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月光花  作者: ファイアーバット城ケ崎
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1 エンカウント・Destiny

 カラリとした気持ちの良いこの世界での太陽がポントスを照らす。奇麗に手入れされた庭園の草木を風が凪ぎ、煉瓦造りの宮殿とも言うべき灰色の城に到達しては散らばっていく。周囲を森と草原が取り囲むこの土地は、ビルが建ち並ぶ都市の離れではあるものの一時足を踏み入れれば異界に訪れた心地に包まれる。1部屋20坪はあるにも関わらず900もの部屋数をもつ灰色の宮殿は所々に戦乱を思わせる切り傷や補修した後があったが、それが俄然宮殿のを物語り、多数の傷を持ちながら聳え立つ巨大な建築物は見る者を圧巻させる。そのような宮殿の一部屋にこの宮殿の主と、監視者がいた。

 







「おい、支度はしたのか。テメェ」

 185㎝はあろう身長と大柄で引き締まった筋肉質な肉体、切れ長の目、短く切った黒髪を持つ30代位の多少皺のある雄々しい顔つきの男がある一つの部屋をノックする。

「まあ待ってくれ、私にだって色々と準備があるんだ。急なイベントがあるかも知れないからね」

 そう返したのは部屋の中にいる中性的な人間、ヒペリカムである。

「お前が出ていくと言うから準備したというのに当の本人が30分遅れてどうする」

「やーすまない、久しぶりに外出るからちょっとね。20年来の付き合いだ、ここは私と君の仲と言う事で許してくれないか」

「お前が変な事をしたらテメェの命を刈り取る側なのだがな」

「でも、暗殺や襲撃された時の護衛でも君はあるからね」

「ケッ」

 大柄な男の名はゲニア。彼は魔術の知識を持つ者や文献が少なくなり、対抗手段が限られ魔術師の存在が大きくなった昨今、魔術師が下手な事を企てないように監視をし、場合によっては殺害が許可される特殊な職務に就く男だった。

「じゃ、準備できたし行こうか」

 ヒペリカムが白いワンピースに麦わら帽子という絵画かからそのまま出てきた様な簡素な服装でバスケットを手に持ち外に出てきた。中性的な顔は女性的にめかしこまれており、ヒペリカムが細っぽいが男性的な体付きであることを忘れさせる。長い灰色の髪は滑らかで小奇麗であり、全てが女性的に纏まっている。そして何よりも特徴的なのは目だろう。小麦色の目は光を当てるとトパーズと見間違うのではないかと思う程である。

「馬子にも衣装、か」

「素直に褒めてくれていいんだよ」

「柄でもねぇや、そろそろ行こうぜ」

「はいはい」

 彼らは城の近くにある森林に向けて足を運ぶ。天候は快晴、そよ風によって運ばれる草木の香りが心地良く、外出するにはうってつけの気候であった。



























 暫く経ち、彼らはある程度人の手が入った森林の中を歩いていた。

「もう少しで小屋があると思うから、そこで一回休もうか」

「そうか」

「奇麗だとは思わないかい、ここの自然」

「奇麗だとは思うが、魔術師様のお庭だ。奇麗で当然だろ」

「うーむ、ここまで驚かないとなると君の部下を連れて行った方が良かったかな?」

「アイツは別の任務中に怪我したからな。今日は行けないだろうよ」

 彼らはそんな事を話しながら森林内を歩いていた。

 森林は確かに奇麗だった。魔術師が修行の過程で作る人型の人形が森林を整備するこの森林は、均一な感覚で気が生えており、それが日光を調度良い感覚で地面を照らす。雑草も長すぎる物はなく、縦に伸びたものでも最長でも足首位の高さである。感じの良い色合いをした緑と草の間から見える土が織り成す色相は、一つの装飾として使えそうではと勘違いする程だ。

「彼女は結構面白いから、彼女も連れて行きたかったんだけどな」

「やめとけやめとけ、アイツはトラブルメーカーなんだ。実力は良いってのに不運だから何もかもオジャンにしちまう。この森林だって滅茶苦茶になるぞ」

「そんなにだったっけ?」

「そんなにだ」

 そう会話しながら小屋の前まで来た。

 全体的に茶色いこの小屋は、一般的な大きさのリビングが一部屋あるだけの木造の家屋であり、さながら童話の中から出てきたかのようである。

「じゃ、入ろうか」

「鍵もしていないのか、お前」

「盗られても困るものないし」

「お前がそう言うなら俺の言う事ではないが…」

 そう言ってドアを開けると現実離れした光景が広がっていた。中心にはテーブルと椅子三脚があるが、テーブルの上には貪り食われた鳥が横たわっていた。テーブル回りは血と羽根で汚され、それは容易にこの鳥のものであると予想が着く。椅子の傍には小学生程の背丈をした白髪で黒目の少女が床に座っていた。口回りは血で染められ、ボロボロの衣服を身に纏ったこの少女は臭いが野性的であり、長らく人間社会で暮らしてはいないという事が察せられた。

 彼女は彼らが入ってきた事に気づく。野性的な少女は一瞬狼狽し、恐怖したかの様に見えた。その後、何故か顔を歪ませながら言葉を吐いた。

「テメェら…俺を捕らえる為に追って来たのか…」

「ん、何の事を言っているんだい」

「しらばっくれんじゃねぇ!テメェらが俺にしてきた事を忘れても俺は忘れないからな」

 彼女はフラフラと立ち上がりながら体が変形し始めた。

 その時だった。強烈な暴風が吹いたかと思うと一瞬でゲニアが野性的な少女の目の前まで移動しており、拳打を放った。常軌を逸した速度から放たれた拳打はそのまま直撃し、彼女の体は小屋の壁を突き破り3m程衝撃で飛んだ後は地面を転がった。

「許すわけないだろう、阿呆が」

 彼はそう言うと少女の傍らに移動した。

「ん………やろぉ」

 彼女は再び立ち上がろうとしたがゲニアは二撃目には蹴りを放ち、それは正確に顔面を蹴り上げた。

彼女は脳震盪を起こし、そのまま気絶した。

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