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蒼の守護と碧の命運  作者: 河松星香
序章 夜に光る目
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00-01 いざ、GFP学院へ

河松星香、新作長編小説の幕開けです!

「面白い!」「続きが気になる!」など、思っていただけたら、いいねやブックマークしてくださると励みになります!

 時は3月末。人通りが少ない桜の並木にぽつんと突っ立っている青年がいる。彼の近くには1週間分の衣類が入る紺色のキャリーバッグがある。


 彼の名は新條(しんじょう)雅稀(まさき)。身長は175センチメートル。切れ長の目に緩めのスパイラルパーマを当てたような、青みがかった黒髪が穏やかな風になびく。

 4月からGFP学院大学という魔術師を育成する大学に進学する新1年生だ。


 この世界で言う魔術師は魔術研究者、手品師、占術師、そして魔法戦士を総称したもので、雅稀はその1人になろうとしている。


「確か、ここで合っているはずだよな? だとすれば、あと10分くらいで迎えのバスが来るな」

 雅稀は左ポケットからはがきサイズの紙切れを取り出し、左腕にはめている腕時計を見つめる。

 時刻は8時50分を指している。


「高校に入る前も、そして去年の今頃は、魔術師になろうだなんて欠片も思っていなかったのになあ……」

 彼は桜の花吹雪が舞う晴天の青空を軽く見上げ、小さな独り言を呟く。


  ――***――


 3年前の春、俺は地域の中でも人気のある公立高校に進学した。

 と言っても、最難関国公立大学へ進学できるのは限られた人だけで、大半は知名度のある中堅私立大学へ進学する人が多い、いわゆる中堅高等学校に通っていた。


 そんな俺は理科、中でも有機化学という有機物を扱う化学が特に好きで、それを学べる理学部化学科がある大学に進学したいと思っていた。

 理学部化学科へ進学すれば、俺の好きな化学実験ができるし、化学の理屈も勉強できる。そういう未来を夢見ていた。


 だから、高校時代は文理選択で理系を選択して、高校で習う化学はもちろん、数学も物理も全部勉強した。


 ところが、あの時から急に魔法戦士に興味を持ち、魔術師の道へ行くことに決めて今ここにいる。


 去年の秋だったと思う。名前も知らない大学からパンフレットと入学願書が実家に届いた。

 その名はグリフォンパーツ学院大学、略してGFP学院大学。唯一この世界で魔術師について学べる学校だそうだ。


(なんで俺宛てに届くんだ?)


 そう不思議に思いながら部屋に上がってパンフレットを開いた。

 すると、突如そこから魔法戦士を育成する魔法戦士学科の学生が、剣を持って戦っている立体映像が飛び出した。


 びっくりした俺は、その場で腰を抜かしてしまった。


 実習の様子だと思うが、一方の男子学生の剣からは眩しい稲妻を走らせ、他方の女子学生は風の渦が剣と一体化して構えている。

 両者が同じタイミングで相手側に跳び、剣を前方に振る。

 稲妻をまとった剣と風の渦をまとった剣が激しくぶつかり合い、お互い真剣な顔をして負けまいと剣を押し合っている。


 パンフレットからその様子が浮かび上がったのには驚いたが、心中はすごい、ただそのひと言しか表せなかった。


(中高と剣道をやっていたけど、稲妻や風が竹刀では出しようがなかった。けど、魔法戦士の剣を握れば出せるのか……!)


 それがきっかけで急に魔法戦士に関心を抱くようになって、俺は化学の世界から魔法戦士の世界へ飛び込んだのだ。


 早速、入学願書を取り出すと、記入すべき欄は自身の氏名と入学希望の学科のみだった。

 他に何が書かれていたのかははっきりと覚えていない。でも、そこに俺の名前と魔法戦士学科と書いたのは覚えている。


 書き終えた書類は上から順に光が行き渡り、気がつけば入学許可証に変わっていた。

 とにかく、魔術ってすげぇ! という気持ちでいっぱいだった。


 どんな学生生活が待っているのか、ものすごく楽しみだ!


