02-11 基礎防御魔術Aの実技試験
その後の昼休みはいつも通り雅稀と利哉と一緒に過ごした一翔だが、次の試験のことで頭がいっぱいだった。
玄米ご飯も、唐辛子で甘辛く味つけしたチョリソーも、美味しいのはわかっていたものの、喉が通らずに基礎防御魔術Aの試験が始まろうとしていた。
そんな一翔は1人で試験教室付近の廊下のベンチに腰掛けている。
『カズ、そんなに気にすんな! オレたち、反逆者たちに認められたんだからさ』と元気づけてくれた利哉。
『不安なのはわかるけど、腹の中に蓄えとかないと本領発揮できんぞ』と心配してくれた雅稀。
(2人とも繊細な僕を気にかけてくれてありがとう。でも、どうしても……)
一翔は胸に右手を置く。
雅稀と利哉には日頃から助けてもらってばかりで感謝しているが、初めて受ける期末試験に対する不安は払拭しきれていない。
一翔はふと思い出したように、ポケットに手を突っ込んで包装されたキャンディーを取り出した。
『糖分だけは補給しといた方が良いぜ。次の試験が終わる前に、エネルギーを切らしてしまっちゃあ元も子もないからな』
にっと白い歯を見せた利哉からもらったハッカ味の飴だった。
糖分を多めに含んでいるかは別問題として、利哉の気持ちが一翔にとって嬉しかったのだ。
一翔は包装を破って飴を口の中に放り込むと、ミントの辛みが口いっぱいに広がり、目の奥が冴えてきた。
飴の包み紙を軽く握りしめて試験会場に入室した。
――***――
迎えた3限目――基礎防御魔術Aの試験が始まった。
2限目とは違って、向かいに用意されているのは訓練棟にある簡易ロボットだった。
闇属性の基礎防御魔術Aの女性担当教員は指を鳴らし、100台の簡易ロボットを起動させた。
「今から基礎防御魔術Aの試験を始める。簡易ロボットが放つ攻撃魔術を適切な防御魔術で受けられるかを見る」
前期で対戦実習の講義が無かったことを踏まえると、難易度が高めに設定されていると一翔は感じた。
受講生は騒がずに冷静な目つきで対峙する簡易ロボットを見つめている。訓練棟で簡易ロボットを用いて練習してきたことが窺える。
簡易ロボットは機械音を立てながら向かいの受講生に近づく。右手に剣を握っている。
一翔は目の色を変えて右手に剣を構える。
彼の相手となったロボットはギュインと素早く左肩に柄を載せ、剣身に紫色の霞が出現する。
一翔がそれを目で捉えたのと同時に、彼の剣身にネイビーに近い青紫色の霧が覆う。
両者の刃から金属の摩擦音が一翔の耳に伝わる。
(今日まで散々練習してきたんだ。ここで挫けて帰るわけにはいかない)
一翔は歯を食いしばりながら、懸命に抗精・闇で対抗する。
しばらくその状態を維持した後、一翔は剣を相手側に押し出すように受け流した。
簡易ロボットはバランスを崩しかけたが、すぐに姿勢を整えた。
(所詮簡易ロボットだからって調子に乗ってたら、赤階級に合格できなくなるかもしれんな)
利哉は自身を戒めながら簡易ロボットが放った球・火を完全に防御し、その構えを解いた。
利哉の対戦相手は頭上に振り上げている剣身が朱色に光った。
(来た! ここは抗奥拉・火だ)
利哉は唇を真一文字に結び、剣身を紅色の光に染める。
ロボットの朱色の剣は頭上から力を込めているように振り下ろす。
一方で、利哉は右下から剣を振り上げ、朱色の剣の進路を遮った。
朱色と紅色の輝きを放つ刃と刃の間には、小さな白い煙が昇っていた。情熱を意味する火属性の熱気が煙と化したようだ。
簡易ロボットは危険を察知したかの如く、後ろに身を引いた。
(この試験科目も制してみせる!)
