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8,老人達の暗躍

「ここだ」

「これが領主館…」


闘技場を出て15分ほど

カズが立ち止まった先にはこの世界では初めて見る4階建ての建物が建っていた

昨日街を彷徨っている時にも遠目に見えていたけど領主館だったのか

これを目印にして何度助かったことか

元の世界では4階建てなんていくらでもあったけど、装飾が西洋風で外観も綺麗だからまた違う印象だ


「リオンゲルド様、お待ちしておりました!議会室で元老員の方々が待っておられます!」

「ああ、すぐ行こう」


ん?こいつ……一応使っておくか…


「じゃあ俺らも…」

「お待ちください」


俺達はカズの後について領主館の中へ入ろうとしたがカズを出迎えた執事がそれを遮った


「今お客人を領主館に入れることは出来ません。議会からもなるべく人の出入りを減らすようにと言われております。誰が敵となりうるか分かりませんので」

「いや、この2人は大丈夫だ。俺の()()で確認済みだ」

「しかしですな…、あのリアム殿が裏切っていたとなるとやはり警戒はしておくべきではないのかと」

「うむ、それはそうかもしれん。リアムの件は私はまだ信じてはいないがな。だが、このふたりは闘技場での騒ぎを収めた立役者だ。せめて、応接室に通してやってくれ」

「ふむ、ならば見張りの兵士をつけるのであれば良いでしょう。御二方は私が応接室に案内致します。リオンゲルド様は議会室へ向かってください」

「ああ、わかった。それじゃあ2人とも、しばらくここに居てもらうことになるかもしれん。なるべく不自由のないようにするが、何かあれば遠慮なく執事に伝えてくれ。身の安全は私が保証しよう。まあ、そこらの悪党にやられるような玉じゃ無いだろうけどな」


そう言って、カズは中へ入っていった


「それでは、我々は応接室に向かいましょう」


俺とパティールは執事の後について領主館の中に入る


「しかし、リオンゲルド様があそこまで仰るとは、お二人は相当な実力者なのですな」

「パティールはカズとだいぶ仲良さそうだったしな」

「はい、武闘大会で優勝するとカズさんとひと試合できるんです。そこで仲良くなった感じですね」


パティール、お前普通に喋れるんか


「なるほど、それなら納得ですな。リオンゲルド様は強いお人がお好きだ。もちろん、市井の領民のことも大切に思っていらっしゃいますが」

「自分のことを愛称で呼ばせてるくらいだもんな」

「はい。元老院の方々は態度を改めるようにと言っておられますが、領民からの支持が厚いためか無理にとは言えないようです」

「俺もああいう感じの方が好きだな。敬語は苦手だ」

「ほっほっほ、それもそうでございますな。親しみやすさというのもリオンゲルド様の長所ですからな。さて、着きました。ここが応接室でございます」


広いメインフロアを抜けた先、廊下の突き当たりの部屋が応接室らしい

両開きのドアを開けるとかなり広い部屋が広がっている

校長室とか、社長室みたいな感じだな


「それでは私はお茶を持ってまいりますのでここで失礼致します。外に兵士二人を置いていきますので何かありましたらその者にお伝えください。それでは」

「はい、ありがとうございます」


お前、普通に喋れるのにいつもあんな話し方してるんだな

え、キャラ作り間違えてない?

それはそうとして

執事が部屋を出た後、兵士達と小声で話していたので、魔力変換で聴力を強化してみた

おかげで俺の耳は「()()」という単語をしっかりと聞き取っていた


「さてと、どうすっかね〜」


---------------------------

議会室


バタン!

