15,英介、死す
目が覚めると部屋の窓から朝日の光が差し込んでいる
外からは人々の雑多な生活音が聞こえ、もう起きるべき時間だと伝えているようだ
昨日はだいぶ早くベッドに入ったんだが、やはり疲れていたようでかなり寝てしまったんだな
おかげで体はすっきりだ……頭はぐったりだが
余計なことは考えないようにしよう
今日、ついにここを出る
寄る所が割とあるからさっさと動いた方が良いだろう
一先ず部屋を出ると、敷地内にある井戸で水を汲み、軽く体を拭いていく
「ん?」
どこからか視線を感じる
上を見ると宿の一室の窓からこちらを見ている目と視線が交わる
それも一瞬で、すぐに部屋に頭を引っ込めた
「え?」
え?
覗き?俺を?なんで?
てか覗いてた奴の”波”がやばかったんだが
例えるなら欲に溺れた極悪貴族?くらいドロッドロしてたぞ
ちょっと怖くなったので素早く服を着て中に入った
そんな奇妙なこともあったが、悩んでいる場合ではないので朝食を食べて宿を出る
最初に向かうのは領主の館だ
リアムさんが褒美をくれるという
何だろな、路銀だったらうれしいな
貰えそうなものを考えながら、街を歩く
すっかり地形を覚えたなぁ
最初の頃はよく迷ってたのもいい思い出だ
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領主館に到着した
門と入口は俺がぶち壊したので随分と風通しがよさそうだ
俺が来るという話は伝わっているだろうから立っている門番に名乗ってみる
「たーのもー、英介だよー」
「なにっ、エイスケだと?おい、ウォルスさんを読んで来い!」
「おう」
門番の1人は屋敷の中へ
もう一人は中へ入るように促してくれた
屋敷の中に入ってロビーを眺めていると執事服を着た老紳士がやってきた
よく見たら騎士2人と共に、俺を消そうとしてきた執事だ
「エイスケ様、お待ちしておりました。中でリアム様がお待ちです」
「おっけ、行こうか」
今日はリアムさんの執務室に行くらしい
「そう言えば、あんたって昨日俺を殺しに来た執事だよね?」
「ええ、その節は大変申し訳ありませんでした」
「いや、それはいいんだけど。処分とかどうなったのかなって」
「それが、リオンゲルド様は私や今回関わっていた者たちの処分を減給にとどめたのです」
「ええ!?」
流石に甘いだろ
政治なんて全くの門外漢だが処分すべきところはしないと世間が許しちゃくれねえぜ
口出しすべきではないんだろうけど流石になぁ
でもほんとにマズかったらリアムさんが止めてるか
何でもかんでも首を突っ込むのは良くないよな、うん
俺と執事のウォルスさんは階段を上って廊下を進んでいく
リアムさんの執務室はカズの執務室の隣に位置していた
執事がドアをノックする
「リアム様、エイスケ様をお呼びしました」
「入れ」
ウォルスさんが扉を開けて俺を中に入れる
「よく来てくださいました。どうぞお掛けになってください」
「それじゃ失礼して」
ウォルスさんが退出して部屋にはリアムさんと二人きり
改めて向かい合うとやはり背筋が伸びる
貴族の威厳というかオーラがでている気がするのだ
領主のカズとは大違いである
「早速ですが、昨日話した報酬はこちらになります」
そう言って一通の封筒と小さなウエストポーチが乗った黒色のトレイをこちらに差し出してくる
「封筒の中身はゼクリア領の領主、レジナルド様への書状です。これを見せればレジナルド様が力を貸してくれるでしょうし、封蝋の家紋を見せれば身分証にもなりますから、有事にお使いください」
「成程、結構これだけでもすごいありがたいです。そっちのポーチは?」
「これはマジックバックと言いまして、外見は小さなポーチですが中は別空間と繋がっており、かなりの容量を入れることができます」
魔法の鞄キターーー
魔法の鞄とか能力のアイテムBOXやらインベントリがあるだけでチートが始まるのだ
初期段階でこれを得られたのはでかいぞ
「これは魔界産で耐久力や容量などの性能も高いですし、口が伸縮するので多少大きなものでも入れることができますよ」
「すげー、高いんじゃないすかこういうのって」
