01-37 防御魔術の物理系――抗奥拉(アンチオーラ)と抗精(アンチスプリット)
昼を迎え、30分程度の休息を取り終えると、物理と砲弾系の防御魔術についての伝授が始まった。
「防御魔術は相手が繰り出す攻撃魔術と合った魔術でないと、防御に失敗する」
セルラは両手で柄を握り、真剣な眼差しを雅稀に向ける。
「攻撃魔術と合った防御魔術とは……?」
雅稀は頭の整理が追いつかず、両目を普段の半分程度に細める。
「例えば、マサくん、さっき教えた奥拉・水を放ってみて」
セルラの言う通りに剣身に魔力を注ぐと、雅稀が胸の前に構えている剣身はスカイブルーの光に包まれる。
「防御魔術は攻撃魔術の前に『抗』がつくのだけど、相手が奥拉を出せば、抗奥拉で防御しないと失敗するってこと」
「相手が奥拉を放ったら奥拉で防御すれば良いって話だったんじゃあ……?」
雅稀は剣身に魔力を注ぎ続ける一方で、眉毛をへの字に曲げる。
「まあ、そう言うこと。抗奥拉は攻撃魔術の奥拉と同じで、魔力を剣身に注いだ状態で、受け止める」
セルラは剣身に魔力を注ぎ込むと、一瞬にして剣身はセルリアンブルーの光に包まれた。
彼女は剣を横に倒し、雅稀の奥拉・水を受け止めるべく前方に振ると、カキーン! と2人の刃が接触する。
「相手の攻撃魔術に合った防御魔術を出すと、こんな感じで受け止められる」
雅稀は試しに剣を前方に押してみるが、セルラの剣はびくともしない。階級の違いは関係あるだろうが、基本的に相手が放った攻撃魔術に合った防御魔術、今回で言えば奥拉で来れば抗奥拉で対抗すれば防御できる。
「ところが、私が精に対する防御魔術、抗精で受けると……」
セルラの剣身を包む光は青色の水に姿を変えた。刹那、雅稀の剣身をまとう光は強度を増した。
「うわっ!」
雅稀は反射的に目をつぶった。
「あなたの奥拉・水の強度が増したのがわかったと思う」
セルラの視線は雅稀の奥拉を必死で耐えようとする彼女の剣身にある。彼に防御魔術を教えているとは言え、負けていることに若干悔しさを噛みしめている。
「後で話すけど、抗球とかで防御するとわかりやすいかな」
左手を柄から放し、切先に添えると、剣身に張っていた水は消え、水色のシールドが現れた。
「よく見てて」
セルラの額は汗ばみ始める。
雅稀は彼女の様子から嫌な予感を察知し、固唾を呑む。
雅稀がさっきから出している奥拉の光は、セルラが張っているシールドの魔力を吸収しているのか、地上を照らす太陽の光の如くギラギラと輝く。
やがて雅稀の刃はセルラのシールドを両断し、剣身を押しのけ、彼女の左肩に奥拉・水が直撃する。
ピリッとセルラのローブが破け、切り傷から血がにじみ出た。
「あっ……」
怪我をさせるつもりはなかったのに……と雅稀は衝撃の光景を目の当たりにし、どうすれば良いかがわからず狼狽える。
「すみません、怪我をさせてしまって……」
雅稀は光を失った剣を下ろし、頭を下げる。
「大丈夫。これくらいなら回復魔術で簡単に治せる」
セルラは患部に右手を置き、撫でるように動かすと切り傷は跡形もなく完治した。
「それに、私たちは肉体を脱いだ魂だけの状態だから、肉体に差し障りはない」
「であれば……」
良かったです、と雅稀は言いかけたが、言わない方が正解だと思い、口をつぐんだ。
「防御魔術は相手が放つ攻撃魔術がどの技に該当するのかを見極めることが大事。今日は物理系と砲弾系の防御魔術の方法をひと通り教えるから、少しずつ上達していってよ」
「わかりました」
雅稀は再び剣を前方に構えた。
「相手が奥拉で攻撃してきたら、抗奥拉で防御すること。やり方は奥拉と同じ、魔力を剣身に注ぐだけ」
雅稀は何も考えず、ただ剣身に魔力を注ぐイメージを脳裏に描く。剣身は先程奥拉を出した時と同じスカイブルーの光に覆われる。
「じゃあ、私の奥拉を受け止めてみて」
セルラが握る剣は天色に輝き、ゆっくり前方へ振り下ろす。
雅稀は押し出すように剣身で彼女の奥拉を受け止める。
「抗奥拉と奥拉の出し方が同じと言うことは、仮に俺の魔力がセルラさんより高かったら攻撃魔術の奥拉に変わることがあるんですか?」
雅稀は柄を両手でしっかり握りながら、ふと疑問に思ったことを尋ねる。
