01-35 攻撃魔術の物理系――奥拉(オーラ)と精(スプリット)
「私の潜在属性は木、顕在属性は水。マサくんの潜在属性は水だから、まずは水属性の攻撃魔術の基本について教えるね」
この時、セルラからメイリアとネアの潜在属性と顕在属性の組み合わせはそれぞれ光と火、闇と風であると教えてくれた。
「そもそも、顕在属性って何ですか?」
雅稀は向かいに立っているセルラに尋ねる。
「顕在属性は後から自発的に習得した属性のこと。潜在属性は元から自身が持っている属性だから対の関係にある」
「つまり、潜在属性は先天的に備わっている属性で、顕在属性は後天的に身につけた属性ということですか?」
「その通り。理解が早いね。私の場合、水属性は顕在属性ではあるけど、潜在属性であろうと基本は同じ。顕在属性は大学院修士課程へ進んだら習うよ」
セルラの右手から剣が現れ、
「早速、物理系の攻撃魔術からいくよ」
と目の前に剣を斜めに構えた。
「はい!」
雅稀は講義で習った剣の出し方を思い出しながら目を閉じる。
柄を掴んだ感覚をしたところで目を開ける。
そこには真剣な目つきをしたセルラが剣を下ろしていた。
「物理系、砲弾系、波動系の技はそれぞれ2種類の技が存在する。まずは物理系の技の1種類目、剣身に属性の色を光らせる奥拉」
セルラの剣身が徐々に水色の光の強度を増す。
「これが攻撃魔術の中でも基本中の基本。やってみて」
セルラからそう言われた雅稀は剣に精神を集中させる。
しかし、雅稀の剣身は全く光らない。
「精神を集中させるんじゃなくて、魔力だよ。『奥拉・水』って力強く言ってみて」
(魔力……そうか。魔法戦士が攻撃したり防御したりする時の技は、すべて魔力が関係しているのか)
雅稀はセルラの話を聞いて何となくわかった気分になった。
「奥拉・水!」
雅稀はセルラの言う通りに声を上げて体中に巡る魔力を右手に集中させる。
すると、雅稀の剣身が淡い水色に光り始めた。
「うん。そんな感じ」
セルラはこくりと頷き、左手を雅稀の前に伸ばす。
彼女の目前に等身大の藁人形が現れた。
「この状態で藁人形を切り裂いてみて」
セルラは剣を握ったまま腕を組み、雅稀を見守る。
雅稀は左手で柄を支えて右肩の近くに剣をゆっくり構える。
「やーっ!」
雅稀は剣道をやっていた頃を思い出しながら、藁人形に向かってぶんと剣を大きく振り下ろした。
藁人形はスパンと竹が真っ二つに割れるように分断された。
「初めてにしては上出来」
セルラは口元を緩めると、雅稀は少し嬉しそうに笑う。
「練習を積んでいくと魔力が上がっていくから、怠らないようにね」
セルラは切れた藁人形に手をかざして魔術をかける。
今度は藁人形が横一直線に10個並ぶ。
「今のマサくんなら、一気に切り落とせると思う」
急にハードルが上がったなと雅稀は藁人形を睨みつけ、もう一度剣に魔力を集中させる。
剣身が水色に光ったのを確認したところで、剣を左腕の近くへ構えた。
「だりゃーっ!」
真横に剣を振って藁人形を薙ぐ。
何とか10個すべて切り落とせたが、思ったより腕力が必要だと雅稀の腕は感じていた。
セルラは目を丸くして
「やるね。もう1回やって、クリアしたら次ね」
と再び藁人形を10個召喚した。
雅稀は既に息を切らしているが、歯を食いしばって奥拉・水を唱える。
体中の魔力を右手、ではなくその先に構えている剣身に行き渡らせるように集中してみた。
彼の剣身に光っている色はあんなに薄い水色だったのが、今や深海を思わせる神秘的な群青色に輝いている。
セルラがはっと驚くのも束の間、雅稀は無言で藁人形たちを横一直線に潔く切り裂いた。
ふぅーっと呼吸を整える雅稀に
「……コツを掴んだみたいね」
とセルラは驚いた声を漏らしながら頬を緩める。
「はい。剣身に魔力を集中させたら、俺の想像以上に威力が出たみたいで」
雅稀は満足そうに後頭部を掻いた。
「何も言わなくてもわかってるじゃない。じゃあ次、物理系の2種類目、精」
セルラの振り下ろしている剣から水が現れた。
一方で、利哉は気の強いメイリアにしごかれながら、奥拉・火を必死になって練習している。
「ちょっと! そんなんじゃあ砲弾系の技は疎か精すら出せないわよ!」
メイリアは厳しい目つきで利哉の剣身の光の度合いを凝視する。
微かに赤く光っているのがわかるが、魔力を剣身に集中させていないのをメイリアはわかっていた。
「そんな急に精とか言われてもわからないですって……!」
利哉は開き直るかの如く吐き捨てたが、メイリアには通用しない。
「あのね、どこに魔力を集中しているの?」
メイリアは呆れ返って利哉に尋ねる。
「胸辺り……」
利哉は冷静になって心臓の位置辺りを見つめる。
「胸辺りから光線を出すなりして、相手を攻撃するの?」
メイリアは腕を組んで眉毛をへの字に曲げる。
「……!」
利哉は閃いたように目を大きく開けた。
「そうか、剣本体だ」
利哉は小声で呟いて両手で柄を握って魔力を剣に集中させる。
さっきとは見違える程、利哉の剣身は薄赤く光り始め、熱気も感じられるようになった。
利哉は用意された藁人形に向かって「てやっ!」と頭上から薪を割るように剣を思い切って振り下ろす。
パコンと弾ける音を響かせながら藁人形は2つに割れた。
