16.閉校式の演奏会
佐渡の冬は音がしない。しかしそれは単純に静かであるということでもない。雪が降っている時には、本当に音がしないのだ。
もちろん、そもそも音の出る源泉が乏しい現実については、ここではあえて触れはしまい。雪が降っている時には、誰もが家へ閉じこもってしまうし、ましてや都会のような、常に音を出しまくる煌びやかな店など、ここでは皆無である。でも、この鼓膜を圧迫されているかのような異様な感覚が、これだけですべて説明されているかというと、どうもしっくりこない。雪そのものがこの世の中に伝わる音を、まるで底なし沼のように、つねに吸引し続けているとしか、納得のしようがないのだ。
とはいえ、佐渡で長靴がすっぽり埋まってしまうほどに雪が降り積もることは、実はそんなに頻繁には起こらない。日本有数の豪雪地帯に分類される新潟県であるが、積雪がひどいのは本土の方で、対馬暖流が周囲を流れる佐渡島は、雪下ろしをする必要がなさそうな程度にしか、雪は降らない。
要するに、佐渡の冬は何もないのだ。これについては、誰もが認める周知の事実であろう。そこにあるのは、どこまでも澄み切った空気だけが、そこはかとなくピンと張り詰めているに過ぎない。すべての生き物は動くのをあきらめてしまい、ただ時間だけがゆっくりと刻まれていく。
それが起こったのは、二月一日の土曜日のことであった。この日は朝から綿のような牡丹雪が、しんしんととめどなく降っていて、仕事が休みだった梢は、家でのんびりとくつろいでいた。
例のごとく、なにをするでもなく、祖母と二人でこたつを囲みながら、お茶を飲んでいたところを、遠くの方から静寂をうち破るすさまじい悲鳴が飛んできた。
「ばあちゃん、今、なにか聞こえんかった?」
祖母は一向にうろたえる様子もなく、淡々と答える。
「いんや。ちかごろ耳が遠いけん、なんも聞こえんちゃ」
「とにかく、行ってみよう」
なぜか自分が行かなくてはいけないような使命感にさいなまれた梢は、しぶる祖母を引き連れて家を出た。
雪は一面に白く積もってはいるが、長靴のかかとがせいぜい埋まってしまう程度で、歩くのにさほどの困難はなかった。積もったばかりのやわらかい新雪の上を、急ぎ足で梢が突き進むと、蹴とばされた雪晶がきらきらと、大気中で妖精のごとく舞っていた。
声がしたのは、味噌舐め地蔵がある方向である。行ってみると、地蔵の祠がある大杉の前に、すでに何人かの人だかりができていた。いずれも部落の衆たちだ。
「なにかあったんですか?」
息を弾ませながら、梢が尋ねた。
「なんだ、采女の娘っ子かあ。実はなあ、さっき甚五郎の婆さまがここで、鬼と出くわしたらしいんちゃ」
答えたのは、榧木という屋号の家に住む清二という男で、年齢は五十くらい。今では、なにかとこの部落のごたごたを取りまとめる人物である。
「鬼ですって?」
梢が蒼白な顔で問い返すので、清二が詳しい説明を始めた。
「婆さまの話によるとなあ、味噌舐め地蔵の前を通って、家へ帰ろうと歩いとったら、祠のかげからいきなり鬼が飛び出してきて、手に持った鉈を振りかざしたもんだから、おったまげて、しりもちをついちまったらしい。
どうにもだちかんちゅうて、大声で助けを呼んだら、鬼の方が怖気づいたんか、そっちの道を走って逃げていったそうちゃ」
そういって清二が指差したのはあの『カーブ坂の小径』である。新雪の上には一人分の足跡が残されている。わらの編み靴で踏まれた足跡だった。
「おい、鍬とかなんか、長げえ物を持って来い。なんせ相手は鉈を持っちょるき、容赦する必要はねえ。さあ、追っかけていくぞ」
