゲとツリガネクラゲを包んでいる。

 隣にはエゾイバラガニのプリプリした身がゼリーで束ねられている。


「寒天やゼリーの紐で束ねられているのは、周りの海水に流されないようにするためだろうね」

 一翔は温かい海水の流れを肌で感じている。


「GFP学院の図書館にあるグリフォンとは違った標本を見ているみたい」

 利哉は僅か5センチメートルの小さなツリガネクラゲをまじまじと見る。


「そう見えなくはないけど、ご飯前にその表現は止めてくれよ」雅稀は苦笑いすると「ごめん」と利哉は謝る。


 一翔は慎重に寒天にフォークを入れ、虹のように光るツリガネクラゲを1匹切り取って口に運ぶ。


「美味い!」

 一翔の目は驚きと感動で大きく開いている。


「このエゾイバラガニってやつも美味しい」

 雅稀はその生身を味わう。ミルクのような香りが広がり、甘味が舌を刺激して虜になってしまう程だ。


「これらのクラゲってカニの出汁で味つけしているんだろうな」

 利哉は新たにバレンクラゲをフォークで寒天ごと切り分ける。


「あまり見ないものを食べられるのは、深海ならではだな」

 雅稀は利哉に話しかける。


「カニの味がするもんだから、本来の味が気になるぜ」

 利哉はフォークで取ったバレンクラゲを口の中に入れて噛み砕く。


「まあね。僕は別に良いかな。美味しくなかったら嫌だから」

「一翔の気持ち、俺もわかる」

 雅稀はバレンクラゲとツリガネクラゲをしたためる。利哉の言うように、カニの出汁が効いている。


「早く食べて、パライバトルマリンの在処を探そうよ」

 一翔はグリア=リーツの時計を見る。13時を回っていた。


「うん」

 雅稀と利哉はピッチを上げて、テーブルに載っているおかずを頬張った。



「深海生物をご馳走になったのは、興味深い経験だった」

 利哉は扉を押し、レストランの外へ出る。


 彼に次いで雅稀と一翔も再びムークリアに足を踏み入れた。


 海底都市に着いた頃は岩石と巨大な珊瑚と貝殻の建造物がずらりと並んでいるだけで、閑散としていた。

 昼を過ぎた今は、大きさは様々だが、耳輪が魚の胸びれの形をしており、手足の指と指の間は薄い皮膚が繋がっている生命体が、楽しそうにショッピングをしている様子を見かけるようになった。

 肌の色に注目すると、薄緑から深緑色まで幅広いが、緑系統だ。ロザン先生から黄緑色と聞いていたが、その色だけではなかった。

 その上に絹のような独特の光沢を放つ柄物のワンピースをまとっている。


「もしかして、これがシェリル族なのか……?」

 雅稀は一翔の耳に顔を寄せる。


「多分。でも確信は持てない」

「何で確信できないんだよ?」

 利哉は冴えない顔をする一翔を見下ろす。


 3人の中で1番背が高いのは利哉で、178センチメートルある。1番低いのは173センチメートルの一翔だ。雅稀は2人の間の175センチメートル。

 身長の理由で、利哉が一翔を見る時は自然と見下ろしてしまうのだ。


 一翔はチロリと黒い目を動かし、利哉に焦点を合わせた。

「図書館で読んだ本には、耳付近に魚の胸びれのようなものがついていると書かれていた。でも、実際は耳輪の形自体が魚の胸びれだ」

「けど、あの本は800年くらい前の物だったよな。長い年月を経て、容姿が変わったんじゃないか?」

 雅稀は顎に右手を当てて考え込む。


「なるほど!」

 一翔は腑に落ちた。


 800年で容姿が大きく変わるかは生物によるだろうが、読んだ本は飽くまで都市伝説について書かれていた故、事実と乖離している可能性があることを思えば納得できる。


 利哉は不意にローブに目をやる。左胸にグリフォンの刺繍が施されていた。

「あっ、しまった」

「どうしたんだ、急に?」

 雅稀は利哉の焦った声に反応する。


「オレたち、GFP学院の制服のままここに来てしまった」

「うおっ、本当だ!」

 雅稀はローブを引っ張る。確かに左胸にグリフォンが刻まれていた。


「今後の外出用を含めて、服屋に行こうぜ。ついでに、ここに住んでいる生命体がシェリル族なのか、直接訊いてみるのも良いかもしれんな」

「そうしよう」

 雅稀と一翔は利哉の提案に賛成し、巨大な青い珊瑚の建物に入った。



「この建物全体が服屋なのか、すごいな……」

 利哉は珊瑚のだだっ広い空間に密集している服を見渡す。シェリル族の姿はレジ付近を除いてほとんどないが、この地の民族衣装と思われる膝丈のワンピースがほとんどを占めている。


