表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

小6女子が下校途中に勇者召喚に巻き込まれて異世界転移したらしいのだが、神殿の神託によるとこの女の子が同行しないと勇者たち一行は全滅するらしい。

作者: 葉裏

この小説は既に発表している『異世界に転移した老人はゴミ拾いの仕事をしているうちに数々のスキルを身につけて行った』という作品と姉妹関係になります。

この作品を読む前でも後でも構いませんが、目を通していただけると関連が繋がると思います。

また、本文は主人公みるくのスキルの呼称について何度も訂正しています。

特殊なスキルなので呼び方を何度も変えてしまい読者に混乱を与えたことをお詫びいたします。

最終的にこのスキルの呼称を『常在スキル』『潜在スキル』『顕在スキル』という呼び方にして、一般の『スキル』と比べて本人以外は鑑定または看破できないものと位置付けてます。

 ウィング王国のヴァレー神殿に神託が降りた。

 教主や神官たちが囲む中で苦しそうに藻掻くのは当代の託宣の巫女リーラだ。

 そしてそこから野太い男のような声で予言が紡ぎ出される。

『……狼の月22日のあの刻に召喚の間にて7人の勇者が現出した……しかし呼ばれたのは8人……残りの一人は別の場所に……その者は幼き乙女にして臆病で勇者ならぬ臆者なり……されど……その者なくしては勇者たちは魔王討伐に敗れ全滅するであろう……かの者を……『亜空あくう臆者おくしゃ』を捜すのだ……勇者の旅に加えるのだ……』

 神官が託宣の言葉を漏れなく記録した。

 それを元に教主と神官がその内容を吟味する。

「勇者ならず臆者とはどういう意味でしょうか? 臆病な少女が何故勇者が全滅するのを防ぐことができるのかと「亜空の臆者と言ってたな。空間魔術を使うということか」」

「では何故召喚の間に現出しなかっ「勇者召喚だからではないか?」どういう意味だ?」」

「臆者は勇者ではないからな」

「臆病で空間魔術を使うかもしれない少女で、勇者たちよりも幼く……いなければ勇者たちは全滅してしまう。だからその少女を捜して勇者一行に加えなければならない……そういうことか?」

「早速これを王や勇者たちにも伝えて見つけ出さなければならない。国中にお触れを出して「待て、派手にやると臆病な者らしいから逃げ隠れてしまうだろう。秘密裏にやるのだ」」

 教主と神官たちは大慌てで動き回った。




 午前授業だったので確か昼前に下校途中だった。

 いつも通りの通学路を歩いていた筈だけど私はどうしてこんな場所にいるんだろう?

 バッグを背負ったまま見回すと、辺りは一面360度草原だ。

 分かった。きっとこれは異世界転移という現象だ。

 

 そして犬の遠吠えが聞こえる。

 ウォォォォォ――――ン

 犬じゃない?

 それと一緒に地鳴りのように地面が揺れた。

 地震ではない。

 ドドドドドド……

 大型の狼のような獣が何頭もこっちに向かって突進してくる音だ。

 それが地面を揺らしている。

 お……大きい。セントバーナード並みの大きさだ。

 全身茶褐色で目が赤い。

 目がおかしい。

 正面に二つ、側面に二つ……四ツ目だ。

 もう目の前に迫って来ている。

 それが五頭私に向かって襲って来た。

 私は恐怖を感じる暇がなかった。

 結構怖がりの私だけれど、あまりにも速い展開で悲鳴をあげることさえ忘れていたんだ。

 

 


 あれ?

 怪物の動きが止まっている。

『封印スキルを解除します。スキルをコピーする場合は選んでください。コピーしますか? Yes/No』

 急に頭の中に声が聞こえた。

 あっ、これ天の声っていうやつだ。

 見ると五頭の怪物の一頭ずつにウィンドーが現れて表示している。

『四ツ目狼L5 スキル:俊敏L1 噛みつき L1 臭覚L1』

『四ツ目狼L5 スキル:俊敏L1 噛みつき L2 臭覚L1』

『四ツ目狼L10 スキル:俊敏L2 噛みつき L2 臭覚L2 統率L2』

『四ツ目狼L5 スキル:俊敏L1 噛みつき L1 臭覚L1』

『四ツ目狼L5 スキル:俊敏L1 噛みつき L1 臭覚L1』

 一頭だけスキルのレベルが高いのがボスなのだろう。体も二回り他のより大きい。

 まるで牛並みに大きい。

 私は噛みつきたくないし、匂いに敏感になりたくない。ここは俊敏L2を選んだ。

『俊敏L2をコピーしました。続けて俊敏L1をコピーしますか?』

 他の子分たちの俊敏スキルも勧められるままに選ぶと、残り一頭になったときにまた脳内アナウンスが流れた。

『俊敏スキルがL5になってカンストされましたので、三日間使った後封印されて潜在スキルになります』

 はあ? なにそれ? たった三日しか使えないの?

 と思ったとき、止まっていた時間が動き出した。

 スキルコピーし終わったら、再び襲われるのかい?

 ボスモンスターが私の首を食いちぎろうと空中を飛んで来た。

 私は咄嗟に避けようとすると俊敏スキルが働いた。

 怪物の動きがスローモーションになったのだ。

 最小限上半身を動かして、ボスモンスターの攻撃を逸らした。

 その後も次々と襲って来る四ツ目狼を余裕で避けることができた。

 でも私は思った。こんなことを続けていてもスキルはいつかは限界が来る。

 私は群れから遠ざかるように疾走することにする。

 全力疾走すると空気がどんよりして重い感じになる。

 魔狼たちは私の動きが速すぎた為、姿を見失ったらしい。

 きょろきょろしてるが、そのうち匂いで追って来るだろう。

 私の走った後に真空が生じて、そこに空気が流れ込み、風が起きているようだ。

 その風で匂いが散らされ追跡を困難にしているらしい。

 けれども一頭だけ先頭に立ってボスが追って来る。

 ボスを倒さなければ駄目だ。でも私はきっとL1だからL10のボスは倒せない。

 レベルが違い過ぎる。

 優れているのはスピードだけ。

 私は石を拾って反転し、追って来るボスの方に突進した。

 そしてカウンター気味に鼻の頭を石で叩いた。

 きっとボスのスピードと私のスピードで車に衝突されたときくらいの衝撃があった筈。

 これで臭覚は駄目になったと思う。

 けれどもボスは視覚で私を追って来る。

 いくら俊敏のスキルがあっても、向こうは四ツ足だ。

 しかも目が四つある。

 少しずつ距離が縮まって来ている。

 私も元々体力がないから疲れて来たせいもあると思う。

 そして森が見えて来た。

 森に入った途端私はバランスを崩して一回転した。

 立ち上がって振り向いた時、ボスモンスターの顔が僅か10cmの近くまであった。

 私はいつの間にか手にしていた木の枝を四つの目のうちの一つに突き刺した。

 それは目玉を突き破り脳にまで達したと思う。

 けれど眼球が破けるところは見たくないから、目を瞑ってすぐそこから離れたから詳しくは分からない。

『レベルアップしました。

 レベルアップしました。 

 レベルアップしました。

 レベルアップしました。

 レベルアップしました』

 すると目の前の空中にウィンドーが現れた。

『名前:なし

 L1→L6

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 顕在スキル:俊敏L5』

「名前はあるよっ、み……みるく……だよ」

 私は自分の名前を思い出した。

 するとウィンドーに名前が出た。

『名前:みるく

 L6

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 顕在スキル:俊敏L5』

 目の前にはボスモンスターが倒れていた。

 四頭の魔狼はボスが死んでいるので、それ以上追ってこなかった。

 力いっぱい走ったからお腹が空いてふらふらする。

 お腹が空くと頭の中がぼうっとして考えがまとまらない。

 火は使えないから、生のままで食べられる果物を捜さなきゃ駄目だ。

 でもどこに実の生る木があるのかさっぱり分からない。

 そうだ。高い木に登って探してみよう。

 木登りなんかしたことないけれど、わたしは少し高めの木で枝ぶりの良いのを選んで、木登りをチャレンジした。

 横枝と横枝の間隔があまり離れていないので、幹にしがみつかなくてもある程度は登れた。

 俊敏のスキルのお陰か上の枝には飛びつくようにして登ることができた。

 レベルが上がったせいなのか、腕力もかなりついたと思う。

 けれどある程度上に上ると葉っぱが邪魔になって見通しがきかない。

 仕方なく少し下がって見回す。

 でもそれじゃあ周囲の木が邪魔で遠くまで見渡せない。

 お腹がペコペコのままだんだん日が落ちて冷えてきた。

 どうやって夜を過ごそう。人里に行けたら良いのに。

 


 とうとう食べられそうな果物も見つからないまま夜になった。

 寒いから歩き回っているけど、歩き回ればお腹が余計空く。

 水も見つからず寝る場所もない。

 私は異世界に来た初日で行倒れになってしまうのだろうか。

 友達はこっそり鞄の中にお菓子を入れてきたりしていたが、生憎わたしはそんなことはしてなかったから、食べるものは何もない。

 

 


 私はどうやってこの三日間過ごしたか分からない。

 夜は冷えるけれども、季節はそれほど寒い時期でなかったから、凍死はしなかった。

 夜は寒くて殆ど眠れず、昼間日差しが出てからウトウトしたり、獣やモンスターの気配に怯えて隠れ廻ったり逃げ回ったり。

 知らない木の実を食べて吐いたりして、やっと見つけた川の水で空腹を紛らわした。

 そしてついに街道のような幅広い道を見つけることができたのだ。

 背中に背負っていたバッグはとうにどこかに落としてしまった。

 靴は穴があき、服は泥だらけカギ裂きだらけだ。

 腕や足や顔など肌が露出しているところは擦り傷や切り傷で血が滲んで固まっている。

 髪の毛は埃や植物の種で汚れてバサバサになっている。

 さて、この道はどっちの方に向かって行けば街に近いだろうか。

 それを考えても良い考えが浮かばない。

 そこでぼんやりしていると、向こうから物凄い勢いで馬車が走って来た。

 二頭立ての馬車で少し後ろから馬に乗った男性が二人剣を抜いたまま追いかけている。

 だが馬車が本当に逃げている原因はそのもっと後ろにいた。

 ライオンのようなたてがみをした四つ足の獣だと思った。

 それが馬車と騎馬の男たちを追いかけているのだ。

 でもよく見るとその獣は化け物だった。

 たてがみの中は人間の男の顔だった。

 その顔は笑っていて醜く歪んでいたのだ。

 馬車と騎馬が通り過ぎた時、化け物が私と目を合わせた。

 するとニタァァァァと笑って今度は私目指して走って来る。

 ボスの魔狼どころではない。

 その顔の表情を見てしまったから夜眠れそうにないと思う。

 いや、その前に私は死んでいるだろう。

 何故ならそれは涎を流しながら私目指して狂ったように笑いながら突進してくるのだから。 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 私は叫んでいた。