清二の号令に応じて、若い男二人がいっしょに同行した。あとに残るは年寄りと、梢だけだったが、梢はついていけなかった。
『カーブ坂の小径』へ進もうとすると、いつも足がすくんでしまうのだ――。
結局、その日の夕がたになって、清二が部落を歩いて回り、追跡の報告をしたのだが、足跡は用水路のところでばったり途絶えてしまったということだ。おそらく、鬼は用水路を歩くことで足跡の隠滅を図ったようである。
被害者となった甚五郎の婆さんの証言はたどたどしいものであったが、根気よく聞き出してみると、鬼と称したものは、鬼の面をかぶった人間だったとしてもおかしくはないとの結論に達した。かといって、実際には鉈を振りかざされたわけだから、通常の感覚を持った人物だとも、とうてい思われぬが……。
もと羽茂町の町役場であり、現在は佐渡市役所の羽茂支所と呼んだ方が良いのだろうが、そこに川茂小学校が十六年前に閉校になる際に制作された記念の動画があると聞いて、鴇松警部補は一人で支所を訪れた。
職員の男が鴇松を、スクリーンが設置された小さな会議室へ招き入れて、ただ今準備をいたしますから、しばらくお待ちください、と軽く告げて、部屋から出ていった。間もなく、別の女性職員がお茶を運んできたので、ああ、おかまいなくと、鴇松はいささか恐縮した。
「記録媒体が、DVDではなくて、ビデオテープでしてね。ちょっと画像が乱れているところがありますが、まあ、お気になさらないでください」と、戸口から顔をのぞかせた職員の男が一言添えた。
スクリーンに映された映像は、川茂小学校の体育館で撮られたものだった。出だしに、学校長の計良美祢子が一〇分ばかりの挨拶をして、その後、当時の羽茂町長と赤泊村長が交互に壇上へ立って、廃校を惜しむお決まりの祝辞を述べた。
学校職員は、計良美祢子と市橋斗馬の二人の教諭を筆頭に、事務職員が二人と、用務員がいて、もう一人は養護教諭と思われるが、舞台の左側へ並べられた椅子へ全員が固まって座っており、反対側の右側に用意された椅子席には、十人ほどの来賓が招待されていた。そして、川茂小学校最後の児童となった五人の子供たちが、中央に横一列に並べられた椅子に、背筋を伸ばしながら腰掛けていた。
保護者やその他の関係者たちは、映像には映っていなかったが、おそらく、児童たちのうしろにずらりと座っているのであろう。ときおり、彼らが話す声や、カメラのシャッター音が、式の進行に入り混じって、録音されていた。
次に、本間柊人と若林航太の二人の名前が呼ばれる。この式は、川茂小学校の閉校式であると同時に、彼ら二人の卒業式でもあるのだ。二人は椅子から立ち上がると、壇上へ上がっていった。計良美祢子から卒業証書が読まれ、一人一人に手渡された。この瞬間、彼ら二人は、五十三年の歴史を誇る川茂小学校の最後の卒業生となったのだ。
それから、照明が落とされて、川茂小学校のありし姿を映した思い出の映像が五分ほど流されたのだが、カメラワークが単調で、あまり上手に撮れていたようには、正直なところ思えなかった。その後、校歌斉唱が行われ、それが終わると児童たちは席をあとにして、舞台横にある戸の向こうへ消えていった。職員たちも急ぎ足で壇上へ上がり、演台を横へよけてから、椅子を四つ並べ、舞台下の中央部に当たる床の上には大きな白い台を運んできた。これから閉校式のメインイベント、児童たちによるリコーダーの演奏会がはじまるのだ。
指揮者として白い台の上へ立ったのは、意外にも四年生の金子亨であった。そして、舞台の上では、下手側のカーテンより四人の児童が一列になって登場して、舞台右側の上手側から、本間柊人、若林航太、臼杵梢、本間桃佳の順番で並んで、号令もなしに、ほぼ同時に椅子へ腰かけた。全員がリコーダーを手にしている。教員の市橋が、三つの集音マイクを所定の場所へ設置して、それが終わると指揮者の金子に合図を送った。
