03-24 選手交代
「だあああああぁっ!」
利哉は稲妻をギリギリで避けながら、クズハとの剣戟を繰り返している。
魔女の攻撃が当たり、ローブやテーパードパンツが数ヶ所切り裂かれた状態の中、利哉は必死に戦っている。
一方、フォーリン=クズハも利哉の斬撃が顔や胸部に食らい、羽織っているローブはボロボロの布きれのようになり、斬られた部位から赤黒い血が少量流れる。
両者の剣が直撃する度に、互いの傷口から赤血球を含む体液が飛び散る。散った血液は服についたり、赤い斑点として地面についたりしている。
利哉が懸命に戦っているのは雅稀にはわかっていたが、左肩に重傷を負っている上に切り傷が増えていく様子を見ていると、見苦しくなり、時々目を逸らすようになった。
しかし、利哉はもうすぐ限界を迎える。
雅稀は胸に手を当て、魔女との戦闘に心の準備をし始めた。
クズハは空を飛び、切先を利哉に向けた。
「これで戦闘不能にさせてあげる――」
切先から稲光と同じ薄黄色の光線が伸びる。直線に進む光線は空から降り注ぐ一部の稲妻と合体し、光線・光の威力と光度を上げる。
「抗光線!」
利哉は僅かに残された力を振り絞るような声に合わせて、剣を額の上に真横に構える。
左手を切先に添えると、そこから朱色の光が柄へ向かって覆い被さるように剣身を包む。
クズハの光線・光が利哉の抗光線に接触する。
バチバチバチッ! と静電気が発せられ、互いに一歩も譲らない。
利哉は奥歯を噛みしめて防御することに専念するが、光線・光は肥大化し、彼の朱色の抗光線を破った。
光線・光は利哉の顔面に直撃した。
刹那、空から襲う巨大な稲妻に打たれた。
雅稀は顔面から血の気が引いた。
「利哉ーっ!」
雅稀は名前を呼んだが、利哉は返事せず、剣を地面に落としてから地面に倒れ伏した。
雅稀は急いで友人の元に駆けつけ、仰向けになるよう利哉の体を動かす。
「大丈夫か?」
雅稀は利哉の頭を自分の手のひらの上に置くと、彼はゆっくりまぶたを開けた。
「大丈夫……って答えたら嘘になるな……」
利哉の額は光線・光の影響で擦り傷ができてしまっているが、少しだけ頭を動かし、雅稀に力ない笑みを見せた。
「ごめん……俺の代わりに最初に戦ってくれて……」
「謝らなくて良いよ。それより、魔女の戦い方、掴めたか?」
利哉の問いかけに、雅稀は頷いた。
「ここからは……マサに……頼んだ……」
利哉は雅稀に託し、眠りについた。
雅稀は利哉の顔を静かに見つめたが、目は閉じたままだった。
「ありがとう。後は俺が何とかする」
雅稀は眠った利哉にささやき、ヒカルの近くまで利哉を運んだ。
利哉をミズナラの下に寝かせ終え、雅稀はクズハと対面すると、地面に転がっている利哉の剣は姿を消した。彼が戦闘不能になったからだ。
雅稀は深呼吸する。
「さて、こっから2回戦だな」
雅稀の右手に剣が現れた。
「あたしが勝つって決まってるのに刃向かうだなんて、どんな頭をしているのかしら」
クズハはニヤリと怪しげにギザギザの歯を剥く。
「戦ってみなきゃわからんだろ」
雅稀は呆れたように笑い、
「それに、勝つって決まってるって言う割に、何でところどころダメージを受けてるんだ?」
とクズハの全身を眺める。頬の切り傷、破れた袖、切り刻まれたワンピースのフリル。この容姿からクズハが絶対勝利するとは断言し難い。
「……実際に剣を持って戦ったのが久しぶりだからさ」
クズハは剣を握っている右手を胸元まで上げる。
「久しぶりだと……?」
雅稀は眉をひそめる。
「お前、一体何者なんだ?」
何者って尋ねる以前に、人さらい魔女であることはわかっている。でも、魔女が剣を持って戦った経験があることに不審を抱いたから、敢えて訊いてみた。
「フォーリン=クズハって言ったじゃん! 忘れたの?」
クズハは鋭い目つきで雅稀を睨む。
「お前の縁起の悪い名前を忘れて訊いたんじゃない」
雅稀はクズハから凍てつく程に冷たい眼光を浴びているが、平常心を保っている。
「縁起が悪いだと……」
「俺が知るフォーリンは堕ちるって意味がある。『堕ちたクズハ』と解釈できる。誰に名付けられたかは知らんけどな」
「…………うるさいっ!!」
クズハは歯ぎしりした後、怒鳴り声を上げた。
「あたしは400年以上生きているんだから、剣くらい持ったことあるわよ!」
クズハは切先を雅稀に振りかざす。碧煌に反射して光っているそこから、今にも砲弾系の攻撃魔術が飛んできそうだ。
「400年も生きてるって、お前は魔女なのかゾンビなのか、よくわからない状態で彷徨ってんのか」
雅稀は左手で切先を添えて肘を伸ばし、肩と同じ高さで剣を横に構える。
「何よ! 失礼な!」
「事実を述べているだけだ。400年も生きている人間は見たことねぇよ」
「ふん」クズハは口を右頬へ吊り上げ、「400年も生きている人間って、あんたの目の前にいるじゃないの」と嗤う。
やれやれと雅稀は肩をすくめる。
「で、お前は400年も生きて、俺の同級生を連れ去って何がしたいんだ?」
「この小娘はあたしの餌食になる運命にあるのよ。あたしが強くなるためのね」
嗤っていたクズハは突如真剣な表相に変わった。
「それを、あんたたちが阻止しに来た。まあ、あんたらがここに来る前から邪魔しに来るってわかってたけど」
「は?」
雅稀は疑いの表情を浮かべる。
(俺たちがマレソムディア島に来る前からわかってたって、どういうこと?)
雅稀は視線をクズハから外し、地面に描かれている魔女の影に移す。
「あたしに抗うあんたに教えても無駄だわ」
クズハは目を細める。
雅稀はクズハの瞳から槍が放たれるような視線を感じたが、相手が何を言おうと戦うのみだと思っていた。
「教えられなくったって、いずれ知る時が来るさ」
雅稀は視線をクズハに戻し、
「だが、これだけは言わせてもらう! ヒカルはお前の餌食にさせない!」
と青筋を立てて感情任せに言い張った。