 目の前にその化け物は止まっていた。

 私のことを睨んでロックオンしたままで。

 これはあのボス魔狼の時とは違う。

 スキルをコピーするかどうか訊いてこないし、あの時と空間が違う。

 全身の鳥肌が立って恐怖に包まれた時、時間が止まったような感じになった。

 全ての動くものが止まって風すら吹いていない。

 音も一切聞こえない。

 けれどもスキルコピーする脳内アナウンスが流れて来ない。

 時が止まったのではない。

 私を中心にして半径1kmほどの球形の結界が空間の中の動きを止めてしまったのだ。

 そして私の体も小さな結界に包まれていて、それが大きな結界の外の世界の空間と高次元で繋がっているのだ。

 そういうことが何故か私には分かってしまった。

 あの魔狼のときは脳内アナウンスに導かれてスキルコピーする時間が必要だった。

 それで短い時間にゆっくり考える為に脳が高速度で働いたのだと思う。

 だから四ツ目狼たちが止まって見えたのだ。

 だけれど今回は違う。

 私になんらかのスキルが働いて特殊な空間が生まれて周囲を包んでしまったのだ。

 その中で私だけが動けるが、その他のものは仮死状態のように動きが止まっているのだ。

 世界中の時が止まった訳ではない。ほんの半径1kmの球状の空間内だけの話なのだ。

 私は目の前のおぞましい化け物に背を向けて通り過ぎて行った騎馬の方に走って行った。

 そして一人の男が握っていた剣を指を一本一本外して奪った。

 この空間は重力がなくなったみたいに簡単に浮かぶことができる。

 そして私は化け物の所に戻って行くと、見開いて笑っているその大きな目玉に剣を突き刺したのだ。

 今度は目を瞑らなかった。

 グリッと剣先を廻して目玉を抉り取り、その跡の空洞に剣を突っ込んでザクザクと掻き回した。

 いくら化け物でも脳味噌をグチャグチャにされたら死ぬだろう。

 そして剣の汚れを化け物の体で拭いて、騎馬の男に返してあげた。

 元通りに指一本一本をしっかり柄につけて握らせてあげた。

 そして私は馬車の屋根の上にあがってから結界を解除した。

 結界は無意識にできたが、解除は私の意志が必要らしい。

 馬車は再び走り出して、その途端脳内アナウンスが連続で話し続けた。

『レベルアップしました。

 レベルアップしました。

 レベルアップしました。

 レベルアップしました。

 レベルアップしました。

 ……

 ……

 レベルアップしました。』

『名前:みるく

 L6→L19

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 顕在スキル:俊敏L5 』

 体が熱くなって全身がむず痒くなった。

 気がつけば手足の擦り傷や切り傷が消えていた。

 相変わらず空腹のままだけれど。

 やがて馬車が止まって外で騒ぎが起きていた。

「マンティコアが死んでいるぞ。いったい何が起きたんだ?」

「見ろ馬車の上にボロボロの女の子が乗っている。いつの間に?」

「何かがあったんだけれど、どうも記憶が断絶したようで思い出せない。飲み過ぎて思い出せないときみたいだ」

「あの娘に聞いてみよう」

「その前にエドモンドさんにマンティコアのことを言わなければ」



 馬車に乗っていたのはこれから向かうリリールームという市で商会を経営しているエドモンドという商人だった。

 騎馬に乗っていたのは商会専属の護衛兵だ。

 わたしは作り話をした。

 父親と一緒に旅をしていたときに巨大な鳥に襲われて父親が殺され、私は巨鳥に掴まれてこっちまで飛んで来た。

 巨鳥は私を馬車の屋根の上に置いてからマンティコアに飛び掛かって行き、自分も大怪我をしたが相手の目玉を嘴でほじくって殺した。

 けれどもあちこち齧られたり爪で切り裂かれた為弱弱しく飛び去って行った。

 私のことは忘れたかそれとも連れ去る力がなかったかで置いて行かれたのだと。

 マンティコアはBランクの魔物で単身ではAランクの冒険者か騎士団長クラスの者でないと討伐できないという。

 レベルは25だというから、かなり高いのだろう。

 けれども傷ついているのは片方の目玉だけで殆ど完全な状態で死体が手に入ったので、エドモンド氏は大喜びだった。

 なんでも競りにかけると億単位の儲けになるのだとか。

 だから私に対しても大した機嫌が良かった。

 何日もまともに食事をしてないと聞くと、休憩を取って温かい食事をとらせてくれた。

 この世界に来て初めてのご馳走だった。

 私の嘘の身の上を聞いて同情してくれ、商会で働いても良いし、どこか働くところを世話しても良いとまで言ってくれた。

 そして丁度余裕があったので馬車の中に乗せてくれた。

 もっともその前に川の中に入れられて全身を冷たい水で洗われ、商会の荷物にあった子供用の服を着せられてからだったが。

 なにしろ私の体はボロボロで汚くて匂いが凄かったらしいから。

 馬車の中には商会の人たちが乗っていた。エドモンド氏の他にジェイコブさんという中年のおじさん、マーサというおばさん、エドモンド氏の娘さんで15才だから私より3才年上のパロマさんの4人だ。

 実は馬車に乗った途端走り出してからすぐに例の脳内放送が聞こえたのだ。

『スキルをコピーできます。コピーしますか?拒否しますか?』

 私はそれの返事をする前に考えた。

 コピーできる条件ってなんだ?

 スキルを持った者が目の前に現れるのが条件だと思ったら、先ほどの食事の時、同じメンバーと一緒に食事しているのだ。

 そのときはコピーについては聞かれなかった。

 聞かれたのは馬車に乗ったときだ。

 前の時は四ツ目狼が押し寄せて来た時だけだ。

 分からない。



 それとは別に悩んでいることがある。

各自に現れたウィンドーのことだ。

『名前:エドモンド・カーチス

 スキル:計算L2、商才L3、情報L3

 *亜空間収納L1(魔法バッグ)』

『名前:パロマ・カーチス

 スキル:商才L1、刺繍L1,料理L1』

『名前:ジェイコブ

 スキル:商才L2、計算L2、剣術L2

 体術L3』

『名前:マーサ

 スキル:料理L3、裁縫L3、掃除L1』

 

 ここから一つ選ぶとして何を選ぶべきか悩んでいる。

 驚いたことはエドモンドさんの魔法バッグまでも選べるスキルとしてあることだ。

 これは是非欲しいと思うが、魔法バッグとか亜空間収納スキルとか持っている人にそう頻繁に遭うことは滅多にないと思う。

 道行く人を片っ端からスキルを確認できたとしても、これから行く地方都市に1人いれば良いとこだったりすると思う。

 王族や貴族とか大富豪とかなら持っていそうだが、そういう人間に出あうことなんてこれから一生かけてもないかもしれないのだ。

 そうすれば仮にエドモンドさんのをコピーさせて貰ったとしても、カンストする見込みはないから、次のスキルの取得はできなくなるのだ。

 そしてエドモンドさんが持っていることを知っても、次にコピーする機会が来るかどうかは分からない。

 なにしろどうしたらスキルコピーができるようになるのか、その条件が不明だからだ。

 となると、それ以外でここにあるのは9種類のスキルだ。

 商才=L3+L1+L2→カンスト可能

 計算=L2+L2=L4

 料理=L1+L3=L4

 裁縫=L3

 体術=L3

 情報=L3

 剣術=L2

 刺繍=L1

 掃除=L1

 

 商才はこの場でカンスト可能だが、私は商売で大儲けして金持ちになろうとは思わない。

 確かにお金は欲しいが、商売はそのことに24時間神経を費やして行くものだと思うので、あまりやりたいとは思わないのだ。

 計算については私は簡単な四則計算くらいできるので、特にスキルが欲しいとは思わない。

 料理は魅力がある。この腕があればどこでも働ける気がするから。

 裁縫もこの世界では必要な能力だろう。

 そのスキルがあれば働き口もある気がする。

 体術や剣術はどうしてジェイコブさんが持っているのか分からないが、これから地方都市で働ける当てがあるのに、このスキルは必要かというと疑問だ。

 確かに異世界には何があるか分からないが、私には謎の能力があって、四ツ目狼のボスもマンティコアもそれで倒せたから、心配していない。

 情報については、確かに役立ちそうだが、これから下働きして行くうえで絶対必要かどうかは分からない。

 刺繍や掃除については今の所欲しいとは思わない。

 となると候補は料理か裁縫になるが、どこでも必ず需要があるのは料理だ。

 しかもこの場でL4まで取れるからすぐにでも役に立ちそうだ。

 次の野営のときに手伝いをして腕を発揮すれば、エドモンドさんへの印象も大きくなる。商会で使って貰うにしろ、他に推薦して貰うにしろ、絶対有利になる。

 私はちょうど俊敏スキルの顕在期間の三日が過ぎていたから、新しいスキルをコピーできると思ったのだ。

 という訳で私は料理を二回続けてコピーしL4を獲得した。


 そして亜空間収納に関しては、天の声が

『マーキングするスキルはありますか?』と訊いて来たので、裁縫にした。


『名前:みるく

 L19

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 潜在スキル:俊敏L5

 顕在スキル:料理L4 』

 

 私の計画はこうだ。料理L4の状態をずっと保っていれば、このスキルはずっと使える。

 カンストしてしまえばたった三日で潜在スキルになって使えなくなる。

 つまりこの料理を私の“売り”にして当分の間、おまんまの種にしようということだ。

 そして不思議なことに次の休憩時間に料理を手伝うことはできなかったが、食べさせて貰った料理を味わって分かったことがあるのだ。

 何故か一口食べただけで、材料や調味料は何を使っているのか分かってしまうのだ。しかもどんな調理法をしたかもすぐイメージに浮かんでしまう。

 L4とはいえ、恐ろしい能力だ。

 私は絶対自分の能力を100%出さない方が良いと思った。

 力を出しても、せいぜいL2の上くらいが良いのかもと思った。

 


 そしてついにリリールーム市に馬車は着いた。

 高い石壁が聳え立っているこの城塞都市はリリールーム伯爵領だそうだ。

 馬車の中を見た門番の兵士がエドモンド氏に一礼してから言った。

「失礼、そこの髪の黒いお嬢さんを少しだけお借りしても良いでしょうか?」

「なんの御用でしょうか?」

「いえ、王家から通達があってある調査をしているのですが、なあに形式的なことですぐ終わりますので」

「そうですか? ではみるくさん、待ってますのでちょっと行ってきてください」

 私は何事かと思った。

 髪の黒いお嬢さん?

 つまり日本人……勇者召喚?

 あまりたくさんライトノベルは読んだことは無いけれど、勇者召喚で宮殿の召喚の間に現出しなかった勇者がいて、それを捜すと言うのがあった気がする。

 私がなんだかそれに該当するような気が。

 だが恐らく私では勇者たちと一緒にされても何の役に立ちそうもないと思う。

 というか役に立ちたくない。

 俊敏L5は持っていたけれどこんなので魔物や魔族と戦う自分が想像できない。

 また別の話では能力がないけれど、召喚した者は王宮に閉じ込めておくか始末してしまうというのも読んだ気がする。

 それより地道な働き口を見つけて地道に生活したい。

 兵士は案内しながら中に入って行くが丁度その入り口で何故か立ち止まる。

 すると自然に目に入るのは色とりどりの綺麗な生花だ。

 そしてそこに紙に書かれたメッセージがあって、『自由にお好きなだけお持ちください』とあった。

 私は思わずそこで立ち止まって手を伸ばそうとして、はっとした。

 その言葉は日本語で書かれていたのだ。

 日本人でない限りこのメッセージは読めない。

 もし花を手に取れば日本人であることがばれてしまう。

 これは罠だ。

 私は咄嗟に首を傾げてから兵士の方を向いた。

「どうしたのですか?」

「ええ、なにか不思議な模様が書いてあったので、何かなと思って」

 これで第一の関門はクリアした。

 兵士は安心したように頷くと、部屋の奥に座っていた眼鏡をかけた少年に聞いた。

「どうですか? なにか分かりましたか?」

 彼は顔立ちからして日本人に見える。

 年の頃は十代後半、高校生くらいだろう。

 だとすれば召喚された勇者かもしれない。

 彼は興味なさそうに言った。

「ああ、ちょっと待ってくれ。今勇者通信を行うから。その子は待たせておいてくれ」

 そしてなにやら小さな魔道具を出すと日本語で話し始めた。


日本語『おう、俺だ。そっちはどうだ? 駄目か。決まってるよな。日本人らしいのもいないって?そうか、実はこっちも入って来た時はもしかしてとか思ったんだけどよ。駄目だ。花も取らないし、鑑定したら、名前以外なんにもない訳よ。レベルは見えないから0か1だろう。スキルはなしだよ。年は12才くらいかな。やせて筋肉はないみたいだ。だけど俺の顔見ておどおどしてるから臆病な感じだから。もうこいつにするかって思ってるんだけどよ。なんだか馬車の後ろにマンティコアの死体を縄で縛ってつけていた商人が連れて来たらしい。そうか、じゃあ、これにするぞ。どうせ連れて行って途中で魔獣に食われて死ぬのが決まってるんだから、誰でもいいんじゃね。国の要請で各領手分けして回ってるけど、こんなことで時間潰すのは一日で結構だぜ。じゃあ、俺それ連れて行くから。名前? ミルクだよ。大丈夫だ。日本語の名前でもキラキラネームであるだろ、たぶん。苗字は田中でも佐藤でもなんでも良い。そうだ、牛野ミルクってのはどうだ。ははは、じゃあな。おう、王都で会おう。じゃあな』

 どういう訳か勇者には私はレベルもスキルもなしと鑑定されている。

 勇者たちの鑑定では感知できない、全く別系統のステータス表示なのだろうか?

 彼は兵士に向かって言った。

「お嬢さんに花をたくさん持たせてやってくれ。その子がそうだ。鑑定結果でも、王都に問い合わせても間違いないことが分かった。

 これからすぐに王都に向かって報告がてら連れて行く」

 私はなんて奴だと思った。

 多分、私は召喚された人間の身代わりに連れて行かれるのだろう。

 それは勇者の旅を中断してまで、私を探すように国に言われたからだと思う。

 だが彼らはこれ以上時間を潰したくないから、日本人に見える私を身代わりに連れて行く積りだ。とんでもない。きっと魔王を倒す危険な旅に同行させるのだろう。

 一応私は抵抗しようと思った。

「あの、私はエドモンド商会で働くことになっているので、どこにも行けません」

 すると眼鏡の少年はゴミでも見るような目つきで私を見た。

「何言ってるんだ? 別にお前の意見は聞いてない。これは決定事項なんだ。逆らえば殺す。死にたいか?」

 私は首を横に振った。

「よし、じゃあ、その花を抱えてついて来い。おい兵士、転移門を使うぞ」

「はい、どうぞ。こちらです。あのエドモンド氏には」

「どっちでも良いけど、言いたいならあんたが言えば良いさ。勇者の旅について行ったってな」

 それでは私が喜んでついて行ったみたいじゃないか。私は兵士の人に耳打ちした。

「すみません。無理やり連れて行かれたと教えてください。お願いします」

「おい、なにやってる。行くぞ牛野!」

 牛野じゃないんだけど。

 緊急時用の各領と王都を繋ぐ転移門を使って、私は眼鏡勇者と一緒に転移した。

 行くと眼鏡勇者の他に6人の高校生くらいの男女が待っていた。

 そして金髪碧眼の10代半ばの美少女がやって来た。

「あなたが亜空の臆者様ですね。私はこのウィング王国の第一王女ライナ・エルーズ・ウィングです。そして……」

 王女様といわれる人が勇者たちを紹介してくれた。

「あなたを連れて来たのは弓の勇者のショウ・ジンナイ様で……」


 あとは聖剣の勇者 ユウキ・アケチ。

 槍の勇者 ススム・イッポンギ。

 盾の勇者 ゴウ・タテイシ。

 罠の勇者 トラジ・ククリダ。

 賢者 マサミ・カナモリ。

 聖女 サヤカ・ハナモリ。


 その中で一人だけ槍の勇者のススムというのっぽの男が私の所に来て陽気に言った。

「はっはっは、か弱そうなお嬢ちゃんだなあ。触ればポキンと折れちゃわねえかあ」

 そう言うと私の両手を外側から包むようにして上下にブンブンと振った。


『条件が満たされましたのでスキルを表示します。いま顕在スキルがありますので、コピーできませんが、マーキングはできます。

しますか?』

『名前:ススム・イッポンギ

 称号:槍の勇者

 スキル:槍術L5+α

     鑑定L5

     アイテムボックスL5』

 

  私はマーキングしなくてもいつでもこれから会えるので、キャンセルした。

 そして少なくても一緒に馬車に乗ったり、握手するとコピー場面が出ることを知った。

 槍の勇者は半分からかいでそれをやったみたいだが、それでもただ一人だけでも握手してくれたことが少しだけ嬉しかった。

 他はほぼ私を無視しているので、余計そう思ったのかもしれない。

 というのは、みんな立派な服装や装備をつけたお兄さんお姉さんという感じだが、私を見る目の奥になにか違和感を感じたからだ。

「ジンナイ様、ここにミルク・ウシノ様が旅に出られる為の支度金を用意しました。

 これでウシノ様の装備や支度を整えるのにお使いください」


 王女は袋一杯の金貨をジンナイに渡した。

 そして王宮を出た途端、ジンナイは僅か三枚の金貨を私に渡した。

「これでお前は自分の旅に必要なものを揃えると良い。主に食べ物関係になるが、買った物は自分で運ぶようにな。出発は午後3時で転移門まで集まること。

 逃げても無駄だ。そんなことをすれば、お前は指名手配になり捕まった時には斬首の刑に処する。わかったか」

 言ってることは滅茶苦茶だ。

 あの袋一杯の金貨はどこに行ったのだ?