  ――***――


 そう振り返っているうちに迎えのバスが到着した。


「新條雅稀様ですね。お荷物はここから学生寮に直接送りますね」

 前方の扉から白地のブラウスに黒いスラックス、その上にいくつかの金色のストライプ模様が入った、丈の長い黒のコートのようなものを羽織った女性が現れ、右手を差し伸べる。

 コートの左胸にはGFP学院のエンブレムである金色のグリフォンと、その背景に五角形の赤色の刺繍が施されている。襟元と袖口は宝石のように赤く輝いている。


 あ、はいと雅稀はキャリーバッグを渡した。女性の手に行き渡った瞬間、目の前から消えた。

 雅稀は動揺しそうになったがその暇もなく、通路の奥に案内された。


 暗闇のバスに唯一床が円形に光っているところがある。

 そこに両足を踏み入れると、即座に吸い込まれた。


「うわーーっ!」


 雅稀は悲鳴を上げて辺りを見渡すと、宇宙空間に漂っていた。


「どこだ? 目の前が宇宙と言うことは、地球は……」

 首を真後ろにねじると、大きな青色の地球が宙に浮いている。


(バスの中の、あの光に足を踏み入れただけで、しかも宇宙は空気がないのに生きているってどういうこと? 俺は死んだのか? どうなってんだー!?)


 状況がわからないまま、とにかく体全体を触ってみた。すり抜ける感じでもなく、普通に触れる。

 生きているなとほっとしたのも束の間、体は急加速して宇宙空間の上空へ向かっていく。

 あんなに大きな地球が嘘みたいに小さくなり、やがて見えなくなってしまった。



 しばらくして薄緑色の膜のようなものを通り抜けた瞬間、体の動きがゆっくりになった。

 真上は星の輝きはなく、真っ黒の空が広がっていた。


「膜のようなヤツから出てから急に景色が変わったな」

 雅稀は真下に視線をやると不思議な光景に出会った。


 そこにあったのは薄緑色に囲まれた宇宙空間、だけではなかった。

 他に薄赤色、薄青色、薄黄色の球の中に銀河や恒星が同じように無数に輝いている。

 当然の如く銀河系と比較できないくらい、とてつもなく大きい。


 宇宙は4つあるだなんて聞いたことないぞと思っていた矢先、再び急加速して今度は足から薄青色の宇宙空間に入っていった。


「ちょっと待って、あのめちゃくちゃデカい4つの球は何なんだ? 俺らが住んでいる地球は薄緑色の空間の中にあったってこと? で、今薄青色の空間に入ったってことは、GFP学院大学は全く別の世界に所在しているってことなの?」


 雅稀は目を丸くして視線をあちこち動かす。

 速すぎて何も見えないが、足元の先にある地球に似た青い星に向かっている天体周辺だけはぼんやり見える。



 目的地かと思われるところで速度が落ち、足は地に着いた。時刻を見ると9時30分だった。

 たった30分で地球から宇宙空間を越えてここに来たことを思えば普通に考えて非現実的すぎる。

 荷物のことと言いこのことと言い、全ては魔術の力なのか?


 周りは赤、青、緑、黄色の4棟の円柱形の建物があり、雅稀と同年代くらいの人々がその入り口に向かっている。

 建物のある方向に歩くと、バスの中で会った女性と同じ衣装を着た人らが、声を上げてアナウンスをしている。


「魔術研究学科に進学される方は赤色の学生寮へ」

「手品学科に進学される方は黄色の、占術学科に進学される方は緑色の、魔法戦士学科に進学される方は青色の学生寮に行ってくださーい」


 その声を聞いて、あの建物が学生寮であることがわかり、雅稀は青色の建物に向かった。

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