8.新たなスキル
帰りの馬車の中、幸来は考え込んでいた…
団長もその空気を感じ取ってか、話しかける事もなく…馬車の外を眺めていた。
そもそも田舎育ちの幸来は人助けや、助け合いの精神が根本にあった…。
しかし都会に出て来て人付き合いの希薄さや、お人好しの性格を利用され続けた事により、人見知りで用心深くなってしまってはいたが…
本来の姿は世話焼きのお節介だったのだ…気になり出したら止まらない、気に入った人間にはとことん尽くしたい…そんな幸来だから……
『…情けは人の為ならず…だよね…じいちゃん…。』
「神様!聞こえたら返事してください!」
〈ようやく声をかけてくれたね!調子はどうだい?
なかなか良い感じに馴染んでいる様だ、さすがだね!〉
「神様!私っ、あの…新しいスキルが欲しいんですっ!"知識"と"物作り"…イメージしますから…」
〈ふんふん、なるほどなるほど〜いいね、便利だね!
じゃあいくよっ!はいっ! これで君は4つのスキルを持ってるからね、あとは?何か欲しいのある?〉
「私、魔法使いって人達にあったんですけど…その人達魔法使い過ぎたら魔力が枯渇するみたいな事言ってたから…"吸収"・"放出"・"分配"こんな感じの…」
〈ワォッ!君はなんてクリエイティブなんだ!君の頭の中を覗くのがとても楽しいよ!
君は…自分の為ではなく他人の為に役立つスキルを欲しがるんだね!いやぁ…本当に興味深い…〉
「神様?私は勿論…見返りを期待しているわけではないけど…私のおじいちゃんがよく言ってたの…
"情けは人の為ならず、蒔かぬ種は生えない"ぞって…
だからなんでも…きっといつか自分の為になるんだって
そう思って頑張ってきたの…んー…結局は私利私欲になっちゃうのかな?…」
〈フフフ…君のその独創性はお祖父様譲りなんだね!
そんな君に贈り物…聖力のランクを上げてあげる。色々試すといいよ! それじゃあ…また呼んでっ!〉
「神様?ランクって…私まだ何もしてないのに…それにまだ聞きたい事も…」
〈幸来?あのね、他人の為に心動かし…覚悟を決める事は…普通難しいんだよ?
そして君のやりたい様に…心の赴くまま動いていいよ!君は自由なんだ……〉
「あぁ、いっちゃった…でも…スキル貰えたみたいだし色々試してからがいいかなぁ…」
ブツブツと独り言のように呟いていた幸来に団長が声をかける。
「サーラ?どうした?何か買い忘れた物でもあるのか?街に戻るか?」
「あっ…いえ、大丈夫です…。」(私口に出しちゃってた?………気を付けなきゃ…団長は良い人だけど…)
「そうか、ならいいが…だが、遠慮せずに気になる事はなんでも言ってくれ。こちらに慣れるまでは色々と大変だろうから、一人で抱え込むんじゃないぞ?」
マティアスに全てを話しきれてない幸来が、若干の気まずさを感じながらも、馬車は騎士団へと戻って来た。
与えられた部屋へと入り荷物を整理して、騎士団の中を案内してもらう…すると医務室だと案内された部屋の中が騒がしい。
団長が確認すると怪我をした新人が数名、怪我の手当てをしているそうだ…。"医務官や治癒師はどうした?"という問いに、なんでも聖女様のお披露目の場に連れていかれたとの事で、仕方なく自分達で応急処置を施しているのだと…。
"俺の承諾も無しに勝手な事を…"団長の表情が変わると同時に、室内がピリッとした空気になった…
「サーラ、早速ですまないがコイツらを手伝ってやってくれるか?俺がフィンと城に確認して戻るまでだが…」
「はい、大人しく皆さんのお手伝いをしています!」
「そうか、助かる!ありがとう。
おいっ!整列!お前らいいか?この子は…いや、この女性は城からの預り人で"迷い人"でもあるから、接し方に気を付ける様に!わかったな!」
そう言って団長は部屋を後にした…そして後に残された私と新人さん達は軽い挨拶と自己紹介を交わしながら…傷の手当てを……とそこで私はひらめいた!
勝手も何もわからない私は、せいぜいガーゼを切ったり包帯を巻いたりするぐらいかと思っていたが…ここにいる人達も何をどうしていいか分からず困っている様だ…
ならばと私は思い切って声をかける…
「あの…傷を見せてもらっていいですか…?」
5人いる新人騎士は顔を見合わせながら思案し…しかし自分達でもどうも出来ない為、幸来に従った…
傷をみると結構ひどい…聞くと、どうやら実力を過信した新人が先輩騎士の洗礼を受けたそうだ…
普段ならこの医務室には医務官と治癒師が常駐しているので、大抵の傷は心配ないそうなのだが。今は違う。
「《 サーチ ー探索ー》異物は…きちんと洗い流されてて、止血も出来てる…応急処置は…大丈夫みたいね。でも傷口は小さいけど傷は深い…
《 ナレッジ ー知識ー》血管損傷と神経損傷…か…、
浅い傷と火傷の箇所は…薬草と薬ね…ふんふん…。
私…聖女なんだから…なんとか治せないかな?」
今更ながらその事に気付いた幸来は先程出先で聖女が治癒を施した…という事を思い出し、自分でもやってみようと思ったのであった…。
文中の
「情けは人の為ならず、蒔かな種は生えない」は
・情けは人の為ならず、巡り巡って己が為
・蒔かぬ種は生えない
二つのことわざです。
人にかけた情けも優しさもいずれ自分に返ってくる、
すなわち…蒔かぬ種は〜に繋がっているのかなと思っています。
二つ目の蒔かぬ種は〜は…何事も原因があって結果があるから努力や準備をしなさいと言う意味ですが…
色んな所や、様々な場面で…親切の種を蒔いて優しさの芽が出てくれるといいなぁと思っています。