 その後ジンナイは他の勇者たちに金貨の袋を見せびらかして笑いながら去って行った。

「この金で王都で有名な店を回って最高の料理を買いまくろうぜ。アイテムボックスに入れればいつでも出来立てホヤホヤの豪華料理が食べられるってもんだ」

 他の勇者たちは誰もそれを咎めるどころか

一緒に笑ってるだけだった。

私は木枠で補強した巨大バッグを買って、毛布、洗面道具、鍋、カップ、湯沸かし、皿などを詰めた。

 それから食材を買うことにした。アイテムボックスを持っていないから野菜は根菜、肉は乾燥肉が主になる。炭水化物は小麦粉とパンと団子餅を買う。そして果物は新鮮なものは個数限定で後はドライフルーツやナッツ類を買った。

 自分の体の三倍ほど嵩張った荷物を背負って歩いているが、L19のレベルは冒険者でいうとDランクの上らしく、熟練者クラスの体力があるので平気だ。

 屋台が並んでいる市場通りで、質の悪い紙だが枚数が多く安いのが売っていた。

 私は思うところがあり、それを大量に買った。

 錐と綿糸も製本用に買う。

 その後、味が有名な食堂やレストランを回った。

 私の料理スキルはL4だ。

 出された料理を一口食べただけで、素材や調味料、調理法がぱっと頭に浮かぶのだ。

 私は一人前分のレシピを紙に詳しく書き留めた。

 書きながら味付けの改善点も付け加え、より自分の好みにあったレシピにした。

 少しお金がかかったが、5・6軒回って人気料理の解析をしてレシピにまとめて回った。

 何故ならこのスキルが封印されてしまったら再現できなくなるからだ。

 私の父方のお祖父ちゃんは一人で料理をして私が遊びに行くとご馳走してくれたことを思い出す。

 お祖父ちゃんはいつも料理法を書いたノートを見ながら料理していた。

「70過ぎると舌の味覚が落ちてしまうんだ。それまで勘で作っていた料理も突然まずくなってしまう。だからまだ舌がしっかりしているうちにレシピを詳しく書いておけば、分量や手順を間違えない限り若い時と同じ味付けができるってわけさ」

 そうなんだ。私は料理スキルをカンストさせてから三日経てば、スキルは封印されてただの素人になってしまうのだ。

 だからスキルがなくなっても、少しでもおいしい料理ができるようにレシピを残しておこうと思うのだ。

 スキルが封印されれば全く元通りになってしまう訳ではない。

 俊敏のスキルが終わった後も体の各筋肉はそれ以前に比べてバランスが良くなっていたと思う。

 体に記憶が残るということだ、ほんの僅かではあるけど。


 そして最後に寄った食堂のごはんがおいしかったので、そこの親父さんに弁当を3つくらい作ってくれるように頼んだ。

「うちは弁当は作ってねえんだよなあ」

「そこを何とかお願いします。割り増し料金払いますから」

「いらねえよ、わかった」

「ありがとうっ、おじさん」

 私は親父さんの手を両手で握って上下に振った。

 予想通りコピー場面が出て来て、料理スキルをコピーし、私はこのスキルをカンストさせたのだ。


『名前:みるく

 L19

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 潜在スキル:俊敏L5

 顕在スキル:料理L5 』

 

 だいたいの買い物が終わったので、転移門の所に向かった。

 それから三日間は必死に料理を作りながらレシピを書き続けた。

 L4では既存の料理を食べて解析し手を加えてレシピを書いたが、L5でカンストすると自分で料理を創作できた。

 今まで一度も食べたことがないような料理をどこにでもあるような材料でなるべく短時間で作れるように工夫して、しかももし食堂でそれをメニューで出したらたちまち名物料理になって客が並んで列を作るような料理を考え出すことができるようになったのだ。

 もっともそんな天才的な閃きはスキルがある間だけだ。

 だからこそできるだけ詳しく料理法のレシピを残さなくてはいけないのだ。

 三日間新しい料理を作りまくって、一人で食べていたが、他の勇者たちは街で買った料理をアイテムボックスから出して食べるだけだ。

 基本的に勇者の旅は野営が多く、私は木の根元で毛布にくるまって寝るが彼らはアイテムボックスからテントを出して各自自由に寝ている。

 そして、また少し大きな街で一泊することになった。

 部屋をとったが、私はまた買い物をしなくてはならないので、街の中を走り回った。

 既に料理スキルはカンストしてから三日が過ぎたので封印され、潜在スキルになってしまった。

 私は勇者たちからは間に合わせの『亜空の臆者』代理だから、日本語が分からないことになっている。

 だから彼らは私の前でも堂々と私のことを日本語で話す。

「この間王宮に行ったときのことだけどよぉ」

「ああ、どうした」

「神官の奴が来て、なんとかという託宣の巫女が今度連れて来たこいつが本物だと言ってるって言いやがった。それで分かったけど、はははん、こいつが本物の訳がねえだろうが。俺が無理やり連れて来た日本語がわからねえ、スキルも一個もねえゴミだからよぉ。

つまり託宣の巫女とかいう神殿の婆あは、インチキのかたり者だってぇことよ」

「なるほどねぇ、で……どうする?」

「どうするもこうするも、戦いになったら守ってやる余裕がないから、きっと不幸な事故に遭うんじゃねえか?」

「たとえば魔よけの結界杭を少しずらして結界の外で寝かすとか?」

「ひゃっひゃっひゃ、お前もひどいこと思いつくなあ」

 私はこの勇者パーティの中での自分の立場が分かった気がした。

 私は仕方なしに連れて行くが、足手まといでお荷物そのものということだ。

 だから途中で事故で死ねば、仕方なかったこととして王国に報告すれば良いということだ。

 そうすれば神殿の神託はインチキだったということになり、神殿の権威が地に落ちるだろう。

 勇者たちは私のような貧弱な者なしでは自分たちは滅びると言われて自尊心が傷ついたのだろう。

 しかも戦力もない子供を連れて行くということは、彼らの負担になっているということだ。

 勇者は子守ではないのだ。

 というようなことは、彼らの日本語会話から知ることができた。

 あと、前から気になっていたことだが、私の常在スキル、潜在スキル、顕在スキルのすべてが勇者たちの鑑定にも見えないというのはどうしてだろうと思った。

 つまり語頭に何も冠していない『スキル』以外はスキルとして感知できないようになっているのか?

 たぶんそういう仕様なのだろうか。

 そんなこんなでとうとう魔人の国に入ることになった。

 その為私たちは王国の国境の町でこの度最後の買い物をすることになった。

 魔人の国に入れば、基本的に宿は泊まれないし、買い物もできない。

 山や森に隠れながら魔王城に近づく為、殆どは野営で寝食して過ごさなければならない。

 それはどのくらいの期間がかかるのだろう。

 その為の食糧を持って行くにも私には限界がある。

 そして先立つお金があまり残り少なくなっている。

 野営と言っても料理を作ったり暖を取る為の火は熾せないと思う。

 映画やドラマで敵地を潜入する際、焚火をするのは駄目なことになってるからだ。

 とすると、乾物とか熱を加えなくても食べられるもの中心に買う必要がある。

 それと飲み水も心配だ。川とか泉があれば良いが、汚れていたら飲めないだろう。

 勇者たちはアイテムボックスがあるからカンストしていれば、無限収納で時間凍結だろうから、いくらでも温かくて新鮮なものが食べられる。水だって何トンも持って行けるだろう。

 そこで私は勇者たちに言った。

「私はここでお別れします。私は戦えないから皆さんの足手まといになります。それに買い物をするにももうお金がありません。王女様から頂いたお金は殆ど弓の勇者様が持って行ってしまいました。買えたとしても自分で持ち運ぶものには限りがあります。

 いくら頑張って沢山運んでも、時間が経てば傷んでしまいます。

 ですから無理です。

 皆さんたちはどうして私を連れて行きたがってるのか分かりませんが、私は行きたくありません。

 ついて行かないと殺すと言われましたが、それならどうぞここで殺して下さい」

 わたしは思ってることを全部言って後は目を瞑って地べたに座り込んだ。

 町の中だったので勇者たちは、外聞もあり少し焦ったようだ。

 仮に殺すとしても、そのときは私には奥の手がある。

 勇者たちは早速私に筒抜けなのも知らずに相談し始めた。

「とにかく金をやれ。お菓子でも何でも買えるくらいにやれば良い」

「どうせ魔人の国に入れば長く生きてはいけないのだから、ここで適当なことを言って胡麻化しゃ良い」

「まあ、確かにこいつはチビでやせっぽちのくせにかなりの荷物を運べる。だがそれだって限界があるし、時間が経てばカビが生えたり、腐ったりすることもあるだろう。その時は……」

 話し合いの結果、勇者たちは金貨を10枚私にくれることになった。

 そして私の予想通り野営では煮炊きできないから、調理した温かい料理を特別にアイテムボックスに入れてやると言って来た。

 だがその分は自分で用意して渡せと言った。

 話し合いの結果、賢者のマサミ・カナモリさんがアイテムボックスの間借りをさせてくれることになり、そこにマーキングして入れれば、いつでも出してあげられると言ってくれた。

 そして魔物が出た時には、目に付かないように隠れてくれればいいと言ってくれた。

 もちろん私はその通りになると信じてはいないけど。

 私は金貨10枚をしっかり握って、買い物をすることにした。

 準備に必要な日数は二日しかない。

 勇者たちは買い物は大人買いでさっさと済ませ、後は遊んだりする積りらしい。


 買い物をしている最中だったが、道端に物乞いの老人がいた。

 右足の膝から下が欠損してない。

 通りすがりの冒険者風の男たちがその老人のことを話していた。

「あの爺さんはオルフィールって言うんだ。冒険者の中でもトレジャーハンターで有名だったんだが、ダンジョンで魔物に足を食われて、それからあのありさまさ」

「けどよ、物乞いはここでは長くは生きられないだろう。泊まる宿もないし、道端で寝れば凍死するか殺されるかだろうに、あの爺さんだけが何年もずっと物乞いで生きてるんだぜ」

「ああ、言われてみれば確かに。なにかコツがあるのかね」


 私はこの話を耳に挟んで、興味を持った。

 私もこの世界に転移して来た時、三日間寝る場所で苦労した。

 私はその老人の所に行き、果物や干し肉、パンを差し出して言った。

「お爺さん、教えて欲しいことがあるの」

「なんですかな、お嬢さん」

「お爺さんは寝るときどうしてるの? 夜は冷えて寒くて眠れないと思うけど」

「お嬢さん、すまない。それだけは」

 私はお爺さんが横に振った手を両手で握って縦にに三回振った。

「お願いだ……」

 


 『条件がみたされたので、相手のスキルが閲覧できます。コピーしますか?

