3,方向音痴と迷子
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
なぜいきなり絶叫しているのか
それはあのアホ魔王が俺を空中に放り投げやがったからだ
転移先くらいちゃんと設定しろやこんちくしょう
蒼埜、賢治、お前らの事、忘れないぜ
ドン!!
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ふぃー、生きてたな、なんか
随分と頑丈な体だったようだ
ていうかあちこちぐにゃぐにゃ、ぐちゃぐちゃだった体がすごい勢いで元に戻っていくのは我ながら引いた
実にファンタジーである
そんなすごい種族なのか、魔人
「そうだよ~。魔族は物理耐性も魔法耐性も高いし、何より自己治癒のスピードはどの種族よりもすごいんだ~」
ふむふむ、これは案外当たりの種族だったかもな……
「なあ、もう驚きはしないけどさぁ、平然と俺の頭の中に話しかけて来るのはなんなん?」
「僕は魔王だからね」
「もういいや。そんなすごい魔王様なら俺の友達の位置も分かるんじゃねえのか?」
「ねぇ、ごめんて~。ちゃんと説明するから~、英介君のツッコミがないと寂しいよ~」
なんで昨日の今日出会ったばかりのやつに突っ込まれるのを期待しているのかなこいつは
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
「ため息長くない!?もうふざけるの止め……はしないけど程々にするから~、おねが~い」
反省してるのかしてないのかどっちなんだ…
「もういい。とにかく教えろ」
「うう、ごめんってば~………君の友達については本当に分からないんだよ~。今回は君が魔人だったから僕が気づけたけど、他に日本人の反応はないの。つまり君の友だちは確実に魔族じではないってこと」
急にマジトーンになられても反応に困るが、まあちゃんと話す気になったのはいいことだ、うん。
「そうか。じゃあ、しらみ潰しに探すしかないのか…」
「まあ、そんなに落ち込まなくてもいいんじゃないかな。この星の半分が魔界なんだよね。しかもこの星小さいのよ。地球の3分の2くらい。だからそこまで悲観することはないよ?」
「う~ん、まあ、そうかなぁ。あいつらが転生先で目印残してくれてるかもしれねぇし、あいつらなら何かしらやらかすだろしなぁ。気長に探すかなぁ。でも俺、異世界で生きてく自信ねぇなぁ」
「君の友達ってそんなに変な子たちなの?……まあ英介君も十分変か。それはそうと、もし君さえ良ければ僕と契約しない?戦闘面でのサポートが中心になるけど、普段の生活面でも君の助けになると思うよ。それに魔力も低コストで会話できるからね。なにより同郷の子と会うのはもう200年振りなんだよね。やっぱり話が分かる人と話すのは楽しいんだよ」
なるほど、こいつがおしゃべりなのにも理由があったわけだ。まあ、ウザイ事に変わりはないんだがな
「いいだろう。その代わり、ちゃんとサポートしてくれよ?俺はとてつもなく頼りないぞ?」
「それ自分で言うんだね…。まあ、それが英介君か。よし、それじゃあ契約成立だね。これからよろしく英介君」
魔王の言葉が終わるとともに俺の左手の甲に紋様が浮かび上がった。と同時に俺の中にとてつもない力が入ってくる
あいつこんな強かったのか
「失礼だね、僕だってれっきとした魔王なんだよ?」
「悪い悪い。てかこれずっと繋がりっぱなしなのか?」
「いや、君が僕に伝わりたくないと思っていることは僕には分からないよ。でも、見ようと思えば見れるね」
「あんまり覗くなよ」
「はいはい」
まあ、隠すようなことはそんな無いけどな
それじゃそろそろ動くか
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コルンの村
「ここは魔界との入口に1番近い村でね、魔族も少し住んでるんだ~。一昔前は魔族と人族は敵対してたんだけど、僕が間を取り持ったんだよ~。いや~、あれは大変だったな~。特にね………」
との事。
魔王の自慢はどうでもいいけど、そうか、敵対してたのか…
まだ確執残ってるとかないよな
