02-01 練習台の簡易ロボット
1年の前期が終わりを迎えた雅稀たち。深海に守り石と言い伝えられているパライバトルマリンが眠っているという情報を仕入れて、深海へと旅をする。そこには夢のような世界が広がる一方、彼らに試練が待っていた。
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「よーし、いくらでもかかって来い」
胸の前に剣を構えた新條雅稀は2メートル離れた簡易ロボットに低い声で挑発する。
雅稀がGFP学院大学に入学してから3ヶ月半が経過していた。
日照時間が長くなり、暑くなってきた頃だ。
GFP学院生は半月後に期末試験を控えており、勉強している学生もいれば、実技試験に向けて講義で学んだ技の練習に励んでいる学生もいる。
雅稀はルームメイトであり、友人でもある榛名利哉と琉根一翔と一緒に芝生エリア北部にある訓練棟で、物理系と砲弾系の攻撃魔術と防御魔術――いわゆる戦闘魔術の精度を磨いている。
訓練棟は芝生エリアの北にぽつんと小さく建っているが、入り口から繋がっている地下へ行けば、芝生エリア全域を独占する程の広大な空間を所持している。
地下1階は筋力や体力を鍛えるためのトレーニング用品が並び、地下2階から最下層の地下10階は魔法戦士の学生が技や対戦の練習するためのフロアが完備されている。
雅稀らはまだ対戦実習が始まっていないため、地下2階に置かれている黒色の金属板がボルトで繋ぎ留められた簡易ロボットが練習台になっているのだ。
簡易ロボットは背後にあるスイッチを入れると稼働し、一撃を食らわせるとゲームセットとなり、自動で電源が切れる仕組みになっている。
雅稀の練習台としている簡易ロボットは手にしている剣が水色に光り、雅稀の方へ向かいながらゆっくり剣を振り下ろす。
「抗奥拉・水!」
雅稀は刃に魔力を集中させ、簡易ロボットからの攻撃を受ける。
雅稀の刃は澄み切ったシアン色に輝き、刃と刃の間に火花が散っている。
「いくら簡易ロボと言えど、実際に相手するのは人だからなぁ……」
雅稀は刃から視線を離さずに考えていることを呟く。
雅稀は眉間にしわを寄せ、受け流すように剣を左斜めに下ろす。
当初、この時に腕や腰に攻撃が当たって赤く腫れたことはあったが、今はほぼ当たらなくなった。
基本的な戦闘魔術に加え、防御した後の受け流しも上達していると雅稀は身をもって感じている。
「今度は俺の番だ!」
雅稀の剣身は津波の如く荒れる水に包まれる。
「精・水!」
受け流した後の剣の位置から右斜め上方向へ、右腕の腕力を頼りに簡易ロボットの右脇腹辺りを狙って切りつける。
手応えを感じた雅稀は姿勢を保ったまま簡易ロボットを見つめる。
簡易ロボットは機械が停止するような音を立て、剣を胸の中に自動で仕舞った。
「短時間で簡易ロボを相手に勝てるようになったな」
雅稀は剣を下ろして、簡易ロボットに近づく。
「まだ昼まで20分くらいある。それまではもう少し付き合ってもらおう」
雅稀は簡易ロボットの背中にあるスイッチを押すと、再起動して胸の扉から再び剣が現れた。
「朝飯食べてから4時間近く動きっぱなしだから腹は減ってるけど、期末試験に受かるためには多少の我慢は必要だからな」
雅稀は簡易ロボットから少し距離を置き、両手で柄を握って簡易ロボットと再び対面した。
「光線・闇!」
一翔は簡易ロボットに向かって切先を向ける。
切先から青味がかった紫色の光線が伸びる。
簡易ロボットは真横に剣を構え、一翔の技を受ける。
「僕の技がどこまで耐えられるか試してみよう」
一翔は体中を巡る魔力を切先に注ぐイメージを描いた。
切先から伸びる光線は瞬時に太くなり、威力を増す。
簡易ロボットは金属製の腕を震わせながら必死に防御する。
受け手が持つ剣は切先から紫色の光が剣身全体を包むようにように輝いている。抗光線・闇の防御魔術だ。
「簡易ロボットって言ってるけど、本体の作りが単純だからそう呼んでるだけで、僕らと互角に戦えるように計算されているんだろうな」
一翔は簡易ロボットを睨みつけて
「だったら、ロボットが計算していない技とかを食らわせたら勝てる可能性はあるな」
と無数の小さい球が集まった太い光線を意識し始めた。
一翔の技は見た目も威力も変化していないが、簡易ロボットが必死で受けている剣はピキッと何かがひび割れる音を立てた。
一翔は異変を感じて目を細めると、簡易ロボットが握っている剣の剣身がパキーンと乾いた音を響かせて2つに分断された。
切先から剣身中央付近までの部分は床に落ち、一翔の技は簡易ロボットの顔面に直撃した。
ゲームセットで、簡易ロボットの電源が落ちた。
「小さい球が集まって光線を出しているところまで、ロボットは計算されていなかったんだ」
一翔は開いていた足を閉じて
「魔法戦士の戦いは案外頭脳戦のところがあるのか」
と右手に持っている剣を眺めた。
そこには真剣な顔をしている一翔が映っていた。
「これでも食らえ!」
利哉は切先を簡易ロボットに向け、足を広げる。
「球・火!」
利哉の切先からマグマを思わせる火球が現れる。
「火属性は情熱を表す属性なんだ! オレの情熱に勝てるかな?」
利哉は好戦的な態度を簡易ロボットに見せつける。
彼の切先から出ている火球は直径1メートルにまで膨らんでいた。
「オレの身長は178センチだから、等身大の球・火をお見舞いしてやるか」
利哉は嬉しそうな表情を浮かべたが、火球のサイズは1メートルから大きくなっていない。
(ダメだ。ちょっと調子に乗りすぎたか……)
利哉は少し反省して切先に魔力を集中させる。
「あんまり変なこと考えてたら、メイリアさんに怒られちゃうな」
彼は苦笑いしながらも、集中力と情熱を絶やさないように、球・火を出すことに専念する。
大きさが止まっていた火球は再び巨大化し、遂に利哉が目標としていた直径178センチメートルまで成長した。
「オレと等身大の火球、そして熱く籠もった情熱の賜物だ!」
大げさなことを言ってしまったかと利哉は思ったが、どこを狙うかを考え始めた。
(あそこだったら、一撃だ……!)
さっきまでお調子者だった利哉は冷静になって狙いを定め、球・火を放った。
火球は双曲線を描き、簡易ロボットの左腰辺りへ接近した。
簡易ロボットは左腰に剣を構え、抗 球・火で受け体勢体勢をとる。
簡易ロボットの剣身から赤色のシールドが現れる。
火球は簡易ロボットの左腰に当たるか……と思いきや、そこを僅かに通り過ぎて尾てい骨にあたる部位に直撃した。
その後、利哉と等身大の火球は簡易ロボットを丸呑みにした。
火球は中心から外側へ消え、簡易ロボットの姿が現れた。
魔法戦士を相手に作られているが故に壊れていないが、一撃を与えたお陰で電源が切れていた。
「オレの勘が当たったな。正面から技を放って背後に攻撃したら勝てた」
利哉はさっぱりした気持ちで左腕にはめている腕時計に目をやる。
「あれ、もう12時か。さすがに腹減ったし、マサとカズを呼んで昼飯にするか」
利哉は握っている剣を魔術で消滅させ、離れたところにいる2人を探しに行った。