Yes/No』

 私以外のものの動きが止まっていた。

 というか時計の分針のように僅かに動いているのだろうが殆ど分からない。

 相手のスキルを見る間高速思考をする必要があるため、周囲が超低速になっているためだ。

『名前:オルフィール

 スキル:住居L1仮眠室』

 私は、詳細を見た。

『睡眠に最適な室温が保たれている小さな部屋。ベッドの横や下、そして壁の棚には僅か荷物を置くことができる。』 

 私は考えた。住居というのはレアスキルだから簡単にレベル上げはできないだろうと。

 けれどもこのL1の仮眠室でも十分に安心して眠ることができるし、なにかあったら一時避難することができる。

 危険な魔人国の旅ならこれがあれば安心できる。

 私は早速コピーした。


『名前:みるく

 L19

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 潜在スキル:俊敏L5

       料理L5 

 顕在スキル:住居L1(仮眠室)』


 そして早速人目の付かない所に行って、空中に縦長の切れ目を入れて左右に開きそこから仮眠室に入った。

 広さは二畳で奥の半分はベッドになっている。

 窓はないが空気は流通していて、室温は快適だ。

 しかも壁や天井から柔らかい照明があって枕元のダイヤルを回せば光を調節できるのだ。

 ベッドの下は収納スペースになっていて、そこに私が最大に担ぐことができる量をすっぽり入れることができる。

 またそのベッドは二段ベッドのような仕組みで、上の段はベッドではなく、収納棚になっているのだ。

 そして天井は普通の住居並みに高いので、手前半分のスペースもうまく行けばかなりの物が置ける感じだ。

 そこで私はまず家具屋に行って空きスペースに収まりそうな整理棚の同じサイズのものを二つ買ってそれを重ねて天井まで積み上げた。

 それから酒屋に行って、使用済みの酒樽を二つ買った。

 街の共同井戸を使わせて貰って、樽二つを一杯にした。

 酒樽なら水が腐りにくいだろうと思ったのだ。

 それは空きスペースに縦に二樽重ねてロープなど使ってずれないように固定した。

 だから空きスペースには整理棚と樽の為に僅かな隙間があるだけでそこを通ってベッドに行くことになる。

 それから私は物凄い勢いで乾物屋や雑貨屋野菜屋などを走り回った。

 乾燥食品というのは意外とこの世界でも沢山あって、干し肉、干し魚、各種燻製、ドライ野菜、ドライフルーツ、干し飯、干し団子などがあった。パンも乾パンのようなものもあり、マッシュポテトを干したものまであった。

「お姉ちゃん、こんなに集めて商売でもする気かい。商売敵には売れねえんだがな」

「長旅をするのにいるんですよ」

「そうかい、それじゃあおまけしといてやらあ、こんなに買ってくれりゃうちも大儲けだ」

 私は店で買ったものを背負子に担いで路地に入り、それから仮眠室にどんどん詰め込んで行った。

 それを何度も繰り返してるので、店ごと買っているようなものだ。

 それがだいたい終わると、最後に荷物を積んだままの背負子を二段に重ねた樽の上にヒョイと乗せた。これでいっぱいいっぱいになる。

 それから私は閑古鳥が鳴いていそうな小さな食堂を訪ねた。

 年寄りの夫婦がやっている食堂だが客は来ない。

「すみません。この食堂は明日やっていますか?」

「いや明日は休もうと思ってる。今日も客がこないから早じまいだ」

「お願いがあるんですが、ここの厨房を借りて料理をさせてくれませんか? お金は一日の売り上げに色を付けた額でどうですか?」

「子供のあんたが料理を?面白いねぇ。お金はいらないからやってみてごらんよ。

 ここに食材があるから作ってごらんな」

 お爺さんもお婆さんも人のよさそうな人で孫娘でも見るように笑顔でそう言ってくれた。

 私は早速料理スキルL5のときに考案したオリジナルをいくつか作って見た。

 いわく、スペシャル肉野菜炒め。

 いわく、スペシャル野菜サラダ。

 いわく、スペシャルポタージュスープ。

 いわく、スペシャルみたらし団子。

 いわく、スペシャル炙り肉。


「随分、良い匂いだねぇ。味見しても良いかい?」

「どうぞどうぞ、どうせ材料はここのを使ったのですから」

「うまいっ、見かけは普通なのに、なんでこんなにおいしいんだ?」

「まあ、本当に。お嬢さんは天才料理人じゃないかい?」

「よかったら、今作った分のレシピは書き写させてあげますよ。その代わり明日もここを使わせてください」

 そうこうしているうちに、食堂から漏れ出ている匂いにつられて客が入って来た。

「おいおい、なんか随分香ばしい匂いがするんじゃないか、俺にも出してくれ」

 そしてあっという間に食材がなくなるまで作った料理は全部売れてしまった。

 私は追加の分を作り、お婆さんは料理を運んで勘定を受け取ったりした。

 そしてお爺さんは私のレシピを必死に書き写していた。

「みるくちゃん、この湯煎ゆせんというのはなんじゃ?」

「ああそれは……」

 そんなこんなで、老夫婦の店は大儲けしたので、儲けの半分を私にくれると言うのを断って全部譲った。

「まだ早いですけど明日また来ます」

「何時に来るんだ? それまでに言ってくれれば材料の仕入れを済ませておくが」

「本当ですか? 仕入れ先とか分からないので助かります。仕入れるものは……後お金をこれだけ置いて行きます」

「任せておくれ」


 私は店を出て、早速宿に向かった。

 賢者さんは部屋にいた。

 彼女は今日と明日は部屋で魔術書を読むと聞いていたからだ。

 私は予め別に作っていたスペシャル焼き菓子を差し出した。

「なに、これ? おいしいじゃない」

「私が今日食堂の厨房を借りて作りました。

 こういうのもあります」

 私はスペシャルシリーズをいくつか出した。

「うん、おいしいわ。あんた子どもなのにお菓子作りがうまいのね」

「料理もできます」

「本当? 食べてみたいわね」

「それで明日私と付き合ってくれますか?

 いえ、賢者様は椅子に座って読書をしていてくれればいいのです。私はそこで次から次へと料理を作りますので、作った先からアイテムボックスに入れてほしいのです。もちろん、試食はOKです」

「うん、なるほどね。良いわよ。どこに行くの?」

「ここからちょっと歩けば良い所です。明日の朝一緒に行きましょう」

「いいわ」



 私は仮眠室をコピーさせてくれたオルフィールというお爺さんに心から感謝していた。

 だからもう少し食べ物を分けてあげたかった。

 あれだけのスペースがあれば、腐らないものなら幾らでも欲しいだろう。

 けれどそこはぐっと抑えて、手作りのスペシャル焼き菓子の余ったものを持って行く事にした。

 本人には分からないかもしれないけれど私なりの感謝の気持ちを伝えたかったのだ。


 その場所に行くと、ちょうど聖女のサヤカ・ハナモリさんが通りかかったのだ。

 しかも私がオルフィールさんに焼き菓子を渡しているところを見られてしまったのだ。

「あなた、そこで何しているの?」

「あっ、せ……聖女さま。この人に手作りの焼き菓子を渡していたところです」

「そうなの? あら気の毒に片足が……」

「ええ、でもいくら聖女様でもこれは治せないですよね」

「というか私は誰でも治療する訳じゃないわ。その足なら億単位の金を出せる人じゃないと無理ね」

「その前にこれは絶対無理ですね。傷も古いものですし」

「知ったようなことを言わないで。私を誰だって思っているの?!」

 そう言うと聖女はオルフィール老人に手を向けて眩しい光を放った。

「ハイヒール!」

 すると老人の片足の膝から下に異変が起きて欠損していた足が生えて来たのだ。

「行くわよっ! 騒ぎになる前に」

 サヤカ・ハナモリさんは私の手を掴んで走り出した。

「えっ、どうしたんですか?」

「馬鹿ね。あれを見たら大騒ぎになって私たちが病人や怪我人に捕まってしまうのよっ」

「そっ、そうなんですか?」

「あなたの挑発にのってしまってうっかりやっちまったわぁぁ」


 後で散々聖女様にはその件で怒られた。



 翌日賢者様と一緒に例の食堂に行き、私はスペシャル料理を何種類も作りまくった。

 そして賢者様はテーブルで読書しながら試食三昧。

 同時にアイテムボックスにマーキングした私の料理をできた順にどんどん収納してもらった。

 スペシャル料理を作ったのは、スキルを封印された状態でどれだけレシピだけで作れるか、その修練のためだった。

 こうして私は魔人国入国への準備を終えたのだ。

 

 



「駄目だ。魔物の群れが襲来した。マサミは結界でサヤカを守ってくれ」

「みるくがいなくなったわ。どこかに隠れるって言ってたけど」

「構うな。上手に隠れたんだろう。臆病者らしいからな。そう言う約束だったから問題ない」

 私は魔物の群れが襲って来た時点で草藪の中に飛び込む振りをして仮眠室に入った。

 仮眠室に入ると、ここは亜空間の中のせいか外の音は殆ど聞こえなくなる。

 だからときどき空間の入り口を少し開けて外の様子に聞き耳を立てているのだ。

 そのうちに私は疲れて眠ってしまったらしい。

 目が覚めて外の様子を窺うと、静かになって戦闘音が聞こえない。

 恐る恐る外に出て見ると、辺りは生臭い血の匂いで充満していた。

 だが辺りを見回しても魔物の大小の死骸が散乱しているけれど、勇者たちの姿が見えない。

 どこかに移動して行ったのか?

「それにしてもこれだけ沢山の死骸があれば疫病が発生してしまうのじゃあ……」

 私がそう呟くと天の声が聞こえた。

『魔物の死骸は仮眠室のゴミ処理機能で処分できます。処分しますか? Yes/No』

「でも仮眠室には食料がいっぱい入っているから、混ざってしまうと困るよ」

『大丈夫です。別の亜空間入り口を使って吸い込みます。どうしますか?』

「お願いします」


 すると見る見るうちに空中にできた割れ目が移動して巨大ルンバのように魔物の死骸を吸い込み始めた。


『魔物の死骸の中の魔石は住居のレベルを上げるポイントになりますが、使いますか?』

「そ……そうなの?お願いします」

『魔物が使っている武器も保存しますか?』

「つ……使えるものなら……うん」

『魔物の素材で毛皮・食肉・牙・爪・睾丸など流通面で価値のあるものは保存しますか?』

「肉なんかは腐らない?」

『住居がもしレベルアップしていれば保存場所もできるかと』

「もしできるならやってみて、でも住居はカンストしないで欲しい。L4まででやめてね」

『承知しました。では処理実行します』




『レベルアップしました。

 仮眠室は1LDKになりました。

 レベルアップしました。

 1LDKは3LDKと倉庫になりました。

 レベルアップしました。

 3LDKと倉庫は5LDKと地下食糧冷蔵保存庫と物品倉庫になりました。

 要望により住居L4まででレベルアップは止めます』


『名前:みるく

 L19

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 潜在スキル:俊敏L5

       料理L5 

 顕在スキル:住居L4(5LDKと地下食糧冷蔵保存庫と物品倉庫)』


 私は亜空間住居の中に入って驚いた。

 平屋でリビングとダイニングキッチンの他にトイレとバスルームがあり、その他部屋がベッド付きで4部屋もある。

 さらに物品庫と言う大きな倉庫があって、そこには魔物の毛皮や牙などの素材がきちんと整理されてしまわれていた。

 そして魔物が使ったと思われる武器もきちんと種類別に整理して並べられていた。

 さらに階段を降りて地下に行くとそこが大きな冷蔵室になっており、その中に冷凍庫迄完備してあった。

 もちろん仮眠室のときに詰め込んだ食料がきちんと整理された形で保存されている。

 この旅はなんて私にとって快適なんだろう!

 でもテント生活している勇者たちに知られては駄目だ。

 もし中に入られたら……

『家主のみるくさん以外の人は入居できません。入るには家主の許可が必要です。それ以前にこの住居を認識することもできないです』

 なるほど。よかった。

『レベル5になるのに十分なポイントが余っていますが、その分を住宅の為の備品の充実や、ライフラインの方に回しても良いでしょうか』

「お……お願いします」

 するとキッチンの魔道具では魔コンロには火が付き、魔水道からは水が出た。

 もちろんバスルームにはいつでもお湯がでるようになった。

 驚いたことにドレッサーもできて、私用の服が新たに何着も揃えられている。

 そこを確認した後、私は勇者たちを探しに行くことにした。

 

「生きていたのか?」

 勇者たちは返り血を浴びて血だらけだった。

 私はとっくに魔物に殺されたと思っていたらしい。

 賢者のマサミさんがみんなにクリーン魔法をかけて体を綺麗にした。

 私は食事をしたかったので、マサミさんに一食分出してほしいとお願いした。

 すると弓の勇者がストップした。

「駄目だ。ついさっき戦ったので腹が空いたから、お前の作った料理を食べたんだ。お前が死んだのなら構わないと思ってな。マサミ・カナモリもとてもおいしかったと言ってたから、どんなものだと思ってな。ところがどうだ? あんなうまいものを食べたら他の物が口に入らないだろう! あんなうまいものを戦わなかったお前が食べるのは駄目だ。 あれは俺たちが食べることにする」

 そんな馬鹿な! 苦労して作ったのに!