「実際にはあり得る。でも、今の魔力のステータスは私の方が上だから、攻撃魔術の奥拉として私に打ち勝つのは先の話だね」
セルラはキュッと口角を上げる。自分が駆け出しの魔法戦士より勝っていることに自信を持っている。
そのことに気づいた雅稀は「セルラさんは物静かな方だと思ってましたけど、剣を握ると好戦的になるんですね」と双眸をセルラに向けた。
セルラは一瞬目を丸くしたが、即座に無表情に変わり
「今日が初対面なのに、よくわかったね」
と雅稀をじっと見つめる。
「メイリアさんとネアさんに比べると寡黙な印象だったんですが、俺に攻撃や防御魔術を教えてくださっているセルラさんが、どこか楽しそうに感じたので」
雅稀は感じたことを素直に伝えた。戦いを好まない性格だと思っていたが、剣を手にした途端、人が変わったように口数が多くなったり、勝ちたい気持ちが顔や言葉に表れたりしていたことから、戦いが好きなのだろうと分析していたのだ。
「あなた、鋭いのね。この意気で抗精に移るよ」
セルラの天色に光る剣身は水に変化し、緩やかに流れる小川のように動く。
「ほらっ、精と同じように技を出して」
「は、はい!」
雅稀は変化に富む水のイメージをしながら、剣身に魔力を注ぐ。光に包まれた剣身は滝の如く水が勢いよく噴き出る。
セルラの精は一見威力がなさそうに見えるが、雅稀の抗精を今にも打ち砕きそうなくらい迫力がある。彼はせめぎ合う刃を凝視し、必死に受け止めるが、腕がちぎれそうだ。
「なかなかやるね。今の私の精は普段の3分の1の力だけど、何とか防御できているね」
「これで普段の3分の1なんですか!?」
雅稀は思わず驚愕した。半分の力にも満たない精を受け止めるのに必死になっている自分が馬鹿馬鹿しくなった。
「私は生まれながら魔術に触れてきたし、魔法戦士として剣を握り始めてから5年が経っている。これだけ力の差があるのは当然よ」
そう言われると、セルラの言う通りだ。剣を握るどころか、魔術に触れ始めたのは僅か数日前だ。前世は魔術を悪用したとはいえ、生まれ変わってから1度も魔術に触れていなかった故、上手く使いこなせないのは当たり前だ。
セルラは柄を握っている手の力を少し緩めると、剣身に張りつく水の量は次第に減っていく。
それに伴い、彼女の精の威力が弱まったが、雅稀は油断せずに抗精で集中力を切らさずに防御し続ける。
「はい、一旦そこまで」
セルラの声が雅稀の耳に入ると、剣身に魔力を注ぐのを辞め、剣を下ろす。
「物理系の防御魔術のやり方は物理系の攻撃魔術と同じ。わかった?」
「はい」
雅稀は真面目な面持ちで返事したが、抗精でセルラの精を受けた影響で上腕は小刻みに震えていた。
「良いね、その調子!」
ネアは紫色に光る剣身を必死で防御する一翔の様子を見て微笑む。
「ぐっ……重い……」
一翔は奥歯を噛みしめ、抗 奥拉・闇を放ちながら心境を吐露する。
「いつもの4分の1くらいだけど、君も経験を積めば軽々しく受け止められる日が来るよ」
「ネアさんの4分の1の力で苦戦している僕は全然ですね」
「そんなことはない。君はGFP学院に入学して、魔術を本格的に使うようになってから1週間も経ってないだろう。これから力をつけていけば良い」
ネアは力の入った眼光を剣身に向けると、光に包まれていた剣身は桔梗色に染まった霞に変化する。
「こうなったら、何で防御したら良い!?」
ネアは勢い余った声で一翔に問う。
(正義を貫く闇――)
一翔は心に闇属性の意味を唱えると、剣身は抗奥拉の輝きから抗精の藤色の雲に覆われ、ネアの攻撃を刃で受け止める。
「抗精・闇です」
ようやく、一翔は研ぎ澄まされた目をネアに向け、彼女の質問に回答した。
「正解。君のステータスなら赤階級目前さ」
ネアは希望を託したような表情を浮かべる。
「本当に赤階級になれるんでしょうか?」一翔は視線を落とすと、ネアは「ああ、なれる。頭の回転が速いカズくんなら」とフォローする。
「不安ですけど、フォール=グリフィンに打ち勝つために頑張ります」
一翔は意気込み、剣身に魔力を集中させる。彼が放っている抗精の雲は密度を増し、腕力を利用してネアの精・闇を押し返す。
「君なら打ち勝てるさ」
剣を押し返されたネアは少し驚くが、一翔の物理系の防御魔術の読み込みの早さに教え甲斐を感じた。




