20,少しの休憩を挟んで
恋愛パートなんて書くんじゃなかったと後悔してます。
何とはなしに目を開けると木窓の隙間からうっすらと明かりが差し込んでいる
ここは西側だから朝日が直接入ってくることは無くても、少なくとも夜ではないことは分かる
窓を開ければ遠くまで広がる青空がなかなかきれいに見える
こうしてみると地球の空ってやっぱり汚れてたんだなと思う
そうそう、最近はアラームが無くても朝にちゃんと起きられるようになってきたんだ
なんだかんだこの世界に来て1か月半近く経っているんだし慣れても来るか
軽く体を伸ばしてからベッドからでて、身支度を整える
服装はもともと魔界で着ていた向こうの軍服のようなものだ
デザインはドイツの海軍の軍服に似てるかな
素材は知らないけど、日本で着ていた制服よりかは格段に動きやすく、可動域もあまり制限されない、しかも頑丈で滅多に破れないという高性能ぶりだ
今日はシャリーさんにこの町を案内してもらう訳だけど、きっちりとまではいかなくてもちょっとパリッとしておこうと思ったが故のチョイスだ
別に他意は無い、ほんとに
さて、きっとシャリーさんはすでに下で待っているだろうから早く行こう
〈エイスケ、あたしもいっていいよね〉
〈俺はいいけど、シャリーさん次第だな〉
〈ぜったい、ついていくから〉
あれ、最初に確認した意味が無くなったぞ
まあ、リュックの中で静かにしてくれれば気にならんか
メルノアの同行について考えながら一階まで下りてくると、案の定シャリーさんはすでに来ていて椅子の1つに腰かけていた
「シャリーさん、ごめん待たせちゃって」
「いえいえ!私も今来たところですから。決して、楽しみで早く来すぎたなんてことはないですから」
「うん?それならいいんだけど」
「はい!それでですね、この街の朝市で食べ物もたくさん売ってるんですけど…外で朝食を食べるというのはどうでしょうか?」
「いいね。そうしよう。…ああそうだ、メルノアがついていきたいっていうんだけど、いい?」
「はい、問題ありません!」
「良かった。それじゃ行こうか」
頭にメルノアを乗せた俺とシャリーさんは連れ立ってナミカゼ亭を出る
結局リュックには入ってくれなかったよ
ナミカゼ亭は港から街の入口まで伸びる一本道を通り、戦闘ギルド手前の十字路を左に曲がった先にある
大通りは店を構えている人が多いから露店は少ない
ナミカゼ亭が面している横道をギルドまで戻り、広場を通ってそのまま直進すると朝市が広がっている感じだ
商業ギルドもあるからそっち側の方が都合がいいんだろうな
俺たちはとりあえず軽く食べられるものを求めて朝市に向かう
品物のラインナップは海の幸、肉、アクセサリは定番で、お焼きみたいなのやスイーツもある
〈エイスケにく〉
〈俺は確かに肉の部分もあるが、喰ってもまずいぞ。で、どれが欲しいんだ?〉
〈あれ〉
メルノアが指すのはミノ牛の串焼き
割とメジャーな牛なのかもしれない
腹がすいているせいで俺の分も欲しくなるが、折角ならシャリーさんのおすすめを食べたい
とりあえずメルノアに串焼きを買ってやってからシャリーさんに聞いてみるか
「シャリーさん、なんかおすすめみたいなのってある?」
「そうですね…ここで美味しいのはやっぱり魚介類ですかね。あ、そうだ!前来た時にすごくおいしいお店があったんでした。ちょっと探してみませんか」
「いいね、なんの店なの?」
「光都から来た方がやっていたんです。確か、肉まん?のお店なんですけど、中に海鮮が入ってて、しかもとろみがついててとてもおいしくて!」
「ほー、海鮮まんか。おいしそうだな」
「あ、エイスケさんも光都の人たちと同じ出身なんですよね?それならそのお店はあまり目新しくないかも…」
「いいっていいって。シャリーさんのお勧めの店なんでしょ?それに海鮮まんは食べたことないから全然気にしなくていいよ」
「そうですか?…えへへ、やっぱりエイスケさんは優しいですね」
「ん、何か言った?」
人混みの中は声もそうだけど俺の場合”波”も合わさってカオスなんだよな
”波”はOFFにすりゃいいけどやっぱり人混みの中だと声が聞き取りづらい
シャリーさんは声が大きい方じゃないからなおさらだ
これがラムロットなら問題ないんだけどな
「いえっ、それじゃあ行きましょう!前と同じ場所に居たらいいんですけど…」
そうつぶやきながらどんどん道を進んでいくシャリーさん
何本か細い道を通るのはショートカットか?
