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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第2章 深海に潜む宝玉

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02-12 昇級が懸かっていたもう1つの実技試験

 7月24日、試験最終日を迎え、最後の障害物攻略学Aの実技試験を受けに、魔法戦士学科の1年生は芝生エリアの南西に位置する生協こと大学生活協同組合付近に集まる。

 障害物攻略学Aは名前の通り、足元など、予め用意された障害物をかわす方法を学ぶ講義だ。

 GFP学院の講義としての成績はつくが、赤階級(ロドゥクラス)の取得と学外への外出許可には影響しないはずだった。


 ところが、そうではなかった。



「全員集合」

 この講義の担当教員は6人いるが、そのうち1人の若い女性教員は受講生を整列させる。


「今から障害物攻略学Aの試験を始める。今年度から条件が追加され、70点以上取らないと赤階級(ロドゥクラス)は獲得できなくなったから、真摯に臨むこと」


 あの先生の話を聞いた受講生は近所にいる学生と文句を言い始めた。


 魔法戦士を含む魔術師は階級の認定や登録を行っている魔術師登録委員会が存在し、各大陸に1ヶ所ずつ本部が設置されている。

 魔法戦士の場合、大学で実施される期末試験あるいは委員会が主催する昇級試験で、与えられた課題に対して100点満点で採点する。

 各階級の取得条件に設定された合格点を全て満たし、委員会が承認すれば昇級できる仕組みになっている。

 赤階級(ロドゥクラス)を取得するためには、週明けに受けた基礎攻撃魔術Aと基礎防御魔術Aの試験に合格することだと学生たちは聞いていた。

 それ故、障害物攻略学Aがまさか階級取得の条件に含まれていたことを知らずに過ごしてきたのだ。


「先生、それ聞いてないっすよ」

 ある金髪の男子学生は右手を頭の高さまで挙げて抗議する。


「初回の講義で話さなかったか?」

 先生の問いに受講生は全員首を横に振る。


 先生は吐息を漏らし、

「それはすまない。しかし、この講義もGFP学院の必須科目だ。どのみち合格しないと卒業できない」

 と両手を空へ高く挙げた。


 受講生の背後から多くの木々が地面から地割れと共に現れた。

 受講生と担当教員がいる生協の位置から東北東の方角に闘技場が小さく見えていたのが、木で覆い尽くされて見えなくなった。

 芝生と数少ない建物しかない殺風景な場所だったのが、生い茂った木の大自然アスレチック場に変化した。


 これも先生がかけた魔術だと思うと、鳥肌が立つ。


「広場の森の入り口に道が開けてるから、そこがスタート地点だ。いくつか赤矢印の看板が設置されているのが順路だ。それに沿ってゴールへ向かって走ること。良いな」

 別の男性教員はこの後の動きを簡単に説明する。


「当然だが、途中で現れる障害物の攻略とゴールまでに要したタイムで採点する。では、位置に着け」

 受講生は男性教員の指示を聞いて、渋々スタート地点へ移動した。



 パーン! とどこかから発せられたスターターピストルの合図と同時に、一斉に走り始めた。


 雅稀の横に利哉と一翔が並び、一緒に走っている。

 幅が20メートルの道は砂利が敷かれておらず、道の両脇に数多の木が立っている。

 山道を走っているような風景だが、幅員が広いためなのか、真夏の陽が枝葉に遮られずに道を照らす。


「まだ空気が乾燥しているだけマシだけど、頭が焼かれる感じがする」

 道の中央を走る利哉は右手で頭を押さえる。


「今日は300K(ケルビン)だから太平洋側の日本のこの時期より過ごしやすいけどね」

 一翔は左右を軽く見渡しながら障害物に警戒する。


「ケルビンって魔術界(ヴァール)の温度の単位なのか?」

 利哉は一翔に目を向ける。


「いや――」

 一翔は何かを言いかけたが、足元に木の根が突如地面から浮き出たのを見つけ、右足を踏み切って跳び越える。


「地球でもK(ケルビン)という単位は存在する」

 雅稀は道に置かれた小さな岩石を跳躍で上手くかわし、会話の横に入る。


 何だよ? と利哉は浮かない顔をしながら、木陰から出現した枝葉を間一髪で身を縮めてくぐる。


「絶対温度の単位で、大文字のKで表記する。物理の世界で使われることが多くて、俺らが日常で使っていた摂氏温度の単位に言い換えれば、今日の気温は大体27℃だよ」

「じゃあ、引き算で考えたら、0℃の場合は273K(ケルビン)になるってこと?」

「うん、そう言うこと」

「ふーん」

 利哉はわかったのか、わかっていないのかの微妙な返事を雅稀にする。


「てか、魔術界(ヴァール)で絶対温度が使われているのは意外だな」雅稀は一翔に話を振ると「僕も親から聞いて少しびっくりしたよ」と一翔は足元に集中したまま答える。


「そんなことよりもさ、この試験が赤階級(ロドゥクラス)の取得に関係してるってことに異議ないのかよ」

 利哉は嫌そうな顔をして走り続ける。


「確かに聞いてないけど、どのみち卒業や成績に影響するんだから、高得点を目指すのみだと俺は思ってる」

 雅稀は掘られた溝を軽やかに跳び越える。


「たく、お前の真面目さにはいつも参るぜ」

 利哉は苦笑いし、正面を向く。


 雅稀たち3人は幅員減少し始めた道を駆け、森の中に入っていった。

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