7,交差する思惑
「こいつらほんとタフだな、鬱陶しい」
「やっぱり精神系統の魔法が使えないのが痛いっすね」
「だな。まさかこんなことになるとは誰も考えちゃいなかっただろうから仕方ないんだがな」
2人は会話しつつも、向かってくる敵を打ち倒していく
だが相手は薬によって強化されており、尋常なまでにタフであるため二人とも手を焼いているようだ
しかも英介は先程まで戦っていた身であるため疲労が溜まってきているのだろう
「うがぁぁぁぁああぁあああああ!ゴろぉぉぉおオオぉぉぉすぅぅぅぅぅぁぁぁあああああ!ギヒャヒゃひゃぁぁァぁ!」
「気持ち悪いこと言ってねぇでさっさと寝ろ」
「ガッ!?」
時折めっちゃ頭悪そうなやつがいるが、どうやら服用した体の元の強さが薬の効果に影響しているようだ
こいつみたいに完全に自我を失っている奴は薬に耐えられるだけの強さを持っていないらしい
そういう奴らはそんなに頑張らなくても倒せるのだが…
「殺す…ここにいる奴らを皆殺しにすれば……俺が最強だあ゙あ゙あ゙!」
まあ、あいつも十分頭が溶けてそうだけど一応言語話してるし自我はあるみたい…って、ん?何か違和感が…
「なあパティール、なんかあいつの周りの倒れてる奴ら転送されなくないか?」
「えっうそ、もう規制かかったんすか?いやでもそんなはずは…」
「規制?」
「この闘技場にはかなり複雑な魔法がかけられてるんすけど、医務室の容量がいっぱいになると転送されなくなるんすよ。その場合は状態保存の魔法がかけられて数分間は保護できるんすけど…」
「それが過ぎれば状態保存は解けて、死へとまっしぐらって訳か」
「はい。でもおかしいっす。こんなに早く転送されなくなるなんてこと今までないんすよ。医務室でも何かあったのかもしれないっすね」
もしくは…いや、それは無いか
「はぁ、次から次へと面倒事が出てくるな。さっさとここ片付けて医務室行かねぇと。フラットもリトもそこにいるはずだし」
「でもこいつら簡単には倒れてくれないっすよ」
「そこでパティールにひとつ提案だ」
「なんすか?」
「思ったんだが、こいつらがやってる事的に明らかにここの魔法で撥ねられると思うんだよ」
「確かにそれはそうっすね」
「だけどこいつらは転送されない。違反扱いされてないのか、違反の条件が変わったか変えられたか…。それにな、お前は気づいてないみたいだが暴れてるやつの中に精神魔法使ってるやつがいたんだ」
「えっ、ほんとっすか?」
「ああ。ここで考えられるのは牢の方でも何かが起こった場合と、この闘技場の魔法に何かあった場合だ」
「何かって…でもここの魔法はそう簡単にいじれるほど単純じゃ…」
「今みるべきはそこじゃないぞパティール。この状況をどう利用するかだ」
「えっ?利用………あ、そうか!」
「そう、俺たちが精神魔法使っても転送されることは無い!つまり精神魔法使って意識削り取れば俺らの勝ちって事よ!」
「確かに今なら行けるかも…よし、分かったっす。一気にやっちゃいましょう!」
「よし、とりあえず発狂してるヤツらを優先的に…って、残ってるの俺たちだけっぽいな。遠慮なく叩き込んでやるぜ」
もはや正気でいるのは英介とパティールだけだった
暴徒達は真っ先に戦士達を狙い、今では観客に手を出そうとしている
ただ、観客の中に暴徒を抑えている人がいる
あれならしばらく向こうは大丈夫そうだ
「ったく、戦う気の無い奴を襲うのは違うだろーがよ」
俺が一言つぶやくのと同時にパティールが魔法でヘイトをこっちに向ける
「うおおおぉおぉあああぁあぁぁああ!」
「ごろぜぇぇぇえええぇぇぇぇぇ」
「あがぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁあぁ!」
一斉に飛びかかってきた奴らに俺たちは精神攻撃をぶち当てる
「マインドウェーブコントロール!」
¨¨¨マインドウェーブコントロール¨¨¨¨¨
生物にはそれぞれの"波長"がある
これはその"波長"を意図的に操作する魔法
操作する対象の人数、強さによって効果が変化し、数が多ければ多い程、また強ければ強いほど効果は弱まり、失敗する可能性が上がる
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
パティールの放った魔法が近づいてきた薬中達の精神波を鎮めていく
無理やり元の状態に戻したからか、奴らはその場に力なく崩れ落ちる
「精神操作!」
パティールに続けて俺も能力を発動した
精神操作はその名の通り、相手の精神を支配し、操る能力だ
読心と合わせて使うとまじで強いんだが今は必要ないな
俺は向かってくる奴らの精神に干渉して掌握しようとする
すると一気に奴らの思考が俺に入ってきた
‥‥‥殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね殺す死ね死ね死ね死ね殺す力をくれ殺す殺す力をくれ殺す殺す死ね死ね死ね力を殺す殺す殺す……
ぐぁっ!あいつらの憎悪の感情強すぎだろっ!
