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【第3章完結】蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
第2章 深海に潜む宝玉

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02-07 シェリル族とパライバトルマリン

「今日のピーマンの素揚げ、柚の風味が効いてて美味かったなぁ」

 利哉は食べ終えた夕食のメニューを思い出しながら図書館棟の椅子に座り、都市伝説にまつわる年季の入った分厚い本の表紙を開ける。


 そこには天蒼星(アマネル・ネオ)の世界地図が一面に描かれていた。


「そういや、ここの世界地図、未だに見たことなかったな……」

 雅稀は立ったまま、利哉の背後から顔を出して世界地図を視野に入れる。


 地球における世界地図に見立てると、位置関係はこんな感じだ。


 ユーラシア大陸にあたる位置にセラフィム大陸がある。

 ユーラシア大陸とアフリカ大陸の間辺りにドミニオン大陸が、アフリカ大陸の南部にエクスシア大陸が広がっている。

 フィリピンやインドネシア周辺にオファニム大陸があり、天蒼星(アマネル・ネオ)のど真ん中の大陸とも表現できる。大きさはオーストラリア大陸の1.2倍程だろうか。

 カナダやアメリカのアラスカ州辺りにケルブ大陸、メキシコや南アメリカ大陸辺りの縦長の大陸が、今雅稀たちがいるデュナミス大陸である。

 そして、南極大陸と南アメリカ大陸の間にあるのがアルケー大陸だ。


「僕たち、こんなところにいるのか……」

 一翔は小声でデュナミス大陸の北西周辺を見つめる。その辺りだけ少し出っ張りがあるように描かれている。


「大陸が7つあるんだ」

 利哉は息を呑み、全体図を眺める。


 雅稀は利哉の向かいにある椅子に座って

「で、今回の目的は深海とパライバトルマリンだな」

 と両肘を机に載せて発言した。


「ああ」

 利哉はパラパラと本をめくっていくと、突如眉を中央に寄せて手を止めた。


 変化に気づいた一翔は利哉の隣に座り、開いているページに顔を寄せる。


「……フェリウル歴823年まで、天蒼星(アマネル・ネオ)には耳付近に魚の胸びれのようなものがついたシェリル族と共存していた……!」

 利哉は目を丸くしながら本に書かれていることを読み上げた。

 元は魔術語で書かれているが、この本に魔術をかけた一翔のお陰で日本語に翻訳されている。


「フェリウル歴……ここの暦は確かそうだったなぁ。今何年だったっけ?」

 雅稀は近場に掛け時計がないかを目で追ったが、見当たらなかった。


「8879年だよ」

「じゃあ、めちゃくちゃ前じゃん!」

 一翔の答えに雅稀は驚愕する。


 利哉は何も反応せずに、文章の続きを音読する。


「しかし、海底火山の噴火により、シェリル族が暮らしていた大地は陥没してしまい、絶滅したと言われていた」

 利哉は次のページを開いて

「ところが、ある日ダイビングをしたところ、絶滅したはずのシェリル族が深海で生活していたのだ」

 と無表情で文字を読んだ。


「シェリル族か。聞いたことない」

 一翔は腕を組んで椅子にもたれる。


「この本って見るからにボロボロだし、いつ書かれたやつなんだ?」

 雅稀は最後のページを開けた。

 そこには8064年と書かれていた。


「800年くらい前の話か。でもこの本、よく残っているもんだな」

 雅稀はこの本が今でも現存することに感心してしまった。


「マサがそんなところに感心するって、お前らしくないな」

 利哉は顔を上げて薄笑いすると、雅稀は対抗するように「気にすべき点ではないのはわかってるよ」と呆れた声で吐き捨てる。


「まあ、普通に考えたら結構前だよね」

 一翔は顎に手を添えて本を見つめる。


「深海に行けば、シェリル族がいるかもってことだな」

 雅稀は両手を腰に当てた状態で席を立ち、

「あとは、深海の宝玉についてか」

 と本を探しに棚が陳列するエリアに入った。



「さあ、この中に書かれているかな」

 雅稀は宝石に関する本を広げながら椅子に座る。


「あった! パライバトルマリンだ!」

 利哉は興奮しすぎて思わず大声を出した。


 雅稀と一翔は唇の近くに人差し指を立て、鋭い眼差しを利哉に向ける。


「ごめん、つい……」

 利哉は苦笑いした。


「これだ」

 雅稀はパライバトルマリンの写真が載っているページを広げ、向かいの一翔と利哉に見えるように本を回転させる。


「へぇー、結構綺麗だな……」

 利哉は蒼い宝石の美しさに息を呑む。


「パライバトルマリンはブラジルのパライバ州で発見されたことに由来しているけど、魔術界(ヴァール)でも存在するとは」

 一翔は宝石の名称をじっと見つめる。


「銅の含有率が高いから青いんだって」

 雅稀は魔術語で書かれた説明文に目をやる。魔術語はGFP学院の講義で学んだ単語を掻い摘まんでなら読めるようになった。


「銅が入っていたら青いのか?」

 利哉は納得のいかない表情を浮かべる。


「小中学校の理科で、硫酸銅や塩化銅水溶液の色を見たことなかったか?」

 雅稀は視線を利哉に移し、腕組みする。


「そう言えば見た気が……」

「平たく言えば銅が電気を持った状態、つまり銅イオンは青色をしているんだ。だから硫酸銅や塩化銅水溶液は青いんだぜ」

「そっか。忘れてた」

「ちなみに、カタツムリの血液が青いのも、銅イオンが多く含まれているからなのさ」

 雅稀は高校の授業で耳にした話を思い出しながら語った。


「知らんかった!」

 利哉と一翔は目を大きく見開いた。


「ま、パライバトルマリンの青色は、そいつらと比べもんにならんくらい綺麗な色をしているだろうけどな」

 雅稀は再びその宝石の写真に視線を戻す。あまりの美しさに実物をこの目で確かめたくなる気持ちがにじみ出る。


「地球で世界三大希少石に数えられているだけのことはあるね」

 一翔は太ももの上に手を組む。


「もし手に入れたら、億万長者になった気分になりそう!」

 利哉はにやにやした表情をむき出しにする。


「気持ちはわかるけど、飽くまでフォール=グリフィンの輩から命を守るためだぞ」

 雅稀は気分が高揚している利哉に念押しする。


「この宝石が深海に眠っているという都市伝説があるってことね」

 一翔は顔を上げて「これらの都市伝説についてロザン先生に訊いたら教えてくれるかな?」と尋ねる。


 雅稀は一瞬首をかしげたが、

「どうだろうな? 訊いてみたら良い情報が入手できるかもしれんな」

 と若干期待の気持ちを込めて本を閉じた。

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