9.聖女の力
「でもどうやればいいんだろ…傷口は縫合しなきゃダメよね…あと感染症にも気を付けなきゃ……あらっ?
あらららら?……おっ?、これは…」
幸来が傷の治りをイメージすると、目の前のパックリと開いた傷口が綺麗に塞がっていく。さらに火傷でただれた傷口も新しい皮膚が再生されるかの様に、綺麗な皮膚に戻っている…。
戸惑う幸来よりも先に、傷を負っていた騎士本人が声を上げる…
「この光は……きっ傷がっ!い、痛みがなくなった!」
他の騎士達も覗き込んでとても驚いている…。
手をかざしていた幸来の手と、怪我を負っていた騎士から光が消え…医務室に静寂に包まれた。
「痛みや違和感はありますか?治ってますか?」
本当は、勢いそのままに怪我の様子を聞きたかったが、嫌悪感や不信感を持たれない様に、出来るだけ穏やかに話しかける幸来。わかりづらいが笑顔もつける…
騎士が答えようとした時、マティアスが帰ってきた。
「団長!この方はっ?」
「団長っ!治癒どころの話ではありません!」
「団長っっ!自分は奇跡を目の当たりにしました!」
部屋に入るなり騎士達が飛び付き、一斉に話しかけた為困惑したマティアスは騎士達を引っ剥がしながら"一体何があった!一人ずつ報告しろ"と状況を把握しようと幸来の側へ行き…"大丈夫か?"と頭を撫でる。無意識の行動ゆえに何も言えない…。
傷を負っていた騎士が恐る恐る発言する
「団長…傷が…全て治ったのです……まるで最初から怪我なんてしてなかったかの様に…自分は…夢を見ているのでしょうか?」
「はっ?なんだと!見せてみろっ!」
騎士の腕と身体を確認したマティアスが"これは…"と驚いている…。
側で一部始終を見ていた騎士達も、自分達が見た現象を報告をし…全ての視線が幸来に集まる。
「幸来…確認だが…お前が治したのか?…」
「そうですと言ったら…私はどこか別の場所に連れて行かれちゃいますか…?」
幸来に集まっていた視線がマティアスへと移る…
何かを考えているマティアスに付添いの騎士が発言する
「団長…この方は…聖女様なのですよね?……先日召喚された聖女様が何故騎士団にいらっしゃるのですか…?確かお披露目の為、神殿や教会をまわられていると…」
「違うっ!別人だ…最初に召喚された聖女とは……
別の…………聖女だ…。」
「そんなっ聖女様が……二人?……ありえないっ!」
「いや…でもっ先程の光は…」
マティアスの"別人の聖女"と言う発言に、戸惑いを隠せない騎士達が声を上げる。
「お前達!静かにしろっサーラが怯える!俺も状況がわかっていないんだ、一旦落ち着け…。
サーラ…詳しい話を聞いてもいいか…?」
「はい…あの、私はこの世界に来て何者だと聞かれた時聖女だと伝えたんです…。でも誰も信じてくれなくて、罪人となる所を団長様に拾われた?んだと思います…。
聖女の力は初めて使ったので…よくわかりませんが……その人の傷が酷かったので…少しでも助けになればと…善意からです。他意はありません…
もし私が聖女という事で…こちらにご迷惑をおかけしてしまうなら…私は他の場所を探します。
でも…私を否定したお城には行きたくないので……
この事は秘密にしてて欲しいです…。」
マティアスの険しい表情や騎士達の慌て様を見て、なんとなくだが…聖女が歓迎されていない様な…アウェー感を感じ取ってしまった幸来は、いち早く身を引く宣言をした。
「サーラ!サラ!違う、迷惑だなんて思っていないっ!お前は、もううちの一員なんだ。そんな事はさせない!
おいっ誰かフィンを呼んできてくれ。」
場所をマティアスの執務室へと移し、その場に居合わせた新人五人と副団長のフィンレーを交えた会議が開かれる事となった…。
話を聞き終えたフィンレーは"なるほど…"と呟き…
「聖女、サラ様…この度は新人団員の怪我を治してくださり、本当にありがとうございます。
聖女様のご慈悲をいただいたというのに…団長はじめ…団員達が貴女様を不安にさせてしまい、本当に申し訳ございません…。
仲間を助けていただいた聖女様の不利益になる事などは決していたしませんのでご安心ください。 ですので、聖女様さえよろしければ当初の予定通り、こちらに御身をお預けいただければと思いますが…」
"いかがでしょうか?"と控えめに提案をしてくれるフィンレーの申し出をありがたく感じながらも…本当に鵜呑みにして良いかどうかを考えあぐねていると…
「サーラ…いや、サラ様。私からもお礼申し上げます。
フィンの言う通り、まず最初に最大の感謝の意を表すべきでした…私が未熟であったが為、要らぬ心配をかけてしまい…自分が情けない…。
フィンが今話をした通り、私達は決して仲間を売ったりはしないと誓う!たからっ、お前さえよ…いやっその…貴女様さえよければ、ここを拠点としてくれたらいいと思っているし、教会や神殿に行くのならば…責任を持って上層部へと掛け合うから…その心配もしなくていい」
マティアスの、崩れながらも誠意が込められた言葉を受け取った幸来は、厚い眼鏡越しではあったが…マティアスの目を見て頷き、微笑んだのであった…。