リオンゲルドは扉を蹴破るように開けて議会室へと飛び込む

中では元老院の議員達が座って待っていた


「領主殿、ご自分の領地で問題が起こっているというのにどこへ行っておられたのか」


元老員の大半はリオンゲルドよりもかなり年上である

彼らは自分の息子よりも若い青二才が自分の上に立っていることが許せない

一見ただのバカのように見えてちゃんと腕がたつのも癪に障るらしく、リオンゲルドに対して強く当たる事が多い

制止役であったリアムがいない今はなおさらだった


「小言は後だ、現状を教えてくれ」


リオンゲルドも他人の悪意に気づかないほど馬鹿では無い

わかった上で無視している

それがリアムから教えられた対処法である


「ぬぅ…、今の所は落ち着いておる。闘技場での騒ぎもそうだが、何よりリアム殿の裏切りについて詳しく調べているところだ」

「本当にリアムがやったのか?」

「そう聞いているが?。話によれば闘技場で騒ぎが起こったのとほぼ同時刻に都市核の間に入っていったと。しかもその前には怪しげな呪術師と話していたとの情報もある」


それはにわかには信じ難い話

リオンゲルドは未だ、リアムが今回の騒動を起こしたことに疑問を抱いていた


リオンゲルドとリアムはファシリア大陸アカデミー時代からの付き合いである

入学した時からリアムは生徒たちの注目の的だった

何せ齢16にして自家である伯爵家で父親の補佐を務め、彼の案が治世に取り入れられるほどである

さらに、博識で剣の腕まで立つとなれば注目されるのは必然だ

元々リアムの親は名領主だったこともあり、将来を期待された人材であった

対してリオンゲルドはと言うと、リアムの家よりもひとつ上である侯爵家の出だったが、勉学は大の苦手、腕っ節があると言えば聞こえはいいが、実際のところはただのやんちゃっ子であった

