01-38 防御魔術の砲弾系――抗球(アンチスフィア)と抗光線(アンチレーザー)
「あんた、やればできるじゃない。気に入った」
メイリアは紅色の虹彩を輝かせる。
「出来損ないのオレを気に入っていただけるとは、恥ずかしいです」
利哉は抗精・火を放っていた剣を下ろす。
「へぇ、負けず嫌いのトシくんがシャイな一面があるなんて、可愛いとこあるねぇ」
メイリアは歯を剥く。メイリアは純粋に笑っているだけだが、利哉には向けられた怪しい眼光のせいで何かを企んでいるように映っている。
「やめてくださいよ」
利哉はメイリアを軽く睨みつけた。
「純粋にそう思っただけなのに、あたしの気持ちを踏みにじったわね」
メイリアは木漏れ日から差す陽の光で反射する切先を利哉に振りかざし、今にも球を発射しそうな姿勢をとる。
利哉は恐怖で顔を歪ませ、「すみませんでした!」と身震いする。
「そうやって謝れば良いのよ」
メイリアの虹彩は相変わらず怪しい光を放ったまま、切先は赤髪の年下男子に狙いを定めている。
(この人、何をする気なんだ……?)
ガクガク震える利哉を察したのか、メイリアは真剣な目つきに変わった。
「次は砲弾系の防御魔術について教える」
それで切先を自身に向けていたのか、と利哉はやっと状況を把握した。
「相手が球を放ったら、抗球で防御する」
メイリアは剣の先端を左手に当てると、剣身の前に長方形のシールドが張られる。赤みを帯びた橙色をベースに、正八角形の模様が紅色で縁取られている。
「楯で球を弾くイメージですか?」
「そんなところね」
「テニスボールをラケットで打つ様子をイメージしたら良いんですね」
利哉はメイリアの姿勢を真似し、ラケットのフェイスを想像すると、赤一色のシールドが剣身の前面に出現する。
「てにすって何?」
メイリア利哉が放っている抗球・火より、言葉を気にする。
「知らないんですか? オレが元いた世界はテニスというスポーツ競技があって、中央に張られたネット越しにラケットでボールを打ち合うのがあるんです」
「面白いスポーツってのがあるんだ。トシくんはテニスっていう競技をやってたの?」
「いや、オレはバスケットボールをやっていました。1つのボールを2つのチームが奪い合いながら、305センチメートルの高さに設置されたリングにボールを入れて得点を競い合うスポーツです」
利哉は中学から高校まで部活動でやっていたバスケットボールの記憶が蘇る。3ポイントシュートを決めたり、ダンクシュートを叩き込んだりした日々が懐かしい。
そのお陰で、利哉の身長は178センチメートルと雅稀と一翔よりも高い。
「非魔術界には面白い競技があるのね」
メイリアは未知のスポーツに関心を抱く。魔術界にある競技と言っても、魔法戦士同士の剣戟や、手品師によるマジックやイリュージョン、サーカスしか存在しないからだ。
「テニスやバスケだけでなく、バレーボールやサッカーなど、他にもたくさんありますよ」
勉強よりも体を動かすことが好きな利哉は興奮し、饒舌になる。
「そうなんだ」
メイリアは改めて利哉の抗球に目をやると、切先をシールドに向け、テニスボール並の球・火を放つ。
利哉は気を引き締め、球を防御することに集中する。
利哉の赤一色の抗球・火とメイリアの球・火がぶつかり合うと、お互い一歩も譲らずに対抗している。
メラメラと燃え上がる火球と、その進行を妨げるシールドの接触面は橙色の火花が散っている。
火球の温度と摩擦熱で指一本でも触れると大火傷するのではないかと、利哉は集中力を絶やさずに目を凝らす。
防御することに夢中になっている彼に対して、メイリアは余裕のある顔持ちで切先を真っ直ぐに構えたまま、自身が放った球・火と行く先を阻むシールドの行方を見守る。
「できてますか?」
利哉は鋭い目つきで球を受けながら尋ねる。
「できてる。やるわね。スポーツで例えを出せば理解できるのね」
メイリアは構えを解くと、放った火球は燃え尽きるように姿を消した。
「それって、オレを馬鹿にしてません?」
利哉も抗球の構えを解き、嫌気が差した目つきをメイリアに向ける。
「馬鹿にされてると思ってるんだったら、そう思われないように努力しなさいよ!」
メイリアは声を張り上げると、再び切先を利哉に振りかざす。
「てことは、オレを馬鹿にしてますね」
利哉は呆れながら切先を左手に添え、剣を横に構える。抗球と来たら、今度は光線の防御魔術、抗光線の話があると彼は直感した。
「あたしが次に何を話すか、予測してたみたいね」
先程の黄色い声がメイリアとは思えないくらい、落ち着いた声で語りかける。落ち着きのあるセルラの声と同じように聞こえた。
「抗光線ですよね」
オレだってやる時はやるんだ! と利哉はふつふつと湧き出る熱意の眼差しが、横に構えている剣越しに立っているメイリアを覗き込む。
「あんたの勘の鋭さは認めるわ」
メイリアはひと息つき、
「抗光線は切先を起点に、剣身に光が流れるように包み込むの。剣身全体に光らせる抗奥拉とは違うから、気をつけて」
返事する間もなく、利哉は切先に魔力を集中させ、そこから剣身へ光が流れるイメージを描く。彼が横に構えている剣は、切先から流星の如く橙赤色の光の筋が剣身を覆い隠す。
「そう、それが抗光線・火よ。覚えておきなさい」
メイリアは切先からローズピンクの光線を放つ。中心部は白に近い色をしているが、外側へ向かってローズピンク色が濃くなっている。
利哉の抗光線にメイリアの光線が衝突すると、光線が利哉の抗 光線を打ち破るような勢いで食らいつく。
「ま……負けるもんかぁーっ!!」
利哉は声を上げ、両腕をピンと張り、魔力を切先により集中させる。
彼の抗光線は威力を増し、橙赤の光の筋が太くなり、メイリアの光線を押しのける。利哉が力尽くで防御しても、相手にダメージを与えるまでの魔力は備わっていないが、メイリアの視点では、見習いにしては十分に防御できていると認識していた。
「よしっ、OK!」
メイリアは光線を放つのを止め、握っていた剣は姿を消した。今日の特訓が終わったことを暗示している。
「はぁ、はぁ……」
利哉は構えていた剣を下ろし、両手を膝に当てて呼吸を整える。
「物理と砲弾系の攻撃魔術に続き、防御魔術を教えたけど、相手が放った技の種類が何かを見極め、そして相手の隙を見て攻撃魔術を叩き込めるようになれば、一人前の魔法戦士の道が開ける。これから頑張っていきなさいよ」
「はいっ!」
利哉は僅かに残された気力を振り絞って返事をした。