金子はちょっとの間おどおどしていたが、やがて思い出したかのように、客席の方へ振り向いて、頭をおろすと、それに合わせて、うしろの四人の児童も椅子に座ったままでお辞儀をした。間髪を入れず、背後に控えし聴衆たちから歓声が巻き起こった。中には、まさか酒を飲んでいるのではあるまいか、と思われるような、無礼講な声援も、しっかりと録音されてあった。
指揮者の金子の左の手が高く上がる。それを合図に、上級生である本間柊人、若林航太、臼杵梢の三人が、椅子からすっと立ち上がって、リコーダーを口元へ持っていく。そして金子亨の左手がゆっくりと降り降ろされて、いよいよ児童たちによる演奏が開始される。曲はジブリアニメのラピュタでおなじみの『君をのせて』である。
最初鴇松は、曲のテンポがいくぶん遅いように感じた。わざとそうしているのかもしれないと思い、指揮者を見ると、あまり軽快にリズムを刻んではいなくて、むしろ、流れる演奏にテンポを合わせて指揮棒を振るのに必死になっているようにさえ、見受けられた。
ようやく鴇松は気付いたが、曲のテンポを創っているのは、演奏している本間柊人、若林航太、臼杵梢の上級生の三人であり、実質、支配をしているのは、リーダー格の本間柊人だった。金子亨は、おそらくリコーダーの演奏があまりに下手くそだったゆえに、指揮者へ役割が格下げされたのだろうと、鴇松は勝手に推測した。
曲の一番は、臼杵梢と若林航太が主旋律をそろって吹き、本間柊人はフレーズとフレーズの合間をつなぐ、いわゆるアレンジ的な演奏をアルトリコーダーで担当していた。本間柊人が出す笛の音は、単調で地味なものだったが、主旋律の演奏を補佐しながら、案外いい味を出していた。
ところが、さびとなる『ナイフ、ランプ、かばんにつめこんで』のフレーズで、初めて二部合奏の形態が取られた。臼杵が主旋律を、若林がそれを引き立てる副旋律を奏でたのだ。するとそれに反応して、観客から小さく拍手が送られた。ここまで二人仲良く主旋律を吹くだけの、単純な演奏だと思っていたけど、こいつらなかなかやるじゃないか、といった感じの、どちらかといえば多少の憐れみも込められたような拍手であったが、この拍手を送った聴衆たちは、この直後、子供たちの才覚に圧倒されることとなる。
曲の一番が終わり、二番へ移る箇所で、オリジナル曲ならそのまま入るところを、本間柊人のアルトリコーダーが短い間奏を入れた。別に入れる必要などあったのかな、と鴇松は思いながら聴いていたのだが、間奏が流れるあいだに、椅子に動かずにずっと座っていた一年生の本間桃佳が、スクっと立ち上がり、そのまま二番の主旋律を独奏し始めた。
いくら単純な主旋律とはいえ、なにぶん一年生なのだから、相当に練習をしたのであろう。たどたどしい演奏ながらも、本間桃佳は、大きく音を間違えることなく、一度だけ吃音が入ってしまったのはご愛嬌で、それ以外は無難に、二番の出だしとなる二フレーズを無事に吹き終えた。
吹き終えると安心したのか、あどけない笑顔を見せて、椅子にぺたんと腰かけた。すると、演奏の途中にもかかわらず、一部の観客から拍手が沸き起こった。
桃佳の独奏を引き継いで、二番のさびを、臼杵梢と若林航太が演奏をする。今度は最初から二部構成となっていた。臼杵が吹く主旋律を、若林がきれいな和音で返し、本間柊人は相変わらずつなぎのアレンジに徹するのだが、アレンジが一番よりもはるかに複雑なものと化している。三人の息の合った美しいハーモニーが奏でられて、聴衆たちはたちまちとりこにされた。