講義の半分以上は居眠り、成績も中の下とあまり良いものではない

そんな似ても似つかない2人だったが非常に仲が良かった

理由は単純

2人とも同じ夢を持っていたのである

それは「立派な為政者になる」事

リアムはともかくリオンゲルドにとってこれはとてつもなく大きな夢であり、壁であった

リアムはリオンゲルドのために付きっきりで勉強を教えた

リオンゲルドも必死に努力し、徐々に成績を上げることに成功したのだった

そして月日は流れ6年後の卒業を目前にしたある日、リオンゲルドはリアムにある提案をした。「俺と一緒にヴィルトレルムへ来てくれないか」と

なんとリオンゲルドは6年間で評価を一気に上げ、悪政を敷いていた前領主の居なくなったヴィルトレルムの領主の座に就くことになったのだ


「僕が断ると思ってるのかい?まあ、断っても無理やり連れていくだろうけどね」


と、リアムは快諾。しかし、


「問題は父上だ。長男である僕が跡を継がないというのは問題だからね。許してくれるかどうか…」


というわけで2人は卒業後、リアムの家に突撃

リアムの両親だけでなく、ふたりと同じアカデミーに通う4つ下の弟、スティーブを交えて長い話し合いが行われた

結果、スティーブが跡を継ぐという形でリアム両親は折れた

ただしスティーブがアカデミーを卒業して領主としての仕事を覚えるまで待って欲しいとの事

ちなみにスティーブはと言うと


「カズ兄にはリアム兄さんが必要だからね。僕が兄さんに負けない領主になるよ」


と、なんとも頼もしいことを言ってくれた

その後、各所への報告

リオンゲルドの家への挨拶など多忙な日々を過ごした

リオンゲルドの父親はかなり怒っていて、リオンに何度も謝っていた

散々父親に絞られた後リオンゲルドはヴィルトレルムへ、リアムは自分の家へ向かった

そして5年後、リアムはヴィルトレルムへやってきた

リアムの手腕は凄まじく、リオンゲルドのまとめきれていなかった土地や人々を一気にまとめあげて見せた


そんな優秀で優しく頼りがいのある、何より1番の友が自分を、このヴィルトレルムを裏切るということがリオンゲルドには信じられないのだ


「リアムと話したい。あいつは今何処にいる」

「会うことは許しませんぞ。どうせ嘘を吐くに決まっている」

「あいつは俺に嘘をついたことなど1度もない!それに俺の能力があればすぐに分かる事だろう?」

「能力を過信しすぎるのも些かどうかと思いますがな」

「どういう意味だ」

「そのままの意味ですよ。いくら神から与えられたものとはいえ、万能ではないと言うことです」

「ふん、神を馬鹿にするとは随分と偉くなったものだな、お前たち。もういい、直接話せばわかる事だ」


そう言ってリオンゲルドは部屋を出ていく


「待たれよ!…はあ、全くこれだから血の気の多い若造は」

「どうするのだ?あいつがリアムと会えば、我々の嘘は直ぐにバレてしまうぞ」

「リアムのことだ。もはや私たちの計画にも気づいておるやもしれん」

「本来ならば闘技場で殺すつもりだったのだろう?既に計画は狂い始めておる」

「ふん、闘技場に潜り込ませた奴はせいぜい運が良ければの程度だ、薬の副作用にやられたのだろう。この程度で我々の計画は崩れんよ」


元老院議員の数人が怪しげな話をしている

しかしこの場にいる彼ら以外の誰もが気にする様子もなく椅子に座っている

その顔は虚ろで、まるで操られているようだ


「あ奴らは絶対に殺す。そのためなら悪魔に魂を売ることも厭わん、そうだろう?」


他の数人は頷き合い、それぞれが動き出す


だが彼らは知らない

彼らの計画を台無しにできる男たちがこの領主館に招かれていたことに


---------------------------


「おお、いい茶葉を使ってますね」


いやあ、風味がいいね風味が


「今お出ししたのは市販のものですが…」

「………いやあ、きっと淹れた人が上手だったんですね」

「ほっほっほ、そう言って頂けると我々も有難い限りでございますよ」


しっかり爆死したよ恥ずかしい

だってこういうとこで出てくるのって大体高級な奴じゃん

別に高級じゃなくても美味しいから良いけどさ

とまあそんなことはそこら辺の草むらにでも捨ておいて

この後のことを考えないとな


「エイスケ君、一応張ったっすよ」

「おう、サンキュな」


パティールが小声で魔法の完成を報告してくれる

パティールに張ってもらったのはサイレントフィールドとカームフィールドだ

効果は名前の通りで、前者は結界内と外の音をシャットアウトするもので、後者は精神の昂りを抑えるものだ

この後、万が一ここで戦闘が始まった時の保険みたいなものだから戦わずに済むならそれが一番なんだよなぁ


「それにしてもよく気づいたっすね、あの執事の事。全然そんな感じ無かったっすけど」

「俺もなんとなくって感じだったんだけどな。能力使ったら黒だったわけだ」


そう、俺達が最初にあの執事と会った時、感じたんだ

こいつ、嘘ついてるってな

読心使って確定したけど、やっぱ人の嘘に敏感なのは昔から人の感情を見てたからだろうな


「で、どうするんすか?とりあえず動かなければ何もしてこないんすよね」

「まあ、あいつらの会話を鵜呑みにするならな」


あいつらはこう言っていた

部屋を出ようとしたり、襲ってくるようならすぐに殺せ、と

つまりここで大人しくカズが戻ってくるのを待っていればなんの危険も訪れないって事

でもなぁ、たぶんカズの方も何かしら絡まれてるよなあ


「どうかなさいましたか?」


執事が笑顔で近づいてくる

一見人当たりのよさそうな老人だが、俺の能力がこの人は敵意を持っているということを知らせている


「いえいえ、こっちの話なんで、お気になさらず」

「そうですか………あまり私どもを心配させるような事はなさらない方がいいでくださいね?こちらとしましてもあまり大事にはしたくないですから」


暗に変なことしたら殺すと言われてる

もうちょいオブラートに包めたんじゃね

一瞬だけ執事の色に別の色が映ったけど、すぐに元に戻ったし、少なくとも味方になってくれる可能性は無いな


と、外の兵士のひとりが執事を呼び出した


「お?パティール、戦闘準備だ」

「なにか動きが?」

「なんかグリードって奴が殺せって命令してきたらしい」

「あぁ、納得っすね。たぶん今回の事件もグリード卿の仕業っす」


どうやらグリードとやらは評判が悪いらしい

市民からもそう思われてるってことはよっぽどだな

パティールと話しながらどうやって無力化するかを考えていると、先程にはなかった殺気を携えた執事と兵士ふたりがこちらへと向かってくる


「大変申し訳ありませんが、あなた方にはここで死んで頂きます」

「はっ、招き入れといて殺すのか。あんたらの上司は余程非常識なんだなぁ」

「ふっ、我々に抗う権利などないのですよ。所詮都合のいい捨て駒、操り人形と言った所です」


どこか諦めたように呟いた一言はおそらく俺にしか聞こえていない

しかし、その一言で充分だった

その言葉には全てを伝える色がある

俺はヒーローじゃないし、なるつもりもない

だが俺に解決できるのなら喜んで渦中に飛び込んでやる


「さてと、人助けの始まりだな!」

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