表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第2章 深海に潜む宝玉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/119

02-08 准教授が語る都市伝説

 雅稀たちは学生寮の369号室に戻り、寝室の近くに敷かれている魔法陣に足を踏み入れた。


 目の前の景色は回転するように変わり、見覚えのある部屋にやって来た。



「新條くんたちか。久しぶりだね」

 紅茶を飲んでいた、魔術研究学科のマーシャル・ディールス・ロザン准教授はティーカップを長机にそっと置く。


 雅稀らがロザン先生の元に訪れたのは、時空移動水晶ヘリクラン・クリスタルで480年前――フェリウル歴8399年の世界へタイムスリップしに行った時以来だ。


「これはこれは……」

 雅稀はよそよそしく頭を何回か縦に揺らす。


「今回は深海にあると言われているパライバトルマリンについて訊きたくて」

 一翔は魔法陣から一歩前へ出る。


「ああ、この大陸では有名な都市伝説だね。僕の知っていることを話すよ!」

 ロザン先生は初めて3人の前で機嫌良く目を輝かす。


(かなり真面目な先生だと思っていたけど、意外に単純な方なのか?)

 雅稀は知らなかった一面を目の当たりにし、心の中で少し驚く。


「まあまあ、立ち話するのもあれだし、座って良いよ」

 ロザン先生は3人分の紅茶を用意しに椅子から立ち上がった。


 ありがとうございます、と雅稀たちは長机の前に置かれたソファーに腰掛けた。



「今回の紅茶はヤシの実の香りがして、まるでビーチに来たみたいです」

 利哉は口の中で冷たい紅茶の香りを楽しむ。


「この地では夏だからね」

 ロザン先生はにこりと微笑む。


「本題ですが、深海にパライバトルマリンがあるのは本当ですか?」

 一翔は上目遣いでロザン先生に尋ねる。


「本当かは知らない。でも、ここでは有名な伝説として言い伝えが残っているという話」


 准教授の話を聞いた雅稀は考え込むように腕を組んで

「ここでは有名ってことは、デュナミス大陸の北西と西側が凹んでいる地形と、シェリル族が深海で生息していることと関係があるのですか?」

 と図書館で調べた都市伝説の内容を絞り出す。


「そう言うこと! 新條くん、よくわかったね!」

 ロザン先生は顔の横に人差し指を立てて笑顔を見せる。


「どういうこと?」

 利哉と一翔は唇をへの字に曲げる。


「シェリル族は、神話の時代とも言える大昔に、デュナミス大陸の西の海辺で生息していた。8000年近く前に、海底火山が噴火するまでは……」

 ロザン先生は何か言いかけたが、その横で

「噴火して、デュナミス大陸の西側が陥没したから、その大陸の北西領域が出っ張ったような地形になったってことですか!?」

 と一翔が口を挟んだ。


 ロザン先生は苦笑いして「そうなんだけどね」と頭を掻く。


「要するに、シェリル族が生息していた昔話とデュナミス大陸とは所縁(ゆかり)があるから、ここの大陸では有名な話なんだ」

 ロザン先生は穏やかな表情に戻って、そう言葉を続けた。


「そのシェリル族って絶滅したと言われてますけど、実は陥没したデュナミス大陸の西の海底に生息している説があるんですってね」

 利哉は図書館で読んでいた都市伝説に関する本を懐から取り出す。


 雅稀と一翔はいつの間にと言わんばかりに目を白黒させる。


「うん。シェリル族は黄緑色の肌をしていると言われていてね、深海ではあまり目立たない色だから、外敵に見つかりにくくて生き延びていると考察している人はいる」

 ロザン先生は利哉が手にしている本をちらりと見たが、即座に視線を雅稀たち3人に戻した。過去にその本を読んだことがあるような反応だった。


 雅稀らが図書館で読んだ時は一部分だけだったが、その本に書かれている都市伝説の結論はロザン先生が話したことが述べられているのだろう。


「なるほど。興味深いですね」

 雅稀は利哉が持っている本に視線を変える。


「ここから、どうやって行けば良いですか?」

 一翔は真っ直ぐロザン先生の顔を見つめる。


「ブルーホールという湖、聞いたことあるかね?」

 ロザン先生の質問に雅稀たちは「はい」と頷く。


「GFP学院から西へ1キロメートル程離れたところに、コバルトブルー色の湖がある。それがブルーホール」

「ブルーホールって、ただの湖ですよね?」

 利哉は訝しげな顔をすると、ロザン先生は「違う」と首を振る。


「ブルーホールは一見湖に見えるけど、底まで潜ると海へ繋がっている洞窟が広がっている。その洞窟を突き進めば、大陸の西側の海に出られる」

「ほぉ……」

 利哉は軽く視線を落とす。


 初めてネアさんたちに会った時、そんな話を聞いたなと微かな記憶を呼び覚ましたような感覚だった。