鴇松は気が付いた。一番を単調な一部構成で引っ張ったのは、二番で聴衆たちを惹き込むための演出だったのだ。能ある鷹はその鋭い爪を、一番の演奏ではわざと隠していたわけだ。
こんな想定外の演出を、いったい誰が指導したというのだろうか。見たところ、市橋という若い男性教員は体育会系の感じで、あまり音楽は得意そうではなさそうだし、計良美祢子がここまで計算づくの用意周到な演出を思い付くとも想像ができない。
まさか……、そうだ、間違いない。こんな演出ができる人物がいるとすれば、それは本間柊人以外に誰がいようか。
本間柊人――。たかが六年生にして、それができるのならば、その視野の広さは大学生か、はたまた一人前の大人そのものである。かつて若林航太が、本間柊人は悪魔のような頭脳の持ち主だ、と評したが、こうなってはそれも大いに納得できる。どんなに優秀であっても、小学生にとって本間柊人は、とても太刀打ちできるような相手ではなかったのだ。
さあ、これで二番も終わり、残るはエンディングのみだ。オリジナル曲では、エンディングは出だしの二フレーズを、再び繰り返して終えるのだが、なにしろ、これだけさびも盛り上がったことだから、エンディングをきちんとしめれば、演奏は大いに大成功といえよう。
と、その時、ある事件が起きた……。
エンディングの主旋律の笛の音が、突如途切れたのだ。和音部の副旋律と間奏部のアレンジ演奏はきちんと聞こえているのだが、肝心の主旋律のメロディがないのだから、館内は異様な雰囲気に包まれた。
舞台上へ目を向けると、主旋律を担当している臼杵梢が、両手で顔を覆って、立ったまま泣き出してしまい、演奏ができなくなっていた。無理もないが、この演奏が終われば川茂小学校は閉校されてしまう。ここへきて感極まってしまっても、いったい誰が彼女をとがめることなどできようか。
せっかく頑張ってきたのに、ここまでか。まあ、仕方がないな、と鴇松は思った。いうに及ばず、この時館内にいた聴衆の誰もが、鴇松と同じように、そう思ったことだろう。
ところがその時、信じられないことが起こるのだ……。
若林航太と本間柊人は、いち早く臼杵梢の異変に気付いた。若林はどうしたらよいかわからず、ちらりと本間柊人へ視線を向ける。
すると、本間柊人が突如、演奏を切り替えた。
曲と曲のあいだをつなぐ間奏に、再度メロディを引き戻したのだが、なんとそれが今まで演奏したのとは異なるあたらしい調べを奏でたのだ。とはいっても決して変なメロディではなく、これまでの曲の流れを損なわずに、観客の気を惹き付けるような、高度な内容であった。それにしても、よくもこんなになめらかに吹けるものだな、と鴇松は感心したが、即座に凍りつくこととなる。
本間柊人はこの演奏を即興で奏でていたのだ――。彼は楽譜に目もくれず、見つめているのは泣き崩れている臼杵梢の姿であった。
本間柊人の必死の演奏の意図を察した若林が、梢のもとへ近寄り、そっと声を掛ける。やがて、梢がうなずいて反応したのを確認して、若林から本間柊人へ、親指を立ててOKのサインが送られる。それを確認した本間柊人は、演奏を本来のエンディングへ導くコードへと進行させる。
そして、とどこおりなく曲のエンディングの二フレーズが始まった。それは本間柊人も和音に加わった三部構成となっていて、これまでにない迫力のある、終わりを飾るにふさわしい壮絶な演奏であった。最後に、オリジナル曲では歌が終わってオーケストラが演奏するパートの終奏部を、本間桃佳も加えた重厚な四重奏でまとめて、見事に締めくくった。