「そうですね。魔界産は人気が高いですし、大商人や王族の方が持っていることが多いです。これは魔界からこの都市に卸してもらっている商品ですね」
「そうなんですね。それじゃあありがたく頂戴します」
俺が報酬を受け取ろうと手を伸ばした時、部屋の扉が勢いよく開け放たれた
俺は壊れなかった扉を称賛したい
「おい、リアム!エイスケが来るなんて聞いてないぞ!」
「言っていませんから当然です」
哀れにも軽くあしらわれているこのおっさんがこの都市の領主、カズである
「あなたがいると話が逸れる、抉れる、長引くの三点セットですよ。エイスケさんもここに長居するつもりはないでしょうから呼ばなかったんです」
リアムさんが眉間をおさえながら言う
お疲れ様です
「これだけ世話になったのに別れの挨拶もしないなんて不義理だろ?」
「いまさらそんなことを言って本心が隠せるとでも?どのみちもう用事は済みましたからあなたは何もできませんが」
「ぐぬぬ、そうだエイスケ!ちゃんと戦闘ギルドに寄ってけよ。ギルド長には言ってあるからな」
「ああ、ありがとな。それじゃ、俺はそろそろ行くよ」
リアムさんの意図を汲んで、早々に立ち去ることにしよう
確かに長くなりそうだし
往生際悪く騒ぐカズとそれを諫めるリアムさんを連れて大穴の開いた玄関まで歩く
「それじゃ、いろいろと世話になって、ありがとうな」
「いいや、それはこっちのセリフだぜエイスケ。騒ぎが大きくなることもなく、死者も出なかったのはお前のおかげだ」
「そうですね。今回私は何もできませんでしたし、これからさらに精進しようと思えるいいきっかけになりましたので感謝しかありません。カズの教育にも力を入れていきますので」
「おい、なんだそれ。俺はやらねえぞ」
ほんと仲がいいなあハッハッハ
「それじゃあな」
「おう、次来る時までにもっと強くなるぜ」
「いつでもお待ちしております」
二人に見送られながら領主館をでた
のんびりと街並みを眺めながら戦闘ギルドを目指す
俺はふと手にまだ手紙を持っていることに気づいた
おっとっと、手ぶらに慣れてこんな不用心なことをしてしまうとは
今の俺には魔法の鞄もあるのにな
俺はポーチに手紙を入れると、中にいくつかのものがすでに入っているのに気づいた
適当に一つをつかんで取り出すと、それは布の巾着袋だ
中からは硬貨のジャラジャラ音がする
ほぇ?
もう一度手を突っ込んでもう一つを取り出す
それは手帳サイズの本で、題名を読むと”ステータス看破”と書いてある
本に紙切れが挟まっているので引っ張り出すと、リアムからの伝言が記されていた
『この先役に立つであろうものをいくつか入れさせていただきました。渡すときに伝えると受け取るのを渋るのではないかと思いましたので、このような形で伝えさせていただきました。ぜひ、活用してください』
マジかよ
リアムさん流石に至れり尽くせりじゃないっすか?
まあ貰えるもんは貰ってくけど
と、予想外のことはあれど取り合えず戦闘ギルドだ
サクッとギルド長に会って紹介状貰ってくるとしよう
ーーーーーーーーーーーーー
はい、貰ってきました紹介状
一つ一つののシーンが長くてちっとも進まないので全部カットです
という言葉が頭の中に流れる
堂々とメタるんじゃねぇ
とにかく、この紹介状があれば迷宮都市で有利に動けるってわけだ
別に、迷宮を走破しようなんて気は一切ないが
時刻は昼前といったところ
ギルドで何時間もなにをしていたのかはご想像にお任せしよう
その数時間のうちの一時間は、個室を借りて魔法の鞄の中身を調べていたんだけども
中に入っていたのは布袋に入った金貨25枚、"ステータス看破"の魔法書、革製の胸当て、鋼製のガントレットの以上4点
戦闘ギルドのギルマスに見てもらったらやっぱり”ステータス看破”の魔法書が一番価値があるらしい
というか国の宝物庫にあるようなものらしい
というのも380年前に現れた初代勇者が持っていた能力を再現したのがこの”ステータス看破”で、世界中を探してもあって20冊といったところ
値段がつけられるかも怪しい魔法書を貰ったということだ
…やっぱり主人公補正かかってる?