利哉の好戦的な表情は紅色に光る剣身にくっきり写っていた。
「これまで物理系の技が2連続で来たから、砲弾系が2連続で来るだろうな」
雅稀は簡易ロボットの動きを注視しながら小言を呟く。砲弾系の攻撃魔術を受けないと、試験が終了しないと予測していた。
雅稀と対峙している簡易ロボットは予想通り切先を雅稀に向けた。
やっぱりな、と雅稀は額の近くで剣を横に構え、左手の親指以外の4本指で切先を優しく当てる。
ロボットの切先から水色の太い光線が真っ直ぐに伸びた。
雅稀は眉間にしわを寄せ、切先に魔力を集中させ、そこから剣身に青色の光が流れる。光線・水の防御態勢だ。
ロボットが放つ光線は雅稀の抗光線に吸収されるかのように、雅稀の剣身全体の青い光はみるみる太くなる。
(本当だったら、さっさと受け流して攻撃したいところだけどなぁ……)
雅稀は実際の戦闘シーンを想像したが、試験を理由に我慢して光線・水を防御し続けた。
ロボットの切先から光線が消えると、今度は剣身に淡い水色の水を包んで、雅稀を斬りかかった。
雅稀は太く光り続ける抗光線・水の周りに群青色の水がらせん旋状に巻きつき、ロボットからの攻撃を刃で力強く受け止める。
このタイミングで再び物理系の攻撃魔術が放たれるとは想定外だったが、相手が繰り出す技に対応する防御魔術が何かを瞬時に判断できるようになっている。
すると、ロボットは諦めたかのように切先を雅稀に振りかざし、水色の潤った丸いゼリーが姿を現した。最後の課題の抗球・水だ。
雅稀は抗光線・水を放った時と同じ構えをし、剣身に薄群青のシールドを張る。
ロボットが放った球が抗 球のシールドに触れた瞬間、シャボン玉のように弾け、そこから大量の水が雅稀に降りかかった。
雅稀は反射的に強くつぶったまぶたを開けると、全身がずぶ濡れになっていた。
(今までこんなことなかったのに……)
雅稀は顔を思い切り左右に振る。髪の毛から垂れる水を切るための行為だが、弾けた球から水を被ったことで不合格になるのは嫌だという気持ちの表れでもある。
目線を簡易ロボットに戻すと、奇妙な音を漏らしながら腕を上下に動かしていた。
(こいつ、万歳しているとか、ただの球じゃなかっただろ。腹立つな)
雅稀は目を鋭く光らせると、ロボットは何事もなかったように動作を止めた。
すると、ロボットの近くを通りかかった青髪の男性担当教員はコツンとロボットの頭部を叩いた。
「大丈夫か?」
30代後半くらいの先生は雅稀に顔を向ける。
「あ、はい……」
雅稀は水に体温が取られているせいで身震いしながら返答する。
「なら良かった。今のは球に波動系の技が混ざっていた。こんなことは前代未聞だけど、メンテナンスしないといけないな」
男性教員は簡易ロボットの電源を落としてため息をつく。
雅稀は周りを見渡すと、何人かの学生が被水していた。
まだ赤階級にもなっていない雅稀たちに、簡易ロボットが砲弾系と波動系の技を組み合わせた攻撃魔術を放つとは誰も思っていなかった。
しかし、いずれは2種類の系統の技を組み合わせて対戦することを思えば、受け止められるようにならないといけない。
簡易ロボットが正真正銘不具合なのかはさておき、そういう応用の技も対応できるようになれと雅稀たちに言っているようだった。
こうして、初日の基礎攻撃魔術Aと基礎防御魔術Aの期末試験が終了した。
――***――
2日後の1限目、GFP学院の魔法戦士学科の1年生全員は魔術語学の筆記試験を受けた。
ここまでの試験で無事合格点に達していれば、赤階級が獲得できて、外出許可が下りる――誰もがそう思い込んでいた。
しかし、後に間違いだと気づかされるのであった。