指揮者の金子の左手が止まる。ほんの二秒くらいのあいだ、聴衆たちの誰もが余韻に浸りきって、無音の状態が続いたが、やがて、誰か一人が思い出したように拍手を始めると、それに続いて、聴衆全員から館内が割れんばかりの大きな拍手が沸き起こった。
指揮者の金子は、振り向いて挨拶をすることも忘れ、まっしぐらに舞台へ駆けあがる。舞台の上では演奏を終えた臼杵梢が、再び感無量になってうずくまって泣いている。それを横目に、本間桃佳は椅子に座ったままキョトンとしている。
金子が仲間のいる前でひざまずいて、恥じらいもなくワンワンと泣き出した。その様子を見て、若林は上級生らしく、臼杵と金子の背中を叩いて、労をねぎらう。
本間柊人は、全身全霊のすべてを出し尽くしたのか、天井を見上げたまま、肩で大きく息をして立ち尽くしている。
若林が振り返ると、本間柊人と目が合った。若林が右手を高く掲げると、本間柊人も笛を左手に持ち替えて、右手を高く掲げ、二人はハイタッチを交わす。それを見た観客のボルテージは最高潮に達した。
それから若林の、みんな並べ、並べ、という声が集音マイクに録音されていて、その指示に従った五人の児童が舞台中央へ横一列に並んだ。
「今日は、僕たち川小の最後の演奏を聴いてくれて、どうもありがとうございました」
敬語の使い方としては若干不適切な若林航太の掛け声で、五人の児童が一斉に一礼をする。再度観客席から拍手の渦が浴びせられた。よくやったぞー、の掛け声もしっかりと録音されていた。
最後の最後になって、今まで表情を出さなかった本間桃佳が急に、川小なくなるのいやだあ、と壇上で泣き出したのが、鴇松には妙に印象に残った。
やがて、三十秒くらい鳴りやまぬ拍手の中、映像はふっと途切れた。
「どうです、いい式でしょう?」
職員の男が鴇松へ声を掛けた。
「ええ。児童たちの頑張りが素晴らしいです」
鴇松は素直に感想を述べた。
「実は、私も川茂小学校の卒業生でしてね」
おもむろに職員の男が小声で口ずさむ。
「ほう、そうですか」
「実際、この閉校式に、私も参加をしていました。観客の一人としてね」
「それは良かったですね」
鴇松から肯定的な返事をもらった職員の男は、まるで懺悔の告白をして安堵が得られた信者のように、うれしそうに口元を緩めると、鴇松へ向かってため口で語り始めた。自分への呼称も、『私』から『俺』へと変化していたのだが、おそらくしゃべっている本人は、それには全く気付いていないのであろう。
「刑事さん。俺はね……、この時高二でした。中学、高校と、毎日が何かと面白くなくってねえ。だから、仲間とつるんで、先輩づらして、川小の閉校式へ出向いて、式が終わるタイミングで壇上へ乱入して、ひともんちゃくはしゃいでやろうと、ポケットにはクラッカーを三つずつ用意していたんですよ」
職員の男が恥ずかしそうにうつむく。
「それで、壇上ではしゃがれたのですか」
鴇松は微笑みながら訊ねた。
「いえ、できませんでした……。だって、こいつらのこんな必死な姿を見せられては、さすがにね」
職員の男は薄ら笑みを浮かべた。
「刑事さん。こいつらに比べたら、俺たちなんて、本当にゴミですよ……。
でもね、この日を境に、俺は嫌いだった勉強を少しずつやるようにしたんです。こいつらがこれだけ頑張ったんだから、俺だって少しくらいなら真似できるかもと、勝手に思い込みましてね。おかげで、翌年になって市の職員に就職できたんですよ。
だから俺は今でも、こいつらに感謝をしています……」
いい終えると、男の目からポトリと大粒の涙がこぼれ落ちた。