「それじゃあ、あなたちが食べる予定だった食事を分けて下さい」

「それも駄目だ。約束したろう。アイテムボックスから出すのはお前の持って来た食材がなくなったときだってな」

「でも、そのときにはもう私の料理がなくなっているのでは?」

「その時はその時で考える。第一お前は今日は運よく生き残れたが、この次はどうなるか分からない。それに今回の戦いはいつまで続くか分からない。とすれば、食料は貴重だ。お前に分けるものなどない。食べたければ持って来た野菜でも生で齧っておけ。街ではみんなに聞こえるように訴えていたが、もうその手はきかない。食べるものがあるのだからなくなるまで食べてろ。それで全部なくなったら、手をついてお願いすれば聞いてやらないこともない。ははははは」

 外道だぁ。勇者はクズばかりだ。

 私は見せかけの背負子を担いで木の陰に行った。


「さてそれじゃあ、俺たちもここでテントを張って、寝る支度をするかぁ」

「魔物避けの結界杭を埋めるぞ」

 そのあと日本語で、私のいる場所は結界から外れるようにしようと話していた。

 それを聞いて私は亜空間住居の中に入った。

 料理をして風呂に入って、それから寝た。



 夜中に目を覚まし外を覗くと、土砂降りの雨だった。

 地面を水が流れているから、テントで寝てれば泥まみれの濡れネズミになったに違いない。

 そっと入り口の切れ目から覗くと、流されて潰れたテントもある。

 マサミ・カナモリさんが結界を慌てて張っていたが、地面に浸水した後なのであまり効果がない。

 クリーン魔法でみんなの体を綺麗にして乾かしていたが、いい加減ぐっすり寝ていたので体が濡れるまで気づかなかったらしい。

 だからきっと体が冷えたと思う。

 けれども勇者たちのしたことを考えると同情する気にはならない。

 もしこの住居を提供しようものなら、部屋数が四つしかないからまず私が追い出されるだろう。

 私は再び亜空間住居に戻り眠りの続きをした。

 けれどもこの状態はいつまで続くことだろう。

 少なくても魔王を倒してから魔人国を出るまでなのだろうな。

 ああ、もう元の世界に戻ることができないなら、どこか平和な街で穏やかな生活をすごしてみたい。

 私はそこまで考えて眠りに落ちた。




 目覚めたとき何か周囲の異変に気がついた。

 住居スキルL4は外界と完全に音声遮断をしている訳ではない。

 例えて言うと、通常の住宅で二重のサッシ窓を閉めた状態と同じ程度の遮音程度だ。

 豪雨とも違う。

 強風とも違う。

 強いて言えば地震か津波のような重々しくて広範囲の音が外で聞こえていた。

 私は入り口の結界を少し開いてみて驚いた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 グギャガガ……グオガルルルル……


 私は思わず身を乗り出して状況確認した。

 勇者たちは賢者の結界に囲まれていたが、私はその外にいた。

 そして周囲は見渡す限り、魔物と魔人の軍団でひしめき合っていたのだ。

 そして私の姿を見た一匹の魔物が飛び掛かって来て、噛みつかれる寸前で時間停止の結界が発動した。

 その魔物は空中に浮かんでいたが、全身鱗に覆われた鋭い牙と爪を持った蜥蜴の魔物だった。

 大きさはライオンか虎ぐらいある。

 恐らく一噛みで私は死んでいたろう。

 勇者たちは武器を構えていたが、結界を解いて戦うべきかどうか迷っているというより、為す術もなく途方に暮れているようだった。

 いくら時間が止まっていようと、これだけの魔物を殺すことは大変な苦労だ。

 と言うか不可能に近いと思う。

 とすれば残る方法は勇者たちを別の場所に移動させるしかないということだ。

 問題があるとすれば、結界の中の勇者たちに私がふれることができるかということだ。

 だが実際に勇者たちの動きが止まっている所を見ると、時間停止の結界の影響力は勇者たちの結界よりも強力だということなのだろう。

 そしてこれは以前にも試したことがあるから分かるが、勇者たちの結界は敵対するものを寄せ付けないものなので、私は容易に中に入れたのだ。

 私は七人の勇者たちを一人ずつ抱えて、自分の住居の中に入れた。

 全員入れた後、勇者たちの結界は私の住居の結界内にもすっぽりと入ったことが分かった。

 その他の装備も全て住居の中に入れてから、私は単身で魔物の群れの上を飛び跳ねて歩いた。

 魔物と魔物の間の隙間は殆どなく、そこを掻き分けて通るのは至難の業だからだ。

 

漸く群れを脱してみると、私は勇者たちの体を住居から出して草の上に寝かせた。

 勇者たちが地図を見て話していたことによると、この草地の場所は『ラサール草原』というところだった。

 そして魔物に囲まれていた場所はロストライフ盆地という所だった。


 私はラサール草原で結界を解除した。

 草の上に寝ている7人は以下の通りだ。


 聖剣の勇者 ユウキ・アケチ。

 槍の勇者 ススム・イッポンギ。

 弓の勇者 ショウ・ジンナイ。

 盾の勇者 ゴウ・タテイシ。

 罠の勇者 トラジ・ククリダ。

 賢者 マサミ・カナモリ。

 聖女 サヤカ・ハナモリ。


 聖剣の勇者ユウキ・アケチは目を開けた。

 確か魔物たちの大群に囲まれて立ち往生していた筈だ。

 その記憶を最後に気がつくと、ここに寝ていた。

 いったい自分たちに何が起きたのだろうか?

 記憶の断絶があった時間に何があったのか?

 そして記憶が断絶していた間に夢のようなものを見た気がした。

 聖剣の勇者は聖女や賢者や弓の勇者を中に入れて槍の勇者や盾の勇者、罠の勇者たちで守りながら魔物たちの群れを一点突破で道を切り開いて脱出した映像を思い浮かべた。

 他の勇者たちも目を覚ましたが、それぞれの夢はまた違っていた。

 賢者は巨大魔法を放って道を作ったという夢。

 聖女は祈りを捧げて聖なる光で魔物たちを退けたという夢。

 弓の勇者は一度に千本の魔力の矢を撃つスキルが突然目覚めて、それの連射で大部分の魔物を一掃した夢。

 槍の勇者は同じように千本の魔力の矢を生み出すことができるようになった夢。

 罠の勇者は巨大な落とし穴を作って底に針山を敷き詰めたという夢。

 その後で私が顔を出したので、聖剣の勇者は訊いてきた。

「君はロストライフ盆地で何があったか覚えているか?」

 私は勇者たちに合わせて嘘を言った。

「えーと、何があったのか覚えていません。でも夢を見ました」

 すると弓の勇者はけらけらと笑った。

「お前でも勇者たちと同じに一丁前に夢をみるのか? どんな夢か聞かせて見ろ。まさかお前がふっと一息で魔物の大群を吹き飛ばしたとかいう夢か? それなら吹いたのは息じゃなくて大法螺ってことだ。」

 私は本当のことを夢っぽく編集して言った。

「空気のポケットに勇者の皆さんを入れて、盆地からこのラサール草原まで運んで来た夢を見ました」

 これには弓の勇者のように爆笑する者、賢者や聖女のように苦笑いする者、みな一様に笑った。


 でも勇者たちの話では、あのままだと、魔力切れになって全員危なかったということだった。

 最後は神の加護があったに違いない、と言う話で落ち着いた。



 その後四天王の魔人が現れた。

 まともな魔人は一人だけで、それは剣の勇者に首を斬られて絶命した。

 呪いの魔人は聖女に呪いをかけて、回復魔法を使えなくした。

 すると他の勇者たちが傷ついても治せない。

 その魔人を倒そうとしても、呪いをかけた後、ずっと後方に逃げてしまい手を付けられない。

 だんだん勇者たちが傷ついて戦況が危なくなったときに、弓の勇者が目と胸に矢を命中させて、脳と心臓を破壊した。

 だがそれでも死ななかったので、槍の勇者が全身傷つきながら、魔人のところまで行って肩のところにあった魔石を砕いてやっと殺した。

 たちまち聖女の呪いは解けて、怪我した勇者を回復させた。

 三人目の魔人は首を切っても首から体が生えて、胴体から首が生えて増えて行った。

 そのとき、賢者が聖剣の勇者に言った。

「体を切り離さないで半ばでやめてごらんなさい」と。

 その通りにすると切り口から血を流した魔人の分身たちは、それ以上増えることもできず、やがて失血死した。

 そして最後の魔人はどこを切っても回復して、欠損したところが生えて来る。

 全身がナマコのように柔らかいイボのようなトゲだらけだ。

 賢者が言った。

「ナマコと同じならお尻の肛門のところを破壊すれば再生しないよ」と

 そう言ってその部分を灼熱の炎で焼き再生できないようにしたので、死んだ。



 そしていよいよ魔王城に乗り込んで魔王と対決することになったが、魔王はすごく強かった。

 魔法の上でも賢者を凌ぎ、剣の上でも聖剣の勇者に優った。

 八本の腕に剣と槍と弓とメイスと鎌と盾を持ち、空いてる手で毒の短剣を投げた。

 全滅は目の前だった。


 私が出て行くと、魔王はゴミでも見るような目つきで見てから口から含み針を飛ばした。





 結界が発動したので、私は目の前の空中で止まっている針を避けて、剣の勇者から聖剣を借りて魔王の顔の所までよじ登り片目を抉って突き刺し、もう片方の目玉も同じようにして剣に突き刺した。

 団子二兄弟のようにした目玉つき聖剣を勇者に持たせてから、槍の勇者の槍を借りた。

 魔王の空洞になった目の穴に槍を突っ込むと、ザクザクと脳をかき回した。

 魔王はこれで死んだ。

 魔人としても高級だからこそ、下等魔人のように生命力は強くなかったらしい。

 そして脳の破片が付いた槍を槍の勇者に再び持たせた。

 これで結界が解除された後も、剣の勇者と槍の勇者で魔王に止めを刺したのだと思うことだろう。

 その後私はレベルアップしてレベルがとんでもない数字になった。

 なんとL52になったのだ。


『名前:みるく

 L52

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 潜在スキル:俊敏L5

       料理L5 

 顕在スキル:住居L4(5LDKと地下食糧冷蔵保存庫と物品倉庫)』


 聞くところによると魔王は、通常の魔王よりもレベルが高くL80にまで到達していたそうな。

 私はレベルを下げる方法を探った。

 L52というのは人外に近いレベルだからだ。


 一般にギルド基準では、

Gランク=L3

Fランク=L6

Eランク=L10

Dランク=L15

Cランク=L20

Bランク=L25

Aランク=L30

Sランク=L35

SSランク=L40

SSSランク=L45

そしてL50となると人外もしくは災害級とされている。

 そして異世界から召喚された勇者のみがL50の壁を越えることができる為、魔王討伐に必要とされているのである。

 だから私のL52というのはとんでもないレベルだということなのだ。

 勇者ならともかく私は番外の臆者なのだから。

 私は勇者たちの前から姿を消すことにした。

 魔王を討伐した後にたとえ飾りの意味でも私の存在する意味がないからだ。

 そして主に弓の勇者を中心にして彼らは私の死を望んでいる。

 非力な子供の私がいなければ魔王は倒せなかったということが少しでも囁かれれば勇者たちの面目は丸つぶれで矜持が砕けてしまうからだ。


 だから魔王城に着く前に私は魔物によって殺されたということにしたいのだろう。

 私はその希望に沿うように姿を消すことにする。




 勇者たちが気がつくと、目の前に魔王の死体が転がっていた。

 魔王の圧倒的な攻勢に勇者たちは敗色が濃かった筈だが、その記憶を最後に意識が途絶えているのだ。

 けれどもどうやら勇者の聖剣に突き刺さった魔王の両目の眼球と、同じく勇者の槍についていた脳の破片から推理するに、無我夢中で記憶は失っているもののそういう戦いがあったと判断できるのだ。

 そしてまた、首に矢を受けて死んだ魔獣が口のところに臆者が着ていた服の破片を咥えていたところを見ると、かの子供は魔獣に食われたところを弓の勇者が弓で仕留めたと言うことが分かる。

 弓の勇者は記憶にないが、臆者を救うのには間に合わなかったということだ。

 彼は臆面もなく仲間に言った。

「たぶん俺はわざと間に合わないように矢を放ったと思う。覚えてはいないがな」


 そして彼らは魔人国を出て辺境の地から転移門を使って王都に飛んだ。

 そして堂々と凱旋パレードをしたのだ。


 王宮に着いて王から感謝と褒美を授けられると、勇者は神殿の教主からその後の神託を聞かされた。

「亜空の臆者はロストライフ盆地で勇者たちが滅びるところを亜空間で保護してラサール草原まで移送して救った筈じゃ。神託にはそう告げられていた」

 それを聞いて、臆者のみるくが言っていたことを勇者たちは思い出した。

 あの時みんなが爆笑していたが、まさかそれが本当のことだったとは知らなかったのだ。

 けれども彼らはその場で恩人たる臆者の死を悼み、黙とうを捧げたのだった。





 勇者たちが退席した後、王は教主に言った。

「まさかもう一つの事実を彼らに告げる訳にはいかないだろう。臆者が生きていて、魔王に止めを刺したのも彼女だったとはな。

 止めを刺したのはあくまでも勇者たちで、臆者はあの場で死んだということにした方がすべてが丸く収まるのだからな」

「それはそちらの言い分。だが臆者自身がそういう結論を望んで姿を消したのですから、これ以上教会も彼女を捜したりする積りはありません。王もそのお積りで」

「ああもちろんだ」

 そういうと二人は顔を見合わせてにんまりと口角をあげたのだ。




 私はL52のレベルを住宅スキルのレベルアップに回すことで少し下げた。

 カンストした住宅スキルは更に住宅部分が二階建てになって大貴族の邸宅なみになり、機能としては自動的に清掃することもでき、倉庫もより巨大になった。

 だが何より凄いことは、住人であるみるくが中に入ったまま、邸宅が移動できることだった。

 しかもその姿は亜空間にある為誰にも見ることはできない。

 まさに透明にして不可触の超巨大キャンピングカーを手に入れたようなものである。

 ただし、使用期間は僅か三日間だけというのが辛い所だが。


 『名前:みるく

 L45

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 潜在スキル:俊敏L5

       料理L5 

 顕在スキル:住居L5(大邸宅と巨大倉庫』



 私のレベルは45になった。

 まさにSSSランク並みのパワーを持っている訳だ。

 けれども私はそれを使わずにL10までランクを削って追加のスキル枠を5つに増やすことに成功した。

 世界の声の助言により、亜空の結界能力とコピー以外に一つしかなかったスキル枠を7つ迄増やすことが可能だと知ったのだ。

 その代わりL35捧げて顕在スキル枠を7つにすることによって、次のようになったのだ。

 つまり潜在スキルをすべて顕在化することに成功したのだ。

 またコピースキルの制約を取り払うことができたのだ。


『名前:みるく

 レベル:10

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 顕在スキル:俊敏L5

       料理L5

       住居L5

      (    )