いきなり迫害とか勘弁なんだが
「それは大丈夫。魔族は人族を魔獣とかの脅威から守ってるからね。逆に感謝されてるくらいだって各地の魔族は言ってるよ」
どうやら魔王が今の体制を作ったらしい。そのことは褒めてやってもいいかもな
何はともあれそういうことならさっさと街に入って情報収集だな
やっぱり情報収集は酒場だよな~。
カチカチの黒パンと野菜のスープがあれば完璧だな、うん。
とりあえずあの身なりの良さげな人に話しかけてみよう
酔っ払いなんかにいきなり掴みかかられても嫌だからな
「すまない、俺はさっきここに来たんだが、酒場はどこにあるんだ?」
「おお、これは魔人様。この街1番の酒場なら宿屋の向かいですので、宿屋の看板を探すといいですな。宿屋は赤色の翼が描かれた看板がかけられております。この先の通りを進んで十字路を右に曲がると見えてくると思いますぞ」
「なるほどな、助かった、ありがとう」
「いえいえ、魔人様にはいつもお世話になっておりますので。それでは、私はこれで」
うん、紳士でよかった
どうやら魔王の言っていた通り、魔族はありがたい存在になっているらしい。良かった良かった
さてさて、看板探すか~
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何故だ、なぜ無いんだ
どれだけ歩いても宿屋の看板が見えてこない
やっぱり道中寄り道したからだろうか
魔法道具から始まって、杖、武器屋、錬金術、本…
あれ、俺なにしてんの?
「あ~、こりゃ完全に迷ってるねぇ~。僕が目を離したこの短時間でどうやったらここまで離れられるんだろ笑」
言わないでおいたのにわざわざ言うなよな魔王
今度からはちゃんと準備して観光しよう、うん。
「しょうがないな~、僕の俯瞰視点を君にも共有してあげるよ」
そう言って魔王は何かの魔法を構築した
するとどうだろう
地面から7、8メートル上がったところからの景色が見えてきた
「おおお!こんなことも出来るのか~……あ!宿屋あった!てか遠いな!俺なんでこんなとこ来れたんだよ逆に!」
「あはは…興奮してテンションおかしくなってる」
「よし!行くぞ、宿屋!」
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宿屋前
「よぉし、酒場に突入するぞ」
「まさかここまで来るのに30分もかかるなんて…方向音痴なのかな…?でも俯瞰視点で場所分かってるはず…」
魔王がなんか言ってるがどうでもいい
ついに異世界転生の定番、酒場で情報収集という初期ミッションが体験できるのだ
ワクワクしないはずがないだろう?
俺は酒場の扉を開けて中に入る
一気に大きくなる喧騒、鼻腔をくすぐる酒の匂い…
酔っぱらった男たちが取っ組み合って女将さんに怒鳴られている
うん、これぞまさしく酒場!
「いらっしゃーい」
おぉ、かわいい看板娘までいるとは、完成度高めだなこの酒場は
「ひとりで~す」
「は~い、1人ね。じゃあカウンター席にどうぞ~」
さあさあ、この世界の酒場には何があるかな
…あるぅえ〜?おっかしいな〜
メニューが全くファンタジーじゃないだが
結構ファミレスに似てるような…
てか、米あるのか
異世界来てまで米…
「すいませーん、ご飯とミノ牛のステーキくださーい」
「は〜い」
やっぱ主食は米だわ、うん。
変に冒険するより食べ慣れた米だわ
「おまたせしました〜。ご飯とミノ牛のステーキで〜す」
「ああ、ありがとう」
「ごゆっくり〜」
とりあえず米からいこう
俺は米を一口食べる
うん、普通にご飯。
日本で栽培されていた米に近いから、口になじむ
次はミノ牛だ
牛と書いてあるからには牛の1種なんだろうが、地球では聞いた事のない種類だ
ご丁寧なことにもう既に切られたステーキを1切れ口に運ぶ
うーん、俺には地球の牛肉との違いがわからんが、ちょっと固いか?ってくらいだな。
魔人になって筋力上がってるから気にならんし、全然美味しいんだけどさ
味付けも素朴ながら食欲をそそられて悪くない
俺はあっという間に食べきって、ふと思った
俺、金持ってねぇ
あれ、俺金持ってないじゃん
なんで食べる前に気づかなかったんだ?
