01-32 脱退の決め手
「朝礼が終わって、朝食を摂った後は順次訓練に取り組む。魔法戦士は1階のこのフロアでひたすら技の習得と実践に励む。真上のフロアは魔術研究者が遠隔で魔術界反転世界で行われている大会の様子を記録し、分析している」
ネアはフォール=グリフィンの魔法戦士が散らばって1対1で戦っている様子を視野に入れる。
「ここでよく練習している技の系統は物理系と砲弾系だけど、これらを磨いたところで、GFP学院の学生らを倒せなかった」
ネアのどこか悔しそうな気持ちが顔に表れる。
訓練に取り組むフォール=グリフィンのメンバーは剣身に炎や怪しげな紫色の暗雲をまとってぶつかり合ったり、切先から雷を伴った大きな水の球を放ったりと迫力のある戦いを見せる。
魔法戦士初心者が天井から眺める限り、技の威力で潰されそうになる。
けれども、GFP学院生に勝てずにいるのは、何か深い理由が隠れているのだろう。
「わたしが大学を卒業する頃、学部生の部門で学生大会に出た。あの時、フォール=グリフィンで修業した成果を発揮しようと頑張った。準々決勝で初めてGFP学院の学生と当たったけど、技が完全に防御されて切り傷は疎かかすり傷も入れられなかった」
真剣な目つきをするネアだが、彼女の後ろに立っているメイリアとセルラは大会の記憶を思い出したのか、無念そうに視線を落とす。
「何が原因で負けたかを考えたところ、波動系の技でやられたと気づいた。現実世界とは真逆のことが起きているのが反転世界であるのは、入った時から知っていた。反転世界でGFP学院生を打ち負かしている技の系統は物理系と砲弾系。でも、現実世界でGFP学院生が他の大学生を打ち負かしている技の系統は波動系だった」
ネアはまぶたを閉じて静かに呼吸をする。
「それで、現実世界と反転世界は何もかもが真逆なんだと思い知らされた。このことを仲間に告げても、頬を叩かれて聞き入れてくれなかった……」
まぶたを開けたネアのクールな目は怒りの感情が込められていた。
「反転世界ではなく、もっと現実を見た方が良いと思うのに、こいつらはドナデュウ様の意思に背く気か!? の一点張り……」
メイリアは顔を少し上げて首を左右に振る。過去にそう言われたことが心の傷になったのかもしれない。
「固定概念が強すぎると言ったところですかね?」
雅稀の質問に反逆者たちは息を合わせて首を縦に振る。
「それじゃあ、今の時代に遅れを取りますね」
利哉は汗水を垂らしながら訓練している人らを小馬鹿にする。
「ああいう風に言われたのは気が悪かった。辞める決定打となったのは、それから数日経ってからだった……」
セルラの瞳から悲しさを感じた。
「その理由は真上の魔術研究者がいる部屋にあるの」
メイリアは天井を突き抜けて2階の部屋へ移動し、残りの5人も彼女の後を追った。
2階の大部屋は巨大なスクリーンが壁に沿って5枚並べられている。
スクリーンの真下に映像を操作するコンピューターがあり、フォール=グリフィンのメンバーがスクリーンと睨めっこしながら必死で記録している。
5枚のスクリーンを左側からゆっくり眺めると、反転世界で行われている大会の様子が映されている。
しかし、最も右側のスクリーンは魔法戦士同士が必死の思いで殺し合っている様子が映されていた。
それを見た雅稀と利哉、一翔は一瞬で血の気が引いた。
「……そう。殺し合いをしていたことを知ったのが脱退する決め手となった」
セルラは目を閉じて右側のスクリーンからそっぽを向く。
「まさか、フォール=グリフィンがそういう組織だと、あたしたちは気づかずに過ごしてきたから騙されたような感じだったわ……」
メイリアの薄紅色の目は憎悪の気持ちで燃えている。
「そもそも、フォール=グリフィンに入ったきっかけは何だったんですか?」
雅稀は女性3人に会った時から気にしていたことを問いだした。
「単純に強くなりたかったからよ……」
メイリアは拗ねた顔で反対方向へ首を振る。
その仕草を見た雅稀は何も言えずに足元に目をやった。
「話はちょっと長くなるけど、最終的に入って後悔している。それだけ」
メイリアは再び雅稀たちに視線を戻したが、すぐに目を閉じた。
彼女はフォール=グリフィンを初めて知った時から脱退した今を振り返った。
色々あったけど、なんだかんだ懐かしさを噛みしめているのはメイリアの表情から読み取れる。