      (    ) 

      (    )

      (    ) 』



 そしてこれらのスキルは鑑定L5をもってしても、見抜くことはできないらしい。

 これは亜空の臆者独特の特性で、亜空の結界スキルもコピースキルも本人自身にも閲覧できないようになっているほどである。

 そしてレベルの数値をスキルのレベルアップに使えるというのも亜空の臆者のみるくだけにあてはまるものらしいのだ。


 今の所わたしはL10の冒険者で言えばEランク相当のパワーがあるらしい。

 けれどもそれすらも正面に出す積りはない。

 私は大人しく安らかな生活を望んでいるからだ。


 そして私はこの異世界に来て、ある期待を持っている。

 それは私が10才のときに神隠しに遭ったお祖父さんにここで会えるのではと言うことだ。

 私が急にこの世界に来たように、お祖父さんもきっと異世界に召喚されたに違いないと、そしてきっとこの世界のどこかに来ているのではないかと、そう思ったからだ。


 私は辺境の都市の駅馬車乗り場に来て、そこで王都行きの馬車に乗ることにした。

 そして馬車が動き出した途端天の声が聞こえたのだ。

『条件が満ちましたのでスキルコピーが可能です。コピーしますか?』

 そうだった。馬車に乗ると何故かスキルコピーができるのだ。

 魔狼のときは不明だけれど、槍の勇者との握手のときもコピーの条件が満ちた。

 世界の声に向かってコピーの条件はなにか尋ねたが、答えてはくれなかった。

 今空いているスキル枠が4つもある。

 けれど、私はもう決めているスキルがあるのだ。


 私は乗客の名前とスキルを気づかれないようにチェックした。

 駅馬車は満席で、16名定員だ。

 男は10人でそのうち男児が一人、女は6人でそのうち女児は2人だ。

 そして男のうち冒険者風の男が3人商人風の男が2人、農夫が3人、5才くらいの男児が母親と一緒にいる。その母親には7才くらいの女児と10才くらいの女児がいる。他に若い農家の娘が一人、剣を持った騎士風の15才くらいの少女だ。

 後は私がいる。

 実は他に堅気ではない感じの、かと言って冒険者や傭兵でもない男がいた。

 その男は実に怪しい。

『名前:イルガン

 スキル:詐術L2

     ナイフ術L2

     間諜L3

     気配察知L2』

 間諜と言うのは、要するにスパイのことだ。

 何故か私にはその意味が分かる。

 詐術というのは人を信用させといて、騙して陥れることだ。

 ということはもしかして盗賊の手引きか?

 私は自分の真後ろにいるこの男を警戒した。

 

 座席配置は以下の通りだ。


       (後ろ)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

冒険者♂冒険者♂冒険者♂ 怪しい男♂ 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

農夫♂ 農夫♂ 農夫♂   私♀

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

商人♂ 商人♂ 農家娘♀ 騎士娘♀

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

母親♀ 長女♀ 次女♀  長男♂

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

       (前)

        馭者♂


 次にスキルだが、子供は3人ともスキルがないので名前も出て来なかった。

冒険者3人は右端から、

『名前:スティーブ

 スキル:剣術 L1

     弓術 L2

     気配察知L3』

『名前:カイル

 スキル:剣術 L1

     投擲 L3』

『名前:ザック

 スキル:斧術 L3

     盾術 L2』

次は3人の農夫だ。

『名前:ブラウン

 スキル:農業 L3』

『名前:ロイド

    農業 L2』

『名前:チャーリー

    酪農 L3』

次は二人の商人

『名前:ハック・ケープエンド

 スキル:計算L3

     商取引L3』

『名前:ラークス

 スキル:計算L1

     商取引L1』

 そして農家の娘

『名前:バーバラ

 スキル:裁縫L2

     機織りL3』

 そして私の前の15才くらいの騎士風の少女。

『名前:メアリー・ドーラン

 剣術 L4

 体術 L2』

 そして最前列の母子

『名前:アイリス

 スキル:裁縫L3

     料理L2

     掃除L1』

 子供たちの名前は出なかった。

 あくまでスキルを持っている相手だけだったから。


 そして私はこの中で一番欲しいものは『裁縫』だった。

 何故かと言うと、私は料理と裁縫のどちらかで身を立てようと思っていたのだが、この二つを比べて見たのだ。

 料理のスキルは食べ物屋などで稼げるけれど、店舗が必要なのと、時間に追われる仕事だと思う。

 毎日朝に仕込みをして昼には昼食を一度に大勢に食べさせる。

 とすれば調理の他に配膳などの人手が要る。

 夜も開くとなると、酒などを飲む人もいるだろう。

 夕食時も混むだろうし、飲んだ後に食べにくる者もいるだろう。

 つまり一日中仕事に追われてしまうということだ。

 腕が良ければうまい料理が作れる。

 料理がうまければ繁盛して忙しくなる。


 その点裁縫は良い。注文を取って期日はあっても食べ物のように時刻に縛られない。

 午前だろうが午後だろうが気の向いた空いた時間に縫えば良い。

 一人で縫うなら、それなりの仕事だけ引き受ければ良い。

 店舗があれば良いかもしれないが、店舗なしで洋服屋と契約しても良い。

 まして私は豪邸を持っているから作業場に困らない。

 という訳で私はバーバラの裁縫スキルL2とアイリスの裁縫L3をコピーしてカンストした。

 

 『名前:みるく

  レベル:10

  常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

  顕在スキル:俊敏L5

        料理L5

        住居L5

        裁縫L5  

       (    ) 

       (    )

       (    ) 』

 ところで私は先ほどからイルガンと言う男の挙動不審が気になっている。

 彼のスキルを見ていると、気配察知のスキルを盛んに使っているのだ。

 スキルのその部分が点滅するように光っているのが現時点で使っている証拠だ。

 その他の部分も微かに光っている。

 つまり誰かを騙して裏を掻こうと、ナイフをいつでも出そうとしていることだ。

 気配は仲間の気配を探っているのだろうか?

 つまりこれから行く先に盗賊が待ち構えていて、イルガンは駅馬車の内部からの攻撃担当ということだろう。

 狙われているのはすぐ隣りにいる冒険者のスティーブだ。



 それは突然起こった。

スティーブが突然叫んだのだ。

「おーい、馬車を止めてくれ。この先に待ち伏せがあるぞっ」

「くそっ、こいつはスキル持ちかっ」

 私が振り返ったときは、イルガンがナイフを抜いてスティーブの首筋を切ろうとしていた。

 私は俊敏スキルで精一杯動いたと思う。

 座っていた椅子の背に手をかけて体を浮かせて、イルガンの顎を足で蹴った。

 彼は白目を剥きだして口から泡を出して倒れた。

 少し血が飛び散った。

 スティーブの首が少し切れたのだ。

「いってぇ! こいつは盗賊の仲間か?」

 スティーブは私の顔を見てそう言った。

「たぶん……なんか外の様子を気にしてキョロキョロしてたから、挙動不審だったんですよね」

「ほう、お嬢ちゃんは前向いててよく分かったね?」

「スティーブ、大丈夫か?」

「それよりも馬車は引き返した方が良い」

 すると私の前にいた少女メアリーが振り返って言った。

「もう間に合わないみたいです」

 見ると馬車は止まったがその前と左右に結構な人数の人影が見えていた。

 つまり囲まれていたのだ。

 メアリーは真っ先に馬車から飛び降りた。

 手には抜いた剣を握っていて、左側の道端にいた二人を切っていた。

 私は後に続いて飛び降りると、メアリーに斬られて倒れた男の剣を奪って、前の方の母子がいる席に乗り込んだ。

 少し狭いけれど、盗賊たちが真っ先に狙いそうな場所だったからだ。

「おや、こんなメスガキが俺たちに刃向かうってか?」

 どっと笑った男たちは立派な武器を持っていた。装備もしっかりしている。

 とても食い詰めた農民が盗賊に落ちたと言うのとは違う。

 ガシーン、パチーン!

 やって来た背の高い男と二度ほど打ち合いをした。

 私が負けていなかったので、その男はちょっと驚いた顔をした。

 そのとき周囲の動きが止まった。

『条件に適合したので、スキルのコピーができます』

『名前:ロイド

 スキル:剣術L3』

 私は躊躇わず剣術L3をコピーした。

 俊敏だけではL3の高度な剣術と渡り合える自信がなかったからだ。

 私は、何故盗賊がこんなに高度なスキルを持っているのか疑問だった。

 コピーが終わるとすぐ周囲が動き出したが、勝負は一瞬で終わった。

 動き出しても俊敏のスキルのお陰でゆっくり動いて見えるからだ。

 私はロイドの左目を深く貫いてから蹴離したのだ。

 体を斬れば返り血がかかる。

 それはきっと母親や子供たちにもかかるだろう。

 もちろん目を貫いてもそのリスクはあるけれど、俊敏L5の力で素早くやれば汚れない筈。

 馭者の男は頭を抱えて御者台の上で伏せてブルブル震えている。

 盗賊たちは次々とやって来るが、剣や武器を受け太刀をすると動きが止まりスキルをコピーするかどうか脳内放送が流れる。

 それ以外はただゆっくり目に襲い掛かって来るので、どちらにしろ私はただ相手の目を突き刺して蹴とばすことだけ続けた。

 同じようにメアリーという娘は反対側の馬車の荷台を守っていた。

 横目で見るとまさに流れるような動きで倒している。

 

「何を手こずっている?」

 体の大きい男がやって来た。一目でボスと分かるような貫禄だ。

 幅広くて大きな、船の櫂のような剣を振り回してメアリーを圧倒していた。

 そしてメアリーの剣を弾き飛ばしたのだ。

「あなたはもと騎士団長の「言うなっ」」

 メアリーが何か言おうとしたとき、止めの一撃を食らわせようと大剣を振りかぶった。

 私はその戦いに割り込んでその巨漢の目を狙った。

 ところが器用にその男は私の剣を弾いて、二撃目も同じようにいなしたのだ。

『条件が……』

 そのとき天の声が流れて、その大男が剣術がL5であることを知らせて来た。

 私はコピーした。

 必ずこの男を倒さなければ駄目だと感じたからだ。

『名前:みるく

 レベル:10

 常在スキル:時間停止空間

        スキルコピー

 顕在スキル:俊敏L5

       料理L5

       住居L5

       裁縫L5

       剣術L5+? 

      (    )

      (    ) 』

 貴重なスキル枠が残り2つになってしまったが、この場合は自衛の為しかたがない。


 私は今度は大男の大剣に触れることなく相手を翻弄し始めた。

 元騎士団長は目を見張って私を見た。

「お前はいったい……」

 その大きく見開いた目を、私は跳び上がって深々と貫いた。

「ボスがやられたぞーー」「逃げろーー」



「お見逸れした。そして危ない所を助けてくれてありがとう」

深々とお辞儀をしたメアリーは私に挨拶と礼を言って来た。

「帯剣をしてなかったので思ってもいなかったが、まさか剣鬼と騒がれたこの男を倒すとは、その歳で剣の道を極めておいでだ」

「いえ、私は、たまたま夢中で」

「失礼した。私はドーラン辺境伯が長女のメアリー・ドーランというもの。王都に騎士試験を受けに行くところだったが、そなたも同じ目的なのか」

「いえ、私は王都で縫子の仕事を捜そうと」

「縫子?!そんな勿体ない。あっ、是非お名前を聞かせて貰えないだろうか?」

「みるくです」

「家名はあえて伏せておられるか。何か事情が」

「いえ、ただのみるくです。えーと、村娘のようなものですから」

 会話はそこで中断された。

 冒険者たちも戦っていたらしく、倒した盗賊の首を切っていたのだが、手柄についての話が持ち掛けられたのだ。

「俺たちも少しは倒せたが、お嬢さんたちほどではない。たぶん報奨金が出ると思うので首は全部持って行く事にするが良いかね?