「俺らが着ているローブはふくらはぎまであるから、ちょっと短いな」

 雅稀はハンガーラックに陳列するワンピースを適当に取り、胸元に当てる。鏡に映さなくても丈が短いのは一目瞭然だ。


 欲しいのはふくらはぎの半分より上まで隠れるローブだ。とは言え、容易に見つかるとは思えない。

 うーんとハンガーラックに吊されているワンピースと睨み合いながら、店内を彷徨う。

 こんなところにローブなんて売ってないか、と諦めかけていた時だった。


「あった!」

 すかさずハンガーラックからローブを手にしたのは一翔だった。


 そのローブはアイオライト色の生地に、きめ細やかなストライプが光に反射して虹色に輝いている。襟元と袖口から3センチメートルは真っ白だ。

 ローブの内に紺色がベースのクレリックシャツと白いフルレングスパンツがセットで売られているようで、同じハンガーに掛かっている。


「シンプルだけど、綺麗だ」

 雅稀は繊細なストライプに目を惹く。


「袖口は白いけど、着たら色が変わるんかな?」

 利哉は自身に合ったサイズのローブを胸の前に当てる。


「魔術師が着るローブなら変わるんじゃないか?」

 雅稀の言葉に利哉は着てみる、と言って試着室に行った。

 

「おい、着た途端、色が変わったぜ!」

 利哉は試着室の扉から顔を出す。


「俺も!」

「僕も!」

 雅稀と一翔は試着室から一歩出て、試着したローブを互いに見合う。襟元と袖口の色はGFP学院の制服を着ていた時と同じ色をしている。


「オレら魔術師が着る用に作られてるんだな! 感動した!」

 利哉の頬は緩み、目は輝いている。


「それよりも、繊細に輝く虹色のストライプが魅力的だ」

 雅稀は指でストライプをそっとなぞる。柔らかい毛の心地よい感触が疲れを癒やしてくれる。


「きっと、深海に生息しているクラゲの繊毛を利用していると思う。深海ならではって感じ」

 一翔はローブを軽く引っ張り、角度を変える。光が当たる角度に影響され、細いストライプ模様は赤や青などの色を放つ。


「これがたった10ビッツで買えるなんて、信じられない!」

 これは買いだ! と雅稀は再び試着室に入り、元の服装に着替えた。



「ありがとうございました、ってここでは見ない格好じゃけんの」

 レジ打ちをしていた壮年の男性店員は声をかける。


「はい、俺らは陸上に住んでるんで」

 雅稀は購入したローブを大事そうに抱える。


「あなた方はシェリル族ですか?」

 一翔は気になっていたことを尋ねると「そうじゃけ。太古の昔に海底火山が噴火してから、シェリル族はこの深海に住んどるけん」と店員は仁王立ちをする。


 ここで生活している民族がシェリル族であることがわかったところで、一翔は新たな質問をする。

「僕たちは深海にパライバトルマリンがあると聞いてやって来たのですが、どこにあるかご存じですか?」

「おう、知っちょるよ」

 店員は雅稀らが歩いてきた方向を指し、

「こっから西へ進んだ町外れのところにあるけえ。パラマリン採掘場と言っての、シノブガイの白い貝殻の建物が目印じゃけん」

 と情報を伝える。


「ありがとうございます」

 一翔は落ち着いた声で会釈する。


「その前に、今夜はムークリアの伝統行事が中央の広場で行われる。せっかくの機会だから見ていくと良いけぇ」

「そうなんですか! それは是非!!」

 利哉は目をキラキラ輝かせた。

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