「シャリーさんてさ、こういう街の道も覚えてるの?」
「そうですね、ダンジョンのマップ作製も私がメインでやってますし、1度通った道はなんとなく覚えてます。慣れてくるとこっちから行った方が早いなとかも分かるんですよ」
それはすごいな
ただちょっとオーバーワークじゃないだろうか
本人が良しとしているから口出しはしないが
軽く雑談しながら露店が並ぶ道を進んでいくといくつか先の店が目に留まる
先ず目がいくのはキラッキラの電飾だ
目を引くためなんだろうが、珍しすぎて逆に近寄り難い雰囲気になっている
そもそも電球なんて高級な宿にも無いのに、そこら辺の出店が持ってるわけが無いので既に異彩の限りである
そして店の屋根に使われているのはあの質感的におそらくプラスチックだよな
祭りの屋台みたく、でっかい字で肉まんって書いてある
…日本語で
そりゃ客こねぇよ
何の店かわかんねえんだもん
「あっ、見えましたよ!あのお店ですっ!」
「ですよねー」
うん、知ってた
〈なんかおいししそうなにおいがする〉
〈そうだろうなぁ〉
元の世界でもそれなりの地位と名声を得てたからな
冬の学校帰りに寄り道して食べる肉まんは最高だった
「サブローさん、お久しぶりです」
「ん?おお!シャリーちゃん、久しぶりだね!」
シャリーさんが声をかけたのに反応した肉まん屋の店主は30代くらいのおっちゃん…になりかけの兄ちゃんだな
伸ばした髪の毛を後ろで結び、手拭いを首にかける様は縁日や祭りでよく見る屋台の店主だ
濃い眉毛と、日本人にしては彫りの深い顔が特徴的で、薄いシャツにくっきりと浮かぶ筋肉の存在感が凄い
「んん?後ろの魔人は彼氏かい?珍しいチョイスだね。顔はなかなかイケてるみたいだけど」
「いえいえ!エイスケさんは彼氏じゃないですよ。かっこいいのは同感ですけどねっ!」
ムズムズするから2人して褒めないでくれ
「サブローって言うのか、あんた三男なのか?」
「なんだ、お前転生者か。名前聞いてその反応するのは日本人くらいなもんだよな」
「ま、そんなところだ。船でラムロットたちと会ってな。ここまで一緒に来たんだ。ってそれよりもこの屋台、目立ちすぎじゃないか?」
「客の目を引くように作ってんだから当たり前だろ?」
「いや、悪目立ちして客来てねえじゃん」
辺りを見れば、路地を通る人の殆どが3度見ぐらいしてそっと離れていく
「ほら見ろ、みんな触れてはいけないものを見るような目で遠ざかってくじゃないか」
「そりゃそうだろうよ。1日に客が5人来たらいいほうだからな。それも常連がほとんどだが」
「商売する気あんのかよ。売ってるものはうまいんだからもっとこう、あるだろ」
「俺はこの店に来る変わり者がどんな奴か見るのが楽しみなんだよ。そんなことより、せっかく来たんだからなにか買ってくだろ?」
変な趣味だな…って、俺も似たようなことしてたわ
「ああ、そうだな。ごめんなシャリーさん、こっちで話盛り上がっちゃって」
「いえいえ、せっかく同郷の方と話せる機会なんですし全然いいですよ。それじゃ、どれにするか選びましょう?」
「そうだな、俺はシャリーさんが進めてくれた海鮮まんにするよ」
「私も海鮮まんにします」
「まいど。シャリーちゃんこれ好きだよね。来るたびにこれ買うもんな」
「そうですね。とってもおいしいので」
〈エイスケ、にこめのやつたべたい〉
〈ん?上から2番目の奴?〉
〈そう〉
〈りょーかい〉
「大将、豚まんもひとつくれ」
「あいよ」
俺は2つ、シャリーさんは1つずつ受け取り、代金を支払う
「それじゃ、デート楽しめよー」
「だからそんなんじゃないですって」
シャリーさんが赤面しながら語気を強めて否定する
〈そう、これはデートじゃない〉
なぜか知らんがメルノアが俺の頭に爪を立ててきた
痛くは無いけどやめなさい
「はっはっは!それじゃあな!」
豪快に笑う三郎の店を後にして、俺たちは海鮮まんを食べながら路地を歩く
メルノアにはすでに豚まんを献上済みである
「確かに、こりゃうまいな」
「ですよね!初めて食べた時からはまっちゃって。ここに来るたびに買っちゃうんです」
シャリーさんが出会って一番の笑顔だ
よっぽど肉まんが好きなんだな
昨日は随分思い悩んでるような顔だったけど、今はそんなの感じられない
これなら今後の旅でもうまくやっていけるだろう
俺とシャリーさんは軽めの朝食を終わらせると細い路地を抜けて、港へと続く大路地に出た
相変わらず人でごった返しており、さっきまでの道とは比べ物にならない
と、シャリーさんの姿が一瞬人混みに紛れる
通行人が俺たちの間を通っただけだから魔力を辿ればすぐに見つけられるけど、はぐれないに越したことはないよな
「シャリーさん、もしよかったら手、つないでおかない?はぐれたら面倒だし」
「へっ!?あっ、はいっ!お願いします!」
動揺するシャリーさんが勢いよく俺の方に手を差し出してきたので、痛くないようにそっと手をとる
メルノアの爪がより深くに食い込んだ気がするが、この際無視だ
「シャリーさん、この後行く場所って決まってる?……シャリーさん?」
「はっ、はいっ!なんでしょう!」
「この後の予定なんだけど…、嫌なら離すよ?」
「いえいえっ、嫌なんてそんな、全然、はい!…ん?」
大丈夫だろうか
嫌すぎて自分が何言ってるかわかんなくなってない?