 もちろんお金は全部そちらにお渡しするよ」

「いえいえ、あなたたちの分も取って頂かないと。私の分はあなたたちのと合わせて折半にしよう、首を切ってくれた手間があるから。この方の分はそっくりご本人に渡して欲しい。目を潰したのがそうだ。」

「いえいえ、それでは申し訳ない。お嬢さんたちがいなかったら俺たちは皆殺しにあっていた」

 と言う風にもめていたが、結局それぞれが倒した分の首の報奨金を受け取ることで落ち着いた。

 首を切った手間賃は冒険者たちの、私たちへの感謝の気持ちとして片付いた。

 何故ならメアリーは二人ほど戦いの中で首を斬り飛ばしていたからだ。

 そしてなにより馭者や馬を含め乗客が誰一人となく無事だったのは幸いだった。

 イルガンは縄で縛られて元の席に座っているが、王都の騎士団に突き出されれば斬首刑は免れないだろうとのことだ。

 ステーブの首の傷は浅かったので持っていた下級ポーションで治したみたいだ。

 アイリス母子は私に何度も感謝していた。

 なんでも王都に出稼ぎに行った夫が急死した為に、その知らせを受けて向かう所らしい。

 それと私のレベルはボスを倒した時点で10から17に上った。

 なんと相手はレベルが30あったらしい。

 そしてメアリーがこの歳で25だというから驚きだ。

 冒険者でいえばBランクに相当するという。

 再び馬車が走り出すと、メアリーは隣の農夫と席替えを申し出て、私の隣に来た。

「商業ギルドに紹介状を書いてあげるから縫子の仕事については心配しなくても良いぞ。それより一緒に騎士試験を受けて見ないか?

 なに受けるだけで騎士団に入らなければ良いのだ。私も度胸試しで受けるだけだからな。騎士試験に合格したと言う事実を領地に持って帰る為に受けるのだ。」

「それでは、入るべき人が落とされてしまうのでは?」

「心配ない。合格者から棄権が出れば補欠が入団できるようになっている」

「どんな試験ですか?」

「木剣でする試験だ。あっ、だが目を突くのは駄目だぞ、木剣でも十分殺せてしまうから」

「ペーパーテストはないのですか?」

「ああ、一般常識の筆記試験はあるが、大したことは無い。王国の歴史的なこととか、兵法の基礎とか、騎士や兵士の階級名とかだ。なんてことはない。ああ、国王や王族の名前なんかも常識問題だ」

「えっ、そういうの全然知らないけど」

「えっ?」

「えっ?」


 それからメアリーの一般常識に関する個人授業が始まった。

 私は後ろの冒険者の綻んだ服を脱がせてアイリスから借りた針と糸で綻びの修理の練習をしながらその押し付け授業を聞いていた。

 彼女より脳細胞が若い分、頭には入って行ったが。

「しかし国王の名前も知らなかったとはどんな田舎にいたんだ? いやどんな田舎でもそれくらいは分かるだろう」

「ここに来る途中頭を強く打ったらしく、それであまり記憶がないんです」


 冒険者に修理した服を渡すと彼は驚いていた。

「剣の達人だと思ったら、縫子も名人じゃないかっ。どこが綻んでいたか全然分からないぞっ」


アイリスもそれを見て首を横に振った。

「こんな技術みたことないです。糸目が全然出ていないし、元の生地が復活している」

 実は私も知らなかったのだが、綻びた繊維を糸にして織るように縫うのだ。

 そして糸目は裏側になるようにして補強して行くのだ。

 実は綻んだところは繊維が足りないので、別の所から持って来るのだ。

 整形手術で人体の別の場所から皮膚を持って来るのと似ている。

「これなら相当良い所に紹介状をかけるぞ。いや、それよりも筆記試験だ。あと、次の休憩時間に剣の相手をしてくれ」

 結局王都に着くまで私はメアリーの相手で殆どの時間をつぶしてしまった。

 剣の相手は寸止めルールで真剣で行った。私は盗賊から奪った剣の中から選んだ。

 子供の私には長すぎる剣なのだが、レベルのせいか苦にならずに振り回せる。

 メアリーは相当上位の腕前の筈だが、そしてレベルも私が17で彼女は25なのでパワーに差がある筈だが、彼女の予定の剣の軌道が見える為、やすやすと躱せる。

 同時に隙を捉えられるのでレベルが一つ違うだけでこうも差がつくのかと思った。

 

 そうこうしているうちに王都に着いて私は証明書を持っていなかったのでメアリーの保証で門から馬車で入ることができた。


 メアリーは騎士団の詰め所に私を連れて行くと、騎士入団試験の申し込みを半ば強引にさせた。


「みるく? 家名はないのか? 平民だな?

試験は平民には厳しいぞ」

 受付の騎士は私が子供なので肩を竦めてそう言った。

 きっと貴族なら採点を甘くしてるのかなと思った。


 その足で商業ギルドという所に連れて行ってもらった。

「この子はみるくというが剣の達人で裁縫の名人だ。剣も針も同じように自在に操る。剣の方は申し込んで来たから、縫子に雇える一流の店を紹介してくれ」

「あのう、縫子ですか? 一流のテイラーでは徒弟制度になっているので、入り込むのは無理ですよ」

「どこも外注をしていないのですか?」

 私が尋ねると担当の係はちょっと考えてから言った。

「忙しい時にとかまたは難しい時にお手伝いする縫子組合というのがあります。どこかのお店の縫子さんがバイト感覚で登録している人もいますが、内職したい主婦なども入ってますね。腕の良い職人さんも登録してるので組合の方に紹介しますか?」

「そこに登録すれば個人で注文を受けることができますか?」

「いえ、確かあくまで専門店を通して注文を受ける形になってる筈です。直接注文を受けるには、個人事業主として当ギルドに申請して頂かなければなりません。そうなると専門店と同じになってしまいますが」


 結局、縫子組合に行って会員登録することになった。

 メアリーは私を逃がしたくないらしくどこまでもついて来る。


縫子組合はそれほど大きな建物ではなかった。

 中年の太ったおばさんが窓口にいた。

「あのね、誰でも登録できる訳じゃないのよ。裁縫スキル持ってる?

 持っていたらレベルに従って仕事が受けられるけど、L1くらいなら商売には使えないから、見習いになるのよ。

 ちょっとこの布に真っすぐ並縫いをしてみせて」


 相手はもう私のことをL1だと決めつけている。

 いちおう、1㎜幅、半㎜幅の両方を20cmくらいの長さで縫ってみせた。

「は……速いわね。えっ、下書きの線も引かずにこれだけ真っ直ぐ縫ったの? うわぁぁ、上手だわ。うん、丁寧ね。じ……じゃあ、今度は」

 向こうは布の裁ち方から仮縫い、本縫いと様々なテストをして来た。

 口に出して言わなかったが、L5の腕があるので、よそ見しててもできる内容だった。

「分かったわ。よく分かったわ。でもいきなり難しい仕事は回せない。

 失敗したら取り返しがつかないことになるから。まずあなたの実力よりも下の注文をこなしてもらうわ。

 それと暫くの間は仕事の持ち帰りは禁止。

 ここにも小部屋があるからそこで作業してもらう。

 みるくさんね。登録しておくわ。で、連絡先は?」

 メアリーはそこで口を出した。

「この紙に書いてあるのは私の屋敷の住所だ。連絡がとれないときはここに知らせてくれ。それ以外は本人がここに直接訪れて仕事を貰いに来ると言ってる。この人の身元はドーラン辺境伯家のメアリー・ドーランが保証する。だから安心するが良い」

 保証人が貴族と聞いて、受付のおばさんは蒼い顔になった。

 唇がわなわなと震えている。

「ああ、怖がらなくて良い。この人は平民だから普通に扱ってやってくれ」

「は……はい、分かりました。えーと、みるくさん、よろしくね。私はここの副組合長のドロシーよ」

「はい、よろしくお願いします。後でまた顔を出しに来ます」

 

 それから布で作った会員証を出されたが、何も書いてなかった。

「ここに刺繍で自分の名前を付けて下さい。そして左胸の位置に必ずピンで止めておくこと。良いですね。どんなときでも組合員であることを示しておく必要と義務があります」

 うわあ、じゃあ…名前を人前でさらしながら歩くってことなのか? これはきっついなぁ。そうだ髪の毛とかネッカチーフで隠れるようにしよう。


 それから私がメアリーに連れて行かれたところはメアリーの実家の王都屋敷だった。

 そこには馬車で乗り合わせた冒険者たちが待たされていた。

「あ、どうも。報奨金が出たのでお持ちしました。ボスのアンドラ・ガスターってのは賞金首で金貨300枚も出てたんですぜ。なんでも元騎士団長で部下の騎士ともめて7人も斬り殺して逃走しお尋ね者の盗賊になったとか。剣鬼と言われた達人で、誰が討伐したのかしつこく聞かれました。口止めされていたので、メアリーさんの名前も含めて一切言ってません、へい」

 彼らはだいぶ待たされていたらしく、お茶のお替りばかり飲まされてお腹がタポンタポンになったらしい。

 気の毒なことをしたと思う。



 私はメアリー嬢の友人ということで客分扱いでゲストルームに泊められた。

 辺境伯は国境の守りと魔物対策で滅多に領地を離れないので、ここは実質王都の別荘扱いだ。

 それでも管理人代わりの執事やメイドや料理人などの使用人たちが常置されているのだ。

 私はメアリーに頼んでそれらの使用人たちを一人一人紹介して貰った。

 その際必ず握手をして挨拶した。

 もちろん必ず上下に握った手を振るようにしてだ。

 そのことによって、私はほぼ止まった時間の中で一人一人の顔と名前とスキルをしっかり覚えることができた。

 普通は一回軽く紹介されただけで覚えるのはかなり難しいことだが、私にはたっぷり時間がとれるのでこのスキルは便利だ。

 結果、使用人の皆さんはそれぞれ立派なスキルを持って頑張っていると思ったが、それをコピーして自分の物にしようとは思わなかった。

 自分にはもう既にギフトのように備わった能力が二つもあるほか、5つもカンストしたスキルがあるので、なんの不自由も感じなかったのである。

 欲しいとすれば日本にいたとき、10才の時に神隠しに遭った祖父を捜し出すことができるようなスキルがあれば、それが欲しいと。

 けれどもそれがどんなものなのかは私には思いつかなかった。

 けれども副産物としてこのお屋敷の使用人の人の顔と名前などをしっかり覚えることができたので、十分に親しくなることができというのがある。

 子供の私がすれ違う時に『~さん、こんにちは』とか話しかけるだけで、相手はとても明るい表情でこたえてくれるのが嬉しい。

 それをきっかけに色々な話に花が咲くことがある。

 相手がどんなスキルを持っているか分かるから、その得意分野に関することを質問すれば喜んで答えてくれる。

 子供の私でも大人の人たちとこのようにコミュニケーションがとれるのはラッキーなことだと思った。


「みるくさん、今日はお嬢様と一緒に騎士試験に行く日ですね。身なりを整えるのを手伝わせてください」

 親しくなった侍女たちがメアリーと一緒に私の服装を決めてくれるというのだ。

 なんでも貴族の子弟が結構大勢応募するので、平民っぽい粗末な服は侮られるらしいのだ。

 その為侍女たちは私の為に服を作らせると言っていたのだが、そのときはもう私は生地を買って自分で縫ってしまっていた。

 平民にしては高級に、貴族にしては華やかさを抑えて個性豊かなデザインに仕上げたのだ。

 それを見てメアリーが自分にも作って欲しいと言ったので、希望を聞いてイメージに合ったものをデザインして作ってやった。

 裁縫技術L5は他のスキルでもそうだが、カンストしてると作るスピードも速いが、独創性が芽生えるのとそれをすることに楽しさとか生き甲斐を感じるものだ。

 そして二人揃って出かけると、騎士団本部ではみんなの注目の的になった。

 凛々しさと美しさまたは可憐さを演出した服のデザインは、平民だとか貴族だとかという印象を越えて、十分個性をアピールできたと思う。

 筆記試験はそれほど難しくはなかったが、問題は実技テストで木剣で試験官の騎士と手合わせするという。

 そして女性の受験者は女性騎士が相手になって実力を試すらしい。

 やはり通常は男性の方がパワーがあるのでそうしているらしいのだ。

 驚いたのは実技テストには貴族基準と平民基準があるということだ。

 メアリーは貴族だが、試験官には平民基準で受けさせて欲しいと申し込んでいる。

 私はもちろん平民基準だ。

 貴族基準は男性の一般兵士より強い程度で剣術L2からL3の間らしい。

 一般基準は男の騎士と対等なレベルで剣術L3以上は必要になる。

 L3になると身体強化もできるようになる者もいるので男性レベルに近くなるという。

 私はメアリーと一緒に始めから平民基準で男性試験官の方に向かった。

 最初に受けて合格したのはメアリーだ。

 男性受験者と一緒に並んで順番待ちしてると、試験管は次々に叩きのめして落としている。

 合格基準は五合十合以上打ち合える力を持っているかどうかだ。

 メアリーの番になると、彼女の猛烈な勢いで試験官の方でストップをかけた。

「待て待て、分かった。もう合格だ。俺はこの後も試験官をしなきゃいけないんだ。その辺考えろっ。お前がドーラン辺境伯の鬼姫『十人斬りのメアリー』だろ。ここに来る途中でも盗賊を全滅させたらしいな」

「いや、私よりもあそこにいるみるくって子が凄いよ。あの盗賊のボス、剣鬼の目を貫いたんだから」

「げぇぇ、元騎士団長のアンドラ・ガスターか……本当か?」

「本当かどうかやってみればわかるよ」

「待て、騎士団長を呼んで来る」

 という訳で試験官は順番を飛ばして、私と騎士団長をやらせることになった。

 男の騎士団長が女の子供とやるというので、公開処刑の感はあるけど、実際はそうはならない。

 いつの間にか周囲には騎士や受験生が取り囲んで観客になっている。

 現れた騎士団長は雲突くほどの大男、木剣も通常より大きな大剣サイズだ。

 剣だけでも私の体より大きい。

 騎士団長は、私を見てメアリーの話を信じずに鼻で笑った。

「このチビがあの剣鬼の目を貫いて殺しただと? そんな訳あるか。おい、みるくと言ったか? 歳はいくつだ?」

「12才です」

「剣はいつから覚えた?」

「つい最近……です。盗賊に襲われたときに初めて剣を握りました」

「そうか、じゃあまずわしの攻撃を躱してみろ」

「はい、どうぞ」

 するとまるで子供相手に遊んでいる感の超ゆっくりな攻撃が来た。

 軽々と躱すと、だんだん剣速が速くなって行く。

 恐らく命中すれば全身の骨が砕けて即死するレベルの攻撃が連続して襲って来る。

 というのは見ている者たちの目線であり、私にとってはハエが止まるようなスピードにしか見えない。

 私は最低限の動きですべての攻撃を躱した。

 躱しても剣の勢いで風が起きて、私の髪は引っ張られるように真っ直ぐ伸びる。

「死んでも知らぬぞっ」

 騎士団長は大上段に振りかぶった大木剣だいぼっけんを私の頭頂に向けて落雷のような速度で振り下ろして来た。

 ドォォ――――ン!