俺が主人公とか作者狂ってるだろ
なんだってリアムさんが俺にそんなすごいものをくれたのかはよくわからんが流石に使うのは躊躇う
しばらくは魔法の鞄の中に封印しておこう
そんなこんながありつつ、俺はいよいよヴィルトレルムを出る
外へと続く門をくぐろうとしたとき、見慣れた男四人組と鉢合わせた
つい最近結成された、俺の知り合いばっかりのパーティだ
「エイスケ君じゃないっすか~、エイスケ君も今から町出るんすか?」
「おう、そっちはなんか依頼か?」
「そんなところっす。セトの街に続く道に魔獣が出たって話っす。エイスケ君も気を付けるっす」
「まじかよ、やだなあ」
「まあエイスケなら大丈夫だとは思うがな。それじゃあな」
「兄貴お気をつけて!」
「またどこかでね」
それぞれが思い思いに別れを告げると門を出て森へ入っていく
酒のノリで結成した割にはちゃんとまとまっているみたいだな
いつか有名なパーティに成長してたりして
「さて、俺も行くか」
気づけばもう昼下がりだ
のほほんとした気温も併せて気が緩んでいるがこの世界ではそれが命取りになる
日が暮れるまでとはいかずとも、なんとか宿屋が閉まるまでにはたどり着きたい
急ぐ旅でもないけど余裕はあって損は無いよな
そうして俺はヴィルトレルムをでてセトの街へと走り出した
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走り出して一時間ほどたっただろうか
ちらりと上を見れば相変わらず空は快晴で小さな綿雲が能天気に浮かんでいる
時折吹くそよ風がなんとも心地よく、寝転がって目を閉じたら寝られると思う
まさしく絶好の散歩日和といった感じだ
今の状況がなければもっと心地いい時間だっただろう
少し休憩しようと道を逸れて森に入ったのが大体五分前
そして少し開けた場所で花を眺めながらのんびりと水を飲んでいた
そんな時、こいつは現れたのである
「Guuaaaaaaa」
目の前で雄たけびを上げているこいつはそう
”熊”だ
とは言っても元の世界にいるような熊とはサイズがまるで違うのだが
ああ、なんか落とし物拾ってきてくれるような優しい熊ならいいのになあ
でも明らかに敵意向けられてるしなあ
「GuUuaaa!」
「ひぇ」
俺は向かってくる熊に足がすくんでしまって動けない
自分が強くなったと思っていても潜在的な恐怖をぬぐうことは出来なかった
そのまま体当たりを食らって吹き飛ぶ
その巨体から繰り出される体当たりはまさしくトラックに轢かれたかのような衝撃だ
体中を地面に打ち付けながら転がり、その勢いのまま木にぶち当たった
俺は目を回しながら冷静さに欠けた頭で攻略法を考える
…が、恐怖のせいかあいつには勝てないという諦念がじわじわと俺の頭を支配する
それでもなんとか立ち上がり、”甲殻”を使う
自己再生によって傷は塞がった
あいつの突進じゃ俺の再生を突破できないんだ
「いやー、まさか熊に一本取られるなんてな」
軽口を叩いても声が震えていてちっとも格好がつかない
これは早く終わらせないと体の動きが鈍くなってくるだろう
そう思って、熊に視線を移す
熊の興奮した双眸がこちらを睨み続けている
そう言えば、なんで急に攻撃してきたんだろ
子熊もいたのか、縄張りに入ってたのか、腹が減ってたのか
刺激しないように去れるならそうしたいが、向こうさんはもう俺を排除する気満々みたいだ
再びこちらに向かってくる熊
俺は横に飛びのいて躱し、木を押し倒した熊のでかい尻に蹴りを入れる
「Guaaaaaaa」
今までとは違う、悲鳴のような声だ
よし、こちらの攻撃は効くみたいだな
圧倒的にこっちの方が有利だと分かり、少し余裕を持てた
熊はこちらを向いてまた突撃してくる
流石にこの突進にはもう対応できる
この後の行動を考えながら横に飛びのこうとする
が、突然重しを乗せられたかのように体の重心がずれ、バランスを崩してしまった
視線を下げれば俺の腕に少し小さい熊が噛みついていた
やっぱり子連れだったか!
腕に噛みつく子熊を振り払おうとしたとき、俺の周りに影が差す
立ち上がった親熊が俺に向かってその鋭い爪を振り下ろすのが視界の端に映った
「え、これ死ん」
世界が回る
俺の体が引き裂かれて首が千切れ飛んだんだ
頭がバウンドし、飛び出した目玉が悲惨な自分の姿を映し出した
なんでこの状態で意識あるんだろうとか、痛みを感じないのはどういうことだとか全く呑気なことが頭をぐるぐると回っている
次第にそんなこともどうでもよくなり、視界が霞んでいく
最後に見たのはぐちゃぐちゃになった俺の体を喰らう熊親子の姿だった
……最後の景色が自分のスプラッタかよ
…
…
…
…オヤカッタルップソッヌビジャギキハセコノギアス…………スリエッタワモ……………イアナクタグオッカコモッチテチエテウルハゲオコ………
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