気ぃ抜いたら飲み込まれそうだ…!
「エイスケくん!僕が無力化した人たちの方を操るっす!起きている人達を操るのは危険っすよ!」
「っ!助かる!」
精神の操作は抵抗、反射されやすい
最悪の場合、使用者の方が乗っ取られる可能性もあるのだ
意識を失っているのならば確実に操作出来る
「精神操作ぁぁ!」
俺は魔力を多めに込めて、周りへと打ち出した
-------------------ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
闘技場・医務室
「精神操作ぁぁ!?」
「まあまあ落ち着きなよ、リト君。大きな声を出したら周りの人がびっくりしちゃうよ。それにこれは英介のためでもあるんだから」
「す、すみません…。でも、エイスケのためっていうのは?」
「フフっ、それは知らなくていいんだ。英介君は僕が思っていた以上に魔法への抵抗力が強くてね。まさか僕の魔法が一ヶ月程度しか持たないとは流石に思っていなかったけど…」
魔王様の魔法が効かないなんて…エイスケってもしかして魔王様より…?
「うーん、神等は僕の方が高いんだけどね~。魔人ってこととか転生者ってことを加味してもどうしても計算が合わない。やっぱりあの子をこの世界に呼んだ存在が何かしらしたのかな…。僕の魔法がダメってのが不思議だよね…。まさか別次元の存在…?いやでも……」
魔王様は何を言っているんだろうか
俺にはよく分からないけど、どうやらエイスケは魔王様から見ても異質らしい
「大丈夫だよ、君のことを信頼してるからね」
「ありがとうござ…」
「それに」
「?」
「どの道君はこの会話を忘れるんだからね」
「え…」
「精神操作」
「魔王様!?……うっ…」
頭の中にもやが広がっていく
「エイ…スケ…」
どさっ
---------------------------------------------------------------------
「ほんと、どーゆー事なんだろうねぇ。こっちは魔神から力を貰ってるって言うのにさ。他の神の干渉を受けたとしても魔神に勝てるはずがないのに。おかげでわざわざ他人を経由しないといけなくなっちゃったよ。ま、いい具合にリトと仲良くなってくれたのが救いだね~。リトを介しての干渉なら多少は威力も上がるし、何より僕が居るってバレにくい。英介にはなるべく気づかれたくないからねぇ。さて、いつリトを起こすか考えようかな~」
---------------------------------------------------------------------
「ん?あれってエイスケの仲間の…リトだっけ。誰と話してるんだろ?」
僕は医務室で治療を済ませた後、周りの人達の様子を見て回っていた
暴動についてなにか分かるかもしれないと思ったからだけど、よく考えたらあの人達は牢の方に送られているんだから新しい情報はあまりないよな~
そんな時にエイスケと一緒に居た魔人を見つけた
医務室が思いのほか混んでいなかったのと、目立つ見た目のおかげですぐに見つけた
何やら1人でブツブツ言っている
大丈夫かな
「魔王様!?……うっ…」
「ん?」
急に頭を抑えてどうしたんだ?まだ治療が終わってなかったのか?
「エイ…スケ…」
どさっ
「えっ!?」
急に倒れたぞ!?