え~、どうしよう
「魔王、どうにかして」
「どうしたの?」
「かくかくしかじかで、金がない」
「えぇ…無理ではないけど、なんというかなぁ…」
「そこを頼むよ。同郷のよしみってことで。な?」
「う~ん、しょうがないか。今度からは気をつけてよ?」
「ああ」
「それじゃ英介君、手を出してその上になにか物を乗せてくれる?」
「?」
「オブジェクト・チェンジ」
何をするんだろうと思っていたら、手のひらの上の紙ナプキンが消えて、金貨が入った袋が現れた
「おお!物と物を交換する魔法か?すげぇな」
「そうだよ。空間魔法得意なんだよね。これだけあれば1ヶ月は持つんじゃない?」
「ありがとよ~、魔王。いつか返すよ」
「別にいいよそれくらい。城にはいくらでもあるからね」
実にありがたい
いくら魔族が感謝されていると言っても、タダ飯はどうかと思うしね
「すまない、勘定を頼むよ」
「は~い。ご飯とステーキひと皿だから、銅貨5枚ね」
「今手持ちに金貨しかないんだがそれでいいか?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、これで」
「は~い。じゃあお釣りが銀貨9枚と銅貨5枚ね」
「ありがとう。それじゃ」
「ありがとうございました~。また来てね~」
ふう、満足。
向かいが宿屋っていうのも実にいい
何か忘れている気もするけどもういいや、明日にしよう
俺はすぐさま部屋をとって、ベッドに飛び込んだ
日本のホテルには及ばないけどなかなかいいベッドだ
おやすみなさい……
「英介君、情報収集はあんまり後回しにしない方がいいと思うよ。まあ、今日はいろいろあったし疲れたんだろうね。おやすみ、英介君」
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生ける迷宮
「お兄ちゃん、ここさっきも通った気がするよ?」
「そうだな。俺もそう思っていた。賢治、お前の種族能力でどうにかならないか?」
「う~ん。分かるにはわかるんだけどね~、少し進む度に道が変わるから大変~。まだ能力の継続は厳しいかな~」
「まあ、それは仕方ないだろう。継続して使うような場面がなかったんだからな」
そうこうしている間にも迷宮のルートは変化している
それこそがこの生ける迷宮の最大の特徴だ
常に内部の構造が変化し続け、中に入った物を奥へ奥へと引きずり込む
当然地図なんてものはないから、必然的に探知系の能力を持った奴をパーティに入れる必要がある
俺たちの場合、賢治が当てはまる訳だが、能力の維持という壁に当たって探索が行き詰まっていた
まあ今まであまり使ってこなかったものをずっと維持しろというのも無理な話だ
「あ、奥に流されすぎて迷宮の入口が感知できなくなっちゃった」
「えぇぇー!大変じゃん!」
「仕方ない。ここに留まっていてもどんどん迷宮の奥に移動させられるだけだ。賢治の練習も含めて前に進もう。」
「ねぇお兄ちゃん。僕たちずっと迷っちゃわないよね?」
「ああ、任せろ。絶対に外に出てまた旅しような」
「うん!」
蒼埜は弟を安心させるために笑ってみせる
賢治はそんな蒼埜をみて、少し悲しくなる
今の蒼埜の笑顔は心からのものではないと感じるからだ
この世界で初めて出会った時より表情は柔らかくなったが、笑うことはほとんど無くなっていた
元いた世界ではよく笑う人だったのに…
自分が2人と出会うまでに一体どれほどのことがあったのか
賢治には図り知る事が出来なかった