「ブルーホールがある領域も秘境の地ですか?」

 一翔は脳裏に森林に囲まれた湖を想像する。


「もちろん」

 ロザン先生は即答する。


「実際に足を運んだ人はいますか?」

「いや、ほとんどいない。僕も話だけ聞いて、行ったことはない」

「だから秘境と言われているんですね」

 一翔はティーカップに入った紅茶を飲み干す。


「秘境に踏み入れてしまえば、帰り道を見失うと信じられているからね」

 ロザン先生は真剣な眼差しを雅稀たちに向けた。


「でも、GFP学院は秘境と言われているエリアに建っていますよね? GFP学院にいる人は帰り道を見失うことはないんですか?」

 雅稀の鋭い質問にロザン先生はぎょっとする。


 ロザン先生は咳払いをして

「秘境とそうでないところの境界ギリギリのところに建てられているから大丈夫だよ」

 と自分自身に言い聞かせるように、落ち着いて雅稀に答える。


 雅稀から見たロザン先生は焦燥に駆られているように感じた。

 それ故、ロザン先生の答えは信用できないが、あまり踏み込むとややこしい展開になると思い、表面上納得した表情を作った。


「良かった、わかってくれたようで」

 ロザン先生は雅稀の顔を見て胸をなで下ろす。


「いえいえ」

 雅稀は微笑みとは裏腹に、期末試験に合格して学外へ出られるようになったら確かめてやろうと思索していた。



 シェリル族の話がひと段落したところで、

「パライバトルマリンが本当に深海にあるかがわからないのか……」

 と一翔はがっかりしたように肩を落とす。


「都市伝説である以上は、本当かどうかは断言できない」

 ロザン先生は冷静な顔をして

「しかし、天蒼星(アマネル・ネオ)は広い。デュナミス大陸だけでなく、他の6大陸にも君らが未知のことはたくさんある。外の世界を知ることも、人生勉強だと思うよ」

 と両手を大きく広げた。


「実際に冒険してみて、俺たちの前世やフォール=グリフィンについての情報を収集できる可能性があるってことですね」

 雅稀は空になったティーカップを机に置く。

「その通り。魔法戦士である君たちなら、前世と関係する出来事が起きれば、眠っている力が呼び覚まされて覚醒する」

「……!!」

 雅稀たちは瞠目してロザン先生の話に食らいつく。


「だから、都市伝説が本当かどうかはともあれ、是非外の世界に触れて欲しい。GFP学院生は積極的に学外へ出掛けて楽しむ一方で、魂が前世の記憶を辿って、才能を開花させようとしているとも受け取れる」

 ロザン先生は雅稀たちを凝視する。


 前世のことは全く覚えていない。

 当たり前だ。生まれてくる前に、前世の記憶を全て忘れ去ってこの世にいるのだから。

 ただ、前世は魔術を悪用した罪人だったことは知っている。

 前世と紐づくような出来事を目の当たりにした時、眠っている潜在的な力が爆発して絶大な威力を発揮することを意味している。

 それが現実になれば、フォール=グリフィンに限らず人類を救うことができるかもしれない。


 雅稀は頭の中でその考えを巡らせた。


「オレは興味あるんで、行ってみます!」

 利哉は満面の笑みをロザン先生に見せる。


「僕も、都市伝説が本当かどうか、検証したいです」

 一翔は目を輝かせ「深海にパライバトルマリンがあれば、実際に持って帰って先生にお見せします!」と勢いのあまり宣言してしまった。


「そうか。楽しみにしておくよ」

 ロザン先生は彼らが冒険したいという意欲が感じられて嬉しかった。


「あまり期待しすぎないでくださいよ」

 雅稀は浮かれているロザン先生にひと言放った。


「わかってるよ」

 ロザン先生は苦笑いした後、「明日取りに行くの?」と3人の学生に訊いた。


 雅稀たちはロザン先生に呆れ返った目つきを向ける。


 顰蹙を買ってしまったかと感じたロザン先生は背筋が寒くなった。都市伝説の話でテンションが上がりすぎてしまっていたのだ。


「あの……」

 一翔はその表情を保ったまま口を開ける。

「僕たち、まだ白階級(ブラントクラス)なので学外に出られませんが……」


 ロザン先生は我に返ったように

「そうだった。すみませんねぇ」

 と後頭部を掻く。


「今日、ここに来た時から思っていたのですが、先生って天然なんですね」

 雅稀は瞬きして普段の表情に戻した。


「はは……バレちゃったか」

 ロザン先生は恥ずかしそうに笑った。


「やっぱり」

 雅稀はにやりとロザン先生を見つめ、

「まあ、話は脱線してしまいましたが、赤階級(ロドゥクラス)に昇格したら、夏休みに行ってみます」

 と一翔と利哉にちらりと目を向けて、深海への冒険に興味を示した。


 ロザン先生は頬を緩めてうんうんと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