「ちょっとリト君!?しっかりして!リト君!」
とりあえず治療しないと…
「誰かー!回復魔法が使える人は居ないかー!いたら来てくれー!」
フラットの声が医務室に響き渡る
-------------------ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ、とりあえずこんなもんか…」
「案外サクッと終わったっすね」
「俺とお前のコンボが強すぎんだよな〜」
俺達の周りには死体の山、もとい無力化した馬鹿共の山ができていた
あんだけ派手に暴れていた割にすんなり魔法が通るのだ
いや、薬で精神やられてたからガードがほぼなかったのが幸いしたのか
とにかく、早く鎮圧できたのは有難い
「さて、次はどうすっかねぇ。この騒ぎの原因を探すにしても手がかりが少ないからな。医務室か、牢の方に行けばなにかあるか?」
「どうっすかねぇ。システムがいじられているとして、その犯人が居るかどうか…」
「それもそうか…。なにか手は無いか…」
俺たちが悩んでいたその時、観客席の方から野太い声が俺たちに話しかけてきた
「あるぞ」
「「え?」」
俺とパティールが声のした方へ顔を向けるとそこには一人の男が立っていた
それは客席で暴徒たちの相手をしていた男
逞しい体、強面の顔に残る2つの傷が印象的だ
それでいて綺麗に整えられた髪と髭が清潔感を出している
強そうとは思えど、怖さは感じられない
イケてるおじさんって感じだ
「誰だ?」
「カズさんじゃないっすか」
「よおパティール、新しい相方は随分と強いんだな」
「残念っすけど、コンビは今回だけなんすよ」
パティールはイケおじと随分仲良さげに話している
てか皆避難したのに1人だけ残ってたんだな
よっぽど腕に自信があるのか?
確かにあのしつこい奴らを腕っぷしだけで倒してたけど
「えーっとパティール?そろそろ紹介してくれないか?」
「ああ、エイスケ君は初めましてっすか。この人はここ、ヴィルトレルムの領主、カーズ・リオンゲルドさんっす」
「いかにも!俺がカーズ・リオンゲルドだ。ここに住む者は皆俺の事をカズと呼んでいる。ぜひ君もそう呼んでくれ」
カズ……サッカー?
「もしかしてなにか球技やってたりします?」
「うん?特別何かをやっていたことは無いが大体のスポーツはできるぞ」
「じゃ、じゃあ金髪で赤い服来てテレビ出演してた事は…「エイスケ君、質問は後にしよう」
「あ、ああ。そうだな…」
「事が終わったらいくらでも聞こう。今はこのヴィルトレル厶に巣食う悪を取り払わなければ」
「何か分かってることがあるんですか?」
「うむ、実はついさっき元老院議員の1人から連絡があったんだ。副議長が犯罪組織"無邪気な天使"と違法な薬を取引していたとな」
「うそ!あのカズさんLoveの生真面目人間が!?」
「ああ、俺もにわかには信じがたい。だからこの目で確かめに行くんだ」
俺は会話に着いていけないので黙って聞いていたのだが、内容を整理するとこうだ
今回の騒動にはこの都市のトップ2が一枚かんでいる可能性がある
その裏には世界各地で活動する犯罪組織がいる
情報の真偽を確かめるため、今領主館へ向かっている
もしもの場合は共に戦って欲しい、と。
「俺に関しては完全によそ者だと思うんだが、良いのか?」
「ああ、問題ない。君は大丈夫だ。むしろこんなことに付き合わせてしまって申し訳ないくらいだ。それと、俺に敬語は不要だ。元老院の爺さん達は威厳がないとか言うが、俺はそんなもの要らんからな。友人のような関係が理想だ」
「そうか?別にいいならいいんだけどな」
「そういえば、闘技場に残してきた奴らってあのままで大丈夫なんすか?」
「ああ、あれはもう動けんよ。都市魔法を使ったから抜けられることも無いだろう」
また知らん単語が…
もう気になること多すぎだろ
とりあえずはついて行くしかないけど、後で質問攻めだなこりゃ
なんとなく魔王ならここで
「僕の時もこれくらい素直ならいいのに」
とか嘆いてそうだな…
「エイスケ君!こっちっすよ!」
「ああ、今行く!」
危ない危ない
ぼーっとしてたらまた迷子になっちまう
今は2人について行くことに集中しよう
「あれ?エイスケ君!?どこ行ったんすか!?」
「すまん!先行ってろ!後から行く!」
ほんとにすまない
俺もなんで今の状況で迷子になるのか分からん…
その後、運良く合流出来た英介はパティールと手を繋ぎながら領主館へ向かった
その時の姿がまるで迷子ではぐれていた弟としっかりした兄のようだったとは領民の言葉である
当然、俺が弟側だ
かなしい