 大木剣には地面に食い込んでいた。

 私はその木剣の刃に足をかけて乗り、騎士団長の目に木剣の先を突きつけ1cm手前で止めた。

「うおおおおおおおおお」

 私の体ごと大木剣を持ち上げた騎士団長は自分の負けを知っていたのだが、そうせざるを得なかったほど恐怖を感じたのだろう。

 私が持ち上げた大木剣から飛び降りる際、手に持っていた木剣を弾き飛ばされて空高く飛んで行った。

 その木剣が地面に落ちる前に、私は深々とお辞儀をして叫んだ。

「参りましたっ!」

「ううう、お前はっ……」


 このやり取りをメアリーは笑いながら見ていたが何も言わずに私の肩を抱いて会場を後にした。

 後日二人の合格が発表されたときに、合格証だけ受け取って、のっぴきならぬ事情で入団できなくなったと騎士団本部に断りを入れたのは予定通りのことである。

 なんでも辺境伯の長女の彼女の場合、常に領地には外患があるので、遊学の為に何年も離れている訳にはいかないのだ。

 武を尊ぶ貴族の中には、一応騎士団入団試験の合格証を一種の勲章代わりにしているところもあるのだ。

 私とメアリーはその後別れることになる。

 彼女は領地に戻り、私は希望してゲストルームから出て、お屋敷の裏手の小屋に引っ越した。

 その小屋を私の仮の住所にして、実質私はスキルの住居で生活することにした。

 これは私の提案だが、私は週に一度くらい留守番の使用人の皆さんと食事会をすることにしている。

 その時は私が腕を振るいお屋敷の皆さんにおいしい料理を伝授しながらご馳走をつくるのだ。

 そのときに特に人気のあったレシピをまとめておき、ときどき売りに出すこともやるようになった。

 王都ともなると、なんでも作って食べさせる食堂よりも、一品で良いからおいしい料理を出す店が流行るみたいで、そこ狙いの店に厨房を借りて料理を作って見せてレシピを売るのだ。

 もちろんそのときにはある程度その味の仕上がりになるように指導することも込みにある。

 それと女性騎士からは、例の私たちのファッションが評判を呼んだらしく、一流のテイラー店からデザインと型紙の注文が来た。

 それを機に一般女性用のドレスのデザインも売りつけるようになった。

 そして例の騎士団長が押しかけて来て、騎士団の顧問になってくれという要望にまで応えることになった。

 顧問ではないが、練習相手くらいならということで、これも週一くらいで顔を出し、相手をしてやることにしている。

 主に女性騎士たちが相手の場合、剣を打ち合わせることの少ないやり方を教えている。

 剣勢を逸らすパリィのコツも教える。

 男性騎士の場合は逆で、剣の飛ばし方、折り方なども教える。

 一番手っ取り早い練習では私を殺す積りで真剣で攻撃させる。

 それは一対一の場合で、一対多数の場合は木剣を使わせる。

 真剣だと味方同士で斬り合ってしまうこともあるからだ。

 そして弓士に頼んで先の丸い矢を騎士に向かって撃たせてそれを打ち払う練習もさせた。

 撃つ距離を短くするとか、横方向や背後から撃つとかも練習させて、奇襲されたときの対応もおぼえさせるのだ。

 貴族出身の騎士たちは若干ついて来れない面もあるので、少し優し目にしてあげる。

 そうすると彼らもプライドがあるのかハードな方の訓練を希望したりする。

 結果はボロボロになってしまうのだが、そこまでやれるだけの根性だけは少し付いたと思いたい。

 ところで騎士の間に私の対盗賊の武勇伝が広がっていたらしく、私が倒した盗賊が全員目を貫いて死んでいたところから『目刺し剣姫けんき』とか、衣服に一切返り血を浴びなかったところで『ホワイト・みるく』とかいう二つ名で呼んでいるらしい。

 話が料理の方に戻るのだが、王都の有名食堂の大部分がいつか『みるくレシピ』で占められるようになった。

 もともとあった名物料理でも、私が手を加えて改良してあげたりしてるので、王都の名物食の大部分は私の息がかかっているということになる。

 私はそのうち全国を歩き、その土地その土地の特産物を生かした名物料理を作って回ろうかなとも思っている。

 つまり衣食の面で私の『みるくブランド』は広まりつつあるのだ。







 そんな毎日を過ごしているうちに、私は王都にたまに現れると言う『幻の野菜売り』の話を聞くようになった。

 それはお爺さんで小さな屋台と共に現れて、店先に見事な野菜を並べて、普通の値段で売っているのだそうだ。

 買占め予防で個数制限があるらしく、たまには果物や穀類も売ることがあるらしい。

 季節の物は新鮮で、春先には雪室で熟成させた糖度の高い野菜を売ると言う。

 産地はどこかと聞いても秘密らしく、そのお爺さんが一人で作っているらしい。

 不思議なことは二つあって一つは並べた野菜はなかなか数が減らないことだ。

 みんなが並んで買っているのに、なくならない。

 そしてあまり人が集まり過ぎると、急に売り切れになって姿を消すが、また別の場所で売り始めるのだ。

 だからこのお爺さんに関しては売り切れることがないくらい品物がたくさんあるらしいのだ。

 もう一つの不思議は、このお爺さんはもう何十年も前からこういう商売をしているらしいのだが、人相や年齢はいつも同じで変わらないのだそうだ。

 別にエルフでもドワーフでもなくただの人間らしいのだが、何十年も前から七十代前半の容貌を保っているのだ。

 みるくは料理の関係でたまたまそこから手に入れたという野菜を食べることができたのだが、とても美味な野菜で金貨を積んでも買い求めたい逸品だった。

 みるくはその美味な野菜にだけ興味を持ったわけではない。

 ただ人伝えに聞いたところ、そのお爺さんの人相が行方不明になったみるくの祖父にそっくりなのだ。

 モミアゲの所と前髪の部分が白髪で、なで肩で背丈は170cmよりも低い。

 そしてなによりもこの世界の老人は例外なく髭を生やしているが、その老人は髭をいつも剃っているらしいのだ。

 他にもちらりと見えた奥歯が金属のように光っただとか、この世界ではありえない様子だ。

 けれども分からないのはお祖父さんがいなくなったのは二年前のことで、今12才のみるくが10才のときだ。

 何十年も前からいると言うのが分からない。

 とすると日本での時間とここの時間では進み方が違うのだろうかという結論になる。

 けれど歳を何十年も取らないと言うのは、わからないことだ。

 みるくが幼児んころから10才になるまでの間でも、お祖父さんは普通に年を取っていた。

 ほんの少しずつではあるが物忘れが多くなったり、白髪が増えたり、皴が増えたりしていた。

 けれどもみるくは料理や裁縫や剣術絡みで知り合った多くの知人を通して、その老人を見かけたら真っ先に教えて欲しいと方々に頼み込んでいた。


 そして……









 ついに王都の中央広場に例の屋台が出ているという知らせを受けて、私はそこへ急行した。



 小さな屋台で野菜を並べて売っていたのは、間違いなくみるくの父方の祖父の三郎だった。

「お祖父ちゃん!」

「えっ?」

「私みるくだよっ。とうとう見つけた」

「えっ、そんな馬鹿な?」


 その後、野菜がすぐ完売して店を畳むことになり、私はお祖父さんに手を引かれたと思ったら、見知らぬ農園に来ていた。


「ここは?」

「未開の森の奥に作った私の農園だよ。どこの国にも属さないから税金はなしだ」

 どうやらお祖父さんは瞬間移動ができるらしい。

「儂は異世界転移でこっちに来たんだ」

「じゃあ、私と同じだね」

「いや……それは違う」

「えっ、どうして?」

「お前の場合は異世界転生じゃよ、間違いない」

 

 そのとき私は何もかも思い出した。




 私の名前は常夏とこなつ美瑠玖みるく、祖父の名前は常夏とこなつ三郎さぶろう

 私が10才の時に父方の祖父の三郎は外出中に急にいなくなった。

 私が遊びに来ていた時に、コンビニに行って何か食べるものを買って来てあげると言って出て行ったのだ。

 けれどすぐ近くのコンビニなのに時間がかかり過ぎる。

 私は待ちきれなくなって迎えに行くと、近所の人が集まってなにやら話をしている。

 何が起きたのか聞きに行くと、私のお祖父さんが突然姿が消えたと言う話だ。

 見ていた人の話によると、お祖父さんが連れ立って歩いていた高校生の一人が手帳のようなものを落としたのを見て、それを届けてやろうと思って近づいて行ったときだった。

 高校生たちの集団が急に光に包まれて消えてしまって、その後お祖父さんがワンテンポ遅れて時間差で消えたとか。

 この話は当時物凄い話題になったが、その出来事があまりにも非現実的だというので、集団幻覚だと言われた。

 けれど実際複数の高校生と祖父が行方不明になっているので、神隠しか異世界召喚かともその方面のマニアの間では話題になっていたのだ。

 それから私は年を重ね、結婚し子供ができ、その子供も大きくなって自立し、やがて夫に先立たれて……とうとう自分自身が天に召されるときになった。

 臨終する時私は、ふと大好きだったお祖父さんのことを思い出し、天に向かって祈ったのだ。

 ああ、できれば子供の頃に戻ってあのお祖父さんに会いに行きたい。

 お祖父さんが異世界に行ったのなら、私も同じところに行ってみたい。

 そして私は一生を閉じたのだ。

 その前世の記憶がたった今蘇ったのだ。

 前世に老衰死した私は、この世界で12才の頃の姿で転生し、祖父と再会したのだ。

 でも何故祖父まであの頃の祖父のままなのだろう?



「日本とこの世界では時間の進み方が同じだということは、他の転生者の話を聞く限り間違いないことは分かっていた。

 それなのに何十年も前に別れた孫娘のお前があの頃とあまり変わらぬ姿で現れたのでびっくりしたが、これは異世界転移じゃなく転生だと分かったのだ。儂はエルフの不老長命スキルを得たので、年を取らなかったのだ」

 またお祖父さんは神眼を持っているらしく、自分や私の異世界転移や転生について教えてくれた。

「儂の場合は勇者召喚に巻き込まれたものの、王宮の召喚の間に現出する直前に不適格と判定されて自動的に召喚の魔法陣が除外したらしいのだ。だから一切問題にされなかったしスキルも全くなかったが、後天的にスキルを吸収することができたのは異世界人特典の体質なのだろう。お前の場合は勇者召喚に巻き込まれたのではなく、必要不可欠な要素として召喚されている。けれど12才という肉体に勇者並みのスキルにすると体が持ちこたえられないために常在スキルと顕在スキル合わせても勇者より一つ少なくしかも体に負担の少ないスキルになったと考える。顕在スキルがカンストしても3日で潜在スキルになって使えなくなるのもスキル枠が限定されていたからだ。レベルが上がってスキル枠が増えて潜在スキルがなくなったのは、体力的に改善されたせいだろう。まあ、スキルの全てが一般の鑑定では認知できない種類のものだったから、王宮の召喚の間に現出しなかったのだろう」

 そして、常在スキルの『スキルコピー』についても発動の条件を教えてくれた。

 『時間停止空間』については命の危険があったときに自動的に発動することはなんとなく分かっていたが、このスキルに関しては発動条件がよくわからなかったのだ。

「簡単なことだ。振動やリズムを共有した者同士が存在したときに発動するのだ。どのスキルをコピーするかどうか判断する時間を得るためにほぼ時間が停止しているように感じる。魔狼の足音で地面が振動したり、馬車に乗っているときに車体が揺れたり、握手してるときに手を振ったり、剣戟のときに剣を打ち合わせたりすれば振動やリズムが生まれる。それがトリガーになっていたのだ」

 そしてお祖父さんは、私にスキル枠があと二つ空きがあるのを見て、これから一緒に行動するのに必要な二つのスキルを教えてくれた。


 その後、私はお祖父さんから『不老長命スキル』と『瞬間移動』のスキルをコピーして一緒に暮らすことになった。



 その後の物語は……またいつか。



       (了)


  

 

 

最後まで読んでいただいてありがとうございます。

なお、この作品の最後の部分は後から書き足して、異世界転移や転生に関することや、主人公のスキルについての種明かしを祖父がしているようにしました。

面白かったと思ったら『良いね』を入れて下さいね。

ではお元気で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