「ふうん。やればできるじゃない」
メイリアはニヤリと歯を見せ、割れた藁人形から姿を現した利哉を上から目線気味で褒める。
やった! と利哉の内心は喜んでいた。
メイリアは軽く辺りを見渡すと、セルラと雅稀が物理系の精の練習をしていたのを捉えた。
「あら、マサくんはもう精の練習に入っているわね」メイリアが口にすると利哉は悔しそうに「あいつに先越されてたまるか」と険しい表情に変わった。
「マサくんとは友達じゃないの?」
「友達だけど、あいつには負けたくないんです!」
「へぇ……良いこと聞いちゃった」
メイリアは何かを企んでいるような笑みを見せた。
その表情を見た利哉は、出来が悪かったらマサを出しにして、負けず嫌いの性格に火を点けにいくだろうなと感じて、顔を少し引きつらせた。
メイリアはまさしくそうするつもりで考えているが、勘の鋭い利哉から見抜かれていることに気づいていない。
「はいっ、この意気でもう1回やるわよ!」
メイリアは藁人形を横一直線に10個召喚した。
「え? まだ奥拉・火の練習をするんですか?」
「あったり前よ! 基本中の基本ができてないと精の技を出すなんて夢の夢の世界だわよ!」
「そんなぁ……」
「嫌味を言っていると、フォール=グリフィンどころかマサくんに勝てないよ! 良いの?」
「……ちっくしょうめい!」
利哉は半分やけくそになって剣身に赤い光をまとった。
「もうちょっと冷静になりなさいよ! さっきの熱気はどこ行ったのよ?」
メイリアは興奮している利哉を黄色い声で落ち着かせる。
利哉は我に返った顔をして気持ちを静めた。
「負けたくない気持ちはわかるけど、最大の敵は自分自身にあるの。このことを頭の中に入れておきなさい」
メイリアがそう言い放ったが、利哉は既に技に集中していた。
「話が耳に入らないくらい技に専念するのは良いことだけど、あたしの肝心な話を聞いてほしかった」
メイリアは目を軽く閉じてぼそっと呟いた。
彼女が目を開けると、利哉が握っている剣身はルビー色に輝いていた。
それに加え、利哉の気持ちが制御された静かな情熱を遠くから感じられるくらいに成長していた。
メイリアはどれどれと藁人形の間から利哉を覗き込むように、技の行方を見守る。
「奥拉・火!」
利哉は技の名前を唱えてX字に剣を素早く振った。
10個の藁人形は四方八方に散らばった。
少し前まで奥拉をまともに出せなかった利哉と比べると、基本中の基本を身につけた利哉がメイリアにはかっこよく映っていた。
「合格! この感覚を忘れないで。ようやく精に移るわよ」
メイリアのようやくという台詞が利哉にとって余計な一言に感じたが、いずれ訪れるフォール=グリフィンとの決闘に備えて取り組もうと腹をくくった。
利哉が精の練習を始めた頃、雅稀はその技のポイントを掴みかかるところまで到達していた。
雅稀は無言で剣身に集中するが、肝心の水は樋の周辺しか現れていない。
これでは相手に攻撃が当たらない。
「水の特徴は変化に富む。さっきの奥拉は魔力を剣に込めれば出せるけど、精となれば、各々の属性の意味合いを理解していないと出せないの」
セルラは目を細めて技に専念する雅稀にアドバイスを送る。
雅稀は入学式後に行われたオリエンテーションで、マルス学科長が話していたことを思い出した。
――炎のような情熱を表す火属性。多様な変化に富む水属性。恩恵を与える木属性。大気を操る風属性。希望をもたらす光属性。正義を貫く闇属性――
そうだった。水は丸い容器に入れれば丸く見える。四角い容器に入れれば四角に見える。時には雨として滴になる。様々な形に変化できる……
雅稀は改めて剣身に魔力を注ぐと同時に、変化に富む水を頭の中で思い描く。
水で潤う剣身を想像しながら息を整える。
ぱっと目を開けると、構えている剣身全体に水が張りついていた。
セルラへ目をやると、深く頷いていた。
「よしっ、このまま……」
雅稀は右肩に剣を構え、なだらかな斜線を描くように振り下ろした。
立ちはだかる藁人形は剣身に張りついた水に濡れながら斜めに分断された。
セルラは黙って小さく拍手をして「マサくん、さすがだね」と教え甲斐を感じた嬉しそうな顔をする。
「いや、まだまだですけど……」
「ううん、上等。これら2つの物理系の技とこれから教える砲弾系の技を習得したら、赤階級に近づくよ」
「いくら近づくとは言え、防御魔術も使えないといけないんじゃ……」
雅稀は若干不安そうにするが、セルラは表情を緩めて
「あなた、真面目なんだね。属性の意味合いと物理系の技で言えば奥拉と精ができていれば防御できる」
と腰に両手を当てる。
「それって、相手が奥拉で攻撃してきたら奥拉で、精だったら精で防御すれば良いってことですか?」
「そう言うこと。よくわかってるね」
セルラは腕を組んで目を光らせる。
雅稀からすると、セルラの言動と仕草がネアと似ているなと感じた。
「ただ、砲弾系となると話が変わってくるから注意ね。このあと、砲弾系の攻撃魔術について教えて、昼から物理系と砲弾系の防御方法について教える」
セルラは真面目な眼差しで雅稀を見つめた。
(1年の前期に学ぶことを一気に叩き込まれるのか……)
雅稀は一瞬目の前が暗くなったが、「お願いします」と胸元に剣を構えた。