でも手離す気配ないんだよな
〈…これしんぱいするまでもなくおわるかも〉
〈何が?〉
〈なんでもない〉
未だ不機嫌なメルノアに突っぱねられた俺は?を浮かべながらシャリーさんに再度意識を向ける
シャリーさんは顔を赤らめつつも、今後の予定を話してくれた
「この後はですね、大通り沿いのお店を見て回ろうかと思ってます」
「ウィンドウショッピングだ。いいね。因みになんだけどさ、この町に書店ってある?」
「ありますよ。なにか買いたい本があるんですか?」
「うーん、この世界の一般常識が知りたいんだよね。常識知らないようじゃ無理かなって。せめてこの世界の常識というかルールとかはさ、知っとかないと」
「ああ、成程。それじゃあ、先ず本屋さんに行きましょうか」
「いいの?別に明日とかに1人で行ってもいいんだけど」
「せっかくですから纏めて行っちゃいましょう。私も気になってた本がありますし」
「そっか、それなら行ってみてもいい?」
「はい!こっちです!」
本来の予定にはなかったみたいで申し訳ないけど、シャリーさんの好意を無下にするのも気が引ける
ってことで、俺はシャリーさんに手を引かれながら目当ての品物を求めて大通りへ繰り出した
ーーーーー
すっかり赤く色付いた海を眺めながら、一日の終わりが近づいているのを潮風で感じる
今は海に面した通りに置かれたベンチに座り、つかの間の休憩中だ
お互い買ったものは魔法の鞄に入れているので身軽である
「今日はありがとねシャリーさん。必要なもの買えたし、何より楽しかったよ」
「ほんとですか、良かったです!私も今日はすっごく楽しかったですよ」
「次はラムロット達を連れて来ても楽しそうだな〜」
「あ……そう…ですね」
声色が変わったシャリーさんに目を向けると、さっきとは打って変わって悲の色が出てきている
あれ、俺なんかやっちゃったか?
「…でも、ラムロットがいるとうるさいし、今日みたいにのんびりするのもいいな。またこうやって町歩けたらいいよね」
「っ、はい!」
おお、良かった
正直なんでこうなったかは分からんがこういう場面での対応は人一倍慣れてるからな
「もういい時間ですし、そろそろ帰りましょうか」
「そうだな」
夕市が開かれる時間帯
人ごみの中を二人、手をつないで宿まで歩いた
宿では既にラムロットとミアさんが夕飯を食べており、こちらに気づくと軽く手を挙げる
こちらも同じように応え、二人の座るテーブルへと向かう
「おかえりなさい。どう、一日楽しめた?」
「うん、とても。私のわがままに付き合ってくれてありがとう、ミアちゃん」
「いいのいいの。あんたはいつも頑張りすぎなんだから、たまには好きなことしてもバチなんて当たらないわよ」
「そうだぞシャリー。休めるときに休まねば力は発揮できんからな」
「えへへ、ありがとうございます」
なんだ、心配する要素なんてないじゃないか
追放系はフィクションだけでいいよな
「エイスケもありがとね。シャリーがこんなに喜んでるのもあんたのおかげよ」
「それならいいんだけどな。俺も楽しんだし、良い時間を過ごせて俺の方がお礼を言いたいよ」
「そう、良かった。夕飯は食べてきたの?」
「いや、まだだな」
「ならここで食べましょ。ラムロットもいいわよね」
「ああ、もちろんだ。にぎやかな卓は幸運を呼ぶからな」
というわけで四人で食卓を囲むことになった
ラムロット達のボリューミーな冒険の話が聞けた
ラムロット達は本来四人パーティで、もう一人メンバーがいるらしい
ジョブは魔工技師で、三人が口をそろえて変人だなんて言うもんだから驚いた
王都に構えたパーティ用の家に篭ることが多く、今回も一人残ってよくわからないことをしているのだと
これはなにかイベントが発生しそうな予感がするぜ
夕食の後もしばらく四人で語らい、ミアさんが船を漕ぎ始めてきたところでお開きとなった
部屋に戻り、ほんの少しの疲労とそれとは比べ物にならない充足感を感じながら部屋の明かりを消す
窓から覗く星空を眺めながら、思い返すのはこっちに来てからのことだ
こうして異世界を旅するのもほんの数か月だけど、行く先々でいろんな出来事があった
魔王と特訓したコルン村
バカを殴り飛ばしたヴィルトレルム
道中ではメルノアが仲間になって、ラムロット達と友達になった
これまででも十分異世界ライフを楽しんでるが、旅はこれからだ
なんたって俺はこの世界最大の大陸、パルジアに降り立ったばかりなんだからな
これからも存分に楽しんでやるぜ!
ナチュラルに手を繋ぐエイスケ君は”鈍感系主人公の話をよく知っている鈍感系主人公”です。
誤字脱字等あればご報告ください。




